インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~   作:王・オブ・王

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第十九話『やはりオチはお決まりで』

 杏澄が階段から“不慮の事故による転落”をしてから数日が経過した。それにしても杏澄を心配する生徒は少なく……いや、正確に言えば心配しても声をかける生徒は少ない。セシリアや鈴や一夏や箒、それにシャルルを除けば杏澄を心配して声をかける人間など布仏本音と鷹月静寐ぐらいであり、相変わらず彼女という人間があまりわからない他の生徒は声をかけることはできない。

 

 一夏の目から見て同じクラスで杏澄に恨みを持つ人間など一人しかいない挙句、他のクラスの生徒から恨まれるようなことをしているわけもなく、そもそも杏澄が人の恨みを買うような人間ではないと信じ込んでいる一夏としてはやはり杏澄をああした犯人はラウラ・ボーデヴィッヒ以外居ない。だが杏澄は『彼女では無い』とはっきり言った。ならいったい誰があんなことをしたのか?

 ともかく、一夏にとっては杏澄を叩いた挙句に撃ったラウラは同じく階段から突き落とすぐらいしてもおかしくないと思っているから、ラウラをずっと警戒している。

 だから今日は丁度良い―――。

 

「ラウラを倒して聞き出す!」

 

 アリーナのピットにて一夏はシャルルの隣で拳を握りしめた。

 この日この時間、学年別トーナメントの幕が切って落とされる。

 

 

 

 鬼柳杏澄は観客席にて戦闘を傍観する立場に居て、やはり杏澄の両隣には鷹月静寐と布仏本音の二人であった。ざわざわと騒がしい観客席の雰囲気の理由は一戦目となった一夏とシャルルのタッグの戦いのせいであり、同時にラウラの戦いでもあるからだ。そしてなんの因果かそれとも誰かの策略か、杏澄への恨みを持つラウラが組んでいるのは先日のことで杏澄の仇を取ろうとすらしていた箒。箒がピットに入る前に杏澄は一応『ボーデヴィッヒさんと協力して頑張ってね!』と言ってみたが箒は苦々しい顔をしていた。

 

「大丈夫かな……」

「大丈夫だよ~、あすみんがどっちを応援してるかわからないけど」

 

 隣の本音にそういわれると、少し考える杏澄。

 

「箒ちゃんかな?」

「へぇ、二人じゃなくてぇ?」

 

 まぁ確かに、言うとおりだった。杏澄が応援したいというかしているのは箒だけでありラウラが優勝しようがしまいがどうでも良く、今回の優勝賞品を箒に受け取ってほしいと思うだけである。優勝賞品……つまりは一夏と付き合う権利。

 ―――まさか、買い物に付き合うとか勘違いしてないよね?

 そう思いながら虚空を見て、それでも女子生徒たちの間の取り組みで優勝した女子生徒が一夏にアプローチしても邪魔をしないということになっているので優勝すれば一夏と付き合う権利を獲るようなものだ。それにちゃんと全員に認められて一夏と良い関係を築くのであれば、少なからず自分のような目に会うことも無い。

 

「安心、だよね」

「始まるみたいだよ」

 

 静寐に教えられて意識をはっきりと戻して戦闘を見る。怪我もほとんど治っているがまだどこか体が痛む場所もあるので参加を控えたが、こうなると参加しておくべきだったとも思うが優勝するなら自分と組むよりラウラと組んだ方が有利だとは思う。

 それでも、右手が使えない間結構世話になったのでその借りを返したいとも思っていた。だからこそ現状、箒が自分のことをどう思っているのだろうと考えてしまう。

 

「AIC相手に、織斑君とデュノア君すごい……」

 

 つぶやく静寐に同意する杏澄。ラウラの機体ことシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界、つまり空間兵器であるAICはその範囲内に入ったモノの一切の動きを停止させる武装だ。その慣性停止能力(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を実際に相手にした杏澄にとってはその厄介さが良くわかるのだが、それでも一夏とシャルルの二人はそれを超えて攻撃している。

 箒が一夏と剣戟を交えていたのは最初だけですぐに味方であるラウラに吹き飛ばされた挙句、シャルルに倒されてしまった。

 

