インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~   作:王・オブ・王

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第十六話『敵は増える一方で…』

 山田真耶の操縦技術というのは、すさまじいものだった。

 セシリアの移動先を先読みして撃ちながら、鈴も牽制し、さらに二人がぶつかりあうようにしむけて簡単に倒してしまった。あの二人でかかって負けたのだから杏澄は自分など瞬殺だろうと理解した。もちろん一夏も、であるけれどどうにも一夏には負けたくないので一夏よりは生き残れると心の中で思うことにした。

 

 そしてセシリアと鈴、それから山田真耶の模擬戦は終了し、専用機持ち各自が生徒たちにISの教習をすることになったのだが杏澄としては納得いかない、いや納得うんぬんの問題ではなく、杏澄には同い年のクラスメイトたちにISのことを教えられる自信が無いのだ。まぁそれでも抗議しないのはこれが義務だとわかっているからだろう。

 ため息をついて、杏澄は渋々量産型IS『打鉄』の前に立つ。

 

「あすみ~ん」

 

 最初に杏澄に教えを乞うのは布仏本音だった。これは予想通りである杏澄、次に鷹月静寐がやってきて更に生徒が何人かである。

 視線を動かして一夏とシャルルの方を見れば、当然の如く生徒たちが渋滞を起こしていて千冬は今にも『出席番号順にする』と言いかねない表情だ。正直なところ杏澄にはどうでも良いのだが、とりあえず千冬に視線を向けたままにしてみると、一分もしない内に千冬は杏澄の視線に気づき、ため息をついて杏澄の元へとやってくる。

 

「どうした?」

「いや、あの……どうすれば」

「とりあえず、順番にISに乗って歩行練習を……お前はそれを見てやれば良い」

 

 なるほど、と頷く杏澄。

 

 そんな杏澄を見て千冬は杏澄から離れて全員を見渡せるようにする。相変わらず一夏とシャルルに沢山の生徒が集まっているがISに乗るのに時間がかかると踏んで他の者たちに教えてもらいに行く者たちがいないでもないのでバランスが悪くなることはないだろう。だがそれにしても、杏澄の場所に並ぶ人数が明らかに少ない。

 

「……仕方ない、か」

 

 呟く千冬。確かに休み時間に出ていく時や校舎内などで杏澄を見かけるときがあるがその時は基本的に一夏か箒かセシリアか鈴と一緒にいるか、一人。そもそも杏澄は一夏を通して友達を作っていただけに自分一人で友達を作るということができない。一応セシリアや鈴や箒などの一夏以外の友達もいるがそれ以外の生徒とはまともに話ていないように見えた。だからこそ生徒たちも杏澄にどう接していいかわからないのだろう。

 

 ―――典型的な一人ぼっちだな。

 

「はくしゅっ」

「あすみん、風邪?」

「あ、なんでもないよ」

 

 そう言って、杏澄はISにてあるく本音を見る。

 

「止まろうか」

「うん」

 

 案外、簡単に止まる本音。杏澄が頷くと、本音はいつも通りののほほんとした様子のまま『高いね~』と言ってから飛び降りた。そこで杏澄が気づいた時にはもう遅く、一夏の方もクラスメイトの相川清香がISから飛び降りてしまった故に次の箒をお姫様抱っこで運ぶことになっていた。それを見た杏澄は冷や汗をかきながらISと次の鷹月静寐を交互に見る。

 そこで再びやってきた千冬。

 

「鬼柳、鷹月を抱えてISに乗せてやれ」

 

 そう、言うだけ言って去っていく千冬を内心呪いながら、杏澄は鷹月静寐の方を見る。今から抱えるその少女を足元から頭の上までしっかり見てから危機感を感じて、聞くこととする。

 

「か、抱えることに、なるけど……大丈夫?」

「うん、平気だよ」

 

 笑顔でそう言う鷹月静寐に頷いた杏澄はISを纏うと、お姫様抱っこは不味いかもしれないと思った杏澄は鷹月静寐の両脇に腕を入れて持ち上げることとした。赤ちゃんにやったりする“高い高い”と同じ感じだが、それを察したのか静寐は腕を杏澄の首に回す。―――それがいけなかった。

 静寐の胸が杏澄の胸にむぎゅ、とくっつく。それだけで杏澄の理性が吹き飛ぶ寸前である。

 

「ぬぐぅっ!」

「えっ、大丈夫?」

「あ、うん」

 

