インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~   作:王・オブ・王

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第二十三話『言えなかったこと』

 あれから二度ほど場所を変えて、海岸沿いには杏澄と一夏と箒の三人がいた。いや、海岸沿いというよりも砂浜と言った方が良いかもしれないが、そこにいた三人は少しばかりいつもと違う。

 全員が同じような表情をしているわけではないのだが、ともかく杏澄はそわそわしていた。楽しみというわけではなく、その逆、ビビっていると言った方が正しいだろう。初の実戦に慄いている。

 そして一夏はと言うとずいぶん緊張しているようで、ジッとしたまま時計を何度も見ていた。

 二人とは正反対に、箒は別のベクトルでそわそわしてるように思える。

 

 そして時刻が11:30に差しかかると同時に一夏と箒が顔を見合わせ頷いて、二人で杏澄を見て頷く。

 

「来い、白式!」

「行くぞ、赤椿!」

「頼むよ、サイレントビースト!」

 

 一人だけ名前がやけに長いだとか雑念を抱きながら、杏澄はISを纏う。

 ISを装備した三人が飛び上がると、まず移動させられる側である一夏が移動させる側である箒に手を伸ばす。

 

「箒、よろしく頼む」

「本来なら女の上に男が乗るなど、私のプライドが許さないが」

 

「(箒ちゃんが好きな体位は騎乗位と……やば、興奮してきた)」

 

「だが、今日だけは特別だぞ!」

 

「(機嫌良いな、箒ちゃん)」

 

 一夏が箒へと近づき、箒の浮かれている表情を察して顔をしかめる。

 

「良いか箒、これは訓練じゃない。くれぐれも注意して作戦に―――」

「無論わかっているさ……フッ、心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる、大船に乗ったつもりでいれば良いさ」

「(タイタニック号じゃなければ良いけど)」

 

 心の中で毒づく杏澄だったが、それほどに今嫌な予感で苛立ちがしていたのだ。

 杏澄の予感は、嫌なほど当たる。いつもいつもそんなことばかりが当たる自分の勘に嫌気ばかりがさすが、そのおかげで警戒ぐらいはできるというものでもある。

 一夏も箒が“楽しそう”だということに気づき聞くが、箒は『いつも通りだ』の一言。

 

『織斑、篠ノ之、鬼柳、聞こえるか?』

 

 瞬間、千冬からの通信が入る。それに三人で返事を返す。

 

『今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心がけろ。打つべきは、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)、以降“福音”と呼称する』

 

「了解」

 

 三人でそう言うと、杏澄はこれが実戦なんだと今一度理解し身を震わせる。おそらくISスーツを着ていなければ尻尾がビンビンに立っていたことだろうと、思った。

 

「織斑先生、私と杏澄は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」

「(私も!?)」

『そうだな、だが無理はするな。篠ノ之は赤椿での実戦が皆無、突然なにかしらの問題が出ないとも限らない』

「わかりました。ですが、できる範囲で支援します」

 

 なるほど、と頷く杏澄。自分だって一応この作戦に“志願した”ことには変わらないのだから一夏を援護するぐらいの義務はあるだろうと、あくまで『自分の命優先だ』と自分に言い聞かせながら作戦行動をおさらい。

 

『一夏、杏澄』

 

「はい!」

「ひゃいっ!」

 

 突然名前を呼ばれて驚く二人だが、そんな二人を気にしない箒。

 

『落ち着け、これはプライベートチャンネルだ』

 

 なぜ今更プライベートチャンネルを、と思う杏澄だったがよくよく考えれば実の弟である一夏と長い付き合いである自分に送ってくるのは不思議でないと思う。だがそれでも作戦に関係ないことを千冬が言うとも思えずに耳を澄ます。

 

『篠ノ之は浮かれているな。あんな状態では何かを仕損じるやもしれん……なにかがあればフォローしてやれ』

 

「わかりました、意識しておきます」

「了解です」

 

『頼むぞ』 

 

 それから、プライベートチャンネルがオープンチャンネルに切り替わる。

 

『では、始め!』

 

 千冬からの合図を聴くと、一夏が箒の両肩に手を掛ける。

 赤椿に追いつけるだけのスピードを出すために、杏澄はただ箒に追いつくことだけを考えて飛ぶことにする。さもなくばサイレントビーストの最大速度を保てるわけがない、特に杏澄は『スピード出し過ぎて何かあったらどうしよう』などと考えてしまうヘタレは何も考えないぐらいが丁度良いのだ。

