インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~   作:王・オブ・王

20 / 37
第十八話『マグロ食ってるやつ』

 昨夜の記憶が曖昧だった。いや昨晩は憶えていたはずのことなのだが、気絶する前に何かがあったはずなのだが……曖昧になっている。

 今日も今日とて一夏に起こされ、朝食を済まして杏澄は校舎へと向かっていた。もちろん一夏とシャルルも一緒であり、相変わらず一部の生徒には目の敵のようにされているが中学時代もこんなことがあったのを思い出す。問題としてはラウラ・ボーデヴィッヒで、なぜあそこまで目の敵にされているかわからない。

 歩いている中、杏澄が思い出したかのように一夏の方を向く。

 

「ねぇ、昨日のことなんだけど」

「あぁ~お前がお茶こぼした後こけて頭ぶつけて気を失ったことだろ?」

「……ん?」

「部屋に入ったら杏澄が倒れてるからびっくりしたよ~」

 

 言われてみればそんなんだったでも無い気がしてきたが、本当にそうだっただろうか? しかし考えても考えても答えが出ることは無いのでそういうことにしておいた。とりあえず昨日のは間違い、だが一夏がホモをこじらせたことは覚えているのでシャルルが心配だ。隣のシャルルを見れば、自分と一夏よりずいぶん背が低いなと思う。それに華奢だ。

 

「……なんか思い出しそうだった」

「まぁまぁ! 早く行こうよ!」

「あ、うん……」

 

 なんでそんなにシャルルが焦っているのかはわからないが、とりあえず少し急ぎ足でクラスへと向かうのだった。

 

 教室に着くとざわざわとしていて、女子生徒は一夏を見ると同時に散る。また何かやらかしたのだろうと思いながらHRを終えて一限目を終えると箒が杏澄の腕を掴んだ。久々の箒からのボディタッチに少しばかり驚くも、それも束の間。

 

「杏澄、少し付き合ってくれ」

「え、うん」

 

 箒に腕を掴まれたまま、杏澄は屋上へと連れて行かれる。

 

「昨日一夏に、学年別トーナメントで優勝したら付き合ってもらえるように言って、了承を得たんだ」

「えっ、やったじゃん箒ちゃん!」

「ああ、だが……」

 

 なぜかここで嫌な予感がした。多分ろくなことになっていないようなイメージであり、たとえば一夏が間違えて解釈していて買い物に付き合うとか言い出したとか、他にも箒と同じようなことをやった生徒がいるとか、あと一つは……。

 

「なぜか学年でその噂が回って優勝したら誰でも一夏と付き合えることに」

「やっぱり」

 

 そんなことだろうと思ったが、さすがに箒が気の毒すぎる。だが一夏が知らないのであれば問題ないのではないかと思ったのだが、箒曰く女子生徒中に浸透したその噂により優勝した生徒が一夏にアタックをかけても邪魔してはならないなどのルールすら出来上がる始末。

 これで名前も知らない生徒が一夏と付き合ってしまえば箒があまりに気の毒だ。

 

「わかった。今日から猛訓練だよ箒ちゃん!」

「つ、付き合ってくれるのか!?」

「付き合うのは一夏でしょ、でも……うん、一人ぼっちはさみしいもんね」

「あ、杏澄! お前のような友人を持てて私はうれしいぞ!」

 

 杏澄と箒は屋上で熱い血潮と魂を燃え上がらせながら二人で握手する。珍しくやる気をだした杏澄だが、こんな面倒なことに関わる根本的理由としては“一夏と自分がなにも無いことをアピール”することであり、これで上級生や同学年の生徒たちの注目を拡散させることだ。

 

「だが、私が優勝できなかったときはお前が優勝して、すべて無かったことにしてくれ」

「もちろん!」

 

 ここに同盟成立であり、誰も呼ぶことは無いだろうが名付けるならば牛乳(うしぢち)同盟と言ったところだろう。裏切りは決して無く安心して背中を任せられる信頼に長けた幼馴染。お互いがその認識であるからこそ成立した牛乳(うしぢち)同盟であり、目的である“箒を優勝させ一夏と付き合わせる”または“優勝して一夏と付き合える権利の放棄”は学園内でも協力する者は数少ない。

 だからこそ、牛乳同盟は強い絆を獲れたのだ。

 

