インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~ 作:王・オブ・王
どうすれば良いかなんていうのは知らないけれど、一夏に理屈は不要だった。
良く見知った家族のような存在である杏澄を相手に何を言っても無駄だと悟った一夏、なぜ杏澄がああなるのかなんてわからないけれど、とりあえず一夏は自らのすべてを使って杏澄を受け入れるぐらいしかできない。
中学生の頃ならば自分が杏澄と普通に接していればよかった。自分だけが杏澄に距離を取られるのだから問題ないと思っていた。
だが、そうでもない。この学園に来て千冬も自分と同じく距離を取られていたようで、姉は酷く落ち込んでいる。
そして昼、鈴と箒とセシリアの話を聞いてしまった。
彼女たちも自分と杏澄のせいでだいぶ考え込んでしまっているみたいで、鈴は昔からそうだったらしい。
ならそろそろ自分たちでしっかりとケリをつけなければならないだろうと、一夏は結論を出した。
だが小難しいことは一夏にはわからない、なら素直に気持ちをぶつけ合おうと……。
男らしい発想だが杏澄相手には良いだろう。彼女の中身は男に近い部分がある。
思い立ったが吉日、一夏は杏澄と共にアリーナを無断使用し仲直りをして一緒に怒られようと決めた。
「行くぞ杏澄!」
「来んな一夏!」
サイレントビーストが翼を羽撃かせながら空を飛びその手に持ったランスに内蔵されたビームライフルを連射する。
だが一夏とてもうISに乗って一ヶ月以上経っているのだ、乗ってる期間は同じなのだから、あとはお互いのセンスと努力次第でどうにでもなる。
空中でその弾幕を回避しながら、一夏は唯一の武装である雪片二型を振るう。
「お姉ちゃんの武器ッ!」
「そうだよ杏澄、俺たちの姉さんの武器だ。千冬ねぇだって心配してる!」
「ッ!」
杏澄がランスを構えて突っ込んでくる。
翼を羽ばたかせながら飛んでくる杏澄は一夏に接近するとランスで突きを繰り出す。
一撃目を一夏は雪片で軽く逸らすが、杏澄はすぐにランスを引いてもう一度突く。
二撃目は体を後ろにそらして避けると同時に足を使ってサイレントビーストの腕を蹴り上げた。
「このっ!」
腕を蹴られてランスはその手から落ちる。
すぐにサイレントビーストの瞬発力と反応速度を使い白式から距離を取った。
両手にハンドガンを出現させ、連射する杏澄。
「うおっ!?」
そのハンドガンは一夏に直撃、威力は弱くとも数十発の弾丸を身に受けて白式のシールドエネルギーが減少していく。
だが杏澄の優勢もわずかな時間だけであり、一夏はすぐに動きだしハンドガンの射線から逃げて大きく旋回をして杏澄の攻撃を避ける。
苛立つ杏澄を見てから、一夏は笑みを浮かべると体を杏澄に向けた。
瞬間、異常なスピードで旋回直後から自分に接近する一夏。
「ッ!?」
「もらったぜ!」
横から降られる雪片二型を杏澄は受け、そのまま地上に落ちそうになるがそこで耐えて距離を取る。
スピードはサイレントビーストの方が白式よりも上、距離を取るのは容易だった。
だがシールドエネルギーは結構なダメージを受けてしまった。
「なんでこんなことを……」
「簡単だろ杏澄、なんでああなるか理由が知りたいんだよ。今まで聞かなかった俺も悪かったとは思うけど知りたいんだ……」
―――家族だから。
とは言えない一夏は、ともかく理由を聞きたいということを伝えた。
杏澄がなぜ時たま自分と距離を取るのか、こうして千冬が居れば千冬とも距離を取るのか……圧倒的に理由がわからない。
だけれど、杏澄だって自分がなぜこうなのか理由がいまいちわからない。
最初から一夏に八つ当たりのようなことをしている自覚はある。
いつもならば『一夏だし』の一言でどうにでもなることを、こういう気持ちの時はそれすら自分で自分が許せない。
―――相手が一夏だから、当たっても良いの?