 

「おう!」

「行くぞ、一夏、杏澄!」

 

 飛び立つ赤椿、そんな赤椿に追いつくためにただ速度のことだけを考える杏澄。

 赤椿の背中に掴まっている一夏はあまりの風圧と速度とGにかなり苦しむようだが、一方の杏澄はしっかりと赤椿の背後に付き風圧を前の赤椿に打ち消してもらっていた。言うなればスリップストリームという奴だ。

 だがそれでも、サイレントビーストでそこまでのスピードを出したことが無い杏澄としては十分な負担になりえる。

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)すらも超えるかもしれぬスピードのまま、赤椿とサイレントビーストは飛ぶ。恐ろしいのは赤椿が白式を背負ったままその速度を維持してること……。

 

 前を飛ぶ赤椿に付いていくだけを考える杏澄は、何かを話している二人に応答するだけのことはできない。自分の役割は接近時において一撃目が回避された時のフォローだ。だから赤椿が止まった後に行動するので丁度良い。

 そして目の前の赤椿がさらに加速し、杏澄もそれに追いつこうと出力を上げる。

 

「見えた、行くぞ! うおぉぉぉっ!」

 

 一夏が叫びと共に、箒の上に立ち零落白夜を発動した雪片を振るう。だがそれは避けられ逆に多数の拡散ビームを放たれる。

 杏澄が状況を理解し、箒と一夏と杏澄の三人は別方向に拡散。

 拡散ビームはホーミングするもそれほど射程距離も無いのか、すぐに背後で爆発していくが素早いスピードを維持できない杏澄はなんとか急停止などで避けていき、ランスを持つと福音へと飛ぶ。

 

「箒、杏澄、左右正面から仕掛けるぞ!」

「左は任せろ!」

「なら私が正面ってことか、この配置だと!」

 

 正面がメインの攻撃ではないというのもまた新しい戦法だろうと、杏澄はランスを前に構えながら飛ぶ。

 

「うおぉぉぉっ!」

「はあぁぁぁっ!」

「ッ!」

 

 三人、三機で拡散ビームを避けながら逃げる福音を追っていく。

 

「かく乱する!」

 

 追いながらも杏澄がランスに内蔵されたビームマシンガンを乱射すると少しばかり射撃の勢いが弱まるもさすがに追いつくまでにはいたらない。だが射撃の勢いが弱まるだけで箒は単独での接近にて牽制ができる。

 

「私が動きを止める!」

「わかった!」

 

 赤椿の全身の装甲が展開し、ビームの刃が生成されその装甲の中の二つのビットが飛んだ。そのビットに杏澄が一度射撃をやめると、ビットは福音に掠り少しばかり動きを鈍らせた。少しだが赤椿にはそれで十分だった。すぐに追いつくとともに両腕に握られた刀を振り下ろすと福音が腕にて防ぐがそれでつば競り合いになり動きを止めるには十分。

 

「一夏、今だ!」

「早く!」

 

「ああ! ……!?」

 

 だが、一夏は止まっていた福音を過ぎ去りそのまま飛び去る。

 驚愕する箒と杏澄の二人、杏澄はすぐに福音の追撃は自分がやろうとするが箒がすぐに接近戦(クロスレンジ)での射撃にひるみ、蹴りにて吹き飛ばされる。動き始めた福音相手に杏澄も上手く反応できずに下がりながら射撃をするもそれも軽く避けられる。

 

 一夏の方をチラッと見る杏澄だが、一夏は真下の海を行く船を福音のビームから守った。

 一安心、という顔をする一夏を見て『やはり一夏はどの状況でも一夏だ』と安心半分苛立ち半分の杏澄、そしてそんな杏澄と違い苛立ちだけを覚える箒。

 

「なにをしている、せっかくのチャンスにッ!」

「船がいるんだ、海上は先生たちが封鎖したはずなのに……」

 

 ハイパーセンサーにて杏澄が船の所属を確認すると表示されるのは『国籍不明』の文字のみだ。それを確認しながらも杏澄はマシンガンを連射して福音の動きを牽制しておく。

 

「密漁船だねッ!」

「密漁船、この非常事態に!」

 

 だが杏澄一人の低火力の攻撃では牽制もたかが知れ、拡散ビームが再び放たれて三人はその攻撃を避ける。箒は一夏へと叫ぶ。

 