「ボーデヴィッヒさん、なんだか様子がおかしい?」

 

 確かにそうだ。いや、杏澄の目から見たらおかしいのは一夏と言った方が正しいだろう。

 

 杏澄には一夏がおかしいとしか感じられなかった。長年ずっと一緒に居たのにも関わらず今の一夏がどうおかしいかわからない理由、それは今までそんな一夏を見たことが無かったからということ、そして杏澄が見たことがない一夏は今“負の感情”を剥き出しにしている。今までここまで負の感情をむき出しにしている一夏を、千冬すらも見たことは無かった。

 苛立つ一夏はシャルルにラウラの気を引かせて、隙ができるたびにラウラへと攻撃する。

 

「くっ、小癪な真似を!」

「そりゃ結構だっ!」

 

 ラウラが一夏へと手を伸ばしそのままAICを発動させて攻撃を止めたのだが、ラウラの背後へといつの間にやら移動していたシャルルが大口径ライフルを撃つ。直撃すれば大きなダメージを受けてしまうだろうが、ラウラは眼の前に一夏(獲物)がいるのに冷静でいられるほど、人間ができていなかった。

 いや、ここが本当の戦場で目の前のそれが本物のターゲットならばもう少し冷静で、自分を持って、安全を第一に考えたかもしれない。それでも自分が殺されないとどこかで思っているからこそ“肉を切らせて骨を断つ”なんていう馬鹿馬鹿しいことをしようと考えたのだ。

 

「ハッ! お前ならそう来ると思ったぜ」

 

 ラウラはシャルルの攻撃を背中で受けAICが解除されるも、白式をワイヤーでしっかりととらえると肩部のキャノンを撃ち放ち、直撃させることに成功させた。ダメージも確実に入りかなりの致命傷と言えるだろう、だが今は背後から攻撃してくるシャルルをさっさとかたさねばならない。

 

「ちょろちょろと目障りなカトンボめ!」

 

 一夏を離したワイヤーが今度はシャルルに伸びる。地上をホバーで横移動しながら両腕に持ったマシンガンでワイヤーを打ち落としていくシャルル。徐々にワイヤーはシャルルを追い詰めていき、ラウラも徐々に距離を詰めていくにも関わらずシャルルの表情は崩れず相変わらず笑みを浮かべるまま。

 

「ハハッ、悪いけど僕たちの勝ちだよ」

「根拠の無いことをっ!」

 

「根拠は、あるんだよな!」

 

 ラウラは背後から受けた衝撃が先ほどのライフルと同じものだということに気づいた。上昇して動き回りながらも自分を撃った存在を確かめる。いや、ラウラもわかっていたのだが、確かめたのは認め無くなかったからだろう、自分を撃ったのが織斑一夏だということが……。

 先ほどシャルルが撃った大口径ライフルを持った一夏がラウラを見て不適な笑みを浮かべるが、ラウラは肩部キャノンを撃つ。一夏が回避するがラウラは素早く接近し唯一の中距離武装であるワイヤーを一夏に伸ばす。

 

「やらせないよ!」

 

 そんな声と共に、離れていたはずのシャルルが一夏の前に現れ即座に盾を展開してワイヤーを弾いた。盾をパージして落としたシャルルはそのまま両手にガルムを持ちラウラに向けて撃つ。それを受けながら、ラウラは悪態をつく。

 

「くそっ、なぜ私が貴様ら相手にっ!」

 

「お前は俺の!」

「僕たちの友達を傷つけたんだ!」

「放っておけるか!」

「あのホルスタインのことかっ!」

 

「杏澄のことかぁぁぁっ!」

 

 一夏の叫び声と共にシャルルが上昇し、そのシャルルの背後にいた白式が零落白夜を発動し、剣を片手にラウラへと迫る。だが二人が杏澄を叩かれ、侮辱されたことに苛立っているのと同じようにラウラも自らが尊敬する教官こと千冬を侮辱されていると考え、苛立つ。

 ラウラは怒りの力か何かで超反応を瞬間的に発揮し、上半身を逸らして一夏の横一線を避けた。

 

