インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~ 作:王・オブ・王
朝、杏澄は一番に温泉に入っていた。
昨日は入らなかったからこそ、今現在一人で温泉に入っている。もちろん千冬からの許可が下りているから決まっている時間外に風呂に入ったりなんかしているわけだ。そしてだからこそ誰も風呂に入ってくることなく杏澄は一人で温泉を楽しめた。
まぁ眼を見せても『少し変わってるかな?』ぐらいで済むだろう。だが頭の上の獣耳と尻尾は別で、見つかれば色々と問題が起きるのは必至、ならば隠す他なく温泉も別に入る。まぁ杏澄にはそれ以外にも秘密があるのだが今はイイだろう。
誰かが入ってくると思えば気が気でないのか、杏澄は数十分も入れずにさっさと出て浴衣に着替えカチューシャを付けると部屋に戻るため旅館の廊下を歩く。歩いていれば前方から箒が通常の三倍は早いスピードで歩いてくるものだから、ビクッとビビる杏澄。それから聞き覚えのある声が遠くから聞こえてなんとなくだが誰が来たのか察した。
「杏澄……」
「あー、うん、わかるよ」
「そうか……(着物なのにここまで胸が目立つものか?)」
やましいことを考える自分の心に喝を入れて、箒はすぐに杏澄に『わかってくれるのはお前だけだ』と言って去っていく。杏澄としても箒が束に何らかのコンプレックスやら妙に嫌悪を抱いているのはわかっているので他言も深入りもしないのだ。
そして杏澄にはなんとなくわかった。確実に箒は専用機を今日手に入れるのだと、杏澄は察した。それは喜ばしいことなのだがどうにも心の中につっかえるなにかが取れない。一夏と鈴の戦闘の日を思い出すような悪寒が背筋を時折這う。だがともかく、杏澄は部屋に戻るために歩き出そうとした。
「ちょっと待て杏澄」
「も、戻ってきたの?」
なぜか戻ってきた箒が杏澄の髪に触れる。
「……しっかり乾かせ」
「ドライアーかけたよ?」
「適当にだろう、ほら乾かしてやるから行くぞ」
そのまま杏澄は箒に手を引かれていく。乾かしたころには朝食で再び高級食材のオンパレードにテンションの上がる一夏と杏澄、そして同じく上がるクラスの面々のせいで千冬に怒られたのは言うまでもないだろう。
そしてその後、専用機持ちは召集されることとなるのだった……。
場所は海近くの岩場。
そこには専用機持ち、織斑千冬、そして篠ノ之箒の合計人数八人が集まった。自分を除いた面々の顔を見て頷く千冬。杏澄はこの状況と唯一専用機持ちでない箒がいること、そして先ほどの声を思えばやっぱり自分の予想が外れていなかったことに内心喜んだりもする。
「よし、専用機持ちは全員揃ったな」
「ちょっと待ってください。箒は専用機持ちじゃないでしょう?」
鈴の言葉に箒がわずかに狼狽した。
「それは私から説明しよう」
箒の隣に立つ千冬が説明を始めようとした時、それより大きな声に杏澄と千冬と箒以外の面々はビクッと跳ねた。杏澄は苦笑し、千冬と箒の二人は疲れたような表情になる。
「イィヤッホォォォォー!!」
大きな声と共に、近場の崖を義経よろしく駆けて来たのはピンク色の髪の女。頭につけた機械のウサ耳に見合うだけのジャンプ力をもってして千冬へと跳んだが、箒は頭を押さえて体を低くし、千冬は軽くその頭にアイアンクローで返す。女が勢いよく突っ込んできたにも関わらず反動など無いようにするのは千冬の異常さを感じさせた。やけにテンション高く織斑千冬への愛をアピールする女に、杏澄は苦笑。
アイアンクローから即座に抜け出した女は即刻杏澄の横に回って杏澄の背後に隠れていた箒と顔を合わせる。
「じゃじゃーん!」
「どうも」
箒の返しがずいぶん他人行儀だが仕方ない。もう何年も会っていないのだから、この箒の実の姉『篠ノ之束』とは……。
立ち上がる箒が杏澄の隣に立つ。
「久しぶりだねぇ! 何年振りかなぁ!? あーちゃんとも結構連絡は取ってたんだけどねぇ!」
ちなみに“あーちゃん”とは杏澄のことである。一応メールなども結構していたが、会うことは今まで無かっただけに杏澄も少し人見知りが激しいだけに喋りずらくいた。まぁ早い話がオンラインゲームの中では饒舌に話せるも、いざオフ会をするとまったく話ができない、みたいなものだ。
