インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~   作:王・オブ・王

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第八話 『IS学園、血に染めて』

 朝、一夏はゆっくりと目を覚ましてから理解する。

 

 ―――そう言えば昨日の夜に杏澄の秘密、まぁ耳と目だけはバレたんだっけ。

 

 別にセシリアと箒の二人だから信用はできるだろう。というよりなぜセシリアは杏澄の部屋に居たのだろうか、まさか本当にそういうことをしようとしたのであれば……とりあえず問いただしてみようと頷く。

 そういえば昨日はどう寝たかと思い出そうとするがまったく思い出せずにいて、それでいて考えて周囲を見てみれば漫画ばかりが並んだ本棚や、おやつの入った棚などが配置されている。

 掛かっている布団をゆっくりめくると、そこには杏澄が寝ていた。

 

「なんだ杏澄か……って杏澄かっ!?」

 

 前回一緒に寝た気もするが、今回と前回ではわけが違う。今回はどっきりだ。

 少しばかり狼狽しながらも布団から出る。

 

「えへへ~、だめですよ山田せんせ~……教室でなんてぇ~……えへへ~」

 

 眠りながら笑っている杏澄の頭の上にある獣耳がぴくぴくと動くのを見て、なんだか笑いが出てくる一夏。

 この学園で杏澄の“耳と目”の秘密を知っているのに鈴にくわえてセシリアと箒の二人が増えたというのは大きい。やはり杏澄にも自分や鈴や弾以外のしっかりとした友達を作ってほしいのだ。

 小学生低学年の頃は持ち前の運動能力で人気者だったりしたのだが……。

 

「まぁ昔に比べて弱くなったよな」

 

 そう、昔なら剣道でも運動でも杏澄がトップだった。だけれど今となっては完全に力も含めて色々と自分の方ができることが増えている。

 それもこれもとある事件がきっかけなわけだが、それはもう気にしていないと信じたいところだ。

 杏澄をもう一度見てみると、キャミソールとハーフパンツだけの姿の杏澄は昔と違い女性らしさがでてきたな、なんて感じたりもした。

 

「……なんか、おかしいぞ」

 

 つぶやいてから一夏は再びそっと自室に帰って着替えをとりに行く。

 静かに自室の扉を開けて中に入ると、静かに寝ている箒がいるので自分の制服をとって洗面所で着替えると、一夏は寮の少し開けた休憩所にて缶コーヒーを買う。

 眠気は無いが、少しばかり苦いものを飲みたいときというのがある。

 ベンチに座って缶コーヒーを飲んでいると、なんの偶然か制服姿の鈴が現れた。

 

 鳳鈴音、一夏と杏澄の幼馴染……それでいて一夏に好意を持たない珍しい女子生徒でもある。

 

「一夏じゃない、昨日はお楽しみだったわね」

「そんなわけないだろ、寝てたんだし」

「まぁそりゃそうか、してたらたぶん殺してるわ」

 

 ―――怖ぇよ。

 

 そんなことを思うが、鈴ならやりかねない。昔から杏澄のこととなるとナチュラルに怖いのが鈴である。

 一夏と杏澄と鈴の共通の友達である弾と杏澄が二人きりで遊んでいた時は中華刀片手に脅迫まばいのことをしていた記憶が一夏にはある。

 懐かしい記憶に浸っているとふと、再び偶然に偶然が重なり今度はセシリアが現れた。

 セシリア・オルコット、最初一夏と杏澄に異様に絡んできたと思ったら言い返され決闘することになり杏澄に撃墜された少女だ。

 どういう思いがあって杏澄に惚れたのかはわからないが彼女は彼女なりに思うこともあったのだろう、またそれは後々として……。

 

「あら織斑一夏……昨日はお楽しみでしたの?」

「お前らなぁ、俺が杏澄なんかに」

「キュートな耳やむっちり豊満ボディを持っている杏澄さんを“なんか”ですってぇっ!?」

 

 早朝だというのに恥も外聞もなく、大声詰め寄ってくるセシリア(ガチレズ)を前に一夏は冷や汗を流す。

 なにが杏澄のキュートな耳やむっちり豊満ボディだ。と言いたくなる気持ちを面倒事になりそうだからおさえることにした。杏澄と一緒に居たぶん一夏は多少利口である。

 杏澄の話を短時間で二回もすることになるとは、と思いながら一夏はセシリアを見てみると鈴と目を合わせる。

 

「あら鳳さん、こんにちは」

「ん、確かオルコットだったわね、あんたとは気が合いそうだわ。鈴で良いわよ」

「なら私のこともセシリアと」

 

 なぜか意気投合した二人に一夏は小首をかしげた。

 

