インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~   作:王・オブ・王

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第十話 『狼』

 クラス対抗戦当日。

 ピットのハンガーにて一夏と杏澄と箒とセシリアの四人は一緒にいた。

 一応サポートとして一夏の訓練に付き合っていた三人にはそこに居ていいだけの権利というものがあるから千冬が許可したのだ。そうでもなければ観客席で見ていてほしい、千冬の頭痛の元なのだから……。

 白式を纏った一夏が三人に笑顔を浮かべた。

 

「よし、勝ってくるぜ!」

「頑張れよ」

「ああ!」

 

 箒の応援に嬉しそうにする一夏だが、セシリアが軽くため息をつく。

 これで勝たれても負けられても正直どうでも良いというのが今のセシリアの心情だ。どちらにしろこの戦いは一夏と鈴の二人による杏澄の取り合い。どっちが勝とうとセシリアと杏澄の関係に変化があるわけではない。

 だがここで重大な勘違いとしては鈴とセシリアと箒の三人は一夏が杏澄に気があると思っていることだ。

 実際はなんでもなくただ『守るべき人の一人』として思っているにすぎない。

 

「とりあえず、私達が訓練にせっかく付き合ったことを忘れずに」

「ああ、三次元跳動旋回(クロス・グリッド・ターン)だよな」

「無理して使う必要はありませんけど」

 

 そう言って髪を軽く払うセシリア。

 所詮は敵なのだから、これ以上かける言葉もないのだろう。

 だがなぜだか、必要以上に目の前の男を嫌いになることもできなかった。

 生まれ持つ人なりという奴のせいだろうと、セシリアは納得して横を見る。

 そこに杏澄が立っているのだが、いつもよりかなりそわそわとしていたのでセシリアはついつい抱きしめてそのまま押し倒してベッドへと移動したくなるのだが自重した。

 

「なんか、嫌な予感がするから気を付けて」

「ああ、鈴が怒ってるみたいだしな、ストレス発散に殺されなきゃいいけど」

「ははっ……とりあえずどっちが勝っても恨みっこなしだよ」

「おう、お前は鈴と仲直りしろよ」

 

 項垂れながらも頷く杏澄。

 結局は、喧嘩した日から一度たりとも鈴とは口をきいていないし食事も別々だった。

 もともと仲が良い姿を見ていただけに周囲の人間はかなり気になったりもしたが、それも今日までだと一夏は信じている。これが終わったら謝りに行くと杏澄は言っていたからだ。

 一夏はISの腕部分を消して杏澄の頭を軽く撫でた。

 

「大丈夫だから、な?」

「……うん」

 

「ごほん!」

 

 わざとらしく咳払いをしたセシリアに一夏は苦笑しながら杏澄の頭から手を放してISを再び展開。

 三人が一夏から離れると、腰を落とす一夏。

 

「織斑一夏、白式、行きます!」

 

 カタパルトが射出され、その速度を利用して一夏はアリーナへと飛んだ。

 程なくして鈴も一夏と同じステージへと現れる。

 二人がアリーナ上空にて睨み合っている頃、杏澄、セシリア、箒の三人が管制室へと着く。

 モニターを眺める山田麻耶と千冬の横に立つ三人。

 

 程なくしてブザーが鳴り響き戦闘が始まる。

 

 先に仕掛けたのは一夏だったがそれを避けられる。そもそも当てる気で攻撃をしたわけではないだろうからそれは良い。

 次に攻撃は鈴だった。腕に持った巨大な中華刀を一夏相手に振り下ろすが、それを雪片弐型によって防ぐ。

 つば競り合う二人。

 だがそんなつば競り合いもすぐに終え、鈴が何かを言うともう一方の手に同じ形をした中華刀を出現させ、もう片方の中華刀と合体させる。

 

「両刀?」

「のようだな……」

 

 IS初心者の杏澄なりにISの戦闘を学ぼうと二人の戦闘を真面目に見ているのだが、遠距離型の杏澄に二人の戦いは参考にはならないだろう。

 それでも千冬はそんな杏澄の学ぼうという姿勢が嬉しかったりするのだが。

 

「あ、杏澄さんの両刀……ハァハァっ」

「おいセシリア、追い出すぞ」

 

