インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~ 作:王・オブ・王
第十二話『ダブル・デート』
彼女、セシリア・オルコットが朝起きる。
自分の家で彼女は自然と起き上り大きな部屋のクローゼットから服を出して着る。
IS学園の制服ではなく、スーツだ。
そのスーツを着たセシリアは自分の部屋を出て二階から階段を使って一階に降りる。
なんでもなく普段通りに一階のリビングへと赴くとそこにはいつも通り朝食が用意してあった。
ご飯や目玉焼きやウインナーなんてテンプレ的な朝食だが、それが良い。
「お待たせ」
やってきたのは目元を前髪で隠した黒髪の少女。
彼女はセシリアにそう言ってから向かいの席に座って口元に笑みを浮かべる。
「いえ、ではいただきましょう」
セシリアの言葉に頷く少女。
二人は両手を合わせて軽く『いただきます』と言って食事をはじめた。
ここ数年ですっかり慣れた恒例行事だが、悪くは無いとセシリアは思う。
「相変わらず“杏澄”の料理はおいしくてよ」
「ありがとう、セシリア!」
妙にハイテンションな杏澄がそういうので、少しばかりセシリアが顔をしかめた。
「なにかありまして?」
聞けば、杏澄が少し俯いて頬を紅潮させる。
そんな表情にドキッとするセシリアだが目をそらさず杏澄の言葉に集中することにした。
少しの間もじもじとしていた杏澄だが、一息ついて『よしっ!』と決意を決めるとセシリアの方に顔を向ける。
「あのね……できちゃった」
◇◇◇◇◇◇
「と、いう夢を見ましたの」
セシリアが食堂にてそう言った。ちなみにトレーの上に乗っているのは夢と同じようなメニューにレバーが付いている。
朝起きた時にはセシリアのベッドが鼻血まみれだったのは言うに及ばず。最近毛細血管が切れやすくなっている気がした。
そんな夢の話を丸テーブルを囲むようにソファに座っているクラスメイトたちがげっそりした顔で聞いている。
まさか朝食を食べに来たらこんな苦行のような話を聞かされるとは誰も思うまい。
そして文句を言えばブルーティアーズの餌食になりかねなかったから黙っていたが、ここで一人が言う。
「で、そんな話を聞かされて私たちはどうしろと?」
一人、手を上げて鷹月静寐がそう聞くとセシリアが立ち上がって自分の胸に手を当てて笑う。
「これは正夢になる!」
「いやいや、わけがわからないよ」
手を軽く振る静寐に同意するように頷くクラスメイトたちがだ、セシリアはそんなこと聞いていない。
そもそもなぜセシリアがガチレズになったのかを考えてみるが過去のセシリアを知る人物などここにいるわけもないのでもともとガチレズだったのかと納得する。
二組の転校生兼クラス代表の鳳鈴音は昔からそうだったようだが、杏澄は気づいていない。
そもそも杏澄を好きになる要素がクラスメイトたちにはわからなかった。
「それよりも、せっしーが男役ってことがびっくりだよ~」
「私はあんたのその疑問にびっくりだよ」
布仏本音の言葉に、ため息をつく谷本癒子。
そしてこの状況にふと、セシリアが疑問を抱き席について全員の顔を見渡した。
気づいた時はもうすでに後の祭り。
「杏澄さんと織斑一夏がいないようですが?」
「ああ、あの二人なら朝出かけたよ、二組の鳳さんも一緒に」
「ぬわぁんですってぇぇぇぇぇぇっ!!?」
突如大声を上げるセシリアに、耳をやられたクラスメイトたちが耳を押さえる。
「あの小娘! やりやがりましたわねぇっ!」
「あの、織斑君のことは」
「敵ではありませんわ、杏澄さんが男を好きになるなんてありえませんわ!」
「セシリア、妄想はやめようよ」
静寐のツッコミもむなしくセシリアは瞳の中に熱い炎を燃やしていた。
このクラスで杏澄が女好きだと知っているのは、一夏とセシリアぐらいのものだろうから当然だ。
だがセシリアは考えてみた。
三人で遊びに行ったということは地元なのだろうと……あの三人が幼馴染なのは知っているのだから当然。
「くぅっ、織斑一夏は杏澄さんに惚れているかもしれないのに!」
「それは無い気もするけどね~」
本音がそう言うが、セシリアは悔しそうにしている。。
そして今度はクラスメイト達が一斉に『出遅れたっ!』と気づく。
クラスメイトたちは杏澄が一夏を手に入れる上での二番目に手ごわい壁だと思っている。杏澄がいる限り一夏とくっつくことは不可能。ちなみに一番の壁は千冬だ。
ともかく杏澄が無意識か意識してかわからないが一夏としょっちゅう一緒にいるのは、許すわけにはいかないのである。
一人だけ抜け駆けなどと……。
「お前たちは朝からなにをしている」
そう言って現れたのは箒。
気づいた一年一組のクラスメイトたち。
正直、箒はクラスで浮いている。
理由は杏澄と同じようなもので一夏とあまりにも近く、人当たりが良くないからである。
「箒さん、こっちに来て一緒に食事でもいかが?」
セシリアが誘うが、箒は難しそうな表情をした。
手に持ったトレーにはてを付けられていない朝食、ならば誘わぬ道理はないといったところだろう。
出かけた一夏と杏澄を除いたクラスメイトたちがいるのに箒だけいないというのも非常にいたたまれない。
「いや、私は」
「箒さん、貴女クラスで浮いてますわよ!」
―――ストレートに言ったぁぁぁ!