「なっ!?」

「これでっ!」

 

 ラウラの肩部キャノンが一夏を狙うが、急なバックステップで一夏はシャルルが先ほど落とした盾を拾いキャノンを防ぐ。だがそれでも十分な隙が発生、もう一度キャノンを―――。

 

「やらせないってば!」

 

 撃つことはできなかった。肩部キャノンにシャルルがナイフを突き立てたというのが理由であり、レーダーを見ても突如接近してきたことを見れば間違いなくその移動方法は……。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)だと!? そんなデータは無かった!」 

「今はじめてつかったからね!」

「この戦いの中で覚えたというのか、小賢しいっ!」

 

 ラウラが腕部のプラスマ手刀にてシャルルを攻撃する。さらにAICにてシャルルの動きを封じると拳をそのボディに叩きつけ、さらにプラズマ手刀にて切り裂き再び拳を打ち込む。表示されているシャルルのシールドエネルギーは後一発で終わるというところ。

 

「ぐっ」

「お前一人で何ができ―――ッ!?」

「ようやく気付いたみたいだ、ねっ」

 

 すでに動くことが困難となっているシャルルを放って、ラウラはすぐに一夏へと視線を戻したがすでに遅い。少し離れた場所にいた一夏が瞬時加速(イグニッション・ブースト)によりラウラに接近、片手に持っているのはシャルルのR・リヴァイブの盾。雪片弐型は量子化させたのだとすぐに思ったが、なぜ唯一の攻撃方法を量子化させたか、それは簡単なことだった。先ほどと同じく武器の所有者が許可すれば他の物でも武器が使える。それと同様に今、織斑一夏は武器を持っているのだ。

 

「この距離なら、外さねぇっ!」

 

 一夏が持った盾の装甲が吹き飛び、中からは黒い杭が現れる。

 

盾殺し(シールドピアース)!?」

 

 巨大なパイルバンカーが一夏の手からラウラの腹部に向かい、放たれた。その衝撃は今までの攻撃と桁違いのダメージがシュヴァルツェア・レーゲンを襲う。ラウラの肺の中の空気が一気に吐き出され、そして衝撃は機体を吹き飛ばす力となり、ラウラとシュヴァルツェア・レーゲンはアリーナの壁にぶつかり体を垂れる。

 まさかの武装、予想外の攻撃に会場のボルテージが一気に上昇して、あふれんばかりの歓声がアリーナを包む。

 

「まだまだぁッ!」

 

 一夏が叫びをあげながら、まだシールドエネルギー0になっていないラウラへと追撃をかけ、そのボディに灰色の鱗殻(グレースケール)と呼ばれるパイルバンカーを撃つ。

 

「これは杏澄のぶんっ!」

 

 一夏の攻撃を見ていた箒が、苦虫をかみつぶすような表情をした。まるでかつての自分を見ているような忌々しそうな表情、その表情は間違いなくその戦闘を見ている者たちとは違った表情だ。だが今の箒には一夏に声を届けるような術があるわけもなく、ただ黙ってみていることしかできなかった。

 

 

 

 パイルバンカーによる攻撃を受けながらも、ラウラは考える。

 ―――そもそもの事の発端はISが生み出され自分が適正を強制的に上げるナノマシンを入れられたところからだろう。落ちこぼれの失敗作とまで言われた自分、だが自分をそんなどん底から助け引き上げてくれたのは最強無比であるあの最強(千冬)であった。そんな彼女のおかげで自分はかつての栄光、しいてはドイツ軍のエースの座を取り戻し、さらなる高見を手に入れた。

 だが、彼女の最強を揺るがすものが居たのは確かであり、それが織斑一夏と鬼柳杏澄の二人だ。

 

「私には手間のかかる弟と妹がいる」

 

 そう言って、わずかに笑う千冬を見たときにラウラは『違う』と思った。やはりその二人が千冬の最強を、さらなる力を邪魔していると確信した瞬間がその時だ。

 

 強さに“優しさ”はいらない。

 

 強さに“笑顔”はいらない

 

 強く、凛々しく、堂々と、それが理想であり理想の体現者たる織斑千冬。彼女は織斑一夏と鬼柳杏澄のこととなると優しく柔らかくなる。それが、あの最強をそうさせる二人をラウラ・ボーデヴィッヒは許せなかった、認めるわけにはいかなかった。認められなかった。

 

 ―――だから、力が欲しい。

 

 ノイズの入った声がラウラの深層心理の中に語りかける。

 

 ―――よこせ、力を! 比類無き最強を!

