インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~ 作:王・オブ・王
後の代表候補生流血事件、と呼ばれる事件があった。
一年一組担任である織斑千冬は結局一限目の途中でやってきたが、山田真耶が喋ったことによりクラス全員が千冬になにが起こったのかは知っている。それでも誰も何も言わないのは彼女が怖かったからにほかならない。
そして、その事件が起きた日の昼の食堂。
杏澄、一夏、箒の三人がいつも通り食事をしていた。
珍しく座っているのは中心の方にあるテーブルで、六人掛けのテーブルに三人横にならんで座っている
「ああ、セシリアと鈴が帰って来たぞ」
一夏の言葉に杏澄と箒がそちらを見れば、言われた通り二人がやってきているのが見えるが明らかに貧血という顔だ。
理由はと言えば―――言うに及ばず。
セシリアが洋食、鈴がラーメン、だが二人して同じように別にレバーを持ってきていた。
そんな二人を見て杏澄は素直に『仲が良いんだなぁ』と思う。
「まさか二人は!?」
「ねぇよ杏澄、お前はどこまで鈍感なんだ」
「お前が言うか一夏」
三人で漫才をしていると鈴とセシリアが正面の席に座る。
「たく、セシリアから事情は聞いたけど……杏澄はほんと馬鹿ね」
「開口一番にソレっ!?」
杏澄の鋭いツッコミもげっそりしている鈴には効かず、レバーを頬張る。
苦笑する一夏と、ため息をつく箒。
まったくわけがわからないという風にしている杏澄がセシリアを見れば、セシリアもセシリアでレバーを頬張っていた。
そんなに血が足りないのかと思ったが、あの流血じゃ仕方ないと納得する。
「ん、早く食べなきゃ」
杏澄は誰よりも多いその量のご飯を素早く口に入れて飲み込んでいく。
素早く静かに食事、杏澄の空気になるためのスキルの一つだがこの学園ではいかんなく発揮されない。
目立ちたくない杏澄にとってはまことに遺憾なのだろうけれど、杏澄自身が自分が目立っていることに気づいていないのでまったくなんでもなかった。
五人で他愛もない話をしながら食事をしていると、意外な人物が現れた。
「あら鬼柳さんは沢山食べるんですね」
そう言って後ろから杏澄の食事を覗いたのは山田真耶だった。
通称天使の眼鏡が似合う美女だ(杏澄談)。
そして今、杏澄の背後から覗いているということはその山田麻耶の胸はいかんなく威力を発揮し、杏澄のスキルとは正反対に効果は抜群。杏澄の背中にぐいぐいと押し付けられている。
つまり杏澄を戦闘不能にするには十分だった。
「ああ、午後はISの実習がありますからスタミナはしっかりとってくださいね!」
それだけを言うと麻耶は去って行く。
それを確認して立ち上がった杏澄は、一夏の方を見た。頷く一夏と同じく頷く杏澄、すぐに杏澄は走って食堂を去っていく。
体力を回復している最中に体力が削り取られるとはこれ如何に―――なんて一夏は思いながら正面の席を見る。
テーブルを挟んで向かいの席に座っている鈴とセシリアはハイライトのない目をしていた。
「杏澄、あんな乳だけの女に……」
「あのホルスタイン、私の杏澄さんに色目使ってからに……」
「お前ら怖ぇよ!」
一夏の渾身のツッコミが二人に届くことは無かった。
これがヤンデレというやつかと少しばかり勉強になる一夏だが、一度だけ杏澄に貸してもらったゲームで殺された記憶がある。
現実で見るとここまで冷や汗が出るとは思わなかった。
「ところで、なんでセシリアは杏澄をそんなに好いているんだ?」
そんな時、箒によってその爆弾は投下された。
キョトンとした顔になるセシリア。
「私が杏澄さんを、好き?」
「ああ」
そんな言葉を聞いてから、セシリアは少しばかり考える表情を見せた。
「えっ、私って杏澄さんのことを好きなんですの?」
「今更なの!?」
「今更かよ!?」
「今更だと!?」
上から鈴、一夏、箒の順で驚いていた。
まさか、セシリアが自覚なしであの変態臭漂う真似をしていたとしたらと一夏は内心戦慄する。このままこの
セシリアに猛アタックされれば杏澄程度の忍耐力では瞬殺、性欲に任せてそのままイけるとこまでイってしまうだろう。
だからこそ、そういう意味でも杏澄を守らなければならないと一夏は深く頷く。
「そうですか、私が杏澄さんを……好き……」
なんだかポォ~、とした顔をしているセシリアだが本当に今更かとため息をつく箒。
自分で敵を増やしたと気づいて後悔をはじめる鈴。
そして後悔している内に、あることを思い出して全力でラーメンを口の中にかきこみスープもしっかり飲む。
「クラス対抗戦ではボコボコにするから覚えてなさいよ!」
敵から連想して思い出したのだろう、一夏も敵であると……。