 そして鈴とセシリアの二人も自動販売機で飲み物を買うとベンチに座る。

 座っているのは一夏、鈴、セシリアの知ってる人が見れば異様と思える光景であるが、三人とも共通点がある。その共通点の中心にいるのはこの学校で最近話題に上ることも少なくなってきた杏澄だ。

 人の噂も七十五日。それより早く杏澄が話題の中心からズレたのはもうすぐ始まるクラス対抗戦や織斑一夏、転校生鳳鈴音のこともあるだろう。

 とりあえず三人、否二人が上げる話題は決まっている。

 

「杏澄さんのカチューシャ綺麗ですわよね、あそこもチャーミングで、ハァハァっ……」

「そう言えば杏澄ってずっとあのカチューシャしてるけど、あれっていつごろからだろ」

「そりゃ、小学校三年生の時に俺が上げたからかれこれ6年ぐらいか?」

 

 二人の話で上がった話題に自分が口を出した瞬間、睨まれる。

 やはり自分は嫌われていると一夏は内心落ち込まないでもない。だが実際の二人の心境としては『なんで杏澄に興味無いって言ってるお前がっ!』という感じである。

 別に一夏は本当に杏澄に興味がないわけではないが、そういう意味での恋愛感情やらは感じたことがなかった。意識したこともない。

 小学生低学年のころは箒がいるのがあたりまえ、中学時代は鈴がいるのはあたりまえ、それと同じように杏澄がいるのが当たり前なのだから意識するはずもないはずだ。

 だがこう言われてみると、杏澄は魅力的なのか? とも思えなくもない。

 隣の二人が会話で盛り上がっているようなので自分はそろそろ戻ろうと、空になった缶をゴミ箱にシュート。

 

「まぁ良いか、俺部屋に戻るわ」

「うん、また食堂でね」

「杏澄さんをもちろん連れてきてくださいね!」

 

 一夏は軽く返事をして去るが、一夏の言っていた部屋と言うのが杏澄の部屋だとは二人は思っていなかった。

 正直、杏澄の部屋の方が一夏としては居心地の良さを感じている。本来の杏澄の部屋とIS学園の杏澄の部屋、雰囲気としては非常に似通っているところがあるからだ。

 だからこそ自然と一夏は『部屋に戻るわ』と言って杏澄の部屋を指し、杏澄の部屋へと入った。

 

 

 

 珍しく寝起きの良かった杏澄を置いて、一夏は一人で食堂へとやってくる。

 セシリアと鈴と箒が先に座っているので自分は箒の隣に座ることにした。

 杏澄が来るまでそこまで時間もかからないだろう。

 

「そういえば昨日はあまり話すこともなかったが杏澄はなぜあそこまで弱くなってる?」

「え?」

 

 箒の言葉に、それがISのことでなく剣道と気づくまでにそこまで時間はかからなかった。

 剣道場に行っていた頃、つまりは箒と居た頃をあまり知らない鈴は頭の上に疑問符を浮かべている。特に杏澄が持ち前の運動能力を披露することもそれといってなかったし、怠惰な生活をしていたのでそれは弱くなっているだろうと頷く。

 ふと自分のせいかとも思ったが、そんなことはないだろうと思った。杏澄が深夜アニメなどにはまって不摂生な生活を始めたのも原因の一つだ。

 

「やっぱり俺と理由は変わらないだろ、たぶん……」

「あくまでもたぶんだな、杏澄め、鍛えなおしてやる」

 

 ―――熱意がすごい。

 

 隣の一夏すら感じるような熱気をおびて目に炎のエフェクトすら表しかねない箒を、冷ましたのは意外な一言になる。

 昔の箒は一夏の目から見ても“杏澄に憧れていた”のは確かだ。正直二人とはあまりにも圧倒的な運動能力と力を持っていた。

 それがいつからか杏澄も一夏もそれとなく運動をすることも熱中することも無くなった。

 ほぼ同じく動かなかった一夏と杏澄なのに、いつの間にか杏澄よりも自分の方が運動能力も力も強くなっていた。

 

「あっ、そうか」

「ん?」

 

 一夏は悟った。千冬を守れるように、それに周囲の人たちを守れるようにと思っていたのに盲点だった。自分が今まで考えてきたその中に杏澄のことが入っていない。

 周囲の人間を見渡して頭の中で考えてみても、その中にあまりにも近すぎる杏澄が入っていないのだ。

 自分の親しい人間の中で今一番守れる場所に居て守るべき

 灯台下暗し、言わばそんな感じで合っているであろう。

 

「杏澄を、守れるようになろう」

「は?」

「……織斑一夏、どういう意味で?」

 

