インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~   作:王・オブ・王

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第二十四話『血の繋がり』

 旅館のブリーフィングルームとなっている一室には、夕日が差し込む。

 そこにいるのは山田真耶と織斑千冬の二人だけであり先ほどの作戦からしばらく経っているのがわかった。

 鬼柳杏澄がロストしてから専用機持ち全員に待機命令を出して、誰よりも自失呆然としていたセシリアと鈴を若干ながらもうらやましく思ったのは、千冬が『大人』だからだろう。杏澄の捜索は続いているが見つかったという報告は一切ない。

 

 山田真耶は顔をしかめながら聞く。

 

「……停止していますね、本部はまだ私たちに継続を?」

「解除命令が出ていない以上、継続だ」

 

 先ほどコーヒーを落とした時は明らかな動揺をしていたのだが、今はもう違う。

 

「ですが、これからどのような手を―――」

「失礼します」

 

 ブリーフィングルームの外から声がして、千冬は眼を細める。

 

「誰だ」

「デュノアです」

「待機と言ったはずだ。入室は許可できない……!」

 

 叱咤するような千冬の声に、外のシャルロットはビクッと体を震わせた。

 

 部屋の外にいたのはシャルロットとセシリアと鈴、そしてラウラだ。前者三人は顔をしかめるがラウラは違う。

 

「教官の言うとおりにするべきだ」

「でも、先生だって一夏と杏澄のことが心配なはずだよ! 二人のお姉さんなんだよ?」

「杏澄さんは、見つかりませんし……織斑一夏は目を覚ましませんものね」

「手当の支持を出してから、一度も顔を見に言ってないしね……杏澄がロストしたって言われて私たちに待機命令をだしてそのまんまだもんね」

 

 先のことを思い出すが、コーヒーを零すという動揺を見せて以来やはりいつもの千冬に戻ってしまった。あんなに一夏と杏澄が慕っていた姉だというのにあまりにも冷静。

 そしてそんな一夏を慕っているラウラも冷静な表情だった。

 

「だからどうしろと?」

「箒さんにも声をかけませんでしたわ、いくら作戦失敗とはいえ冷たすぎるのではなくて?」

「今は福音の捕捉に集中する。教官はやるべきことをやっているにすぎない」

 

 これが軍人としての、実戦と隣り合わせの立場に居た人間の言うことなのだ。

 

「教官だって苦しいはずだ、苦しいからこそ作戦室に篭っている。心配するだけで、一夏を見舞うだけで、杏澄を探し出すだけで福音を撃破できるとでも? それよりも問題は……」

 

 そう、問題はもっとも罪悪感に苛まれている少女がいること。

 自らのせいで愛する相手が重体になり、愛すべき友人が行方不明になった。意識不明のまま寝ている一夏を見ながら、篠ノ之箒はジッとしている。先の戦いでいつも髪を結んでいるリボンは焼け散り、長い髪が俯く彼女の表情を隠す。

 その雰囲気はまるで杏澄だ。

 

「私は……違うっ、違うんだッ! 見えなくなったわけではない、奴らが弱い奴とでも言うのかっ……守るべき存在だとッ? 奴らは秩序をみだしている。なのにお前はどうして奴らを許せるッ、それが、お前の強さなのか? だからお前は強いのか? お前に比べて私は……」

 

 顔を上げれば、その暗い表情がわかる。その瞳は潤んでいて今にも涙が零れかねないという表情。

 

「力の赴くままに、暴力を……振るっていただけなのだろうか? 一夏にとって、密漁船も私も等しく守るべきものだったというのに……私はッ!」

 

 かつてのことを思い出す。まだ自分と一夏と杏澄の三人が一緒に剣道をやって居た時だ。

 自分を男女だと罵ったクラスメイトを、後先考えない杏澄と一夏がボコボコにした。

 あの頃から一夏は鈍感だったし、箒と杏澄と仲良く一緒にいた故か『二股二股』と散々言われていた。それ自体は一夏自身怒ることなく、杏澄も人気者だった故にそれほど言う人間も少なかった。あの二人が怒るのは友達や身内が何かを言われた時ぐらいのものだ。

 

 だからだろう、一夏に惚れたのは……。

 杏澄が男だったら正直、どちらに惚れていたかわからない。

 箒は思い出す。箒が一夏に惚れていると知っていた杏澄は良く自分と一夏を二人きりにするために先に行ってみたり遅れてみたり、気を遣ってくれていたと……。

 今でこそ昔とずいぶん変わってしまったが……。

 