 

 瞬間、ラウラの金色の瞳に映るのは複数の単語。

 

 

 

 ラウラのシールドエネルギーが0になったのを確認して背後に下がる一夏がパイルバンカーを置いて雪片を展開させる。当然だ、ラウラの様子が明らかにおかしく、シュヴァルツェア・レーゲンはターミネーターの液体の奴よろしく液状になりラウラの体を包み込み変形していく。

 程なくしてレベルDの警戒態勢が敷かれ観客席のバリアが上がろうとするのだが、杏澄が立ち上がった。

 

「サイレントビースト!」

 

 叫び声と共に杏澄はISを展開し、観客席に展開してあるバリアをランスで突き破ると戦場へと羽撃く。背後でシャッターが閉じる音が聞こえそれと共に杏澄はラウラたちの方をしっかりと視界に入れる。そこでラウラの体を包むドロドロとした液体がISを纏った人を形作っていることを理解し、さらにそれがどういうものかも理解できた。

 

「お姉ちゃんをコピーしたってことか!」

 

 舌打ちをしてからそちらに向かおうとするが一夏が怒りに任せて戦闘を始めてしまう方がよほど早く、一夏は簡単に唯一の武装である雪片を弾き飛ばされてしまった。そして千冬のコピーが持つ雪片が振り上げられた瞬間、杏澄はなんとか間に合いランスに内蔵されたビームをマシンガンのように放つ。背後に下がり杏澄の攻撃を避けるコピー体、杏澄が一夏の前に降りると全員が驚いたような表情をした。それも当然だ。本当はここにいるはずのない杏澄が、今ここにいるのだから……。

 

「杏澄お前!」

「良いから下がってろ一夏! もうシールドエネルギーだってあんま残ってないんでしょ!」

「君だって怪我が完全に治ったわけじゃっ」

「わ、わかってるけど……私がやらなきゃいけない!」

 

 一夏とシャルルの心配する声を無視して、杏澄はランスを量子化しすぐに二挺のハンドガンを撃つ。それらの弾丸を簡単に切り伏せるそのコピー体を相手にしながらも、杏澄はどうやってこいつを倒すか考えている。いつもならば『どうせ後で来る教師陣に任せればいい』という考えだったかもしれない、だが今は目の前の杏澄の大事な千冬()の、力や技術だけをそのまま真似た存在が許せない。千冬だけの技、千冬が誇りを持ち扱った武器を勝手にコピーしたことが許せない。だから目の前の存在をどうやって消し去るかということだけを考える。

 

「たぶん、ボーデヴィッヒさんの意志はないよね?」

 

 自問自答するが、明らかに無いという確信を持つ。そして一夏やシャルル、箒がいる場所から離れるように下がりながらコピー体を射撃していくがどうにも上手く当たらず、当たるものもすべて切り伏せられてしまう。ならどうやって目の前のコピー体に有効な攻撃を打ち込むか? ほどなくして答えは出た。

 

「BEAST SYSTEM……」

 

 今発動したいのがBEAST SYSTEM(ビースト システム)だった。ここで発動したいのだができない。あの時のように今も怒りで一杯なのにも関わらずできない。どうやったら発動できるのかなんてわからないが、だが、それでも今は現状の戦力でなんとかしなければならないというのが現実だ。だから杏澄は片手の拳銃をランスに持ち替えて両手に持った武器を敵に向かって撃ち続けるのだった。

 

 

 

 その戦いを少し離れた場所から見守っている一夏は、苛立ちを隠せなった。そして拳を握りしめたまま一歩一歩前へと進み始めた。だがそこで一夏を後ろから止めたのは篠ノ之箒だった。

 

