インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~ 作:王・オブ・王
第十五話『貴公子現るが、影は薄く』
朝、IS学園は相変わらずの騒々しさをしていた。
だが、それでもいつもの騒々しさと少しばかり違う。まぁそれもすべて原因は織斑一夏なわけだ。
いつだってそうだ。この学園での話の元はほとんど織斑一夏。
だが今日は、セットという形で噂の中心には杏澄も一緒になって居た。
理由というのも昨日の一夏の発言だ。
何も考えずにつぶやいた『鬼柳杏澄を織斑杏澄に』という言葉はIS学園の生徒たちが聞けば、いや誰が聞いてもプロポーズやらそこらへんの言葉に聞こえる。
やはり織斑一夏と鬼柳杏澄はどうあってもそういう仲に見られてしまう。
だからこそ、食事をするために食堂へとやってきた一夏と杏澄に全員黙った。だが黙っただけであり、生徒たちの視線はチラチラと杏澄と一夏を気にする。
「一夏に視線が集まってるね」
「珍しい動物を見た感じか?」
「違うと思うけど……」
どうせ一夏のことだからなんか言ったのだろうと、杏澄は自分関係のことだとは思いもせずに食事をとりに行く。
「なんだかあたしたち忘れられてない?」
「もしかしなくても、だな」
「これは良からぬことになってきましたわね」
杏澄と一夏の背後で並んでいる鈴、箒、セシリアが危機感を抱いていた。
やはりこの二人をこのままにしておけば自分たちがまずい。
昨日の一夏の発言もきっとなにかの勘違いなのだろうといつものパターン的には考えている三人だが、なにをどう思って一夏が杏澄の名字を織斑に変えたいのかがわからない。
もしかしたら本当に……、とも思うが真意はやはりわからなかった。
とりあえず席につくいつもの五人。食事を続けていても前までとまったく変わらないでいる杏澄と一夏。
三人は疑問に思うもきっと特になんの進展もなければ変化もないのだろうと安心。
そのほかの生徒はというと、一夏に話しかけることは多いが杏澄のことが良くわからないのでどう変化が無いのかもわからずにいつ一夏をとられるのかとビクビクしている生徒がたくさんだ。
「そういえば弾の家に遊びに行ったんだっけ?」
「ああ、まぁ別に久しぶりってわけでもないけどな。男二人で適当に駄弁ってゲームしておしまいだよ」
「私も行けば良かったかなぁ」
そういう杏澄だがそもそも昨日元通りになったばかりだから誘っても行かなかっただろう。それに杏澄が行くとなれば鈴が付いてきてまたゆっくりはできない。
だからこそ、ゆっくり前までのように遊ぶなら杏澄だけを連れて行くことになる。と一夏は考える。
それでもせっかく鈴が帰ってきたのだから、当分はみんなで遊ぼうと思い、今度はセシリアと箒を連れて行ってもありかと思ったりした。
何かを考え込んでいる一夏を横にいる杏澄は一目見て『またろくなこと考えてないんだろうな』と理解して食事を続けることにする。どうせ一夏の考えていることを実行した暁には修羅場になること間違いなしであり、それで胃を痛めるのは自分と弾。
しかしそれよりも修羅場になった状態で嫌な雰囲気を察知すると一夏は杏澄に話しかけたりする習性があるので修羅場状態に杏澄も巻き込まれるのが一番の胃痛の元である。
「まったく面倒な……」
「ん、どうした杏澄?」
「いや、別に何も」
とりあえず今回余計なことをするつもりなら止めようと、杏澄は深くうなずいた。
「そういや今度の休みに蘭から出かけないか誘われてるんだけど杏澄も」
「いや行かないよ!?」
もう我慢の限界といわんばかりのツッコミにて、その場を収める。