 杏澄は静寐と密着状態のまま、そっと飛び上がるとそのまま静寐に打鉄を装着させた。首の後ろに回された手が緩むのを感じると杏澄はそっと離れる。あまりにも杏澄には毒と言えた密着状態であり、杏澄の計画では静寐を高く持ち上げてそのままISへと運ぶ予定だった。だが現実はそうもいかずに抱きつく形になってしまい、それ故に胸同士でおしくらまんじゅう状態、挙句に鷹月静寐の顔が目の前。

 杏澄は一人で気まずい気分になりながら、静寐の方を向く。

 

「とりあえず、布仏さんと同じ感じで歩いてもらえる?」

「えっと、こうかな?」

 

 順調に歩き出す静寐。杏澄の元に集まった生徒は本音と静寐を合わせれば五人であり、そのまま順調に進めば二順目もいけるだろうと頭の中で残り時間を計算してみる。少ないだけ悠々と時間は使えると寂しくなりながら思った。さすがにここまで集まりが悪ければそうも思うだろう。

 

 そこで杏澄は我に帰ってしっかりと静寐の歩行を見る。

 

「どうかな?」

「上手だね」

 

 いまいち気の利いた返事もできずにそれにて会話終了。静寐の交代ではしっかりとISの腰を下ろしてなのでそれから先はただ杏澄は見てなにを言うでもなく進んでいく。これからもこうであれば何も言うこともないのだが、少し気になることと言えば自分に教えを乞うた五人がすぐに仲良くなったことだ。どうにも杏澄はその輪の中に入ることもできずに……。

 

 

 

 午前中の合同実習でうまく他の生徒たちと付き合えればもう少し杏澄の予定も変わるのだろうけれど、結局杏澄は一夏たちと一緒であり、今回も一夏に連れられて屋上にて昼食を取る。おかげで一人で昼食というルートに入らずに済むので感謝しているのだが、今回は一人で昼食でも構わなかったなと、思わされた。

 屋上にて杏澄、シャルル、箒、鈴、セシリア、一夏の計六人が腰を下ろして円の形になるように座っている。篠ノ之箒がやけに不機嫌そうな顔をしているのに気づいた杏澄が一夏に見えないように両手を合わせて謝るジェスチャーをするが、箒は『気にするな、悪いのは全部一夏だ』という顔をした。

 

「えぇと、本当にボクが同席して良かったのかな?」

「いやいや、男子同士仲良くしようぜ、今日から部屋も同じなんだし!」

「ありがとう、一夏って優しいね」

 

 笑顔でそういう一夏にシャルルが笑顔を見せた。杏澄の角度からシャルルの顔は見えなかったが、一夏の顔が赤くなったのが確認できたので内心『目覚めたか?』なんてことを思ったりもする。しかし実際に目覚めたとあれば、その後の周囲の少女たちを考えるとゾッとする。

 

「なぁに照れてんのよ、あんたぁ」

「べ、別に照れてねぇぞ」

 

 鈴の指摘が図星なのだろう、明らかな動揺を見せる一夏。まぁ鈴にとって一夏が“男好き”でもどうでも良い鈴だが幼馴染にソッチの趣味があれば五反田弾にも色々と伝えておく必要が出てくる。怪訝な顔をしながらも、鈴は自ら持ってきた弁当を開く。

 

「おぉ、酢豚だ!」

「あ、ホントだ」

 

 久しぶりに見た鈴の酢豚に、一夏と杏澄は声を上げる。前に食べた時と比べるとあまりにも出来が違うと見かけでわかり、喉が鳴った。

 

「前に食べたいってあんたたち言ってたでしょ?」

「さすが鈴!」

「あんたと違ってした約束は覚えてんのよ」

 

 うっ、と痛いところを突かれる杏澄だが、鈴はその言葉にそこまで恨みを持っているわけでもなく笑う。杏澄自身としてはした約束というのを教えてほしいのだが、鈴はそれだけは教えてくれないわけであり少しばかり歯がゆい思いをしたりもしている。

 

「オホン!」

 

 そんな時、セシリアが咳払いをしてバスケットを開く。

 

「私もたまたま朝早く起きたのでお弁当を買ってきましたの!」

 

 バスケットの中にはサンドウィッチが沢山並んでいた。だが杏澄は獣的な直感でその料理がとんでもないことに気づく、すさまじく綺麗な見た目はまるで薔薇であり必ず棘があると本能で勘づく。だからこそ一夏に同情したのだが誰も動くころは無い。一夏を見れば一夏は自分を見ていた。

 

「ん?」

「お召し上がりになって、杏澄さん!」

 

 ここに来て自分である。

 

「い、一夏は?」

「なんで織斑一夏の名前が出てくるんですの?」

 

 少しばかり不愉快そうな顔をするセシリアだが、すぐに杏澄は『ごめん』と謝る。

 