「アイツ、千冬ねぇの真似しやがって! ぶっ飛ばしてやる!」

「おいバカやめろ! 今は杏澄が戦ってくれているだろう!」

「汚いことしやがって、千冬ねぇの力でアイツは―――」

「ッ……いい加減にしろ!」

 

 瞬間、箒が一夏の頬を打った。唖然とする一夏と驚きながらも二人の間に入ることはできないシャルル、そして遠くで戦う杏澄にはそちらに気を向ける余裕などなくただ一夏と同じように怒りを抱き戦っている。

 

「先ほどの戦いでもそうだが、お前……怒りを戦いでぶつけていただろ」

「ッ!?」

 

 一夏がハッとした表情をしたのだが、図星だったということだろう。

 

「俺は、杏澄を守れないでっ」

 

 四六時中ずっと一緒にいるなんて無理なのだからあれは不慮の事故と言っていい。だから一夏は責任を感じる必要などないのだが、そこを思ってしまうのは色々な連続があったからだろう。一つ目が自分の弱さ、そして二つ目がラウラが杏澄に恨みを持っていると知っているのにも関わらず杏澄を一人にしてしまったことだ。そしてその他の細かなことが重なって起きた自分の不甲斐なさへの憤り、その当てようのない怒りを一夏はこの戦いで無意識に発散していた。

 それをわかったのは、箒もかつて同じようなことがあったからだ。自らに降りかかったことの連続での苛立ちを剣道の試合で発散させてしまったという、同じことを……。

 一夏が顔を上げて杏澄の方を見る。

 

 

 

 杏澄は焦っていた。さすがに戦闘技術などを千冬からコピーした戦いをするその“人形”は強く、射撃武装はすべて避けられる。挙句にシールドエネルギーに余裕はあるがどんどんと追い詰められている感覚が消えない。いや、実際に追い詰められているのだろうけれど……。

 舌打ちをしてから、杏澄はランスにて刺突を繰り出す。今回の戦闘で初めての接近戦だが、当たれば強運だと思って突き出した。

 

「セイヤァァッ!」

 

 だがランスを突き出してもそれは呆気なく偽物の雪片にいなされ、杏澄は脇腹を蹴られて吹き飛んだ。

 

「ぐぅぅっ!」

「杏澄!」

 

 一夏たちのそばまで転がってきた杏澄だが、相手のISは杏澄の前まで迫りながらもその動きを止めた。それで理解できたのか杏澄は自嘲するように笑ってランスを量子化させる。立ち上がる杏澄、サイレントビーストだがコピー体が杏澄を攻撃するようなことは無い。

 

「武装してなきゃ、攻撃してこないか……」

 

 自分が何もしなくても事態はすぐ収拾される。教師陣たちがR・リヴァイブにてコピー体を囲んでいった。

 

「くそっ! なにか、俺にできることはないのかっ!」

「大丈夫だよ一夏、私たちがやらなくても―――」

「違うぜ杏澄、俺がやりたいからやるんだ!」

 

 その言葉に、杏澄が揺らされた。自分だって千冬のコピーを許すわけにはいかない、いや、心無い人形に千冬の気高い戦いを穢されるのが許せないと言った方が正しく、それは一夏も同様のことを考えている。それでも杏澄は諦め、一夏は諦めない。決定的な違いと言っていい二人の現実への見通し、それでも一夏は何かをできると思ってしまう自分を杏澄は嫌いにならざるをえなかった。結局、他力本願でしかない。

 

「エネルギーが無いなら、持ってくれば良いんだよ」

 

 そう言ってシャルルはR・リヴァイブからコードを引っ張る。その意味を理解した杏澄が自分のサイレント・ビーストからコードを伸ばした。

 

「シャルル君の機体もシールドエネルギーがキツイでしょ……私がやるよ一夏。サイレントビーストのコアバイパスを解放、エネルギーの流出を許可」

 

 そう言ってからコードを一夏の腕についた待機状態の白式に突き刺す。溜息をつきたくなる気持ちを抑えて、杏澄が自分んはできないことができる一夏をその目で見据える。髪を軽く掻き揚げてお互いの目が見えるようになり、そんな珍しい杏澄をシャルルも少し興味ありげに見た。