 それから、その日はず箒と一緒に居た杏澄。積もり積もる話もあったが、今しなくてはならないのは昔の話じゃなくこれからの話であり、お互いがISでの効率のいい戦闘や接近戦の仕方、射撃武器の回避の仕方などをおさらいと同時に習得していくのだった。

 放課後の練習もアリーナに二人で急いで行き、二人でISを纏う。

 

「さて、杏澄はまずISの武装の扱い方を覚えなければだな」

「でも箒ちゃん、射撃武器は使わないからわかんないよね?」

「ああ、だがお前の近接武器である槍の使い方なら教えてやれる。ようは突きだからな」

 

 少し違う気がしないでもないが、役に立たないことはないだろうと思い、杏澄は頷いて箒から近接武器の扱い方というものを学ぶことにした。

 一番最初に来るかと思っていたセシリアと鈴は居ないようだ。

 

「(一夏と付き合えるってこと知らないのかな?)」

 

 それはそれで箒を優勝させるのが楽になるので問題は無し。そう思いながらとりあえず模擬選をするために箒と距離を取って、武装であるランスを構えた。瞬間―――箒と杏澄の間を弾丸が奔る。いや、その大きさで言えば砲弾と言った方が正しいかもしれない。ともかく、二人の間に何者かの攻撃が通ったのだ。

 

「……ラウラ・ボーデヴィッヒか、なんの真似だ!」

 

 箒が刀の切っ先をラウラに向けて言う。

 

「ふん、貴様には用は無い……」

 

 睨みつけられる杏澄は、苦笑しながらラウラの方に体を向ける。

 

「あ、あのさ、えっと……わ、私なんで恨まれてるのか教えてくれないかな?」

 

 そう聞いた杏澄だが、ラウラは眼を細めて睨むのみ。

 

「悪いところがあるなら謝るから、ね?」

「貴様っ……貴様のような奴が、教官のッ!!」

 

 その瞳には怒りを超えて殺意の念すら感じ、向けられる感情を察知した杏澄はビクッと体を震わせて身を縮める。そんな杏澄の前に箒が守るように立った。

 

「一般人に守られるとはな、専用機持ちの恥さらしめ。それとも、貴様の周囲の専用機持ちは全員腰抜けか?」

 

 そんな言葉に箒は刀をラウラに向けて飛ぶ。杏澄が止める暇などなく、箒が刀を振るい、ラウラはプラズマブレードにてその攻撃を受け止めた。杏澄としては攻撃するべきかどうか悩み、本当は自分が悪かったとしたらと思い焦る。

 箒が怒る理由もわかる。杏澄も自分の周囲の人間をそういわれて苛立ちを覚えたのも確かだ。

 だけれど、他人のために苛立つ感情も怒りの感情もあったにも関わらず、杏澄は動けなかった。

 

「専用機も持っていない雑兵が、私に刃を向けるか!」

「この場に居ない者を侮辱した挙句、私の友達に刃を向けるお前を放置しておけるか!」

「……これは、ここで言う正当防衛という奴だな?」

 

 瞬間、ラウラは打鉄、しいては箒を蹴りあげてから拳で何度か攻撃をして吹き飛ばす。専用機と量産機の馬力の違い故か、さすがに力負けした箒はそのまま吹き飛んで杏澄の横にまで転がる。焦る杏澄は、動くか動くまいかを迷いながら箒に駆け寄る。

 

「ほ、箒ちゃん!」

「くっ、情けない!」

 

 自分に悪態をつく箒だが、杏澄は自分に言われたかのようにも感じ、ドキリとした。

 仕方ない、だって自分は弱いんだから。仕方ない、だって自分は初心者なのだから。仕方ない、だって自分はISを乗り始めて僅かなのだから……なら、一夏はどうなのか?

