ゴブタ達がカルネ村で何故か戦闘を行っている一方、エ・ランテルに向かっているリムル一行はと言うと……。
「なんだ⁉あんなモンスター見た事ないぞ。馬車をモンスターで引かせる……使役するとは、いったい……」
「この街も馬型アンデッドが引く馬車は走ってるが……」
「それより、あの車はなんだ?不思議な作りをしてるな」
などなど、門を抜けてから街の人達に物凄く注目されていた。その視線は好奇心や畏敬もあれば不安や恐怖によるものなど様々だ。
「狼車はやっぱりマズかったか?」
「そうでしょうか?魔物を手懐ける技量を持つということで牽制と注目を呼びつつ、身なりからそれだけの財を持つということをチラつかせるのです。この街で行動するなら寧ろ都合が宜しいかと」
移動に便利だからと森を抜けた辺りから久しぶりに利用したが、街に入る門で衛兵相手に驚かれた事から失敗したかなと思ったんだが…。ディアブロは寧ろこのくらい当然ですといった姿勢だ。
う〜ん、お金持ちの感覚とかわかんないし。ほら、俺って庶民的だから(一国を統べる魔王が何言ってるんだとか、文句は一切受け付けない)。
「それにしても、入国前の講習やらその前の警備兵アンデッドの紹介やら……外の者に対してちゃんと配慮してあるようだな」
「そうね。それにしても警備兵のアンデッド、中々強そうだったわね」
「お前、一瞬腰に手を伸ばしただろ。敵対行為を見せなければ向こうだって襲ってこない。街に付く前に武器を預かっておいて正解だったな」
ヒナタのレイピアや俺の刀なんかも今は俺の胃袋の中に仕舞ってある。入国の際に武器は預かられるだろうと思っていたので、最初から所持していない方が面倒もなくていいだろうと思ったのだ。それに、もし万が一の時があれば直ぐに取り出せる方が安心できる。
「……職業病よ」
「ま、確かにあれは驚いたな。あちらでは見かけなかったから、こっちの世界特有の魔物かもな。……たぶん、魔素量的に
街の警備兵として紹介された黒色の全身鎧のアンデッドと、入国前の講習でこの街の事や注意事項を説明したナーガの事を思い浮かべる。そして、街で見かけた亜人達も。
街は人間が多いが、亜人も何度か見かけた。似ている種族は思いつくが、やはり世界が違うと姿形も強さも違うようだった。
「俺達の場合はゲルド達オークに街の整備なんかの肉体労働をしてもらってたが、こっちはアンデッドを主流にやってるみたいだな」
「まぁ、王様がアンデッドを統べる魔物みたいだし、その配下を派遣するのは最もなやり方ね。それに睡眠を必要としない、疲労もしないなら、確かに単純な作業にはうってつけな労働力だわ」
確かに。睡眠・疲労・食事がないというのは大きい。上手いやり方だ。俺とヒナタは街を歩きながらそんなことを口々に言った。
「さて、もっと街を見て回りたいけど、先ずは金だな。ある程度纏まった金を確保しないと」
街の感想もそこそこに、次の目的を決める。
「そうね、馬車を置くのも宿を取るのも先ずはお金が必要だし。貨幣が違っても同じ金である以上その価値はそう変らないでしょう?換金するの?」
「いや、あっちの世界の貨幣を流出させるのは良くない。市場に出回ってないものを鑑定に出しても怪しまれるし、遠い異国の物と偽ってもどこで足がつくかわからないからな。無難に宝石を換金するつもりだ」
こっちの世界にも共通する宝石だといいんだが……魔鉱じゃないんだから大丈夫だろ、たぶん。
色とりどりの宝石が詰まった革袋を持ったディアブロが事前に調査した宝石商の店に案内する。そこで問題なく換金しーー価値もそれほどあっちの世界と変わらなかったーーついでに貨幣の価値も学習する。
こちらの世界でも変わらずに金貨,銀貨,銅貨であったのはよかったが、価値は少し違った。
あちらでは銀貨1枚に対して銅貨100枚だったが、こちらは銅貨20枚だ。また、あちらでは金貨100枚相当の星金貨というものが、こちらでは金貨10枚相当にあたる白金貨というものもあった。
白金貨、金貨、銀貨、銅貨、と総買取価格からそれぞれある程度分けてもらってから確保した俺達は、先に馬車を預け所に預けてーーその際、魔獣はどうするのかと問われたが、スターウルフは影に潜れる為問題ない。それもまた驚かれたがーーそのままディアブロの案内で宿へと向かう。
「黄金の輝き亭か。……ちょっとお高そうな所じゃない?もうちょい低めでも…」
「我が君を低俗な宿になどお泊めになれる筈もありませんでしょう?テンペストの高級宿に比べれば格段に劣りますが、この街では此処が一番でしたので、申し訳ありませんがこちらで我慢して頂けると幸いです」
「あ、はい」
笑顔でかなり辛辣というか扱き落とすなぁ、コイツ。でもまぁ、一応設定が富豪の美人姉妹だし下手な所には泊まれないか。
「それじゃ、手続きよろしく。今更だが、この世界の言語って……」
「話す分には問題ありませんが、文字はあちらと違いますね。ですが、既にマスターしておりますのでご安心下さい」
流石ディアブロだ。完璧すぎる。俺も後で教えてもらって、シエル先生に覚えてもらおう。俺はいいのかって?シエルが覚えるってことは俺が覚えたも同然だろ。
《……………。》
お、この宿は宿泊客以外も利用できるレストランもあるのか。こっちの世界の食事も気になるなぁ。
「ヒナタ…お姉様、私お腹がすきましたわ」
「…………………そうね、ちょうどお昼だから何か食べましょうか。リリム」
