インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~ 作:王・オブ・王
第二十話『セカンドコンタクト』
あれからもう一週間ほどしたが、IS学園での問題なんて一切無かった。杏澄自身もいやがらせやらを受けることもなく、ただ淡々と日々が進んでいきついでにいうなればラウラも一夏と杏澄の二人の存在を受け入れた。杏澄にはなんでそういう結論に至ったのかはわからないが、それでもラウラが一夏という存在のおかげで変わったということは理解できる。
「すまなかった、さぁ! 代わりに私をぶて! そして撃て!」
なんて言われた時にはどうして良いかわからなかったが一夏が助け舟を出してくれたおかげでなんとか何もせず、遺恨を残すこともなく終了した。結局杏澄自身は何も動いていないがいつものことだと納得してもうすぐある臨海学校のために買い物に行くことにした。
階段から落ちた時の怪我ももうすっかり良くなり、今はまともに動くことが可能だ。だからこそ一人でも大丈夫だろう。寮の部屋で着替えを完了した杏澄、直後にドアが開いて誰かが入ってくる。
「……一夏、ノックぐらいしなよ」
「ああ、悪い」
「もう少し早かったら着替え中だったよ」
「そりゃ残念だ」
「ハハッ、バカだなぁ」
冗談とわかっているからこそお互いが笑っていられるし、一夏が杏澄以外にこんな冗談を言えるとも思えない。それを意識して言っている二人でもないのだし、基本的に二人きりの時でしかこんなテンションで話すこともないので誤解を招くこともそうはないだろう。
一夏の提案は『一緒に買い物に行こう』とのことだったが、杏澄は私服姿のままふと気づいたことを口に出す。
「他の子といかないの?」
「お前がいるんだったらお前と行くのが一番楽だろ」
そういわれると嬉しく……ならなかった。別に一夏にそういわれても特に嬉しくなるはずもない、中学生時代には鈴や弾、それに御手洗数馬なんていう同級生とも結構な頻度ででかけていたがそれでも一夏と杏澄の二人で出かけることの方が多く、服を選ぶときだって基本的に二人で来ていた。まぁ兄妹同然で育ったのだから、ふつうだろう。
「まぁ行こうぜ」
「……了解」
どうせ断ったって無駄だろうと理解している。出そうになるため息を飲み込んで杏澄も一人よりは二人の方が良いという気持ちがないでもないからこそ、とりあえず一夏のせいにして一緒に行くことにした。
リニアレールに乗り、街へとくりだす一夏と杏澄の二人だったが電車内で行先を軽く決めて、目的地に真っ直ぐ歩く。臨海学校の買い物として最も必要なものを買いに行くために、そう……賢明な者は察することが可能だろう、海を泳ぐために必要なもの―――水着だ。
だが杏澄は水着というものを着ることをあまり好ましく思っていない。むしろ水着など着たくない部類なのだが……。
「仕方ないか」
「なんだ、海楽しみじゃないのか?」
「なんであんな下着みたいな恰好……」
「まぁ確かに、でもそこまで恥ずかしくないだろ?」
いや、杏澄にとっては恥ずかしい服装であることにまったく変わりない。
「てか尻尾とかバレるんじゃ―――むぐっ!」
「バカ! こんなところでそんな話をすんなっ!」
一夏と千冬、鈴と弾ももちろん知っているが杏澄には耳だけでなく尻尾もある、犬のような狼の尻尾がもちろんある。一夏的には別に箒やセシリアにバレても耳と目がばれているのだから今さらだろうと思うのだが、杏澄にとっては『尻尾がバレたらそろそろ気持ち悪がられるかもしれない』とビクビクする要因となっていた。まぁ実際にばれたところでセシリアは喜ぶだろうし、箒もふつうに受け入れるだろう。だがそれでも、他人を不必要に怪しんでしまう根暗っぷりが杏澄だ。
「一応、たばねぇから水着送られてきたから……ISスーツみたく尻尾とか目立たないやつ。それを下に着る」
「じゃあそれで良いんじゃないのか?」
「あんなのだけでいられるはずがない」
疲れ気味にそういう杏澄、一度着てみたは良いがすぐさま脱いで洗濯機に入れてやった。あまりにも自分に似合わない水着だったと、何度も頷いて『たばねぇも落ちたものだ』としみじみ思ってからすぐに水着を新たに買う決意をしたのだ。
そしてこうして買うことにしたのだが、杏澄は考えてみる。海なんてあまり行ったことは無いのだし体が大きくなってからは水着を買ったことすらない。