「昔から杏澄は、そういう奴だった」

 

「……杏澄が、どうしたって?」

 

「ッ!?」

 

 箒の目の前で、一夏が起き上っていた。いつも通りの笑顔を浮かべる一夏を見て、箒は感極まり涙があふれ出すのを必死で押さえる。

 

「なんだ、泣いてるのか?」

「な、泣いてなんて居ない!」

「そっか……さて、立たなきゃな」

 

 一夏が痛みがまだ抜けないであろう体で立ち上がった。そして丁度部屋へと来た真耶が、一夏を見て驚く。

 

「織斑君!? せ、先生! 織斑先生!」

 

 騒々しい音を立てて出ていく真耶を見て笑う一夏だったが、やはり箒はまだ暗い気持ちが抜けなかった。一夏は知らない、杏澄が撃破されたということも行方不明だということも……。

 だがそれを知るまで、それほど時間は要さないだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 鬼柳杏澄は、そっと自分が生きていることを自覚した。

 そっと眼を開いてみると、目の前には知らない天井とかそういうレベルで無く……知らない女の顔がそこにはある。いや、良く見てみると知らない顔ではない。

 二度ほど会ったことがある少女だった。真っ白なセミロングの髪をした少女はローブをかぶった姿しか見たことが無いが、なんとなくわかってしまったのは何か感覚的なものだろう。

 

「お目覚め?」

「ん……あれ」

 

 自分がベッドに寝ていると気づいて起き上ると、自分がベッドに寝ていたことに気づく。

 

「えへへ、また会ったね“お姉様”♪」

「……なんか、キャラが―――」

「キャラが変わってない、って? ごめんねお姉様、初対面の時は偉そうなこと言っちゃったね。お仕置きする?」

 

 杏澄はやらしいことを考えてしまったが、まぁともかく自制する杏澄。

 

「お姉様、尻尾揺れてる」

 

 そう言われてビクッとなり立ち上がり、ベッドの下にあるスリッパを穿くと近くにあった姿見で自分の姿を確認する。自分のISスーツと似ているのだが、色は黒で尻尾の穴があること以外は変わりなく、頭の上の耳も隠れていず眼を隠すようにしていた前髪もわけられている。たぶんだがわけたのは“あの少女”だろうとわかった。

 こんなに何も隠さずにいるのは一人きりの時か、一夏と一緒の時ぐらいなので新鮮だ。

 

「ねえお姉様、本当にごめんなさい」

「あ、えと……」

「偉そうにお姉様に“家族なんてない”なんて言ってしまったこと、後悔していたの……でも私の気持ちも少し、わかってほしいな?」

「あ、う、うん……」

 

 どう反応していいかわからない杏澄は曖昧な表情で返事を返す。

 ともかく、今は現状を確認したく、周囲を見渡してこの部屋が機械ちっくな部屋だとうことに気づく、アニメで見る戦艦の内部のようなその部屋を見ていると、少女は声を出した。

 

「ここは私たち“アームドピース”の戦艦の中よ」

「へ?」

 

 意味不明だった。そのアームドピースとやらがなんなのかもわからないように、戦艦の中になぜ自分がいるかもわからない。

 

「日本で言えば武装する平和……“私たち”の生まれた理由もこの組織があったからよ」

「生まれ……」

 

 杏澄がずっと気になっていたことの一つ。杏澄の両親は犬耳はおろか犬のような尻尾もついていなかったし目も普通だったはずだ。なのに、なぜ自分だけがこうなっているのか、中学生に上がる前には両親も行方不明で織斑家に世話になっていたし、自分と両親が本当に血のつながりがあったわけではないのはわかっている。

 だからこそ、その理由が気になっていたがよもやこんな組織に関わりがあるなどと思いもしなかった。

 

「お姉様、私とお姉様はしっかり血のつながった姉妹よ、遠慮なんてしないでなんでも聞いて?」

 

 自分の妹と名乗る少女は、そう言った。

 

「あ、えっと……私はどうしてここに?」

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が暴走してIS学園の専用機に事と次第が任されたって聞いて、私たちは艦を動かしたの、お姉様おためにね」

「私の、ために?」

 

「そう! 私たちにとってお姉様は生き別れた大事な仲間なんだもの!」

 

 大事な仲間と言われて、正直杏澄は気味が悪いと思った。自分は知らないのに、それでも仲間と言われた。

 