 あまりに突拍子のない一夏の宣言に、鈴は唖然としてセシリアはなんとかもう一度聞き直し、箒の熱気が冷める。

 

「ん、しっかり杏澄を守れるようにならないとって思って……杏澄が一番だな」

 

 これがしっかりと伝わっていない理由は一夏が自分の考えていたことをはぶいたせいだ。

 自分の親しい者たちを守るというのが一夏の今の目標で、一番近い杏澄を守るというのが一番最初の目標であるということを、しっかり伝えていない。

 まぁ伝えていたら伝えていたらで色々あったかもしれないが、今の現状ほどの混沌を生み出さなかっただろう。

 箒も鈴もセシリアも心の中でどこか『一夏は大丈夫』と思っていないでもなかった。

 だからこそ現在、三人からはピリピリとした雰囲気が漂う。

 

「い、一夏、お前というやつは!」

「なんだよ箒?」

「決めましたわ、少しは話が通じるかと思いきや所詮は猿でしたのね!」

「おいセシリア、お前にそれを言われるのは心外だ」

 

「フッ……フフフッ……」

 

 箒とセシリアの言葉にわけがわからないという様子の一夏。

 そして突然笑い出した鈴に一夏はさらにわけがわからなかった。

 何事かと思いながら、一夏は鈴に話しかけようとした瞬間、血走った目をした鈴が一夏に指を向ける。

 

「あんた、次のクラス対抗戦で命があるとおもわないことね!」

「なっ、なんでそうなるんだよ!」

 

 ふんす。と不機嫌になる鈴にため息をついた一夏。

 そんな時現れるのが鬼柳杏澄だ。

 

「ん、どしたの?」

「杏澄さん、こんなケダモノに近寄ってはいけませんわ!」

「セシリアに言われるのは心外だぞ」

 

 杏澄の頭を抱いて胸に寄せるセシリア。

 溜息をつくように言う一夏だが、なんでこんなに杏澄を遠ざけられているかわからなかった。

 もはや鈴と箒すらも杏澄の前に立っていたが、一夏は心底わけがわからないという表情。

 だが少しして、一夏は掌をポンと叩く。

 

 ―――箒も鈴もセシリアも、俺が杏澄を守るに足るかどうか試すってわけだな

 

「望むところだ! 絶対に杏澄を守って見せるぜ!」

 

 鈴が血走った目で一夏を見るが、それに一夏は気づかない。

 箒は杏澄さながら、うつむいているせいでその表情は読み取れない。

 周囲からの目やら黄色い声やらを、一夏は理解できなかった。

 そして一番の災厄は、その言葉を杏澄が聞いていなかったことだろう。

 

「えへへ……セシリアさんの……えへへっ……」

 

 セシリアの胸に抱かれた杏澄はもはや天国へと昇っている。

 もれなくすぐさま落とされるだろうけれど、ともかく今現在一夏の台詞を聞いていないのは杏澄だけだ。

 最悪なのは、杏澄が聞いていれば『誤解を生むようなことを言うな』の一言も言ってくれるはずだが、セシリアが杏澄にその凶悪ともいえる胸を押し付けているせいで杏澄は天国。

 そしてツッコミ不在の漫才のような状況により一夏の台詞は勘違いされたまま、停止した食堂の生徒たちは千冬に声をかけられるまで動くことはなかった。

 

 

 

 そしてSHR前の教室にて、げっそりしているクラスの面々が多々いる。

 やはり朝食を抜くというのはかなりキツイものがあるのだろう。その中でも数人かは平気だったりしているのだが、やはり圧倒的にげっそりしているのは杏澄だろう。いつもは朝食でスタミナと体力を回復させるところ、もはや瀕死の域だ。

 だがそんな時、杏澄の突っ伏してる机に顔を乗せる影。

 

「あすみん、大丈夫?」

「あぁ~布仏さん、だめそう……」

「だからぁ、私のことはのほほんで良いって~」

 

 軽く片手を上げる杏澄だが、クラスメイトたちはわかっている。

 杏澄は他人を愛称で呼べない。否、呼ばない。

 クラスメイト全員がのほほんと呼ぶ本音を愛称で呼べないのだ。

 恥ずかしがって中々他人を愛称で呼べないせいで、若干クラスから浮いている挙句それに気づかず杏澄は自分が目立っていないと考えている。

 さすがに無茶があった。一夏と仲が良く専用機持ちという時点で無理だ。

 

「実はここに菓子パンがあるんだよね~」

「……ください」

 

 本音は笑う。いつもへらへらしている本音だが、今回はなぜだか黒いものに見えた。

 そう後々に仲の良い谷本癒子はそう言っている。

 いや、実際にいつもよりわずかに意地が悪い笑みに見えないでもないだろう。

 