「おい杏澄、こっちだぞ」
一夏に手を取られて歩いていくが、良く考えずとも水着を誰に選んでもらえば良いか簡単にわかった。目の前にいるじゃないか、一夏に選んでもらえばいいのだ。それが一番楽であるはずだし、ファッションセンスだって一夏はぶっとんでいるわけでもない。普通のものを選んでくれるのは決定事項だ。そうしよう。
杏澄は何度も頷きながら決めて、一夏についていくのだった。
一方、その光景を離れた場所から不審者のように見ていたのがセシリアと鈴の二人だった。そしてさらに別の場所から一夏と杏澄を見ていたのがシャルロットとラウラ。ついつい飛び出していきそうになるラウラを止めながらその光景を見ていた。否、誰もが睨みつけていた。
「ラウラ、こうなったらいくしかないよ」
「そうだな、嫁をたぶらかすホルスタインめ」
そう言うも、本気で恨んでいるわけではないだろう。シャルロットが一緒にいても『嫁をたぶらかす男女め』ぐらい言っていたはずだ。
「その呼び方は変わらないんだね」
「うちの副隊長がそう言うとビッショビショだと聞いた」
「その副隊長クビにした方が良いよ……ラウラの教育上」
ともかく、今は一夏と杏澄の方をと思うがもう遅い。
「しまった……見失った」
「ならばシュヴァルツェア・レーゲンの索敵で」
「せいせいせい!」
ラウラとシャルロットの二人が色々と大騒ぎしているうちにセシリアと鈴も二人を見失って言い争いをしていた。
「あんたが余計なこと言うからでしょうが!」
「鈴さんが無意味に私に張り合うからでしょう!」
「セシリアが杏澄にはスク水なんてわけのわかんないこと言うからで―――」
「鈴さんが杏澄さんに一番似合う水着はビキニだなんて言うから―――」
そしてワンテンポおいてから、二人ともおとなしくなり頷く。
「両方良いわよね」
「両方良いですわ」
二人で固い握手を交わした。そして二人が杏澄と一夏を見失ったことを思い出して再び言い争いながら歩きだすまでそこまで時間がかかることはないだろう。ともかく、二人が出かけるということでIS学園は相変わらず大騒ぎである。そしてここに付いてきていない箒もIS学園で一夏と杏澄が出かけ、それを追って鈴とセシリア、そしてシャルロットとラウラが出て行った話を聞いて『あぁ、いつものIS学園だ』と思っていることだろう。
そして相変わらず杏澄と一夏の関係を詳しく知らない者たちは『出遅れた!』と悔しそうにしていた。
場所は変わって一夏と杏澄の二人が男物の水着コーナーにいる。もちろん理由は一夏の水着を選ぶためだが、姉弟同然とはいえ女の子を男物の水着売り場に躊躇なく連れてきた挙句『どんなのが良いと思う?』とか聞くのはいかがなものかと思いながらも、それに付き合う杏澄。
男物の水着というのは女物の水着と比べると数も少なく選びやすそうでうらやましいとか思う杏澄は、今時の女の子と買い物に来たときはきっと大変な思いをすることだろう。
「ほんとうらやましいなぁ、もうISスーツのまま泳ごうかな」
「いや、千冬ねぇが怒るだろ」
「……だよねぇ」
やはりどうするかと考えながら、とりあえず一夏と一緒に水着を見ていく。すると、一夏が一着の水着を取って軽く自分に当てる。
「こんなのはどうだ?」
黒い水着、横に少しラインが入っているだけだ。
「……そんな感じが一番だよね、下手に派手な水着選んでもしかたないし。でもこっちとか派手そうで良いかも」
「ん?」
杏澄が指差したのは、派手な柄の水着だった。派手と言うには言い過ぎかもしれないが地味とも言い切れない。ただ色合いで言えば青が基調なので目立たないことはないだろうし柄はハワイアンな感じで味で言えばブルーハワイと言ったところだろうか、まぁ水着に味などないのだが感覚的に言えばブルーハワイだ。
「ん~これか~」
「まぁ、どうでも良いけどね」
そう、誰に見せるわけでもないのだから良い。というより一夏の場合は下手に派手な水着を着ず無難な水着を着ても十分注目を浴びるのだから問題無いだろう、それにしても一学年の女子生徒たちは一夏の半裸を見て発狂しかねないと、別の方を心配してしまう杏澄。
そうしていると肩を叩かれ、振り返ればそこには一夏。
「買ってきた」
「早いね」
「お前がボォッとしてるからだぞ?」