だが見事に的外れだ。別に一夏は鈴やセシリアと同じ意味で杏澄が一番だと言ったわけでもないから、今現在としては鈴の敵は一夏とセシリア。そして隠しボスで千冬が杏澄の保護者として立ちふさがることだろう。
まぁ隠しボスの時点でクソゲ決定なのだが、それで諦めるほど鈴も甘い考えをしてはいない。
鈴は捨て台詞を吐いてその場から去る。
「なんだったんだ?」
「さぁな、自分で考えろ一夏」
鈴の発言から箒も少しばかり不機嫌で、前のセシリアはお花畑にトリップしていた。
そして鈴と入れ替わるように帰ってきた杏澄。
「あれ、鈴は?」
「帰ったぞ、不機嫌になって」
「また一夏がなんかしたんでしょ」
あながち間違いでも無いが原因の根源としては杏澄がだいぶ関わってくるので何かを言う立場にないが、それに気づいてすらいないので言う。
そして一夏と杏澄の似たもの兄妹を横目で見ながらため息をつく箒。ある意味では一番の苦労人。
突如立ち上がるセシリア。
杏澄はまた一夏かと思うが、違った。移動するセシリアは杏澄の手を両手でとりしっかりと握る。
驚く杏澄をよそにセシリアは息が荒く。
「ハァハァっ、貴女のその、ハァハァ―――」
セシリアの手が杏澄の手から離れて少しづつ杏澄の胸へと向かって行く……のだが。
「なんてことやってんのよあんたはぁ!」
「お゛っ!!?」
いつのまにやら帰ってきていた鈴が怒鳴ってセシリアの太腿を思い切り蹴る。
言葉を話すこともできなくなったセシリアが太腿を押さえながらうずくまるが鈴はフン、と言ってから食堂を去る。
蹲ったままのセシリアだったが、すぐに起き上り杏澄の胸に抱きつく。
ちなみに、食堂である。
「っ!?」
「あ、杏澄さぁんっ!」
杏澄は内心『殺される』と思った。理由はと言えばわからないが、とりあえず一夏関連だろうと察する。
中学校でも一夏と杏澄の関係を知らないものは杏澄を恨んだりしたものだ。だからこそそうだと思った杏澄はまた一夏のせいで不幸がふりかかると、驚きながらも思った。
ちなみにこの状態、危ないのは杏澄の生命ではなく杏澄の貞操である。
しかし神か悪魔か、この状態で現れたのは……。
「せっしーやりすぎだよ」
のほほんとしたように言いセシリアの背後にしゃがむ布仏本音はどこから出したかレコーダーをセシリアの耳に当てる。
小さな音だが音が出るスピーカー部分を耳に押し当てられたセシリアには良く聞こえた。
「エンッ!」
その場で鼻血を噴き出しながら倒れるセシリア。
そして正面のセシリアが噴き出しながら倒れたということは杏澄はその鼻血をもろにいただいたということになる。なぜか食堂の中心で血まみれの二人、周囲に漂う生臭い鉄の臭い。
鼻を押さえている一夏と箒と本音の三人。
「……なんでこうなる」
非常に哀愁たっぷりに言う杏澄は、千冬が助けに来るまでその場から動くことはできなかった。
人を呪わば穴二つと言うが、鬼柳杏澄と言う人間は人を恨まずとも穴二つ。
不幸な星の元に生まれた女であった。
鼻血まみれになった杏澄だったが次の授業がISの実習となっていることに安堵を覚えて、制服を寮の洗濯機に入れてすぐに学園へと戻りグラウンドに集合に参加。
軽くシャワーを浴びて濡れた髪で参加したせいで千冬とひと悶着あったが事情が事情なのでなんとかバツは免除された。
そしてIS実習はなんの山も谷も無く終わり、次はそのまま道場へと集合することになる。
千冬監修の護身術、まぁ体育の授業を受けている面々その時にはセシリアも鼻にティッシュをつめて優雅にその場に参上していた。
とりあえず受け身の練習を一通りやってから今回は組手。いや、組手というより相手の無力化する練習と言った方が正しいだろう。
道場にはいくつかの壁やらが用意してあり一夏がその壁に隠れていた。
そしてその壁の向こうには杏澄、銃を右手に左手で縛られた鷹月静寐を引き寄せている。
口元に笑みを浮かべる杏澄と、苦々しい表情の一夏。
「一夏ぁ、顔出してみろ。一発で眉間撃ちぬいてやる。古い付き合いだ、苦しませたかねぇ」
「杏澄その子は関係ない、放してやれ! 目的は俺だろう!」
そう言う一夏に、杏澄はおかしそうに笑う。
だが一夏は銃を構える杏澄を恐れていないという風に銃も持たずにISスーツのまま立ち上がる。
「来いよ杏澄! 銃なんて捨ててかかって来い!」
恐れるように半歩下がる杏澄の口元に笑みは浮かんでいない。
ゴクリ、と生唾を飲むような音が聞こえる。
「楽に殺しちゃつまらんだろ、ナイフを突き立て、俺が苦しみ悶えて……死んでいくさまを見るのが望みだったんだろ。そうじゃないのか杏澄」
一夏は持っていたナイフだけを出して、杏澄に言う。
「テメェを殺してやる!」
「さぁ、鷹月さんを放せ一対一だ。楽しみをふいにしたかないだろう……来いよ杏澄、怖いのか?」