 

「絶対、勝ちなよ!」

「負けたら男じゃねぇよ」

「じゃあ負けたら、明日から女子の制服で通ってね?」

 

 シャルルの冗談に顔をひきつらせる箒と一夏、杏澄が想像してみると意外とイケるかもしれないなんて思う。杏澄にとって一夏の唯一の魅力である“尻”が良い感じにスカートに丸みをつけるのだろう。そう考えると『一回女装してくれないかな?』なんてことも思ってみたりもする。

 そんなことを思っていた矢先、教師陣が下がった。

 

「お姉ちゃんか……おっと」

 

 自分の機体が量子化され、杏澄が地面に両足をつき少し顔をしかめる。

 

「これで完了、やってきな一夏!」

「任せろ杏澄!」

「しっかり……ボーデヴィッヒさんを助けなよ?」

「ああ! 行くぜ白式!」

 

 大量にシールドエネルギーが残されたサイレントビーストからのエネルギー供給により一夏は白式を展開して雪片を両手で構える。杏澄は箒とシャルルの二人と共に二機から距離を取ってその戦いを見守ることとした。いや、それ以外に手伝えることなぞそもそも無かったのだから、仕方ない。

 

「みんな、俺を信じてくれたみんなのために、俺は絶対に勝つ! いくぜ、零落白夜!」

 

 そして、千冬のコピーと一夏の一瞬の戦いが幕を開ける。

 

 

 

 結果的には一夏の勝利でことは済んだ。文字通り一瞬でその戦いは終わり、ラウラを救出することも一夏にはできた。ラウラの気持ちはどうかは知らないけれど、杏澄によって一夏のラウラへの誤解も解くことができて、ラウラ絡みのこの事件はとりあえずの収束したと言ったところである。

 

「いや、まだわからないか」

 

 つぶやく杏澄。

 

「ん、どうしましたの杏澄さん?」

「なんでもないよ」

 

 とりあえず今は、杏澄の部屋にてセシリアと鈴の二人と約束通りのゴジラを見ていたがなかなかどうして久しぶりに見ると面白いなと杏澄は思う。意外な芸人がゲスト出演していたりなんて、思い起こせば話題にもなっていた気がするが……。

 それにしてもやけにセシリアと鈴がそわそわとしていて、これでしっかり話が入ってくるのか怪しい。

 

 杏澄の横に座る二人はどちらが先にその場を離れるかの勝負の中に居た。先に席を離れた方が出遅れる。今日は完全に一夏に杏澄を取られてしまったが夜はそうはいかない。片方が部屋に帰ってくれれば一番良いのだがそれは期待できないからこそ、据え膳(杏澄)との距離を少しでも縮めようと思っていた。

 鈴も最近はセシリアに毒されてきたのかやけにクレイジーでサイコになっている。

 

「入るぞ杏澄!」

「あ、いらっしゃい箒ちゃん、一緒に見る?」

 

 突然入ってきた箒に笑顔で向かえる杏澄とビクッと驚く二人。最近の二人が腕をダメにした杏澄と急接近できなかった理由は箒が一因であるのは間違いなく、彼女から度々放たれるオーラに押し負けているからだ。箒はもはや杏澄の保護者的な立場であり最近、鈴やセシリアが杏澄に近づくと箒も近くに来ることが多い。いや、だがそれにしても―――。

 

「(今日の箒さん……)」

「(かなり苛立ってる)」

 

 苛立っている。その程度は杏澄でも感じることができた。たぶん、どっかのバカが『付き合うよ、買い物ぐらい!』とか言ったに違いないとそこら辺まで予想できたのは杏澄だけだが、十分だ。とりあえず箒を落ち着かせようと鈴を少し押して場所を取ると、その場所に箒を座らせた。

 

「ありがとう杏澄」

「ちょっと! なんであたしを押したのよ!」

「ちっさいし」

「あぁすみぃ!」

「鈴さん黙って、上陸しますわ!」

 