シュナ達により完璧な美少女ーー元からシズさん似だから女性寄りの中性的な姿だがーーとなった俺の名演技!といってもオーがの姫として育てられたシュナを参考に、口調や佇まいをお嬢様風に仕込まれただけで外見は特に変わっていない。だって元々が以下省略。
服装を女物にして毛先を緩く巻いた程度で、名前は偽名で「リリム」だ。ヒナタは服装以外特に変わっておらず、名前もそのまま。
にっこり笑って普段よりも少し高い声を出せば、ヒナタは露骨に顔に出ることはなかったがそれでも声がいつもより硬かった。ははっ、可愛らしい俺に照れてるな。
「そんなわけないでしょ。調子に乗らないで」
「あ、はい。……それにしても、ヒナタもすごく似合ってるよ。そういう可愛らしい女性の姿をしてると益々美人さん…いたっ!なんで叩くんだよ」
「うるさいわよ」
ヒナタの法皇直属近衛団筆頭騎士としての凛々しい格好も似合っていて美人だったが、今の令嬢としてのドレス姿もすごく綺麗だ。化粧やアクセサリーもしているが、それらもヒナタの美しさを引き立たせている。
そう褒めたつもりなのに叩かれたのはきっと照れ隠しだろう。ヒナタは素直じゃないからな。
小声で話していた所にディアブロも戻ってきて、昼食を取りたいと言うと頷いてくれた。しかし、店の給仕を断ってまで俺にあれこれと世話を焼かなくてもいいんだよ?お店の人も困ってるし。
内心苦笑いしながらディアブロが説明したメニューの中から料理を注文する。
運ばれてきた料理はどれも洋風で、テンペストでも一部似たような物も作っている。食材も調味料も違うだろうから、どんなものかと思って頼んだんだが………。
「………街並みから中世寄りとは予想していましたが、料理もその程度でしたわね」
「貴方の所の食事の方が美味しいわね。……いえ、無駄に拘りを見せた貴方の所と比べる方が間違ってたわね」
ヒナタも一口食べただけで味の違いに気づいたらしい。テンペストでの料理で舌が肥えて他の料理がどれも普通以下に感じられると以前愚痴っていたから、尚更だろうな。
「申し訳ありません!やはり我が君が口にする食事はあちらで用意したものを召し上がって頂くべきでした。すぐに代わりのものを用意致します」
今すぐ皿を片付けろ!と冷ややかな声と眼差しで店員を呼んだディアブロに俺はギョッとした。周囲の客もちらちらとこちらを見てざわめく。
誰もそこまでしろと言ってない!こちらの食事を食べたいと希望したのは俺自身なのに。何より、こんな事で目立ちたくない!
「ま、待て…待ちなさい!ディアブロ。それはこの料理を作った方に失礼です。確かに我が家の料理の方が美味し……こほん。どんな料理であってもそれを作り出す手間暇も、作り手の思いやプライドだってあります。それを一喝して見下すなどあってはなりません」
そうだ、自分達だって最初は碌に食材も手に入らなかったし、作る物も満足いくものではなかった。料理も記憶を見せるだけで殆ど説明もできなかった。それでもシュナや皆に頑張ってもらって、新しく食材を見つけたり試行錯誤することで料理のレベルを上げたのだ。
「も、申し訳ありません、リリムお嬢様。確かに失言でした」
ディアブロが頭を下げ、店員にも謝って非礼を詫びると料理人にも謝罪を伝えるよう頼んでいた。
騒ぎも収まり、ほっと一息ついて食事を再開する。ヒナタは外で食事を取るのと変らないといわんばかりに消化している。俺は念の為シエルに解析してもらいながら食べている。
「さて、食事も済みましたし、街の観光に行きませんか?ね、お姉様♪」
「……わかったから、その口調であまり喋らないでくれる?鳥肌が止まらないのよ」
「ああっ!なんと麗しいんでしょう。流石は至高の我が君、全てが完璧でございます」
ディアブロは絶賛しているが、ヒナタは眉間の皺が凄いことになっている。姉妹仲が良くないと思われるのもアレだし、ヒナタを怒らせるのも怖いから程々にするか。
「ディアブロ、街の案内をお願いできますか?」
「勿論でございます。このディアブロにお任せあれ、リリムお嬢様、ヒナタお嬢様」
完璧な執事としての礼を取ると、ディアブロはその場に跪いて恭しく手を差し出してきた。その手を取って、俺達はディアブロに案内されるまま街を見て回った。亜人達が宿をとる亜人地区や小店など、懐かしいあの頃の街と比較しながら。
「ん?」
その時、ふと影に潜むランガの気配が濃くなった気がして足を止めた。先を歩くヒナタもピタリと足を止めてこちらを振り向いた。
「どうか致しましたか?リリムお嬢様」
隣に立つディアブロが綺麗な微笑みを浮かべながら首を傾げた。
「いや……なんでもない」
《…………………。》
気のせいだったのだろうか?ランガは何も言ってこないし、シエルやディアブロも気にしていないようだった。
「……どうするの?」
「何も。そのまま気にせず進んで下さい。さあリリムお嬢様、参りましょうか」
「……そう。リリム、次は魔法アイテムのある店を見に行くんでしょう?行くわよ」
ヒナタの妙な間とディアブロの様子は気になるが、ふっといつもの調子になって歩き始めた。俺も二人に同じくそのまま歩みを再開させた。
ーー前を向いて進む俺は気付かなかった。後ろに付き従いながら歩くディアブロが、変わらぬ微笑みを浮かべたまま瞳だけ絶対零度の眼差しで俺の影を睨んでいたことなど。
何が起こったかは後でオバロ側の視点で明かします。