「奴らは犯罪者だ、構うな!」

 

 それにはごもっともだと思う杏澄だが、その考えでは一夏と一緒にはやってられないとも思う。

 

「見殺しにはできねぇ!」

 

 ただひたすらに密漁船への流れ弾を零落白夜を展開したまま切り裂く一夏。そんなことをしていればもちろんシールドエネルギーもドンドン低下していく一方であり、零落白夜の刃が消えた瞬間、一夏に直撃しそうな攻撃を箒が前に出て庇う。

 大した装甲だと、紙装甲とも言えるサイレントビーストを駆る杏澄はこの非常事態に『自分は何を考えてるんだろう』と苦笑。

 

「馬鹿者、犯罪者などを庇って! そんな奴らは放って―――」

「箒!」

 

 さすがに、一夏相手にそれを口に出すことが間違いだっていうことは杏澄でもわかる。だが何か良くわからない不快な感覚が一瞬、場を制した。

 ほんの一瞬だが一夏と箒と杏澄の心が、リンクした気がした。一夏は箒に『弱い物を見捨てるなんてらしくない』と言ったが杏澄自身もそれは思ったことであり、今現在の専用機持ちたちが同じ状況に遭遇して『犯罪者なんて見捨ててしまえ』と思うのは自分ぐらいのものだと、さすがに自分を笑う。

 

 ただ、箒にとって一夏に言われたことは自分を見つめなおすにふさわしいものらしく、箒から戦意が消えると共にその動きが止まり、刀を落としてしまった。落ちていく刀は赤椿から離れたからか自動的に量子化される。

 自分の両手を見て頭を抱える箒、なにか“トラウマ”に触れたのだと、杏澄は冷静に判断した。

 

 だがなぜそんなのんきにしていたのだろうと、杏澄自身が自分を恨むまで時間はかからない。すぐにアラートが出て、杏澄は動き攻撃を避けようとする。だが一夏は違う、自失して立ち止る箒へと一目散に飛び、そのまま福音の拡散ビームを一身に受ける羽目になった。

 シールドエネルギーもほぼ無い状態でそんな攻撃を受ければ、絶対防御が発動しようにもエネルギー不足は免れない。

 

「一夏ァッ!」

 

 叫び、吹き飛ばされる一夏を受け止める箒だが赤椿とてシールドエネルギーがもう無いに等しくそのまま爆発と共に海へと落ちていく。

 

「もぉっ!」

 

 悪態をついてから、杏澄はすぐに箒を掴んで飛び続く福音の攻撃を避けていく。この状況でなんとかする方法なんて一つしかない。

 

「一夏、一夏ぁ、一夏ぁッ!!」

「箒ちゃんは一夏を連れて猛ダッシュで戻って、まだ死んでるわけじゃない!」

「あ、杏澄は!」

「アイツの追撃を防がなきゃいけないし戦うよ! 大丈夫、すぐに戻るし……あのシステムを使えば逃げ切れる!」

 

 箒はその一言で理解した。あのシステム、箒は名を知らないがあの“BEAST SYSTEM”はセシリアや鈴、シャルロットやラウラすらも超えるほどの能力をを持っていると知っている。杏澄が杏澄で無くなるものの、福音を十分に牽制し、直帰ってこられると信じさせるほどのものだった。

 

「わかった、すまないっ!」

 

 箒は一夏のことを考えて、一心不乱に飛んだ。だがそんな赤椿に追撃をかけようとする福音の前にたちはだかりランスのビームマシンガンを乱射する杏澄は、額に汗を滲ませながら口元に笑みを作る。その笑みは余裕の笑みなどではなく『やっちまった』系の笑みであり、流れる汗も夏の熱さからだけでもない。

 ただただ、笑みが浮かぶのはもう状況を完全に理解できるからだ。

 

「あーあ、こういうのは一夏の役目なんだけどなぁ……」

 

 レーダーを確認するももはや箒はサイレントビーストが観測できる範囲を出ていた。それで良い、十分だ。どちらにしろこの福音から自分が逃れるのは不可能、先ほどのスピードは赤椿が前に居たからだし、一直線に飛ぶだけで敵の攻撃など来なかったからだ。

 やはりなんとか目くらましぐらいしなければ、自分が助かる術は無し。密漁船もどこかへ消えたがすでに通報も終えたのでOK。

 

「こんな時に“BEAST SYSTEM”は使えないしねぇ」

 