 テレビに映るゴジラの話だ。思いのほか集中しているセシリアに、これでこそ見せた甲斐があるというものだと何度も頷いてアレしか知らないのは悲しいな、と思った。そんな杏澄が鈴の話を聞いているわけもなく、鈴はいじけながらテレビを見ることにした。そして隣の箒は苛立ちがおさまったのか覇気もすっかり収縮して、いつも通りの表情で杏澄の方を向く。

 

「杏澄、お前昔から好きだったがこれは?」

「ブルーレイにやいといたの、いつか見るかなって」

 

 ただやいてから一度も見ていない。なんだかんだ保存はしても二度と見ないなんて、誰もが経験のあることじゃないかとは思うが杏澄的にはとりあえず保存しておく、ということが重要なのだ。もしかしたらいつか思い出すときに楽だし、実際今現在役に立っている。

 

「とりあえず、明日の朝まで頑張ろ」

 

 つぶやいた杏澄は欠伸を噛み殺しながら、鈴やセシリアと同様にテレビ画面に視線を移すのだった。

 

 ちなみにこの中で一番最初に寝たのは、今日戦闘を行い疲れた杏澄でその次に鈴、セシリア、箒の順であり、夜更かしをした結果四人ともベッドに適当に倒れて寝ているのを発見した一夏が一人づつ起こした。なんてこともあったりしたがそんなことはどうでも良くなるようなことが朝、起きることになるなど誰も予想だにしていなかった。

 

 ジャパニーズ特撮への感動の余韻が続くセシリアも、特撮を懐かしむ鈴と箒も、眠気を噛み殺しながら起きている杏澄すらも予想しなかったことが、朝のホームルームで起きたのだ。

 山田真耶が非常に気まずそうな表情をしている。この後の展開を知った上でこの時の彼女の心労を考えればゾッとする。真耶の胃の心配をよそに現れたのは金髪の少女。ざわつく教室。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん改めてよろしくお願いします!」

「えっと、デュノア君はデュノアさんだったということでしたぁ~……」

 

 そして訪れるのは、沈黙。

 

「……ハッ!? あ、あの時の!?」

 

 杏澄は気づいて大声を出してしまった。そこでシャルルが赤い顔をすることでさらに思い出すのはあの日、あの時見たシャルルの全身、顔と頭が熱くなるのを感じ、すぐにグラグラと視界が揺れはじめ……。

 

「エンッ!」

 

 そのまま杏澄は鼻血を吹き出して倒れることとなった。幸いなのは杏澄の前にいたシャルルが汚れることがなかったことだろうか? どちらにしろ一夏が箒に問い詰められるのは決定事項なのだろう。そしてついでに付け加えるなら、一夏にはさらにサプライズが待っているのだから……。

 

 この先のことはともかく、これにて一件が解決したと言えるだろう。もうすぐ臨海学校であるはしゃぐこともあればなにやら事件の香りもする。まぁなによりも磯の香りが凄いが、とりあえずこの件はおしまい。

 だが臨海学校までの間に、おかしな事件が起きたり起きなかったりもするかもしれない。さっそくここで事件が一つ起きてしまったがいつも通りだ。

 

 結果的に、杏澄が居て一夏はきっと助かったのだろう。もし杏澄が居なければきっと一夏はひどい目にあっていただろう……。

 それが、主人公(一夏)らしいというものである。

 

 

 

 

 




あとがき

賢明な作者様であればオチの察しはついたでしょう……はいさて! とりあえず第一部完! と言ったところでしょうか?
次回から新章突入といきたいのですがそこにてラウラとの仲直りのことも書いておこうと思います。さもなくばわけがわからないでしょうから!ラウラと仲直りの巻はここに入れ込もうと思ったんですがさすがにこれ以上文字数を増やすと文字数のインフレがあまりにも激しいことになるので次回に入れることとします! 第二章からはもっと杏澄をカッコよくしたいなとは思っています。このままじゃ間違いなくヒロインルートでござるまするからね……。

ではみなさん、次回もお楽しみいただければまさに僥倖!!
感想お待ちしてつかまつるよ!

PS
今期から始まった『桜Trick』とかいうけしからんアニメ、たまりませんな。最初あんな感じにしようかと思っていたのですがなぜこうなった……まぁ八割がた主人公のせいでしょうが(
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