まぁそんなことはともかく、テンション高めの束は箒と杏澄を見ていやらしく笑う。
「大きくなったねぇ二人とも! 特におっぱいが!」
わきわきと手を動かして二人に詰め寄る束。瞬間―――箒がどこから取り出したのか木刀で束の顎を勢いよく突く。血を吹き出しながら吹き飛ぶ束。
「殴りますよ」
「殴ってから言ったぁ! ヘルメットがなかったら即死だった!」
「(ヘルメットもないじゃん束さん)」
心の中で突っ込む杏澄だったがここは何も言わないでおく。それより杏澄的には束の巨乳、ひいてはその大きく開かれた谷間の方が気になるというものである。
「箒ちゃんひどーい! ね、酷いよね! いっくん!」
ここで“いっくん”こと一夏の方に話を振る束。混乱する一夏だが……。
「は、はぁ」
その答えだけを絞り出した。
それに見かねた千冬はため息をつく。
「おい束、自己紹介からしろ」
「え~面倒くさいなぁ!」
そう言うと束は千冬からの言葉に、面倒な表情をしながらも専用機持ちたちの方を見る。本気で今現在話しかけた四人以外に興味が無いのだ。あまりに興味がないことにより、
「私が天才の束さんだよ、ハロー! 終わりぃ♪」
疲れたような表情をする千冬と箒と一夏、変わらず苦笑する杏澄。
その名乗りを聞いて、四人以外の四人が全員驚いた表情をして束に詰め寄る。
「ほ、ほんとですか! お会いできて光栄です!」
「もしよろしければ私のISをみて頂けないでしょうか!」
「誰だよ君らは、金髪は私の知り合いにいないんだよ。専用機持ちだかなんだか知らないけど私の中で専用機持ちは箒ちゃんといっくんとあーちゃんしか居ないし、今私は君らに話かけた? というより視界に入れてあげた? どういう了見で君らはしゃしゃり出てきてるのか理解不能だよ。って言うか誰だよ君らは」
シャルロットとセシリアの言葉を聞いてその反応を見せた束は、それはそれは冷めた目をしていた。専用機持ち四人はあまりの束の性格にドン引き、理解していた千冬と箒と杏澄は深い深いため息。こんな性格だったなぁ、と一夏は若干なりとも懐かしむ。
束は四人を退けると、笑顔になり大空に手を上げた。
「さぁ、大空をご覧あれ!」
大空から落下してきた銀色の箱。束のリモコンのボタン一つでその銀色の箱は粒子化し、中身である紅のISが姿を現した。あまりの洗礼されたフォルムと煌びやかな紅に、全員声も出ない。
「これが箒ちゃんの専用機『赤椿』! 全性能が現行ISを上回る束さんお手製だよ! なんたって赤椿は天才束さんが作った第四世代型ISなんだよぉ」
全員絶句。まさにチート。その言葉を聞いた時点で杏澄は思った。
「第四世代……?」
「各国でやっと第三世代型の試作機ができた段階ですわよ……?」
「なのにもう……」
「(なん……だと……?)」
杏澄ですらも心の中で驚いた。だがそれを悟ったかのように笑顔で手を振る束。
「そこがほれ、天才束さんだからぁ!」
まったく謙虚じゃない。なんてことをその場の全員が思うが、自信に見合うだけの能力を篠ノ之束という女は持っているのだ。だからこそ入学式前日に杏澄をIS学園に転入させるなんて真似ができたのだ。
束は再びリモコンを操作する。
「さぁ箒ちゃん、今から
そして、千冬に促されて得体の知れないISの前へと立った。
その後、専用のISスーツへと着替えた箒は赤椿に乗り込む。通常ならば一夏のように戦闘しながらではなく他の者が
「箒ちゃんのデータはある程度入れてあるから、あとは最新データに更新するだけだね!」
「すごい、信じられないスピードだわ……」
鈴をはじめ全員もはや言葉も出ない。オタクと呼ばれ色々とパソコンに関しては勉強などもしていた杏澄だったが、それでも束のスピードは異常だと思えた。明らかに天才の域を超えている。
「ほい、
そう言う束のスカートの中へと、赤椿に付いていたコードは入っていく。
「(一体どうなってるんだろ……ゴクッ)」
中を想像して生唾を飲む杏澄は明らかな阿呆だ。