「わ、私のために?」

「イギリスにもおいしいご飯があると教えて差し上げますわ! それに今は(まだ)友達の杏澄さんのためにと思いまして……」

「……今は(もう)友達だもんね、ありがとう」

 

 友達が少ない杏澄にとっては非常にうれしい言葉であり、それだけで舞い上がってしまった杏澄は本能的危機なぞどこへやら、セシリアのバスケットの中のサンドウィッチを一つ取る。

 

「いただきます」

「召し上がれ♪」

 

 そして一口……杏澄の顔が一瞬で真っ青になる。いや、顔半分は見えないのでそこの部分がどうなっているかはわからないが、真っ青なのだろうとセシリア以外の面々は予想した。だが信じられず、セシリアの料理の見た目は完璧と言っても過言ではないその料理でなぜ顔を真っ青にするのか……。

 それは、食べた者にしかわからないのだろう。だが顔を青くしている杏澄を心配して、シャルルは声をかけた。

 

「大丈夫?」

「う、うん、おいしい!」

 

 友達の手料理なのだから、と思い一口で飲み込んだ。不思議な味以外の表現方法は思い浮かばない。

 

「つ、次は箒ちゃんのだね!」

 

 順番通りなので杏澄はそう言って自分の立場から逃げる。

 

「私のはこれだ」

 

 開けられた弁当は日本の弁当と言うに相応しい。それに感動し、感嘆の声を上げる一夏と杏澄。どれも手の込んでそうな料理ばかりだと褒める一夏に、頬を赤らめる箒。

 これは自分が食べていい料理ではないと、杏澄は理解して他の方を見る。

 

「鬼柳さんはお弁当作ってないの?」

「え、あ、うん、料理って苦手で」

 

 幼い頃から一緒にいる一夏はともかく、美少年から声をかけられるなんてことは今まで無かった故に緊張しながら答える杏澄。できるだけ話題を殺さないようにと返事以外にも料理が苦手ということを言う。

 

「へぇ、家庭的に見えるけどなぁ」

「あ、ありがとう……」

 

 屈託ない笑顔でそう言うシャルルに、少しばかり照れながらもそう言う杏澄。そしてその光景を見る鈴とセシリアは二人してギリギリと爪を噛む。そんな時に一夏が杏澄に声をかける。

 

「ほら杏澄、お前も箒のからあげ食べてみろよ」

「え、良いの?」

「ダメなわけないだろう、ほら食べろ」

 

 箒とは一夏ほどではないにしろ、仲の良い幼馴染であった。確かに箒は一夏のことが好きで彼にばかりアプローチしているが箒にとっては大事な幼馴染であり、この学園では一夏の次に良く見知った友達だ。少しばかり杏澄自身が距離を感じているが、箒にとってはあまり関係無い。

 同じ女性だからということで箒は自分の箸でからあげを取ると、手を添えて杏澄の口の前へと持っていく。

 

「ほら」

「あ、えっと……あむっ」

 

 箒にからあげをもらうと、口に広がる味に感動した。その前にセシリアのサンドウィッチを食べたということを抜きにしてもおいしく杏澄好みの味であり、杏澄好みの味ということは一夏好みの味でもあるということだった。一緒に暮らしていたのだから味覚は似る。

 

「おいしいっ!」

「そうか、杏澄の口にもあったみたいで安心したよ」

 

 笑う箒に、若干ながらもときめきかける杏澄は首を振って雑念をかき消した。その後、シャルルの提案により全員でおかず交換をすることになり杏澄に詰め寄る鈴とセシリア。

 

「さぁ杏澄、なら酢豚食べなさい酢豚!」

「みなさん私のサンドウィッチもお召し上がりになって? さぁ、杏澄さんはこちらをどうぞ!」

「あ、えっと……じゅ、順番にね?」

 

 それだけ答えると、杏澄は『モテ期到来!?』などと自問自答してみるが結局答えは“気のせい”ということになった。鈴は幼馴染のよしみで一夏に食べさせるついでで食べさせてもらっただけ、そしてセシリアは皆にくばっていたし皆で顔を真っ青にしたし特別ではない。やはりどうにもフラグが立たないと杏澄は悩んだ。

 

 そして悩んだ結果―――。

 

 

 

「ふぅ、良いルートだった」

 

 放課後から寮の部屋で一人篭り恋愛ゲームを終わらせた。箱には18というシールが貼ってあるがまぁ気にすることではないだろう。ともかく、杏澄はしていたイヤホンを外して背中を伸ばして椅子から立ち上がると時間を確認する。すでに時刻は6時でありそろそろ訓練をしている一夏たちも帰ってくるだろうと、先に食堂に向かうことにした。

 