答えは否、断じて否だ。一夏だから、と思ってしまう罪悪感から妙に一夏と距離を取る。
だがそれだけじゃない。心の奥底にまた別の思いもあるのだろう。
だけれど今はそんなことを考えている場合じゃない。いや、今の杏澄ではその奥底にあることは考えるだけ無駄だろう。
思いつきすらするはずがない。
「これでどうだ!」
サイレントビーストの手に現れるのはミサイル。
いつも通りのそれを一つ持ってから白式をロックと同時にトリガーを引く。
放たれたミサイルは真っ直ぐに一夏へと飛ぶがそれも無駄だろう。ミサイルなど十分慣れている一夏にとってはそんなものたいしたことは無い。
雪片で軽くミサイルを斬ると、すぐに杏澄へと接近しようと飛ぶ。
「まだまだっ!」
杏澄の両手に再び現れるハンドガン。それを真っ直ぐ飛んでくる一夏に撃つ。
だがさすがにシールドエネルギーもそう使うわけにもいかず一夏はその弾丸を避ける方を優先した。
良く見て避ければ当たる攻撃ではない。
苛立つ杏澄。
「杏澄、お前が俺や千冬ねぇをどう思ってるのかなんて知らないけどなッ、俺たちはお前を家族同然に思ってる。今は居ないおじさんやおばさんだって間違いなくそうだ!」
杏澄にも両親が居た。昔は確かに居て、織斑家とは両親共に良い関係を築いていた。
だが小学三年生の頃その両親も行方不明になり、それから織斑家で引き取られて一緒に暮らすことになり、元々家を開けがちなところがあった杏澄の両親のこともあり織斑家で良く食事やらをしていた杏澄が家に住むと言っても今更という所が無いでも無く、家族となるのはなんの抵抗も無かった。
それは、杏澄にとっても同じである。
「だからどうしたってのさ」
杏澄は移動しながらハンドガンを撃つが、一発も一夏に当たることはない。
ハンドガンを量子化すると次は再びランスを出現させた。ランスを一振りすると杏澄は白式へと飛んでいく。
射撃の腕も高くは無い杏澄にとっては高機動の白式とまともにやりあう方法は少ない。
「白式相手に接近戦か!?」
「昔は圧勝だったんだけどねっ!」
剣道の話だ。
ランスで突きをくりだすが一夏はそれを受け流す。
前と同じような状況になりそうになりながらも、杏澄だって間抜けではない。すぐに左手をランスから離し、空いた片手に銃を出現させた。
その銃を一夏は見たことがない。
「なっ!?」
「一夏は強いけど、白式は強いけど、まるで全然! 私を倒すには程遠いんだよね!」
ずいぶんな大口を叩いた杏澄だが、一夏相手だからこその大口だ。それを自覚無しでやるのだから十分すぎるほど一夏に気を許しているのだろう。
だがそれも今は考えることはしない。徐々にいつも通りになっていく杏澄に喜びすら感じる一夏だが今は戦闘に集中。
杏澄がその手に持つのはデュノア社製のアサルトカノン『ガルム』そのトリガーが引かれると弾丸は白式のシールドエネルギーを削り取っていく。
「ぐあぁっ!」
「あはははっ! 私だってさぁ、やるときゃやるんだよ!」
ダメージを受ける一夏だが、ダメージを耐えながら射撃から高速移動で逃げる。
距離を放されれば今更当たるわけもなく、杏澄はすぐにガルムを量子化させてランスに持ち替えた。
笑う杏澄だったが、すぐに目の前のモニターを見て煩わしそうな表情を浮かべた。
『BEAST SYSTEM』
その文字が表示されているモニターをすぐに消す杏澄。
自分の力でなければ意味はない。これだけわかりやすい決闘の申し出を受けたのだから、さすがにあのシステムに頼るのは自分自身のプライドが許さなかった。
基本、卑怯なことも構わず行う杏澄だが今回だけは違う。