クラスメイトほぼ全員の総意であるが、間違いではない。
少しショックを受けたような表情の箒だが、クラスメイトたちとて箒を仲間外れにする気はなかった。
自然と距離があっただけで別に入ってくる者を拒む道理はない。
だからこそ、空いてる席を指さすセシリア。
結構うれしい箒は、ここは素直になることにした。
「あ、ありがとう」
「ふふん、貴族として……当然でしてよッ!」
「おい、そのドヤ顔をやめろ」
礼を言ったことが若干間違いかと思い、クラスメイトたちと話をしながら箒は食事をする。
こうしてわいわいするのも悪くないと思った。
「そう言えば箒さんは織斑一夏と杏澄さんと鈴さんが出かけたことを知っていますの?」
「ああ、朝言っていた」
知っているという風にうなずく箒だったが、クラスメイトたちが少し不思議そうな表情をした。
そして気になったのか癒子が聞く。
「女の子と出かけて、篠ノ之さんはありなの?」
「……杏澄と鈴音だろう?」
なにを馬鹿な。というような表情で笑う箒。ちなみに箒は一夏から杏澄が『守りたい家族』という話は聞いているので誤解はもうしていない。
そんな箒を見ていれば一夏と杏澄が一緒にいるのもそこまで危険視する必要もないのかと思ってきたクラスメイトたちだったが我に返った。
杏澄が女好きだと知らない箒だが、一夏と杏澄を見ていればそういう関係にならなさそうなのはわかる。
クラスメイトたちは疑問を抱かずにはいられなかった。
◇◇◇◇◇◇
食堂で朝食を食べることもなく杏澄と一夏と鈴はリニアレールに乗っていた。
理由は一つ、数日前の約束のため。
三人並んで席に座っているのだが朝も早かったせいか、眠っている杏澄は一夏の肩に頭を預けている。
普通にしている一夏だが、それを気に入らなそうにしているのは鈴。
なぜだかいつもこういうおいしい部分を持っていくのは一夏であり、もはや一種の敵だと認識している。
「そういや朝食抜いてきたけどどうしてだ?」
一夏が純粋な疑問を鈴にぶつけた。
朝食を抜いて来ようと言ったのは鈴であり、理由はと言えば邪魔をされないためだ。
そして鈴は今日中に杏澄をなんとか自分のものにしようと考えていた。
「一夏、約束通りだからね!」
「わかってるよ、とりあえず弾のところ言ってからな」
今日は三人の共通の友人であり藍越学園へと通う弾と遊ぶためにやってきたのだ。
いや、鈴にとっての本番はそちらではなくその後である。
途中から鈴は杏澄と二人きりになるという計画を一夏と弾に通してあるのだ。
セシリアには悪いが、今日で決着をつける。
「汚名挽回の時が来たわ!」
「汚名返上な」
「うっさいわよ一夏!」
リニアレールの中で騒ぐ二人。否、鈴。
そんなやかましい鈴のせいで起きた杏澄は、容姿の良い一夏と鈴に挟まれた自分を再認識していたたまれない気持ちになるのだった。
実際別に杏澄だって容姿が悪いわけではない。
スタイルで言えばムッチムチの男好きされる体系なのだが、目を隠すほど長い前髪とボサッとしたオシャレに気を使わない長い後ろ髪のせいでだいぶ損をしている。
数年前、一夏からプレゼントしてもらったカチューシャぐらいが唯一のオシャレだろう。
駅についたのか降りる人々、それに巻き込まれはぐれないように一夏の服の裾を掴む杏澄。
人混みのすごいところに来ると杏澄はいつもそうなので気にしない一夏と、いつも通りだとため息をつきながら杏澄の手を掴む鈴。
人混みを抜けて少し落ち着く三人。
さすが休日と言った所だろう。
「さすがに混んでるな」
「まぁ、弾のとこに行くだけだし後は人混みに巻き込まれることもないでしょうけどね、杏澄は大丈夫?」
一夏はTシャツにベストとジーンズ、素材が良いだけにシンプルながらもかなり似合っている。
鈴に関しては可愛らしいフリル付きのワンピースにその上からジャケットを着て、腕にもアクセサリをつけたりオーバーニーソとなんかの雑誌で見たようなブーツ。少しばかりだが薄らメイクもしてあるように見える。
一方、杏澄は長袖シャツに薄いベスト、ロングスカートで履いているのもブーツとパンストぐらい、オシャレなどに疎い杏澄にはこの程度しかできない。
ただ無難な恰好だ。
「大丈夫か杏澄?」