オチもついたし良いだろうと思い食事を食べ終え、杏澄は口元を拭く。
「そういえばもうすぐ学年別トーナメントだけど、みんなはどうするんだ?」
一夏は思い出したかのようにそう言った。
忘れていた杏澄だが、覚えていても大して思うことは無いだろう。
「どうするも何もないでしょ、出るんだからね。悪いけど手加減はしてあげらんないし~」
「その通りですわね、織斑一夏……覚悟なさい!」
「今度こそ一夏をぶっ飛ばさないと満足できねぇぜ」
鈴、セシリア、杏澄の順。
一夏は小首をかしげた。
「なんで目の敵にされてるんだ俺は……」
「自分の胸にな! 聞けよ!」
ミスター鈍感こと一夏の胸を指先でたたきながら言う杏澄。
わけがわからないという様子の一夏にイラッとしながら杏澄はため息をつく。なぜ一夏がモテて自分がモテないのか……理由は女だからという理由の他ならないのだが、とりあえず杏澄はトーナメントでは一夏を一発殴ってやろうと誓う。
箒がなんだか難しそうな顔をするのを、杏澄は少しだけ気になった。
食事を食べ終えた朝、HR前の教室はいつも通りのような、いつもと違うような、そんな騒々しさだ。
食堂でも感じたがさすがにその異変には気付く杏澄。
相変わらず隣の一夏はなにも疑問にも思っていないようだが、ともかく一夏が原因なんだろうと思った杏澄は何度か頷く。
すると突然、杏澄の元へとのほほんさんこと布仏本音がやってきた。
「ねぇねぇあすみん?」
「どうしたの布仏さん」
相変わらず他人行儀な杏澄に少しばかり眉をひそめる本音。
「あすみんはおりむーのこと、好きなの?」
「ぶふぅっ!」
吹き出したのは杏澄とその隣の一夏の二人だが、いたし方ない。
杏澄は、騒ぎの原因はこれかと理解して咳き込みながら首を横に振った。
「あのね、前も言ったと思うけど私と一夏は幼馴染って言うか姉弟みたいに育ったからそんな感情普通抱かないし!」
「でもあすみんとおりむーは“普通”じゃないし、姉弟でもそういうことはあるって」
「うっ! い、一夏ぁ~」
助けを求めるという意味で、一夏の方を見る。
正直、現在の状況を見ても関わらないのが一番良いのだがこのまま放置できるほど一夏は人でなしではないし、むしろ一夏はお人好し側の人間なのだから助けを求める杏澄を放置できるはずもなかった。
だからこそ一夏は『ゴホン』と咳払いを一つして本音の方に体と顔を向ける。
「あのさのほほんさん、俺と杏澄は本当に“兄妹”同然なんだよ」
「ほら、一夏もこう言ってるし、私たちは“姉弟”みたいなもんなんだよ!」
二人して畳み掛けるが、本音は頷くだけだ。
杏澄はこれで良いかと一安心しようとしたがもう遅い。一夏は止まらなった。
「一緒に住んでたぐらいだし!」
「!?」
杏澄含めてクラス中の生徒たちが一夏の方を見る。
「どどど、どういうことだ一夏!?」
「わけがわかりませんわよ杏澄さん!?」
箒とセシリアが二人に詰め寄る。
恨めしそうに一夏を見る杏澄。目の見えない杏澄からのそんな気配を察っする一夏。
「あれ、鈴が言ってなかったっけ?」
「言ってないよ」
「……すまん」
さすがに大騒ぎを起こしたということを理解しているのか謝る一夏。
「でも、特になんも無かったぜ?」
「そういう問題じゃないんじゃないかな~おりむ~」
布仏本音がそう呟くが、一夏の方はどこがダメがいまいちわかっていない。
だって本当に何も無かったんだから……。
驚くほどラッキースケベなど無く、驚くほどなんのフラグも建たなかった。
だが本音が言うように一夏が口で『なにも無かった』と言うから良いという問題ではない。