「そんじゃ、試運転もかねて飛んでみてよ、箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ!」
束の言葉に、頷く箒。少し眼を瞑れば赤椿は浮遊し……飛び上がる。
その加速度を見て明らかに異常だと気づく面々。だが今の速度なら、ただ飛ぶだけに集中すればサイレントビーストでも追いつくことも可能だろう。だがあくまでもサイレントビーストが最高速度を出したらの話であり、赤椿が現在最高速度かどうかは誰もわからない。
次はミサイルを撃ち落としたりもしているが……。
「スーパーロボット大戦にはいつ参戦予定なんだろ」
「そりゃもうアニメ化されれば近いうちに参戦だろうねぇ! 楽しみにしててねあーちゃん!」
冗談である。だが束はやりかねないので怖い。楽しそうに笑う束と、なんとなくだが元気のいい箒、杏澄は嫌な予感をさらに感じる。
そんな時、聞き慣れた教師の声が聞こえ、そちらの方を向けば山田真耶が走ってくるのを確認。
「(おぉう、揺れる揺れる)」
「大変です! 織斑先生!!」
走ってきた麻耶から端末を受け取る千冬。
「特命任務レベルA……現時刻より対策を始められたし……」
そう呟いた後、千冬は専用機持ちたちに視線を向ける。もはや杏澄としては千冬の言葉を聞いた瞬間、理解できた。大体にしてトラブルの臭いを感じていたんだから当然だ。
だが教師たちじゃなく、代表候補生その他もろもろ、専用機持ちがそんな任務に投入されることなどあるのだろうかと、杏澄は思う。
「テスト稼働は中止だ。お前たちにやってもらいたいことがある!」
「あれ、こちらの方は?」
「篠ノ之束だ」
「うぇええぇぇぇっ!?」
明らかに狼狽しおもしろいリアクションをする麻耶を見て、少しばかり和む杏澄だが……すぐに現実へと意識は引き戻されるのだった。
旅館内の一室はもう完全にブリーフィングルームそのものだった。
PCの画面には小難しい情報ばかりが並べられていて、畳の上に開かれているモニターには
「衛生による追跡の結果、福音はここから2キロ先の海上を通過することがわかった。時間にして五十分後、学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった。教員は学園の訓練機を使用して、空域、および海域の封鎖を行う、よって本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」
「えっ」
「は、はい!?」
裏返った声で驚く一夏、そして杏澄も同じくこんな作戦の要まで任されるとは思っていなかっただけに驚く。
「つまり暴走したISを我々が止めるということだ」
「ま、マジ!?」
「いちいち驚かないの」
鈴に釘を刺される一夏だが、納得のいかない杏澄。
「ちょっと待ってよ、なんで私たちが! そもそも代表候補生でもない人だっているんだよ!?」
さすがに今回ばかりは、命がかかっているからか大声で反論する杏澄。千冬、というか一夏以外に声を荒げることなんてない杏澄がそんな大声を出すものだから一夏と千冬以外全員が驚いていた。
「IS学園上層部の決定、いや向こうからの依頼という形なのだが、それは後に説明してやる」
どうにも腑に落ちないが黙る杏澄。千冬はそれに頷いてから『作戦会議だ』と宣言。
「意見がある者は挙手するように」
直後、セシリアが手を上げた。
「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
そこは大事だ、戦闘する上では必須事項とも言える。
「だが決して口外するな。事件の情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と“最低でも”二年の監視が付けられる」
「了解しました」
いつもと違う雰囲気の面々に、一夏と杏澄は混乱する一方だった。
出されるデータから得れた情報は『広域殲滅を目的とした特殊射撃型』ということであり、オールレンジ攻撃は戦闘中常に意識しなければならないだろう。