一夏の言葉にハッとして我に返る杏澄。
「す、少しシャレオツのこと考えてた」
「オシャレなんてしなくてもお前は素材が良いんだから胸張れよ」
「一夏あんた杏澄の胸がなんですってぇっ!?」
「ち、違うぞ!」
鈴に胸倉をつかまれている一夏を見て軽くため息をつく杏澄。
相変わらずの誤解を生みやすい男である。ちなみに杏澄、やはりと言うべきか胸は出ていて人目につく。
それに気づかない杏澄だがその方が良いだろう。気づけば杏澄は外に出るのもやめるだろうから……。
「さて、タクシー使うわよタクシー」
「もったいないな、バスで良いだろ」
代表候補生と一般人の差である。
「杏澄はどっちが良いんだ?」
「ん、私は朝御飯が食べたいな」
「じゃあ、そこらのファミレス入りましょうか」
駅から出るとさすがに駅前ということもあり少し歩けばすぐにファミリーレストランがあった。
やはり比較的安価なこともあり便利だ。
ファミレス内で杏澄の正面に座る一夏と鈴。
鈴は鈴なりに一夏を牽制するため隣に座っている。
それぞれ朝食を頼んでドリンクバーから飲み物を持ってきた後、話をしている。
すると、携帯端末を片手にストローを使ってジュースを飲んでいる杏澄がストローから口を放して言う。
「ん、弾が迎えに来るって」
「そうなんだ、まぁその方が楽よねどっか行くなら」
「中学の頃はほぼいつも一緒だったからこれだけ会わないのも新鮮だよな」
端末を鞄に入れる杏澄。
丁度良く店員がやってきて、頼んだ朝食を三人分並べていく。
鈴が軽いサンドウィッチ、一夏はフライ定食、そして杏澄はハンバーグセット。
さらにもう一つドリアが来るがそれも杏澄のものだ。
「朝から重いの食べるわね」
「重いものは朝から食べた方が良いって聞いたし」
「聞かなくてもこれだっただろ」
一夏のツッコミにえへへ、と笑いながら食事をはじめる杏澄。
相変わらず飄々とした感じで食事を食べていく。
たいしたスピードである。
話をしながら食事を続ける三人の元に、赤い長髪の青年は現れた。
「よぉ、久しぶりだな」
「お久しぶりです!」
やってきたのは青年だけでなく、一人の少女もセットだ。
似ている二人は一目見れば兄妹だということがわかる。
表情が固まる鈴と、申し訳なさそうにしている青年。
一夏と杏澄は相変わらず楽しそうである。
「久しぶりです杏澄さんに鈴さんに、一夏さん!」
笑う少女。
彼女は五反田蘭、青年こと五反田弾の妹であり三人の共通の知り合い。まぁ友達に近いかもしれない。
そして彼女は織斑一夏に惚れている一般的な少女だ。
ちなみに一般的じゃない少女は鈴やセシリアのように杏澄に惚れる。
一夏と杏澄の周りにはどちらにも惚れない間という存在があまりにも少ない。
なにはともあれ、飛び入り参加があろうと誰も文句は無い。
「とりあえず、どこ行きましょうか?」
「ん、無難に買い物で良いんじゃないか」
一夏の提案に頷く蘭。
とりあえず、その提案を無下にする理由もないのでバスでショッピングモールにでも向かうことにした。
このメンバーであれば蘭の邪魔をしようなんて者も居ない。
いや、正確には故意に邪魔をしないのである。
バスの中にて、それぞれ席に座っていく中、蘭が一夏の隣を狙っているが……。
「よっと」
一夏はいつも通りという顔をして杏澄の隣に座った。
二人掛けの席に杏澄と一夏が座っているということは、もう蘭の空いている席は兄の弾か鈴の隣ぐらいしかない。
その鈴も杏澄の隣を先に一夏に取られて青筋を立てていた。
仕方ないのでとりあえず鈴の隣に座る蘭。
「蘭、あっちに着いたら……ペアになるわよ」
「ええ鈴さん、あの二人をあのままにしておくのは危険です」
二人が頷き合い拳をぶつけた。
そんな鈴と蘭の二人を背後から見ている一夏と杏澄は、仲が良いなとだけ思う。
だがそこで終わらないのが杏澄だ。
「ま、まさか二人は」
「それは無いと思うぞ」
「何も言ってないのに……」
「お前の考えてることなんてわかるさ」
一夏の言葉に、少しばかり気に入らないという表情をする杏澄だが、一夏が笑ってその頭を軽く撫でた。
別に二人にとってはいつものようなことだが、それをチラッと見た鈴と蘭は表情を変える。