「ぶっ殺してやる! こいつなんて知らねェ。へへへへ、女にはもう用はねー! へへへへ、ハジキも必要ねーや。へへへへ、誰がてめーなんか、てめーなんか恐かねぇ!!」
そう言って杏澄は鷹月静寐を放してから銃を投げ捨て、ナイフを抜いて両手で持つ。
「野郎、ぶっ殺してやらぁ!!」
「辞めろ馬鹿共!」
瞬間、一夏の頭上に落ちるのは激しい怒りに目覚めた
うずくまる一夏をよそに次に杏澄にも即座に怒りは振り下ろされ杏澄までもがうずくまることとなる。両者成敗されたことにより、この茶番は終了。
頭を片手で押さえながら、千冬は生徒たちにもギラリと目を向けた。
「なぜこのコマンドーごっこを止めない。それに鬼柳、私は武装したテロリストをやれと言ったはずだが?」
「その結果がこのベネットだよ!」
「銃を捨てないテロリストをなぜ思い出さなかった」
「そうだよな、千冬ね……織斑先生はランボー派だもんな―――って痛ぇっ!」
余計なことを言えば鉄拳制裁だといい加減覚えればいいもののなぜわからないのかと、千冬は弟の不出来に嘆きたくなる気持ちを抑える。
確かに千冬はランボー派であり、コマンドーかランボーどちらを真似してほしいかで言えばランボーだ。なんたってステルス性やらなにやらをとっても理想的だ。
問題としては人が死ななければ本気にならない辺りだが……とそこまで考えて思考を戻す。
「ともかく、お前らは下がってろ」
千冬に言われて釈然としない態度で立ち上がる二人。
「何がいけなかったんだ?」
「やっぱり怒りのアフガンにしとこって言ったじゃん」
馬鹿二人の相手をするのをやめて、次の組手相手を確認。
セシリア・オルコットと篠ノ之箒。これなら大丈夫だろうと頷いてそちらを見れば箒は木刀を素振りしていて、セシリアはサーベルを軽く振っていた。
これは何かの異種格闘戦になると踏んだ千冬は軽く咳払いをしてみる。
少し何かを考える様子を見せてから二人はまともな装備をした。
バカは感染するのかと、千冬は再び深い深いため息をつく。
そしていつも通り放課後は訓練を終えて、いつも通り食堂で食事をした後に自室へと帰ってくる。
ようやくゆっくりできると、杏澄はため息をついてベッドに座った。
―――まったく一夏のせいで毎日疲れる。
なんてことを思ったりもしているようだったけれど、ほとんどが自分のせいでもある。
今日の騒動のほとんどが杏澄のせいであったりもするが、それに気づかないのが杏澄というものだ。
だが一夏が一人でIS学園にいるより、杏澄がいるほうが問題やら騒動が起きているのも確かだろう。
そしてまた一つ、問題がここで発生しようとしていた。
「杏澄ぃっ!」
大声を上げながらドアを勢いよく開いて部屋の中に転がり込んだのは、鳳鈴音だ。
何事かとビクッとする杏澄だったが、鈴は巨大なバックを放ると顔に笑顔を浮かべている。
「今日から一緒に暮らすわよ!」
「なんでそうなるっ」
「そりゃあんたが心配だからよ!」
良い幼馴染だなと思いながらも、思った。
「あぁ、隣に一夏が居るから……」
「なんでそうなんのよ! バカじゃないの!?」
鈴はツンデレだから本当のことが言えないんだろうと、杏澄は何度か頷いた。
そして杏澄が勘違いしていると気づいている鈴。
「一夏が好きなわけじゃないって言ってんでしょ!」
それも昔から言っている。
「じゃあ誰が……ハッ、箒ちゃんっ!?」
「もぉっ! あたしが好きなのは―――っ」
言おうとして、止まる鈴。
勢いだけで言うところだったと、落ち着くために深呼吸をするも心臓は煩わしくバクバクと鳴る。
顔も真っ赤になるが、それに気づく杏澄ではないだろうから杏澄から見てからだけでもわからぬようにと平静を装う。
深呼吸してもう一度しっかりと―――。
「おい杏澄~」
「なんであんたは変なタイミングで来るのよ!」
現れた一夏と箒に、ため息をつく鈴。
だが思い出せば一夏も自分のライバルだったはずだ。勘違いと言えど今、鈴はそう思っている。
だからこそ鈴はなんとか今のうちにと杏澄の顔をしっかり見た。
その目は見えないが見たことがないわけではない。だからわかる、今杏澄はキョトンとしている。
「あの約束、覚えてる?」
「えっと……」
杏澄は考えてみる。
―――もしかして“鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を作ってくれる”っていう……いやいや、たぶん私のことだし歪曲して覚えてるよね。だから本当はそれじゃないはずだし。
一度思い出したそれではないだろうと思った。
だからこそもう少し常識的というより自分に言ってくれそうな言葉を想像してみる。
鈴は一夏が好きなわけだから自分に言うわけがないと考えているのだ。
「あ、ああ……鈴の料理の腕が上がったら酢豚を作ってくれるっていうやつだ!」
「少し、違うんじゃない?」
―――なんだって!?