 変態ことセシリアを黙らす箒に、千冬は内心ほっとする。

 仲間内に暴走を止める人間が居ればだいぶ楽になるからだ、色々と……。

 とりあえず戦闘の方に視線を戻す千冬。

 

 杏澄は一夏と鈴の戦闘を見て自分との格の違いを思い知らされる。

 訓練では結局一人で大変な思いをしていたりする一夏だが、実戦になるとまったく動きが違う。

 自分も一度だけそういうこともあったがあれ以来そんなこともない。

 だからこそ焦る。いつもへまをするのは自分と一夏だったのに、置いて行かれる感覚。

 そんなことを思っていると戦闘に変化が起こった。

 

「なに、今の……」

 

 画面内の一夏が吹き飛んで砂煙を上げている。

 麻耶が自分たちの方を見た。

 

「衝撃砲ですね、空間自体に圧力をかけて砲弾を撃ちだす平気です」

「私のブルーティアーズと同じ、第三世代兵器ですわね」

 

 それでも杏澄にとっては鈴の撃った衝撃砲の方が強力に見えた。

 セシリアには悪いが、明らかに強いのは鈴のIS甲龍(シェンロン)に装備された衝撃砲だろう。

 だが逆に考えればあれはすでに完成された兵器だ。ブルーティアーズはセシリア自身の能力によってどこまでも強くなる。

 それでもこの現状、杏澄とセシリアと鈴の三人の中で最も高威力の遠距離武器を持っているのは鈴だ。

 

 だが次の瞬間、一夏は放たれた見えない衝撃砲をいくつも避けて見せた。

 ISのハイパーセンサーという物は優秀だ。

 一夏は現在ハイパーセンサーで見える気流の変化を見て避けていた。

 

「砲身も砲弾も目に見えない」

「しかもあの衝撃砲は、砲身の斜角がほぼ制限無しで撃てるようです」

 

 千冬と麻耶の言葉に、セシリアも箒も表情をしかめた。

 さすがにクラス代表が負けられるのも良くないというセシリアと、単純に一夏に負けてほしくない箒。

 

「つまり死角がないということですの?」

「そういうことになりますね」

「なんてインチキ兵器!」

 

 セシリアが悪態をつくが、箒と杏澄は内心『ブルーティアーズのビットも大概』と思った。

 やはり専用機を持っていない箒も、特に専用機っぽい装備のない杏澄もそういう特殊な武装には憧れるのだ。

 まぁ確かにブルーティアーズと比べても、明らかに扱いやすい衝撃砲。おまけに高火力で死角なし。

 

「それでも、鈴には死角がある」

「その通りだ鬼柳、やはりどんな優れた武装を持っていても操縦者によってその能力は大幅にブレる。お前たちも覚えておけよ」

 

 ヴァルキリーの言葉は重みが違うという風にうなずく生徒三人。

 ほぼ同じ武装の一夏が苦戦しているのを見ていても思う。

 だが今と昔とでは武装が明らかに違いすぎるのに、それでもあの刀一本で白式は戦わなければいけないのかと杏澄は首をひねった。

 だが考える前に、防戦一方だった一夏が画面内で鈴を挑発する。

 

「織斑君、なにかするつもりですね」

瞬時加速(イグニッション・ブースト)だろう、私が教えた」

瞬時加速(イグニッション・ブースト)?」

 

 セシリアも知らないのか聞いた。

 

「一瞬で敵に接近する奇襲攻撃、出しどころさえ間違えなければあいつでも代表候補生と渡り合える。しかし、通用するのは一回だけだ」

 

 千冬がそう言った直後、杏澄の背中にぞわぞわとしたものが奔った。

 言葉で表現するには悪寒と言うのが一番近いかも知れないがそれとは少し違う。

 だがこの感覚を杏澄は知っていた。

 

「お姉ちゃん、嫌な感覚っ」

 

「杏澄さん?」

「杏澄?」

 

 箒とセシリアが小首を傾げて言うがそれに構っていられるほど杏澄にも余裕はない。

 千冬が頷き、試合停止を宣言しようとしたがすでに遅い。

 アリーナの遮断シールドを突き破りなにかが落下、それと共にアリーナが揺れ、アリーナに爆煙が上がる。

 