 考えても答えは出なかった、立ち上がった箒に巨大な砲口を向けるラウラ。ここでようやく、杏澄は動きだしランスをその手に出現させると同時にライフルに内蔵されているビームマシンガンを撃つ。

 

「ホルスタインが、農場にでも行っていろ」

「気にしてること言わないでよっ……」

 

 連続で打ち続けるが、粒子ビームすべてがラウラの前で止まる。手をかざしてビームを止めるラウラを見て、杏澄はすぐに武器をハンドガン二挺に切り替えて連射した。だがそれらもまるで意味をなさず同じくラウラの前で止まる。

 

「マトリックスかっての」

「焼き加減を決めさせてはやれんぞ乳牛めが」

「このッ!?」

 

 ラウラが手をかざすのをやめると粒子ビームも消失し弾丸も勢いを無くして地に落ちていく、砲口を向けられる杏澄だがもう遅い。回避も間に合うわけもなく動こうにも背後に箒が居る。一夏が叫ぶ声が聞こえて観客席の方に目を向けるといつの間にやら生徒たちが集まっていた。だがゆっくりしているわけにもいかず、杏澄はラウラの方に背中を向け、砲弾を背中で受けることになる。

 ISの絶対防御も働くのだから大きな怪我もないだろうと考えている内、激しい衝撃と共に気を失う。

 

 

 

 気を失った杏澄は僅かな時間で意識を取り戻した。医務室にて背中と頭に包帯を巻いてもらった杏澄は、月末の学年別トーナメントまでには怪我が治ると言われて安心して息をつく。優勝できるとは思ってはいないが、箒を優勝させるのに貢献できれば良いとは思いながら医務室を出た。

 

「大丈夫か杏澄!?」

 

 最初に声をかけて来たのは一夏だった。だろうなとは思っていたら次々と箒やセシリアや鈴がやって来て、最後にシャルルが駆け足でやってくる。

 

「怪我は無い杏澄!?」

「絹のようなその肌にまだ怪我がないか! わ、私が触診で……お゛ッ!?」

「あんたはうっさい!」

 

 なんだか知らないがセシリアが鈴に太ももを蹴られて蹲る。ロングスカートの中が見えそうで見えなくてやきもきする杏澄だが、とりあえず二人がなんで仲が悪いのか気になるが、案外一緒にいることも多いので逆に仲が良いのかもしれないと、何度か頷く。

 

「杏澄、無事で良かったよ」

「うん、絶対防御があるからね」

 

 シャルルからの言葉に何度か頷く。絶対防御があってもここまで怪我をしたのだから、少しばかり攻撃の受け方が良くなかったということがわかる。

 

「杏澄、その……ありがとう」

「うん、箒ちゃんが無事で良かったよ。月末のトーナメントもあるし!」

「そうだな、そういえば、そのことなのだが」

 

 そして話を続けようとした瞬間、地響きがした。あたりが揺れることにより全員が異変を感じ取る。

 

「ゴジラ!? ゴジラなの!?」

「いやガメラだろ」

「そんなこと言ってる場合か! なんだこれは!」

 

 やってきたのは沢山の女子生徒たちで、ビクッと驚いた杏澄だがそんな杏澄が目に入っているわけもなく女子生徒たちは気にせず一夏とシャルルの周囲に集まる。セシリアと鈴と箒はどこへやら、囲まれた一夏とシャルル、その間にいる杏澄は恐ろしい思いをしながらもそこから脱出しようとするが、明らかに逃走ルートは無い。

 動揺を隠せない一夏とシャルルと杏澄の三人。そして一夏とシャルルの向けて女子生徒たちが一枚の紙を突き出す。

 

「これ!」

 

 総勢数十人の声に、一夏とシャルルが紙を受け取って内容を見る。

 

「なにこれ?」

「今月開催する学年別トーナメントには、より実践的な模擬戦闘を行うため二人組での参加を必須とする。なおペアができなかった者は抽選で選ばれた生徒同士で組むものとする。締切は……」

 

「とにかく、私と組も織斑君!」

「私と組んで、デュノア君!」

 

 甘い声で二人を勧誘する生徒たちを始め沢山の女子生徒たちが声を上げることにより、焦ったような顔をする二人、今すぐ結論を出さなければこの状況に終わりは決して無いだろう。だからこそ一夏とシャルルは真っ先に横を見てから『月末のトーナメントには出場可能』な者を選ぶことにした。

 

「ごめん、みんな! 俺は杏澄と組むから!」

「ごめんねみんな、ボクは杏澄と組むから!」

 

 二人の言葉にビクッと驚く杏澄。そして女子生徒からは『また鬼柳か!』という目で見られて挙句の果てには完全な敵意やら殺意に近いものやらを感じる杏澄は焦りながら手を振る。しかしそれだけで伝わるはずもなく、シャルルと一夏は杏澄を見るのみだ。女子生徒たちから見て現在の杏澄は美少年二人にアプローチを受ける冴えない女なわけで『どこの少女漫画だ!』とツッコまれかねない状況に耐えれる杏澄でもなく、彼女は二人の手を取ってつながせる。