お互いが危機感を感じて、とりあえずこの二人をどう引き離すか考えた。
その後、ショッピングモールへと移動した五人は不自然な流れで別れることとなる。
鈴が杏澄と一緒に歩いて行ったのと同様、一夏は蘭と共にほかの場所へと、そして弾は一人ハブられた。
少しばかり理不尽さを感じながらも、鈴には“IS学園の美少女を紹介してもらう”という約束も取り付けたのだから儲けものだ。
そう思わなければ少しばかり心が折れそうなのだった。
そんな弾のことを知らない杏澄は、少しばかり違和感を感じながらも鈴の買い物に付き合う。
自分の買いたいものなど無いし今はとりあえず鈴に付き合うことにした。
なぜ一夏と行かないのかなとも思ったりしたが、まぁ女同士の方が楽なこともあるのだろうと納得。
「ねぇ杏澄、どっちが良いと思う?」
服を二着持ってきた。
一方がかわいらしいワンピースで、もう一方がカッコいい感じがするジャケット。
少しばかり鈴が来ている姿を想像した杏澄。
「ワンピースの方かな」
「じゃあこっちにしよ!」
自分が良いと言った方を買ってくるらしい鈴。
杏澄としてはオシャレの“オ”の字も知らない自分にそんなことを聞かないでほしいとも思う。
今日だってとりあえず無難な服を着てきた。
というより杏澄はあまり前衛的に攻めていく感じの服よりも、地味で無難な服の方が好きなのだ。
正解もなければ失敗もないのが良いところである。
服を何着か買ってきた鈴と共に、歩きだす。
「杏澄っていつもオシャレしないわね、あたしが見繕ってあげようか?」
「いや、私はいいや」
どうせ何を着たって似合わないと、杏澄は心の中で笑う。
そもそも鈴たちと違って自分は素材が悪いのだから。
「少しお手洗い行ってくるわね」
「うん、荷物は任せといて」
荷物を持ったまま杏澄はトイレのすぐそばにあるベンチに座る。
鈴が帰ってくるまで携帯端末でもいじっていようと、ポケットの中から携帯端末を出す。
だが、それより前に杏澄の前に誰かが現れる方が先だった。
携帯端末をうつむいて操作していた杏澄が顔を上げる。
「そう、貴女が……」
目の前には夏場にも関わらずコートを着込み、帽子を被り後ろで髪を結んだ少女が立っていた。
なんだか面倒そうな人間に出会ってしまったと思う杏澄だが、目の前の少女はただ杏澄を見ている。
そろそろ鈴が帰ってこないかと思っているがそんな時間は経っていない。
「普通の人間と違う身体をしてるのに、普通を求めるのか?」
「ッ―――!?」
驚愕する杏澄。
目の前の人間は、自分の身体のことを知っている。
確かにこの体が普通ではないのは確かだ。
しかし、それでもなお杏澄は普通で居ようとした。
「無理だよ。貴女には絶対に無理、だって私を犠牲にした上で生きているのだから、絶対に無理」
何を言っているのかまったくわからなかった。
どういう意味で目の前の少女が話をしているのだから、意味がわからない。
杏澄は黙ったままその少女を眺めている。
いや、正確には言葉を出すことができないのだ。
「貴女は真実からずっと目をそらすつもり? 貴女が普通じゃないって真実は変わらない、変えられない。結局は普通じゃないもの、余計なものが付いているのはなんでか、考えもしないでずっとそうやって生きていくの? 無理、絶対に無理、貴女は所詮周りとは違いすぎるもの」
「な、なにが―――」
「なにがわかるか? わかるわ、同じだもの……家族なんて無い。貴女はまったく違うモノなんだから」
杏澄が俯き、その頭の中で何度も反復される言葉の数々。
少女が言ったのは間違いなく自分のこと。
そして自分を知っている少女は……。
「どうしたの杏澄?」
声に顔を上げれば、そこには鈴が居た。
自分より小さな鈴を見てから先ほどの少女を探すため周囲を見回すが誰も居ない。
なんだったのかなんてわからないけれど―――。
先の言葉は杏澄の中に残り続ける。
あとがき
いやはや、今回は最初の件でガチレズセシリア大暴走。
箒もクラスになじめて一安心、と見せかけて杏澄たちは杏澄たちで色々してたりしまする!
とりあえず今回は最後にシリアスな部分を少し。
杏澄のこれからのことが少しづつ明かされることであります。
では、次回もお楽しみいただければまさに僥倖!