「やはり杏澄の感は当たるな」

「そんな呑気な!」

 

 千冬が冷静に言い、杏澄がツッコムがまったく表情を変えない。

 セシリアと箒は何が起こっているのかと麻耶に問いただす。

 だが聞かれるまでもなく麻耶とて調べている。

 

「システム破損、何かがアリーナの遮断シールドを貫通してきたみたいです!」

 

「試合中止! 織斑、鳳、今すぐ退避しろ!」

 

 そう宣言した千冬。

 だが二人は何故か退避しようとしない。

 こんな非常事態が起こるなど誰も予想していなかったのではないかと、杏澄は現状を整理する。

 とりあえず自分が動いても仕方がないと気持ちを落ち着かせようとした。

 

「織斑君、鳳さん、今すぐアリーナから脱出してください! すぐに先生たちがISで制圧に行きます!」

『いや、みんなが逃げるまで食い止めないと』

「そ、それもそうですけど、でもいけません!」

「一夏!」

 

 通信はすでに切れている。

 一夏と鈴の二人が画面に映る正体不明機と生死をかけた戦闘をしようとしているのだ。

 その幼馴染として、杏澄は何かできないかと模索するが自分にできて他人にできないことなど思いつきもしない。

 全員が画面を見れば、そこには正体不明機と戦う二人。

 

「もしもし織斑君! 織斑君聞いてます!? 鳳さんも、聞いてます!?」

「本人たちがやると言っているのだから、やらせてみるのも良いだろう」

 

 そう言って笑う千冬だが、杏澄にはわかる。

 

「織斑先生、なに呑気なことを言っているんですか!」

「落ち着け、コーヒーでも飲め、糖分が足りないからイライラする」

 

 コーヒーに砂糖を入れたつもりの千冬だがその場にいる全員がそれを見ていた。

 杏澄にはわかりきっていたことだが、ここまでとは若干千冬が心配になる。

 

「あの先生、それ塩ですけど……」

 

「なっ!」

 

 少し顔を赤くして、千冬は目を伏せてコーヒーを置いた。

 杏澄はここで何かを言いたいところだったけれどもれなくそのコーヒーをご馳走になりそうだから言わないことにする。

 それが懸命であり、そして同時にここにいる全員が一夏を大事に思っているのだと杏澄は頷いた。

 ちなみにセシリアが一夏を好きだと杏澄は勘違いしている。やはり一夏と一緒に居ただけはあるだろう。

 

「先生、私に許可を! すぐに増援に行きます!」

「私だってできるならそうしたいが、これを見てみろ」

 

 モニターに映されるアリーナの状況。

 隔壁がすべて降りている挙句、遮断シールドもレベル4。

 つまり普通に戦場へと行くことはできないということだ。

 セシリアも箒も色々考えてはいるが、その言葉を聞いていながら杏澄は焦っていた。

 

「これでは避難することも救援に行くこともできない」

 

 千冬にはこれができるだけの知り合いに想像がつく。

 なおかつ正体不明のISをこの学園へと送り込むだけの科学力、考えれば一人しかできない。

 だからこそ、そこまでは焦っていないのだ。弟の危機に焦っていないわけではないが、死の心配はしていない。

 だがそれでもコーヒーに塩を入れてしまうぐらいに動揺しているあたり、相当なブラコンなのだろう。ちなみに血がつながっていない杏澄を妹として認識するのであれば、さらにシスコンまで患っている重病人だ。 

 突然、杏澄が手を上げた。

 

「す、少しトイレに」

 

 杏澄のそんな一言に、千冬はため息をつく。

 つまりは『またか』と言いたいのだが、これに関してはどうしようもないことだと頷く。

 すぐそこにあるトイレならシャッターも降りていないだろうし使えるだろう。

 

「緊張感がないな」

「あはは、それじゃ……あと箒ちゃん、無理矢理出て行ったりしてないようにね」

「なっ! 杏澄、お前!」

 

 軽く笑って部屋を出ていく杏澄。

 一夏と千冬以外にあんな軽口を言うなんて珍しいと思った千冬だが、まぁこれもIS学園に来てからの成長だろうと思うと嬉しくなった。

 そう言えば杏澄は一夏と特別仲が良い人間以外に心を開かないふしが昔からある。

 人見知りを一時非常に心配したし、杏澄にこびりつく鳳鈴音や五反田弾を排除しようと考えたこともあった。それを思えばこの学園での成長はとても嬉しく思えて、目の前で激戦を繰り広げる一夏を若干忘れそうにもなって……。

 

「鬼柳さん! 何を!?」

 

 ―――ッ!!?