 大事なところで役立たず。もう溜息すらも出ないと思いながら、ランスを量子化し二挺の拳銃を手に持つと高速で動きながらトリガーを連続で引く。福音も杏澄を落とそうと拡散ビームを放つが杏澄はそれをどうにか避けながらも撃ち続ける。杏澄は一度も当たらず、福音に何度もハンドガンを当てるが装甲が違う。杏澄は高火力であるロケットランチャーを撃つが福音へと接近する前にそのミサイルも爆破される。

 

「やっぱりキツイなぁ!」

 

 こうなっては仕方ないと再びランスを出すとそのまま福音へと近づいていく。

 

「んのっ!」

 

 攻撃を回避しながらも、杏澄はランスにて攻撃を打ち落としたりもする。そしてクロスレンジへと持ち込むと同時にランスを突き出す。

 中に乗っている人間ごと本気で、殺す気で突き出したそのランスは福音の両手に掴まれ、止められる。それすらも計算の内にすぎずトリガーを引きビームマシンガンを連射する。超至近距離でのビームマシンガンの連射、爆煙があたりを覆うがすぐにランスを量子化させて爆煙から出る杏澄。

 

「ハハッ、一夏の仇って奴だよ―――ッ!?」

 

 自分が反応するより早く、爆煙から出てきた福音が杏澄の腹部を蹴る。吹き飛んだ杏澄がなんとか体勢を整えるもすでに遅い。視界一杯の拡散ビームに、杏澄は寂しそうに笑う。

 

 ―――こんなことなら、一夏にお礼……素直に言ってれば良かった。

 

 最後に思ったのはそんなこと、その攻撃食らうとすぐにサイレントビーストのエネルギーは0になり、さらなる追撃は杏澄を傷つけ意識を刈り取る。

 最初に激痛を体中に感じたものの、すぐに痛みの感覚は無くなり意識は刈り取られていく。落ちる感覚を体に受けながら杏澄は後悔だけをしていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 篠ノ之箒が帰ってきて作戦の失敗を悟った千冬は、混乱する箒に『杏澄はどうした!』と聞くことはできなかった。彼女も一夏がやられたことに混乱していて、自分が浮かれていたことを後悔している。

 そんな彼女に追いうちをするような真似をできなかった。

 緊急処置が行われる一夏のそばに行くわけにも行かず、いまだにブリーフィングルームに集まっている一夏と杏澄を除き、箒を含む専用機持ちたち。

 

 千冬の頭は『杏澄はどうしたのか?』その考えで必死なのだがすぐに杏澄が福音と戦ってることを知らされる。箒自身が話だしたのだ。

 

 ―――杏澄が、自分一人残って戦うことを選んだだと?

 

 それは千冬に衝撃を与えるに足ることだった。世界最強(ブリュンヒルデ)すらも心を動かす存在、織斑一夏と鬼柳杏澄の二人。

 織斑一夏はいつも、人のために何かを出来るいわば主人公体質な人間だったのだが杏澄は違った。自分のことを第一に考えながら他人の目におびえながら他人に気を遣いながら生き、それでも最終的には自分優先の人間だった。だがそんなタイプの違う二人を本気で愛しているのが千冬であり、そんな二人を理解してると思っていた。

 

 それでも杏澄は、誰かのために自分を犠牲にした。だが少し落ち着く、もしかしたら勝機があるのかもしれないと思い、缶コーヒーを開けて口を付けようとした瞬間―――。

 

「サイレントビースト……鬼柳さんの反応、ロストしました」

 

 絶望するような声音の後輩教師の声を聞こえる。

 後ろにいる専用機持ちたちが『え?』と声を揃えて言うのと、自分の手からすべり落ちた缶コーヒーが“カラン”と音を立てるのは、ほぼ同時に思えた。

 

 

 




あとがき

福音とのファーストコンタクト終了、これにて次回はオリジナルが少し入ったりなどします。
どうでしょうか、みなさんお楽しみいただけているでしょうか? 最近はちょくちょく感想をもらえるようになって調子良く頑張っております!
今回は杏澄が少しばかりカッコよく(?)足止めをしますが、まぁすぐに落とされました。

ともかく杏澄が杏澄が思っている以上にみんなに大切に思われてたってことを今回で読者の皆様にわかってもらえたらなと思います。

……真面目なのは私に会いませんな(笑)
では、次回もお楽しみいただければまさに僥倖!

PS
感想いただければ感無量!
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