「騒がしいな」
そう言って入ってきた織斑千冬。
いつも時間ギリギリ、否、時間丁度に来る千冬にしては珍しく生徒全員が今すぐ席に着いた方が良いか悩むが千冬は何も言わないのでその場に留まり一夏と杏澄の方を見る。
一夏がサラッと言ったということは事実なのだろうと信じる生徒たち。
そこでとうとう、杏澄が千冬に打ち明ける。
「その、織斑先生……一夏と私が一緒に暮らしてたって」
「なるほど、ちなみに私も一緒に暮らしていたが……なにかあると思うか?」
クラスの生徒たちを見てそういう千冬に、クラスメイトたちは『あるわけがない』と確信した。
実際なにも無かったというのは鈴が証明できるだろう。
最後に一夏と杏澄の関係を見ていたのは鈴なのだから……。
その時、チャイムが鳴るおおよそ二分前だと気づき生徒たちは全員席に着く。
セシリアと箒もどこか腑に落ちないという表情で席へと戻っていった。
そして、大慌てで教室へと入ってくる山田真耶は千冬がいたことに驚く。
「な、なんで織斑先生」
「山田君、君は私がそんなに時間にルーズだと思うかね?」
「い、いえ!」
「ルーズというよりギリギリ……このままじゃ婚期もギリギリに、ひぎぃっ!?」
つぶやく杏澄。それが聞こえていた故に
地面に顔を突っ伏して頭を押さえる杏澄。
千冬としても杏澄が元気になったのはうれしいがさすがに今の一言は許すに値しない。結構傷ついた。
まぁなにはともあれと思い、真耶の方を見る千冬。
頷いた真耶は笑顔でドアの方を見る。
「今日はなんと、転校生です!」
ドアから入ってきたその“少年”は入ってくるなり教卓の前に立った。
杏澄も一夏も箒もセシリアも、クラスメイトたちですらも唖然としてしまう。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました」
「お……とこ?」
つぶやいた杏澄。
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を―――」
瞬間、黄色い悲鳴がクラスに響き渡る。
やはりIS学園の生徒というのはそういうものであり、杏澄はガッカリしていた。
顔立ちは確かに女顔と言えるし、体も華奢だが、そんなものはどうでも良い。
女でないのならば杏澄にとって意味は無し。
「騒ぐな、静かにしろ!」
千冬の一括ですぐさま静かになる。
結局、HRが終わったら大騒ぎになること間違いなしなのだからと思いながら他のことを考えようとした。
問題としては一夏争奪戦分裂危機であり、ただでさえ女子生徒と話す機会があまりない杏澄にとっては一夏のまわりから女子生徒が少しでも離れるのは勘弁願いたい。
「おい杏澄、着替え始まるぞ」
一夏の声にハッとした杏澄は一夏と一夏に手を握られたシャルル・デュノアと共に教室から脱出した。
転がり出て荷物片手に杏澄は肩で息をしており、同じ女子なのにわけがわからない。
「な、なんで同じ女子なのに僕たちと一緒に?」
「色々あるんだよ、とりあえずあっちだ!」
追手から逃げる一夏と逃走の意味がわかっていないシャルルの二人。
杏澄は軽く頭を振ってからトイレに急ぐとした。ただ単純に脱ぐだけだが一組のクラスメイトたちの着替えを見て単純に理性が持つ気がしないのだ。
だがそんなことを知っているクラスメイトたちも居ない。
杏澄が女相手に劣情を抱くと知っているのは一夏と弾ぐらいのものだろう。
なにはともあれ、グラウンドに急がなければならないのだった。
グラウンドに集合する一組と二組。
前に立ったジャージ姿の千冬に全員が気を引き締めた。