 

「わ、私は組む人決まってるからシャルル君と一夏が組めば良いと思う……よ?」

 

 杏澄の言葉に、頷く二人。

 

「まぁそういうことなら……」

「男同士っていうのも絵になるしね~」

 

 女子生徒たちは一瞬で背を向けて去っていく。それに安心してため息をついた一夏はシャルルとつないでいる手を放して杏澄の方を見る『なんで断ったんだよ?』という顔をしているが、これが一番良い策だと杏澄は自分で自分を褒め称えた、もちろん心の中で。

 

「なんで断ったんだよ~」

「そうだよ杏澄」

 

 なぜ二人からこうも誘われたのか、わけがわからない。

 

「なら杏澄、私と組もう!」

「杏澄、私と組みなさいよ!」

 

「わ、私と組みましょう杏澄さん、私が手取り足取り腰と……お゛ッ!?」

 

 再び蹲ることになったセシリア。

 

「やめなよ、鈴」

「だってこいつが余計なことを!」

「ほら、だからって蹴ることないでしょ。なんて言おうとしてたの?」

 

 蹲ってたセシリアに近寄ろうとすれば箒が前に立つ。

 

「こいつは危険だ」

「え~」

 

 わけがわからないという風な口調で言う杏澄だが、箒は『なぜ気づかない?』という顔をしていたが、杏澄はその表情の意図すらわからずにセシリアを心配してみている。新手のいじめかなにかかと思ったがそんなことも無いだろうと理解。『大方一夏関連かな?』と考えて納得した。

 

「あ、杏澄さんは動かなくて構いません、だから私と貝あ゛ッ!?」

「いい加減にしなさいよあんた!」

「そんなことを言いながら鈴さんもしたいんでしょう!」

「ま、まぁしたくないって言えば嘘に……でもそこまでは落ちてないわよ!」

 

 落ちるとこまで落ちたセシリアに真っ赤な顔をして叫ぶ鈴。そしてずいぶん太ももへの中国三千年キックも慣れてきたセシリア。言い争いを始めるセシリアと鈴を放っておいて、杏澄はため息をついて箒の方を見た。箒の方も意味が分かったのか頷く。

 

「よろしく頼むぞ杏澄!」

「うん、幼馴染として!」

 

 信頼しきった顔をした二人が、握手をする。鼻から上が見えない杏澄だが雰囲気だけで一夏と箒は察しただろう、そしてその二人を見た鈴とセシリアが同時に大声を出した。なぜ大声を出したのかわからない杏澄はビクッとするが、その意味がわかった箒はとりあえずこの変態たちを杏澄から遠ざけようと思った。まるで親心、いや姉心のようなもので『お前たちのようなものに杏澄をやれるか!』という感じだ。

 

「お前たち二人が組めば良いだろう」

「ぐぬぬ」

 

 二人して歯ぎしりをするも杏澄はもう箒と組む方針だ。ならばということでとりあえず目の前の二人で組むことにした。

 

「(優勝をして!)」

「(杏澄さんの好感度アップですわ!)」

 

 とりあえず二人の原動力とはそんなものだ。なにはともあれ現状六人でタッグを組むことができたのでこれにてとうぶん六人そろっての訓練もないだろう、これからはライバルとなるのだから当然だ。そしてそんな時、セシリアが何かに気づいたかのような顔をした。

 

「そういえばゴジラの話をしてましたけれど、あの海から出てきた身軽なトカゲの映画ですわよね?」

 

 そんな言葉に、一夏も箒もシャルルや鈴すらも訝しげな表情を浮かべた。シャルルも知っているようなことなのにも関わらずセシリアはよりにもよって“アレ”しか知らないとほざいた。多少常識知らずなのはお嬢様故に仕方がないと思った……。

 

「セシリア……」

「本気で言っているのか?」

「ガッカリよね」

「今のは弁解できないよね」

 

 一夏、箒、鈴、シャルルから次々と浴びせられる言葉になぞこんなことになったのかと驚く。四人の目はまるで諦めた者を見るような目であり、杏澄はというと何とも言えないという表情であり『美少女だし良いかな?』とか考えるもさすがに弁解の余地が無いのは間違いない。

 ならどうすれば良いか?