一夏はそういうとさっさと歩き出すので、それに大人しくついていく杏澄は正直何も考えていない。いや、考えることと言えば今後のことと、どうやって臨海学校で仮病を使うかである。だが下手な手を打てば千冬に一瞬で見抜かれることは必然、ならばこの数日間で風邪を引いてみるか……だが考えてみる。生まれてこの方、風邪に掛かったことなど一度も無い。
やはり諦めるしかないかと思っていると、一夏が立ち止りその背中にぶつかる。
「いきなり止まらないでよ」
「だってお前……杏澄の水着を買うんだぞ?」
「面倒だなぁ」
心底そう思いながら、斜め掛けしている鞄から杏澄は携帯端末を取り出しマップを開く。周辺で水着が売っていそうな店をある程度検索してから杏澄は一夏を後ろに付けて歩き始めた。とりあえず杏澄は検索でヒットした中でも一番オシャレ……ではなく一番近い店を選んだ。必要以上に体を動かすのは嫌なのだ。
だが杏澄の予想と反してその店はすさまじい水着の量とシャレオツな雰囲気を醸し出す。そんな場所に長時間居ては杏澄の身が持たないというものであるが、背後の一夏は別に目のやり場に困ることも長時間いることも苦でも無いような表情だ。まぁ実際のところは
「いらっしゃいませ、お求めの商品などはありますか?」
服を選びに来たりなどして杏澄の一番嫌いなことは『店員が積極的に話しかけてくる』ことであるが、店側としては店員が積極的にお客様のニーズに応えた商品を出す方が良いかなとも思っているし、それで助かる客だって沢山いる。それでも杏澄としては頼むから話しかけてくれるなという感じであり、自己主張が苦手で引っ込み思案で根暗で、挙句の果てにオシャレのオの字も知らない杏澄がお求めの商品を聞かれて答えられるはずがない。
「すいません、こいつ水着選びとか慣れてないみたいなんで色々紹介してやってください」
一夏がそう言って杏澄の肩に手をポン、と置く。
杏澄としてはその手をすぐさま振り払ってから“市中引き回し”の計に処した後、全裸で縛ってIS学園女子更衣室に放り込みたい気分になるも我慢し、店員の前で『面倒くさい』など言えるわけもなく店員に連れられて水着がたくさん並んでいる場所に連れて行かれる。
一方の一夏は少し離れた場所からそんな杏澄を見守っているが、杏澄の『助けて』という視線の意味を理解することなく親指をグッと立てて杏澄に向けるのみだ。
そして店員は杏澄に笑顔のまま、まず今年の流行的なコーナーを紹介する。
「今年の流行は胸を寄せて上げ……失礼しました」
―――なんで謝った。
店員は杏澄の胸を見てから謝って、次にまた流行の一着を紹介。まぁそんな感じでことは進んでいきかれこれ二十分以上がたちようやく大まかな種類の水着の説明が終えられて現在は組み合わせがどうたら言われている状態である。さすがに疲れ切っている杏澄を思ってか、一夏が杏澄と店員の間に入る。
「そろそろこいつもわかったと思うんであとはゆっくり選ばせてもらいます」
「あっ、そうですか! では彼氏さんもこういっていることですので、ごゆっくりどうぞ」
それだけ言って去っていく店員。杏澄は『誰が誰の彼氏だ』と心の中で悪態をつき、一夏は『そういう風に見えるんだな~』と他人事のように考えるのみ。まったく年頃の男女と言うには嘆かわしい反応であるがこの二人はこの二人であり、やはりいつも通りだった。
まぁ心の中では助け舟を出してくれた一夏に感謝しながらも、杏澄は水着を選ぶため店内を少し歩くことにする。なぜか一夏が後ろについてくるが、パッと一夏が選んでくれれば助かる。
「これとかどうだ?」
そんなとき一夏が“珍しく”杏澄の思い通りに動いてくれる。
「お、思ったより積極的じゃん……それ私にやらないで他の子にやらないかな?」
「そうか? 杏澄に似合うと思ったんだけどなぁ」
「……いやいやいや」
自分がその水着を着ている姿を想像しようとするも想像できなかった。というよりここ十年は水着を着ていない杏澄としては、水着を着ている自分が想像できないのだが……ともかくどんな水着も今の杏澄は際どく見えるだろう。それを自覚している杏澄としてはどれを選べば良いかまったくわからないので、今回は一夏の言うとおりにした。
「うん、これにしよ」
「俺の言った奴なんかで良いのか?」
「ふふん、ダサいって言われたら一夏のせいだからね」
「あっ、汚いぞ!」
「へへ~んだ」