「本日から実習をはじめてもらう。鳳、オルコット」
名を呼ばれた二人が返事をする。
ともかく杏澄は自分が呼ばれなくて良かったと安心だ。
心の中で『相変わらず色気がないジャージ姿』と思ったせいでつるし上げられるかと思った。
「二人とも面倒そうだなぁ」
隣にいた一夏が言う。
「まぁ見世物みたいで嫌なんだろうね」
杏澄がそれに返した。
そして周囲を見れば、おそらく自分が浮いていると自覚する。
今までは一夏と自分の二人だけが違うISスーツだったが一夏とほぼ同じ型のISスーツをシャルルが着ているせいで今は特別なISスーツを着ているのは自分だけだ。
まぁ特別と言っても二人との違いは肩が出ていることぐらいだが……。
そこまで考えてハッと我に返った瞬間にはもう遅かった。
ISを纏った山田真耶が自分の方に向かって飛んできている。
「うおぉぉぉぉっ!?」
隣で叫んでいる一夏。
その間に逃げろよと思うがもう遅い。
衝撃と共に吹き飛ばされる杏澄が地面を転がったが、見事に怪我は無かった。
起き上ってすぐそばのクレーターを見ると、殺意が沸いた。
「い、一夏ぁっ!!」
柄にもなく叫んだ杏澄の視線の先には、なぜだか真耶を押し倒す形で胸を掴んでいる一夏。
やまや大好きな杏澄にとってはそれは万死に値する。しかも真耶が顔を赤らめてしまっているあたり、一夏への怒りは燃え滾るばかり。
それとは反対に鈴とセシリアはそのまま真耶とくっついてしまえばいいのにとすら思う。
すぐさま杏澄はサイレントビーストの腕を部分展開。ちなみに彼女が初めて部分展開をすることができた瞬間だ。
部分展開した腕にハンドガンを出現させて一夏に銃口を向ける。
立ち上がる一夏は必至で首を振った。
「ま、まて杏澄ぃっ!」
瞬間、杏澄の手にあるハンドガンが弾き飛ばされる。
そのハンドガンを弾き飛ばした弾丸が飛んできた方は、一夏の隣。
つまり、山田真耶だった。
ライフルをかついで立ち上がる真耶が杏澄のそばまで歩くとISの腕部分を量子化する。
「もう、鬼柳さん、ISの武器を人に向けちゃいけませんよ?」
コツン、と頭を叩かれた杏澄。
「……でへへ、ごめんなさい」
口元をゆるめてそういう杏澄に、ため息をつく一夏。
そしてセシリアと鈴の方を向けばそちらには嫉妬の化物が居た。
ハイライトの無い目で杏澄と真耶の方を向く二人は今にも武器を振るいかねない。
ダメな方向に成長していく生徒たちとダメな方向に成長してしまった自分の妹分を見て嘆きたくなる千冬だったが、ここで少し落ち着く。
とりあえず杏澄に助け舟を出すことにした。
「お前たち、少し山田先生と戦ってみろ」
そんな言葉に、一同が千冬の方を見た。
「え、二人で、ですか?」
「大丈夫なんですの?」
「ふん、山田先生は元代表候補性だ……今のお前たちならすぐ負ける」
そういう千冬に少し表情を強張らせるセシリアと鈴の二人。
あの二人が同時に負ける姿など同士討ち以外思いも浮かばない杏澄は、あまり頼りにならなさそうな真耶の方を見る。
まだ自分の方が強いんじゃなかろうかと思った。
「では―――始め!」
千冬の合図と共に飛び上がった三機のIS。
いつでも落ちてきた真耶を回収できるようにと、好感度アップのために準備する杏澄。
そしてこの戦いは思いもよらない結果を及ぼすのだ。
あとがき
杏澄のテンションがだんだんと冒頭のような感じに戻ってきた? 感じです。
一夏と杏澄、疑われない時期が無いぐらいの勢いですが、まぁ二人がどうなるかはまだおたのしみと。
シャルロットも出てきたので次回はしっかり話をさせたい!
次回もお楽しみいただければまさに僥倖!