 

「あのさ、今度一緒に見ようよ! じゃあ私は部屋に戻るね!」

 

 杏澄は―――逃げた。

 

 戦うという道を投げて逃走というのを取った杏澄が去っていくのを見て、セシリアはポカンとした顔をすぐににやけにゆがませる。

 

「あ、杏澄さんが夜一緒にと! これは日本で言うジャパニーズ据え膳!」

 

 つまり食わなきゃ(使命感)。セシリアは舞い上がっている。

 

「フフフッ、杏澄さんがっ杏澄さんが私のものにっ! あの、あの体が私のものですわ!」

「本場のゴジラも知らないくせに調子づいてんじゃないわよ! あのパイオツは私のってんでしょうが!」

 

 医務室前で喧嘩を始める鈴とセシリアに肩をすくめる三人は、その場からとりあえず離れることにした。あまり関わりあっていると変態たちと一緒にされてしまうし、なによりも箒からなにやら“過保護”の香りがし始めた。最近関わりだした頼りない杏澄を守ってあげたいと思ったのだろう。

 

「杏澄さんからお部屋にお呼びがかかるなんて私、処女膜から声が出なくなりますわ!」

「まだガンガンに処女膜から声響いてるっつうの!」

「黙りなさい杏澄さんの胸に目をつけるなんて所詮はその程度、やはり杏澄さんの魅力はむっちり太もも!」

「杏澄と出会って一年もしないあんたに何がわかるのかしらぁ? 私的に杏澄の魅力はやっぱり胸と尻よ!」

 

 鈴とセシリアが額をぶつけ合いながら言い争う。そしてその争いを止めることになるのは数分後ここにやってきた世界最強(ブリュンヒルデ)なのだった。

 

 

 

 杏澄が鈴とセシリアから離れて僅かの時に遡る。逃げるように歩いてきた杏澄としては少し困っていたのだった、今度一緒に見ようと言ったが向こうはゴメンだと思っていたのならと思い、少しばかり口を歪める。そもそもあんな美少女と部屋で二人なんてこちらの理性が持たない。いや持ったとしても、もしそんな時に『盛り』が来たらおしまいだ。色々と……。

 曲がり角を曲がって階段を降りようとする。

 

「はぁ、どうしよっか―――ッ!?」

 

 降りようとした時、背後から衝撃。

 あまりのことに言葉を失う杏澄はそのまま体を前のめりに宙へと投げ出すことになる。背後を、衝撃の理由を見る気にはならなかったから、だからこそ受け身を取ろうと思ったがどう取っていいかもわからずにそのままゆっくりと地面へと体が吸い込まれていくような感覚を体に感じながら床へと落ちていく。

 

 

 

 次に杏澄が意識を取り戻した時には、また医務室だった。ラウラに撃墜された時もそうだったし、やけに自分は医務室に定評があるなと思い上体を起こそうとすれば体に激痛が奔った。声にならない声を上げてベッドに背中を預け悶える杏澄。そんな杏澄の周囲でガタガタと音がし始める。

 

「起きたか杏澄!?」

 

 最初に聞こえたのは一夏の声だった。

 

「大声上げないでよ一夏!」

「鈴さんも、杏澄さん平気ですの?」

「あっ……鈴とセシリアさんも、箒ちゃんとシャルル君も一緒か」

 

 自分がベッドに寝ていると気づくまでに時間はいらなかった。そして階段から“足を踏み外した”ことも思い出してようやく自分の現状を理解でき、ベッドの頭側を少し上げてもらい上体を起こすようにする。右手に包帯が巻かれていることにそこでようやく気付き、まるで骨折でもしているようだなと思う。

 

「とりあえず脱臼してたから当分安静だってよ」

 

 一夏の言葉に、杏澄がキョトンとする。

 

「……え?」

「トーナメントだけど、諦めてくれって」

「……ほ、箒ちゃん」

「気にするな、仕方ないだろう」

 

 安心したような箒の言葉を受けて素直にうなずく杏澄。

 

「ごめんね?」

「いや、気にすることは無いさ。事故……なんだな?」

「うん」

 