杏澄はそのままそれを会計に持っていき買ってしまうことにした。とりあえずこれで今回の目標達成と行きたいところだが、店を出た後に一夏と共にいくつか店を見て『来たる日』のための物を買って昼食にすることにした。
もう一時をまわって少しばかり遅い昼食になってしまったが、杏澄はともかく何かを食べたかったのだ。
「おなか減った~」
「まぁ普段動かないお前があれだけ動けばなぁ」
「むぅ、休日っていえばずっと家だったくせに……」
「家の中でも掃除洗濯食材調達に行けば十分カロリーも消費するっての」
そう言いながらコーヒーを飲む一夏、そしてその向かいで杏澄がコーラに突っ込んであるストローを吸う。二人で入ったのは再び携帯端末で検索したステーキで有名な店だ。結構安値で学生にも良心的ということもあり入りやすくお昼時からズレているから人も少ないが普段はにぎわっている……らしい。
「はぁ~疲れた……それにしても水着かぁ~」
「なんだよ気だるそうに、お前が良いって言ったんだろ?」
「水着着たくないよ、ウエストとかさすがに気にする」
「動けば良かったじゃないか」
「……それは面倒だし」
じゃあ無理だと一夏は何度か頷く。家に居ながら、しかも杏澄はゲームやらをしながら痩せる。絶対に無理だと何度か頷く一夏はコーヒーをまた一口すすった。
「そもそもお前太ってないだろ」
「……えぇ~」
正直、信用ならない杏澄は一夏に疑念の目を向けるが一夏は至って当然という顔をしながらコーヒーをすすっている。
「まぁ、そういうなら信用はしとくか」
一夏のデリカシーの無さを思えば、正直に言うだろう。つまり自分は本当に“一夏の目から見たら”太っていない……いやしかし、あくまで一夏の目であり他人の目から見たらどうなるかわからない。鈴あたりに聞いてみようとも思うが鈴の場合は遠慮して正直に言わない可能性も無きにしもあらず。
そして本格的に食事制限にロングブレスダイエットぐらい必要だろう。
「お待たせしました。サーロインステーキ300グラムでございます」
そんなことを杏澄が考えた途端、一夏の前にその巨大なステーキが置かれた。
「こちらサイコロステーキ150グラムです」
そう言って店員は杏澄の前にそのステーキを置く。店員はそのまま伝票を置いて去っていくのだが、一夏は『またか』という表情でため息をついて自分の前のステーキを杏澄の方に移動させて杏澄は一夏の方にステーキを移動させた。二人で外食に行くといつもこうであり、大きい方が一夏の方へと置かれる。
まぁそれが当然だろう。同い年の男の前でなんの遠慮も無くここまでバクバクと大量の肉を食う女……嫌である。
「さぁて、いただきまーす!」
先ほどの食事制限ということをすっかり忘れて、ステーキと共に運ばれてきたライス(大盛り)をバクバクと食べながら、ステーキを食す杏澄。一夏はそんな杏澄を見て相変わらずだとため息をつくとゆっくりと食事をはじめた。
まぁ、一夏と杏澄のいつも通りの外食、である。
それから少しして、デパートの中で一夏がトイレに行ったものでベンチに座って待っている杏澄。いつぞやのことを思い出したりもするがまぁ良い。それにしても前回はなぜ自分の“秘密”を知っていたのかなんて色々なことを思ったりするが……。
「直接本人に聞くっていう手もあるか……」
「そうなの?」
「えぇっ!?」
目の前にいたのは前回出会ったコートに帽子の女だ。
「お久しぶり」
そう言って女は口元に笑みを浮かべると、さらに一言だけ言葉を放ち去って行った。
「……え?」
何も言うことができずにいて、その女を追おうと思ったが一夏を置いていくこともできずにそのままその女を見逃すこととなってしまった。一夏が戻ってきて杏澄の肩を叩くが、我に返るまでは時間がかかることとなるのは、仕方ないことと言えるだろう。
あんなことを言われては―――。
なにはともあれ臨海学校の準備は完了。
まさか旅先であんなトラブルに会うとは、だれも思っていなかった。
あとがき
はい、今回はデート……的な巻でした! まぁデート的なだけでありデートでない感じ?
まぁどちらにしろ一夏と杏澄はこんな感じでどちらかというとほんとなんかデートと呼ぶべきが呼ばざるべきか、でござりまする。
ともかく、次回から臨海学校編で今回あまり絡めなかったラウラとの絡みとかシャルロットとの絡みとかも用意したいなと!
では、次回もお楽しみくださればまさに僥倖!
PS
感想是非! お待ちしております故!