「攻撃と機動の両方を特化した機体ね、厄介だわ」
「この特殊武装が曲者って感じはするね、連続しての防御は難しい気がするよ」
「このデータでは格闘性能が未知数だ。偵察は行えないのですか?」
鈴とシャルロットとラウラの三人もそれぞれ作戦に必要なことをおさらいしていく。
「それは無理だな、この機体は今も超音速移動を続けている。アプローチは、一回が限界だ」
「アプローチが一度だけなら、一撃必殺の攻撃力をもった機体で当たるしかないですね」
つまりは、そういうことだろう。わかっていない一夏だったがすぐに察する。
「あんたの零落白夜で落とすのよ!」
「それしかありませんわね。ただ問題は……」
鈴とセシリアの言葉に、シャルロットがそちらを見た。
「どうやって一夏をそっちへ運ぶか、エネルギーは全て攻撃に使わないと難しいだろうから……移動をどうするか」
「目標に追いつける速度のISでなければいけないな。超高感度センサーも必要だろうし……杏澄のサイレントビーストでの直線移動ならば十分追いつけるのではないか?」
「まぁ、無理じゃないけど」
そんな質問に杏澄はなちゅらるに答えた。その時ストップをかけたのは一夏だ。
「ちょっと待ってくれ! 俺と杏澄、というより俺は絶対行くのか?」
『当然!』
杏澄以外の専用機持ちがそろって言う。一夏が不満そうな表情だが、千冬はそんな一夏を見て静かに一言。
「織斑、これは訓練じゃなく実戦だ。もし覚悟がないなら、無理強いはしない」
そんな言葉に一夏はハッ、と表情を変えた。杏澄はその表情を知っていたからこそ、心の中で深い深い溜息をついた。拳を握り締めて、しっかりと今目の前にある現実、命をかけた戦いということを見据えて振返る。
「やります。俺が、やってみせます!」
その言葉に千冬は頷いた。だが千冬が言葉を出すより先に杏澄が立ち上がるのは明らかに抗議をしたいから、それ以外の理由は無いだろう。
「待ってよ! 一夏も、わかってるのこれは命がけなんだよ!? 理由を、私たちがこの任務をする理由を求めます!」
「参加するもしないも自由だ、だがこの任務がIS学園に任された理由は三つ。まずは量産機では接敵すらできない。そして軍用機を奇襲し、落とせる可能性があるのは専用機のみ。最後は学園は特定の国に帰属しない、故に機密保持に便利、その三つだ」
納得できる理屈の合った理由。真耶もいつもと違う杏澄を見ていた。
「大人の都合ってわけ?」
「そうだ、だが専用ISを持っている時点でお前たちは子供という立場から限りなく大人に近づいている。だがそれでもお前たちはまだ子供だから、故に作戦に参加するか否かを決める権利をやっている」
「……でも、私はともかく」
「一夏がそんなに心配か?」
杏澄に近づきボソッと口にする千冬。
「そんなわけないじゃん、私は……私が死ぬのが怖いだけだよ。それに死ぬかもしれないって思えば誰だってこんな作戦に参加させたくない」
それに対して杏澄も小声で返事をした。
「でも……わかった。私もこの作戦、やるよ」
杏澄の返事に頷いた千冬。座る杏澄に、誰も何も言えなかった。千冬がそれを確認してから全員を見る。
「よし、それでは現在専用機持ちの中でサイレントビースト以上のスピードを出せる者は―――」
「―――ちょっと待ったぁぁッ! その作戦はちょっと待ったなんだよ!」
天井が外れ、そこから降り立つのは篠ノ之束。
「ここは断然、紅椿の出番なんだよ!」
その言葉に、千冬を始め全員が驚いた顔をしていた。赤椿の本来の機体性能をこの中で知っているのは篠ノ之束だけであり、その女がそう言うならばその通りだと思える。
だからこそ、全員が驚愕している。
杏澄の悪寒は、滅多に外れない……。
あとがき
はい、今回杏澄がやけにはっちゃけています。真面目な方も煩悩の方も!
次回はようやく福音戦、さてさて杏澄が混じっていますがどうなることやら!
束さんも出てきてようやくアニメで言えば一期ラストスパートであり、私が書きたかったのはもう少し先。
そしてこれから先、杏澄と一夏、またセシリアや鈴との関係などもどう変化していくのか!
お楽しみいただければまさに僥倖!