「私が! 自分の力で勝たなきゃっ!」
守られるのは嫌だった。
家族同然の相手であるが、あくまでも同然であって本当の家族では無い。
そんな家族であって家族でない一夏と千冬に“これ以上”守られたくない。
「だからっ、今日は勝つ!」
「俺にだって、負けられない理由がある!」
杏澄のランスと一夏の雪片がぶつかり、つば競り合いとなる。
火花を散らすお互いの武器。
先に動いたのは一夏だった。力が強い一夏がそのランスを弾き、次の攻撃に移るがその斬撃も杏澄がランスで防ぐ。
ランスと雪片がぶつかり、お互いの武器を弾く。だが手から離すことは無くそのまま接近戦。
お互いが再び武器を振るう。
またぶつけ合い。弾きあう。
ぶつかる。弾く。
杏澄の髪も乱れ、隠していた目も隠れなくなっている。
見慣れたそのネコ目、いやオオカミの目と目を合わす一夏。
お互いの瞳には今、お互いが映っている。
「うおぉぉぉっ!」
「うあぁぁぁっ!」
一夏と杏澄の叫び声が響き、お互いの近接武器をぶつけ火花を散らす。
世にも珍しい杏澄の叫び声だが、今聞いているのは一夏ただ一人だ。
やはり一夏と二人というだけで杏澄は自分を曝け出せる。鈴も確かに一夏に次ぐ友達だが、それでも一夏が一番親しいのだ。
限りなく家族に近く、限りなく遠い。
「白式!」
一夏の雪片弐型が零落白夜へと変化する。
直撃コースだが、杏澄とて負けるわけにはいかなかった。
サイレントビーストの右手で持ったランスで零落白夜を防ごうとするが、それと同時に左手を手刀をするようにしてそのまま突く。
左手指先のクローが一夏に突き立つのと、零落白夜が杏澄のランスを切り裂くタイミングはまったく同じだった。
そのクローが白式のシールドエネルギーを削りきれば杏澄の勝ち。
そして削りきれなければ、一夏の勝ちだ。
突き刺さったクローは一夏のシールドエネルギーを奪っていくが―――その速度はわずかに足りない。
サイレントビーストのボディを、零落白夜が切り裂く。
絶対防御により杏澄自身にダメージは無いがシールドエネルギーがゼロになり、そのまま彼女は墜落する。
だが杏澄が地面にたたきつけられる前に白式がサイレントビーストを抱え、ゆっくりと地面に下す。
「……ご苦労さま」
「おう」
ISを解除する杏澄と一夏。
地面に倒れる杏澄はどこにしまっていたのかカチューシャをつけて耳を隠した。
そして一夏とジト、と見てからため息をつく。その意味がわかってか一夏は笑うのだ。
膝をついて倒れている杏澄に拳を向ける一夏に、杏澄は軽く拳を突き出した。
軽く拳をぶつけた二人。
「背負っていってやろうか?」
「……殺されるからいいや」
「誰にだよ!?」
可笑しそうに驚く一夏だが、案外マジだったりするのだ。幼い頃から一緒にいた杏澄にはよくわかっている。
一夏と一緒にいて危険な思いをした回数なら誰にも負けないのが杏澄だった。
結局、自分が不幸な目に合うのだからたまには一夏を振り回すぐらい許されると、杏澄は自分で納得。
「とりあえず、もう少しこうしてるから先に帰ってて」
「おう、またあとでな」
そういうと一夏は背を向けて小走りで寮へと帰っていく。
わざわざ制服からISをまとっただけあり、倒れていると土が制服につくと思った杏澄はすぐに起き上った。
それでも空を見上げれば空一杯に沢山の星が散りばめられている。
「たばねぇは、そこに行きたかったんだよね?」
篠ノ之束の真意はわからない。
ISとはもともと宇宙用のパワードスーツだったらしいが、実際にどう思ってどう作ったかなんてことはわからなかった。