 そして、食堂へと赴けば時間が時間ということもあり生徒たちが多く座る場所の確保に困る。やはり一人で来るのは失敗したかと思いながら周囲を見渡すと見慣れない顔の“少年”が手を振っていた。その少年はもちろん注目を集めているシャルルであり、そんな女子生徒たちから熱い視線を受けているシャルルから手を振られた杏澄も注目を集めた。

 

「鬼柳さん~」

 

 名指しにされればさすがに気づかないふりもできずに、杏澄はシャルルの座っている丸テーブルのソファに座る。

 

「あ、ありがと」

「気にしないで、もっとこっちおいでよ」

「うん」

 

 シャルルの真横に座る杏澄。なぜシャルルが丸テーブルを使っているのに誰も来ないのか、間違いなく生徒たちが牽制しあっていたからだ。にも関わらず自分の意志に反して現状に一石を投じてしまった杏澄に冷たい視線が炸裂。だがシャルルに悪意は無いのだから仕方がない。

 

「一夏たちはどうしてるのかな?」

「いつも放課後は訓練してるから、もう少ししたら来るんじゃない、かな?」

「そっか、鬼柳さんは?」

「今日はちょっと、そんな気分じゃなくて」

 

 あまり慣れていない人物、しかも美少年との会話ということもあって少しぎこちなくなる杏澄。

 

「へぇ、鬼柳さんも確か専用機持ちなんだよね?」

「あ、うん。サイレントビースト」

「カッコいい名前だね」

「あ、ありがとう……」

 

 篠ノ之束が考えた名前だが、それでも自分の機体なのだし褒められるのは純粋にうれしかった。だが同時に気恥ずかしくもあり食事のスピードを速める。一夏が来るまで待とうと思ったがそれもやめて早く二人きりという状況から離れたかったからであり、その理由はと言えば一年生から三年生まで、生徒たちからの視線だ。

 

「一夏から鬼柳さんとは幼馴染だって聞いたんだけどさ、一夏のこと、もっと聞かせてよ」

 

 そういうシャルルに、箸を止める杏澄。そして杏澄は口の中の食べ物を飲み込んでから小声で聞く。

 

「もしかして、ホモ?」

 

 聞いた理由は単純に一夏を心配したのだ。もしそうならば一夏のことをそうやすやすと話すわけにはいかない、箒に『幼馴染はホモルート一直線でした』なんてとてもじゃないが話すことはできない。一夏ホモ疑惑が昼休みに発生した以上いけない。

 だが杏澄は思う、尻だけなら好きになる気持ちがわからないでもないと……。

 

「……ぷっ、アハハハハッ!」

 

 突然笑いだしたシャルル。

 

「面白いね、鬼柳さんって」

「ど、どうも」

「僕はただ、同じ男同士だし仲良くなりたいなって思っただけだよ」

 

 その顔に嘘偽りはないように、杏澄は思えた。だから杏澄は軽く頷く。

 

「そっか、失礼なこと聞いてごめんねデュノア君、教えられることなら教える」

「うん、大丈夫だよ。鬼柳さん、杏澄って呼んでも良いかな?」

 

 突然の申し出に別に断る理由が無いので頷くが、周囲からの視線がきつくなったことに気づくまでに時間はかからなかった。妙に貧乏くじばかりを引くと思う杏澄だが、周囲の人間からしたらうらやましくて仕方がないのだろう。女好きの杏澄からしたら誤解も良いところなのだが、周囲に自分が女好きだとも公言できない。

 出そうになる溜息を押し込んで今はシャルルとの話の方に意識を戻した。

 

「うん」

「ありがとう、僕のこともシャルルで良いからね」

「……うん」

 

 とりあえず、今は素直に友達が増えたことを喜ぶことにした。

 それから杏澄はシャルルと話をしながら食事を終えて先に居たシャルルより早く自室へと帰った。とりあえず杏澄の当面の目的としてはISにて一夏を倒せるようになること、今日決めた。訓練を一日サボってしまったが明日から頑張ろうと一度頷く。

 

 なんとなくだが、杏澄は“明日”という言葉に嫌な感覚を覚えた。

 嫌な勘というのは当たるものだと少しばかり怪訝な顔をして、杏澄はシャワールームへと向かう。

 結局、その日はそれ以降誰とも会うことなく静かに眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

はい、シャルルをようやく絡ませられました。
ちなみにネタバレになるとは思うのですが、シャルにはしっかり一夏の方を好きになってもらいます。ちなみにラウラも同様!
そしてアニメのようにラウラの転入を一日遅らせた理由は、別々で出さなければ主人公と絡ませるのが難しいと思ったから、という理由でした。

では、次回もお楽しみいただければまさに僥倖!
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