杏澄は焦りながらも頭の中でその約束とやらを思い出す。
だがどう思い出しても同じことばかりしか思い出せないから、だからこそなんとか答えようと思った。
「ああ! 一夏に毎日酢豚を―――お゛っ!?」
鈴の拳が腹に直撃し、杏澄が床にひれ伏すことになる。
何を間違えたかという混乱よりも痛みにより動けなくなる杏澄。そしてそんな杏澄を睨む鈴。
鈴は涙目で、悶える杏澄にその姿を見ることはできない。
「最ッ低! 犬に噛まれて死ね! もう絶交よ!」
そう言われた杏澄はわけがわからなかった。
鈴がバックを持ち出ていくと、起き上った杏澄が『さすがに一夏の前で言うのはだめだったか』と思う。
それにしてもあの約束じゃなければ鈴とどんな約束をしただろうかと考える。
お腹をおさえながらベッドに座ると、自分を見ている一夏と箒に気づく。
「今のはないぞ杏澄……」
「馬に蹴られて死ね」
「酷い!」
呆れたような表情をして二人は部屋から出ていくが、杏澄にはさっぱりわからなかった。
大体にして一夏が鈍感なのがいけないんだと、見当違いな方向に杏澄は理不尽さを恨んだ。
とりあえず考えるのは鈴との仲直りの方向だ。
さすがに今まで鈴と喧嘩をしたわけがないわけではないが、ただここまで怒られることも無かった。
さすがに絶交と言われて傷つかないメンタルをしていない。
「うーん、どうしたものか……」
考えてもらちが明かないので、杏澄はとりあえず考えるのをやめた。
一夏に当たれば、それなりにストレスも発散できるだろうと……。
鳳鈴音は、自分の部屋のベッドの上で部屋着のまま枕を抱えてごろごろと転がっていた。
深いため息をつく鈴が天井に枕を投げてから、落ちてくる枕に『もぉぉっ!』と悪態を付きながらこれでもかというぐらいパンチを打つが結局枕は顔にボスッ、と音を立てて落ちる。
風呂から出てきたルームメイトのティナ・ハミルトンがバスタオル一枚を巻いて髪を拭きながらため息をつく。
「なに、どうしたの? また一組の鬼柳杏澄がなにかやったの?」
「あたしが悪いんだと、思う……」
「意地をはっちゃったわけか」
頷く鈴。
考えてみるが杏澄がわざわざ約束をあそこまで憶えていた方が奇跡に近い。
杏澄が自分への好意を勘違いするのなんて当然と言っても良かったけれど、あの状態で勘違いされて感情的になってしまった。
自分も悪い部分があったのは確かだと鈴はベッドの上で再びごろごろと転がる。
「クラス対抗戦ももうすぐでしょ、その後にでも仲直りしたら?」
「……そうする。それにしても、絶交は言い過ぎでしょうが」
杏澄は友達が少ないんだからそんなこと言って傷つかないわけがない。
一夏じゃあるまいしと、鈴はため息をついてから風呂に入ろうと立ち上がるのだった。
クラス対抗戦まで、もう少しである。
運命のその日までは……。
あとがき
さて、次回はようやくあれですな。本編というか原作というか……。
ともかく次回はクラス対抗戦、鈴は一夏と杏澄の二人と喧嘩中、まぁ同じクラスじゃなくて良かったね、空気的な意味で!
とりあえず今回はただの閑話みたいなもので一夏と杏澄がバカをやって鈴がキレるだけの簡単な話です。
次回は久々の戦闘!
お楽しみいただければまさに僥倖!