だけれど、少なからず杏澄はそんな束を理解したいと思う数少ない人間の一人だ。
幼い頃からの知り合いということもあって、やはり束が気になったりもする……。
それに今持っているISだってこのIS学園へと来れたこともすべて束のおかげだ。
面白半分で彼女はやったのかもしれない……いや、面白半分でなにか可笑しいことはないのかと思ってやったのだろう。間違いない。
だけれどそのおかげで今自分はここにいるのだ。
「なら、たばねぇに感謝しないとね」
「あいつに感謝したりすると調子に乗るぞ」
「あぁ、わかるわか……る?」
自分の独り言に応対する声が聞こえて振り返ると、そこには黒い髪をした先ほど戦闘した少年の姉。
つまりは自分の姉代わりでもあり今回の件で少しばかり迷惑をかけた相手の一人。
だが、杏澄自身は目の前の織斑千冬という女性は自分が少し対応を変えたからと言って気にする人ではないと……思っているのだ。
なら特に気にすることはないだろうといつも通り。
「どうしたの?」
「先ほどの戦闘……最初よりは上達したな」
素直に妹分を褒められない自分を、千冬は純粋に恨んだ。やはり身内に厳しくしたくはない。
褒められた杏澄は嬉しそうにしている。杏澄の目に映る自分は、少しばかりいぶかしげな顔をしているがやはりこの表情をやめることはできない……素だから。
まぁ杏澄を思いっきり可愛がってやりたい煩悩、改め願望をよそへ放って、今は教師として言わなければならないことがあった。
だからこそ心を鬼にする。
今の自分はいわば泣いた赤鬼だと、自分を激励して言う。
「無くなっていた備品の一つ、ガルムはお前が持って行っていたんだな?」
「……うん」
千冬のげんこつが杏澄の頭部へと急転直下する。
そして鈍い音が響き、杏澄の叫び声が響く。
今回ばかりは走りを免除したが次は無いと、とりあえず反省文を書かせることにした。
一方、先に寮へと帰り食堂にて食事をしている一夏にも思うところはあった。
結局杏澄がなぜああなるのか、何を悩んでいるのかを聞けなかったことだ。だが今はそれで良いと思わないでもない。当初の目的は聞くことだったけれど戦っている内にどうでもよくなったし、杏澄も吹っ切れたようだったから良いのだ。
だからそのことは置いておいてとりあえず食事を続けることとした。
ちなみに食事を続ける一夏の隣には箒と鈴、そして鈴の隣にセシリアであり箒の隣には布仏本音ことのほほんさんが座っている。
その五人が座る席の周囲の席はやはり一年一組の生徒が占領していた。
ふと、何を思ったのか―――いや、なにか答えを出したのか一夏がご飯を飲み込んで言葉を零した。
「そうだ、鬼柳杏澄から織斑杏澄になってもらおう」
「ブフゥゥゥッ!?」
運悪く汁物をすすっていた箒、鈴、セシリア、そして数名の生徒が同時にそれを吹いた。
一夏はそれにも気づかないほど何かを考えているようで自分の周囲で噴出した三人を気にしない。
そして出した結果の経緯としては、ただ単に杏澄を本当の家族にしてあげたいと思っただけなのだ。
ただそれだけ、たったそれだけなのだが……。
結果、地獄を生むことになった。
そして杏澄はまだ知らない、一夏のせいでやはり彼女の青春ラブコメなど無くなることを……。
あとがき
終わった! 第三部完!
まぁともかくこれで杏澄の件は一時終了で、次回からは謎の転校生×2編。
とりあえず杏澄がどう絡むのとかも楽しんでいただいて、それプラス杏澄とその周囲との関係とか……
とりあえず一夏の勘違いさせる言葉の結果とかも!
お楽しみいただければ僥倖!