「あと、福音は?」

「福音? あぁIS学園はそうコールしてるのね、あれは今現在海上で停止中だよ」

 

 まだまだ聞きたいことが山ほどあり、杏澄が聞こうと思った瞬間、部屋の扉が開いて男性が一人入ってくる。年配の男性が爽やかな笑顔を浮かべていた。

 おじさん、という感じの雰囲気の日本人だ。

 

「起きたのかい鬼柳杏澄君、大事無いようでなによりだ」

「は、はい」

 

 なんだかフレンドリーすぎてあまり上手く返事ができない杏澄は、そもそも人見知りが激しいのだからまともに話せるわけもない。だが相手の年配の男性はそれをわかっていて笑っていた。

 杏澄が急いで髪を下ろそうとも思ったが、妹の話では目の前の男性も自分の事情を知っているのだろうと少しばかり安心して男性が軍人のような服装をしていることに気づいた。白い軍服。

 男性は妹の方を見る。

 

「とりあえず服を出してやりなさい、この服装で艦内を歩きたくはないだろう」

「はい、片瀬司令」

 

 男性こと片瀬に支持された妹は、すぐそばのクローゼットから一着の白い軍服を出して杏澄に渡す。

 

「大きいかもしれないけどこれを着てくれる、お姉様?」

「あ、うん」

 

 それを受け取ると、着てみる。確かに大きく袖で手は半分ほど隠れるが別に問題は無いだろうと前のチャックをしめた。杏澄は気づかないかもしれないが見てる側としては非常に扇情感を煽り立てる感じになっている。と言っても片瀬も杏澄はもう娘ほどの年齢だろうからか、特に気にした様子は無い。

 逆に妹の方はずいぶん息を荒げているがそれに気づく杏澄でも無かった。

 

「さて、とりあえず君はIS学園に帰りたいまへ……こんなテロ組織と罵られる場所にいるものではない」

「……はい」

 

 そう返事をして杏澄は『ここはテロ組織』なのかと思った。ともかくこの組織の事情はわからないけれど今は帰らなくてはいけないと思い、片瀬の後をついて部屋を出る。妹も同じく杏澄の後を付いて、共に艦の中を歩き出した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 旅館のブリーフィングルームに千冬と山田真耶の二人が居た。相変わらず二人はモニターを見ているが、千冬は起きたと言われた一夏の様子を一度も見に行っていない。内心は安心して嬉しいはずだ、しかしまだ杏澄も見つかっていないこともあり完全に安心できない。

 だがそんな時、ブリーフィングルームの襖が勢いよく開き、ドスドスと音を立てて一人の男子生徒が入ってくる。そもそもIS学園に男子生徒など一人しかいないこともあり、その生徒が織斑一夏だということは簡単にわかった。

 

「千冬ねぇ! なんで杏澄を探しに行かないんだよ!」

「捜索隊がまだ捜索中だ! 入るなと篠ノ之達に伝えられたはずだ!」

「杏澄が心配じゃないのかよ!」

 

「待機命令を出したと言っているだろう!」

 

 千冬が振り向くと同時に一夏の頬を打ち、一夏は地面に尻もちをついた。それですんだということは手加減はしたということだろう、病人相手なのだから当然だがさすがに今回ばかりは一夏は文句を言えない。

 言い過ぎたというのは理解しているはずだ。というよりなぜそこまで一夏は言ったのか? 千冬が杏澄を大事に思っていることを一夏も知っているはずなのに、なぜなのか……。

 

「……失礼します」

 

 一夏は不満そうに言うと、部屋を出る。

 部屋の前には箒たちが居て、誰も暗い顔をしていた。一夏が殴られて赤くなった頬を抑えていると、箒が突然走り出してその場を去る。

 全員が驚いた表情をするが、すぐに理解して箒を追うのだった。

 

 

 

 旅館から走って、箒は砂浜に来ていた。立ち止ると肩で息をしながら自らの過ちを振り返る。

 確かに一夏は起き上がり命に別状も無かったが、自分は杏澄を殺しているかもしれない。優劣をつけるのならばやはり一夏の方が優先順位は高いかもしれないが、それも僅かだ。愛している相手とわずかと言われる場所にいるだけ杏澄はやはり箒にとって大事な存在でもある。

 だからこそ、一夏に怒りがいつか自分に向くのではないかと怖かった。いや、もしかしたら鈴やセシリアはすでに自分を恨んでいるのではないかと……。

 