 

『ごめんなさい! 罰は受けます!』

 

 力強くそう言った杏澄は、千冬たちが居る管制室の真下のハンガーにすでにISを展開したままそこにいた。

 カタパルトに足を乗せることもなく、浮遊を始める杏澄。

 

「戻れ杏澄!」

「危険ですわよ!」

 

『鬼柳杏澄、出ます!』

 

 そのまま杏澄はハンガーを出て行ってしまった。

 千冬は舌打ちをして画面内を見る。

 これから始まる戦闘に死人は出ない確証はあるが、それでも怪我をしない確証はないのだ。

 一夏と違い杏澄は運動能力も無いしISの操縦も上手くはない。

 あれはおそらく、一夏が戦うことを想定して作られたISだから……。

 

 

 

 杏澄がピットを出る。

 同時に鈴と一夏に向かって腕部のビームを撃つ黒い敵に即刻狙いを定めてサイレント・ビーストのランスを出現させてその手に持ち、正体不明のISに向かってトリガーを引く。

 マシンガンのように放たれるそのビームを受けることなく、黒い機体は飛び上がった。

 攻撃を避けられたことにより舌打ちをする杏澄。

 だがそんな杏澄の方を見る一夏と鈴。

 

「杏澄!?」

「なにやってんのよ!」

 

「うるさぁぁぁぁい!」

 

 叫びながら、杏澄はその高機動を使い飛ぶ。

 ランス片手に黒い機体のすぐ正面まで移動して再びマシンガンのようにビームを放つが今度は当たるもダメージが無い。

 すぐに腕を振るう黒いISだが、杏澄はすぐに後方へと下がった。

 機動性では一夏と鈴を凌ぐほどの機体だ。それぐらいの芸当はできて当然。

 ビームでダメージが無いのがわかると、すぐに杏澄はランスを消して次にスティンガーミサイルを出現させた。

 

「これでっ!」

 

 トリガーを引くと同時に放たれたミサイル。

 黒い機体を追っていくミサイルは決して逃がさないようにも見えたが、当たる寸前で黒い機体は体をほぼ右九十度に曲げる。

 それによりミサイルは遥か背後に飛んでいき大きく旋回しようとしたが推進力が無くなり落ちた。

 

「っ!?」

「なにあれ!?」

「やっぱり、人間じゃなかったか」

 

 三者三様に驚いて、その正体を察する。

 間違いなく黒い機体は人間が乗っているものではない。動きが完全にふつうと違う。

 相手が人間でないならば手っ取り早いかとも思ったがそれでもなお目の前のそれを倒せる気がしなかった。

 

「杏澄、下がりなさい!」

「時間稼ぎぐらいはする!」

 

 鈴と一夏の二人がそう言って目の前の敵を睨むが、黒い機体は腕を二人に向ける。

 見向きもされず、二人にも下がれと言われておめおめと下がれる杏澄ではない。

 下がれ、と言った相手がもっと仲良くない相手であれば大人しく下がっただろうけれど、相手は勝手知ったる遠慮もいらない親友二人なのだ。ならば遠慮の必要も気後れの必要もない。

 わざわざあの面子を無視してこちらにやって来たのは二人を援護するため、置いて戻れるはずもない。

 

「うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさい!」

 

 叫びながら、杏澄は高機動を活かし黒い機体へと接近する。

 近距離まで接近して、ランスを横薙ぎに振るが体を後ろにほぼ90度に曲げて避ける黒い機体。

 そのまま黒い機体は起き上ると腕を振るう。

 

「うぁっ!?」

 

 杏澄はなんとか避けるとランスを消して二挺のハンドガンを持つ。

 銃口を黒い機体の中心の人型に向ける。

 

 ―――こういう時は頭が弱点の、はず!