「ん~? 頼み方ってものがあるんじゃないかな~」

「布仏さん、私にそのパンをください……」

「違うでしょ、こう言うんだよ?」

 

 杏澄の耳元まで口を持っていき、小声で頼み方を教える。

 

「そ、そんなっ……」

「え~できないのかな?」

 

 くっ、と口元を歪める杏澄が、見える顔下半分を真っ赤にした。

 その時点でいつのまにやら杏澄の正面が見える部分まで回り込んでいたセシリアはソッと携帯端末の撮影ボタンを押す。実に無駄な素早さを見せたセシリアは箒をわずかながらに驚かせたが、今はどうでも良いことだ。

 クラスメイトたちが全員気にしていない風でそちらに耳を澄ます。

 うつむいた杏澄が前髪で見えない部分を除いて、つまり頬を真っ赤にしながらつぶやくように口をぼそぼそ動した。

 

「聞こえないな~」

「の、のほ……ほんさんのっ……」

「食べちゃおっかなぁ~」

 

「のほほんさんのソレが欲しいんですっ!! それで私のお口とお腹の中を一杯にしてくださいっ!!」

 

 恥ずかしがっていながらもあまりにもそのパンがほしいせいで本音に言われた通りの言葉をそのまま大声で叫ぶ。

 ちなみに杏澄が恥ずかしがっているのは“他人を愛称で呼ぶことに対して”である。特にその台詞がどうたらなんてまったく考えていない。もし杏澄がその台詞を聞く立場であれば妄想して鼻血を吹き出しながら倒れるところだろうけれど、自分が言う台詞にそんなこと思いもしなかった。

 だが他人は別だ、その台詞に対していやらしい想像しかできないものはすべて……。

 

「エンッ!」 

 

 鼻血を吹き出し倒れるセシリア。

 目の前で倒れたのだが、それに気づくほど杏澄は正面を見れてはいないのだろう。真っ赤な顔のまま下を向いている。

 一夏は先ほどの比でないぐらい机に突っ伏し、窓の外を見ている箒は頭から湯気を上げた。

 クラス中の生徒たちが何も声を出さず、ある者は呼吸困難に陥りある者はも尋常じゃないスピードで目を泳がせる。

 隣のクラスからは『鳳さん、鳳さぁぁん! なんでこんな血まみれにぃっ!』なんて声も聞こえた。

 

 だが周囲を見渡せるほど、杏澄にも余裕はなかった。

 

「う~ん、ありがとうあすみん」

「えっと、どちらかというとお礼を言うのは私の方だよ……布仏さん」

「もぉ~まぁ良いや、とりあえず今回は、はい!」

 

 パンを渡された杏澄は嬉しそうな顔をしながらそのパンを頬張るが、倒れているセシリアに気づかない。

 これでまた杏澄が話題に上るだろう。

 いや、今朝のことのせいでそもそも話題に上がっている杏澄のことだ、もう杏澄が目立たずなどということは不可能ですらある。

 だがそんなことにも気づかず、杏澄は満足そうにパンを頬張っている

 

「ん~、おいしいっ!」

 

 混沌と言える雰囲気の教室の中、チャイムが鳴り響くと同時に杏澄はパンを一口でなんとか食べ終えると教室に入ってくる教師は……山田真耶だけだった。

 いつもなら絶対に千冬と真耶の二人だけなのだが、珍しいと思うクラスの面々。

 千冬が来ると思えば感情ぐらいいくらでもコントロールできるのだ。

 だが居ない。

 

「織斑先生は突然鼻血が噴き出したので少し遅れてくるそうです……あっ、鼻血のこと言っちゃだめなんだった!」

 

 ―――織斑先生……。

 

 クラスの面々もそれにばかりは同情せざるをえなかった。

 杏澄は何も気づかずに、いつも通りふつうにしている。

 すぐに倒れているセシリアに気づいて真耶が大騒ぎするのは、すぐであった。

 そして杏澄はいつの間にそこで倒れていたのかと、気づかない自分を少し反省するのだった。

 

 ―――そもそも、なんで血まみれで倒れてるんだろ?

 

 

 

 

 

 




あとがき

これはね、うん……そんな感じ!
まぁ今回はこんな風な感じでござるが、というかここら辺はたぶん杏澄がしっかりヒロインやったりすることもあると思いますが、すぐいつも通りに戻ると思います。
一応主人公で、結構ないがしろにされたり扱いが悪かったりな感じでいきたいですからねぇ。
今回、千冬さんがこんな風になってしまったのは非常に申し訳ない気持ちで沢山でござるまする。

まぁとりあえず、お楽しみいただければ僥倖!
感想などもありがとうございます。励みになるで候!
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