「箒!」

「ッ!?」

 

 驚く箒だが、後ろの鈴を見ることはしない。

 

「はぁ~あ、わっかりやすいわね……あのさ、杏澄がこうなったのも全部あんたのせいなんでしょ?」

 

 そんな言葉に明らかな動揺を見せる箒。

 

「で、落ち込んでますってポーズ? ……ざけんじゃないわよ!」

 

 自分と眼を合わせようとしない箒の胸倉を掴み、至近距離まで顔をよせる鈴。箒の長い髪が舞うが、すぐにその髪は垂れて、箒の顔もあまりに覇気がない。

 苛立ったような鈴の表情を前に、おびえているようにも見える。

 

「やるべきことがあるでしょうが! 今戦わなくてどうすんのよッ!」

「……もうISは……使わないっ」

 

 瞬間、鈴は箒の胸倉を離して左手で箒の右頬を打った。波の音に負けじと響くその音と共に、箒は砂浜に倒れ込んだ。

 やりかえすこともせずに、箒はただその場に倒れ込んだまま。

 

「甘ったれてんじゃないわよ! 専用機持ちっていうのはね、そんな我儘が許されるような立場じゃないの! それともあんたは、戦うべき時に戦えない臆病者なわけっ!?」

 

 倒れている箒が、拳を握りしめる。

 

「だったら、どうしろと言うんだ……ッ」

 

 箒の声は、怒りに震えていた。

 

「もう敵の居場所もわからないッ、戦えるなら、私だって戦っているッ!!」

 

 その言葉を聞くと、鈴は笑う。

 

「やっとやる気になったわね」

 

 鈴が視線を動かし、箒もそちらに目をやる。視線の先に立っていたのは一夏、セシリア、シャルロット、ラウラの四人だ。

 

「あ~あ、めんどくさかった」

 

 完全に貧乏くじを引いたと言うように笑う鈴、そして一夏たちも笑っていた。

 そんな様子の五人を見て動揺する箒。

 

「な、なに?」

「みんな気持ちは一つってこと」

「負けたままで終わって良いはずが無いでしょう?」

 

「さぁ、行こうぜ箒!」

 

 箒の顔に、笑みが浮かんだ。

 ラウラが一夏に眼を向ける。

 

「私が衛星を使ってと思ったが、おもしろいことを言うものでな」

「さっきブリーフィングルームに怒ったふりして入ったのは福音の場所を確認するためだ」

 

 だからこそ、怒りに任せたように見せかけて千冬に歯向かったのだ。

 

「さて、全員準備はできてるな?」

 

 一夏の声に全員が頷く。

 

「当然、甲龍(シェンロン)の攻撃特化パッケージはインストール済み!」

「わたくしも高機動パッケージのインストールは完了いたしまいした」

「ボクも準備オッケーだよ、いつでも行ける!」

 

「待て! 行くと言うのか? 命令違反ではないのか!」

 

 先ほど言ったことと、まったく正反対のことだ。

 

「俺たちに託された任務は福音の破壊、これは命令違反じゃなくて破壊のための行動だ……それに箒は今、戦うって言っただろ?」

「お前はどうする?」

 

 一夏とラウラに聞かれ、箒は腕の赤椿に触れる。

 

「私、私は……戦う、戦って勝つ! 今度こそ負けはしない、そして杏澄を見つけ出す!」

「それじゃあ決まりだな、今度こそ確実に落として、迎えに行かないとな!」

「アイツの行動パターンも僅かだがわかった、問題は無い!」

 

 全員が顔を見合わせて、頷いた。

 それぞれが立ち向かうことを決めて、自分たちの判断で福音と最終決戦を行うことを決めたのだ。

 箒にもう迷いなど無い。

 勝つと決めた、杏澄のためにも……。

 

 

 

 




あとがき

今回はあまり物語が進んだとは言い難い感じですかね、とりあえずアニメ通りって感じの流れですが、一夏が起きるのが早いです。理由としては杏澄のおかげで治療が早く済んだからって感じなんですが、オリジナルキャラクターも二人ほど出てきて、大丈夫かな? と思う作者でござりまする。
ともかく、次回は福音戦をラストにしたいなぁとか思いながら執筆します。

では、次回もお楽しみいただければまさに僥倖!

PS
感想ありがとうございますで候。これからもよろしくお願いします。
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