 

 ゲーム脳だ。

 それでも勝算がない今現在では手当たり次第に目の前の機体を倒す算段を撃たなければならない。

 連射される弾丸は黒い機体の頭や地面や身体に直撃。

 黒い機体が倒れて直、トリガーを引き続ける杏澄によって辺りには砂埃が舞う。

 

「や……」

 

 やったか、と言おうと思ったがそれは定番、言ったが最後普通に起動しているだろう。

 しかし言おうと言うまいと関係無いのが現実である。

 砂煙から現れた黒い腕が杏澄の胴体に直撃した。

 

「っ!?」

 

「杏澄ッ!」

 

 一夏と鈴の二人の声が聞こえたが、そんな二人の間を突っ切って杏澄は吹き飛ばされて壁へとぶつかる。

 

「―――うぁっ!?」

 

 杏澄()が地へと落ち、その翼は地へと力なく垂れた。

 うつぶせに倒れた杏澄を見た一夏と鈴の表情が歪み、うつむく二人は足を地へとつく。

 何も言わぬまま両腕を構える黒い機体は、確実に戦闘を続ける気であった。

 

「ねぇ一夏、あたしの言いたいこと……わかる?」

「ああ鈴、今すぐアイツをぶっ飛ばしたいんだろ?」

 

 フッと口を歪めた鈴が武器を黒い機体へと向ける。

 同時に一夏も雪片弐型を敵へと向けた。

 顔を上げた二人の目は間違いなく目の前の敵を叩き潰す意思を含んでいる。

 

「行くぜ鈴!」

「付いてきなさいよ一夏!」

 

 二人が同時に飛び上がると、黒い機体は二人に向けて腕のビームを撃つ。

 だが、二人は軽く体を翻してその攻撃を回避した。

 先ほどと動きが違う。

 

 倒れたままの杏澄が顔を上げて二人を見る。

 

「く……そぉっ」

 

 倒れたまま、地面を殴る杏澄。

 柄にも無く悔しがっているのは間違いなく二人の友人が原因の一つでもある。

 ただ自分だけがなんの力もなくここに居て、ただの贔屓で専用機を手に入れていた。

 本当に努力をした優秀な人間の中に放り込まれた身としては、たまったものではない。

 せめて友人二人の力になれるぐらいにはなりたかったのだが、それもできなかった。

 ただ、自分への怒りだけが湧いてくる。

 

「なにもできないでっ、なにもできないで私はっ!」

 

 瞬間、杏澄の目の前にモニターが現れた。

 セシリアと戦ったあの日とまったく同じようなモニター。

 そのモニターに表示された『BEAST SYSTEM』という文字を見る杏澄。

 

 瞬間、上空で戦闘を続ける鈴と一夏が黒い機体の攻撃を受け杏澄の左右に落ちてくる。

 すさまじい風に杏澄の前髪がなびきその両目が見えるようになり、カチューシャが吹き飛び耳も飛び出た。

 知っている者以外誰も見ていなかったのが幸いだったと言えるが、今の杏澄にとってはどうでも良いことだ。

 

「そうだ、そうだよ! 私でもっ、こんな私でもっ……これで!」

 

 可笑しそうに笑う杏澄は体を起こして地面に座ったまま片腕を振り上げる。

 

「『BEAST SYSTEM』……起動!」

 

 振り下ろした腕、そしてモニターを通り抜けた腕が地面を叩く。

 杏澄の耳がピクピクと動き、その琥珀色()の目が輝きを宿す。

 モニターに新たに表示される文字。

 

 ―――怒れる狼(レイジング・ウルフ)

 

 その獣は獲物を食らう。

 

 

 

 

 

 




あとがき

今回はシリアスな感じで、まぁ次回も若干これが続いたり……。
らしくないですかね?
それもまたこの小説の醍醐味だったりするんです。いつも身内の中では元気な杏澄が暗くなったりという……。
とりあえず久しぶりの戦闘もむなしくなんの役にも立たずに新たなシステム発動!

こんな感じで次回はレイジング・ウルフの戦闘!
お楽しみいただければまさに僥倖!

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