 嘘だ。背後からの衝撃は確かなものだったし、じゃなきゃあそこまで宙に投げ出されることはない。足を踏み外した場合はごろごろと階段を転がり落ちるだけ、そして杏澄は誰かの足を見た。だからこそ犯人がいるのはわかっているのにも関わらず、ここで余計なことを言わなかったのは杏澄が誰かからの“制裁”を恐れているからだ。臆病なわけではない慎重なのだと、彼女は自分に言い聞かす。

 

「箒ちゃん、ほんとにゴメン」

「大丈夫だ杏澄、私にだって組んでくれる友達ぐらいいるさ」

「……そっか、応援してる」

「ああ」

 

 それから特に箒と話すことは無かった。杏澄はと言えばシャルルに大丈夫かと聞かれたりセシリアと鈴がしきりに杏澄のことをきにしていたりしたが一夏が何かを言うこともなく、杏澄はとりあえず絶対安静を言い渡されながらも自室へと戻れることになったのだった。

 正直、杏澄自身も一晩中医務室に居られるほど神経が強いわけでもない。だからこそ帰ってきたのだが右手が使えないこともあり行動がいちいち面倒だ。

 

「杏澄、いるか?」

「入って良いよ~!」

 

 そんな時、外から聞こえてきた一夏の声に杏澄は返事をする。聞こえてすぐに部屋に入ってきた一夏が部屋の扉を後ろ手でしめてゆっくり杏澄へと近づく。ベッドに座る杏澄の前に立つ一夏がしっかりと杏澄の目を見て、どこか違った目のまま口を開く。

 

「本当に、足を踏み外しただけか?」

 

 やはり一夏に下手な嘘はつけない。特に先ほどは動揺していたから余計だ。

 

「あはは、やっぱ一夏には嘘はつけないね~」

「伊達に見てきてないさ」

「まぁ、誰かに突き落とされたっていうのはわかるんだけど」

 

 そんな言葉にやはりというように目を細める一夏。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒか?」

「まさか、足は見えたけどスカートだったし」

「お前みたいな奴を嫌いになる奴なんているかよ……お前に恨みがあるのなんてラウラぐらいしか」

「……はぁ~」

 

 杏澄の深いため息に『なんだよ?』という顔をする一夏、気づいていないのはいつものことだし特に怒ることでもない、自分と一夏がどういう関係だなんてそのうち浸透する。“昔だって”そんな感じだった。

 

「とりあえず、飯行こうぜ食わせてやるから」

「……箒ちゃんか鈴に頼む」

「ん、そうか?」

 

 さすがにこれ以上はごめんだった。一夏と変な噂を立てられればそれだけ他人の恨みやら嫉妬を買うのだから、これ以上はごめんだ、だからこそ箒か鈴を頼ることにした。幼馴染の二人ならば快く受けてくれるだろうけれど、一緒に組もうという約束を組めなかった箒に頼むのも難なのでとりあえず鈴に頼むということで結論が決まる。

 一夏と二人で廊下を歩く杏澄。

 

右手(恋人)がダメになっちゃった」

「……おう」

 

 適当に受け流した一夏。

 ともかく、トーナメントの日は応援を第一に頑張ろうと杏澄は半ば無理やり前を向くことにするのだった。それで世の中こともなし、どこかの誰かは自分のこの醜態を見て笑っているのだろう。だけれどその程度で一々落ち込んでいる杏澄でもなく、今はすでに頭の中には鈴にどうやって食べさせてもらおうかなんて考えている。前向きに。

 

 

 

 

 杏澄も、一夏すらもこの時はまだ予想だにしていなかったのだ。この先、あんなことになろうなど……。

 

 

 

 

 




あとがき

本編の話に反して若干ふざけたタイトルでしたが、まぁギャグメイン(のはずだった)小説ですので!
しばらくギャグができていませんなぁ、できればバシィッ! と決まるギャグを入れたいのですがいかんせんシリアスパートをずっと引きずり放題で……後半は鬱展開が待っているというのにこれではただのシリアス小説になりかねないと焦りを覚えていたり。
とりあえず今回ギャグ要素を少し入れるためにゴジラネタ……まぁ受けるかどうかはともかくとして(

予約投稿で12月に投稿しているのですが、更新されるのは来年。少し感慨深い気分になりながらとりあえず明けましておめでとうございます!
今年もこの~獣耳とかツイてる彼女~をよろしくお願いいただければまさに僥倖にて候!!

PS
感想お待ちしてつかまつる!
いただければ私の執筆意欲向上につながるので、いただければまさに僥倖!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。