インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~ 作:王・オブ・王
※胸糞注意
あれから一週間、鬼柳杏澄と織斑一夏がぎくしゃくしているという噂は一日で学園中に広まった。
本人たちには届かないが噂の内容と言えば『二人が別れた』や『喧嘩した』とかまぁ全部ハズレなことばかりだ。
事実をそのままに説明するならばぎくしゃくしていると言っても一夏の態度がぎくしゃくしているというだけであり、杏澄はいつも通りなのに一夏が勝手に意識しまくっているのだ。
まぁ、ファーストキスをいつも身近にいた少女にすればそりゃ意識もするというものである。
だが、杏澄は理由がわからずに混乱していた。
―――どうしたんだろう?
そう考えても答えは出るわけがない。
「お二人に、なにかありましたか?」
「私で解決できることならすぐに相談しなさいよ!」
「杏澄と一夏の二人がこうなってしまっているのは私としても不本意だ」
「どうしちゃったの?」
「む、喧嘩はいかんぞ!」
いつものメンバーはそう言うが杏澄としてもなにがなんだかと言う気分だ。
そして一夏と話すことも自然と少なくなってから、杏澄の周囲で異変は起こっている。
たとえば靴の紛失、教科書の貧相の無い落書き、残っていた靴の中に画鋲、椅子の上に画鋲、部屋の前に画鋲、机の上に画鋲……すでに集まった画鋲の数は100を超えるだろう。
確実に複数のグループからの複数の攻撃だということを納得している杏澄。
一夏と離れてから嫌がらせが増えるとは思いもしなかったが、正直に言ってしまえば杏澄はそうされることなんぞ“慣れ”ていた。
理由とすれば中学校の頃や小学校の頃もこういう扱いを受けたことがあるからだ。
杏澄がこうも根暗になった理由の一つが箒が転校した後に、一夏と別のクラスになって受けた陰湿ないじめが原因である。
だが一夏がそれを知ることもないだろう。
最近、杏澄がそういう嫌がらせを受けていると知ったセシリア、鈴、箒の三人が怒りに震えたが犯人がわからないことと杏澄自身が『大丈夫だから、大きくしないで』と言ったことにより動けずにいた。
だいたい犯人がわからないし、いざそういうこととなればもっと嫌がらせが激しくなるのを杏澄は知っている。
だから大人しくその陰湿な嫌がらせを受けることにした杏澄。
どうせ、その程度だから……。
だが、不思議なことに同じクラスの生徒はなにもしてこなかった。
「まぁ、良かった……」
だが、わざわざクラスメイトたちが来る前に学校に来て画鋲をしかけるなんて頑張るじゃないかと、杏澄は内心関心すら覚える。
まぁクラスメイトがいつも通りと言っても、ごく少数の人間としか喋らない杏澄。
朝食、昼食、夕食と一夏と一緒である杏澄だがどうにも会話が弾むことはない。
「そう言えば一夏ってあの時さー」
「ん、あ、あぁ……そうだったっけ?」
なんだかぎこちない笑顔でそう答える一夏を見ると、杏澄としても話す気が無くなるというものだ。
だからこそ昼はさっさと終えてその場から去る。
一夏と杏澄の関係が一言で語れずに簡単に説明できるものではないと知っているから、他の専用機持ちたちもろくに関われない。
このことに関しては織斑千冬もかなり問題だとは思っているのだが、いかんせん理由がわからないことにはどうしようもなかった。
そして気づけば、あれからまた数日が過ぎていて……。
杏澄はいつものメンツとの練習もサボって寮の部屋にこもってゲームをする時間が増えた。
部屋にある小さな冷蔵庫の中身を見れば、飲み物が無くなっていることに気づく。
「……買いに行くしか、ないかぁ」
ため息をついて、杏澄はISスーツの上から私服を着て部屋を出た。
休憩所の自動販売機を前にして、杏澄が金を入れて缶コーヒーを何本か買ってから杏澄が両手に缶コーヒーを抱えて振り返った瞬間、目の前に見覚えのない女。
瞬間、腹部に鈍い痛みと衝撃が奔って両手に抱えていたコーヒーを落としてその場に蹲る。
「カハッ……ァッ……」
少しばかり呼吸ができなくなるも、持前の回復能力ですぐに息を正そうとするもやはりどこか荒くなった。
口の端から涎が垂れるがそれを拭う暇もなく、目の前の女が屈んで杏澄の後頭部の髪を引っ張り上げる。
顔は前髪で隠れたままだが女にとってはそれはどうでも良いようだった。
「な、なん、ですか……?」
「なんですかじゃねぇよな、鬼柳さん?」
三年生だということを理解するのに時間はそこまで必要としなかった。
そしてその三年生の女の背後にも三年生が4人ほど居て、横には二年生がいる。
上級生たちに囲まれた杏澄は、怯えながらなにもすることはできなかった。
「織斑君と喧嘩したのかなんなのかしらねぇけどようやく、憂さ晴らしできそうじゃん?」
「わ、私は関係な―――あぐぅっ!」
さらに髪を強く引っ張られて杏澄は小さく悲鳴を上げる。
だが三年生たちは笑うのみ。
「関係なくねぇよな、お前がいたから全然こちとら近づけなかったわけだしさぁ?」
自分がいなくてもそれは変わらなかっただろうと思う杏澄だったが、ここで口答えできるほど杏澄は状況を理解できなくもないし、なによりも杏澄は怖かった。
いままで嫌がらせは受けたが、こうも暴力的なことをされたことはない。
自分が受けた授業を三年間続けてきたものの力というのは今さっき痛みをもって十分理解している。
だからこそ、杏澄はすでに抵抗できなかった。
「あのさぁ、お前もうちょっと早く身を引けばよかったんだよ、織斑君の幼馴染だかなんだか知らないけど色目使いやがってさぁ……胸だけのくせして」
三年生が杏澄の髪を離して、落ちている缶コーヒーを空けて一口飲む。
「まず、売れ行き悪いらしいよこれー」
「織斑君が飲んでたけどね」
「あはは、やっぱ昔馴染みは味覚も似るのか、ね!」
横の三年生が杏澄の脇腹を蹴る。
「っ……ッ!」
逆流しそうになる胃の中のものをなんとか押し込んで、杏澄は上体だけを起こす。
格上の者たちに見下ろされてると、惨めを通り越して恐怖しか浮かばず、杏澄は震える心を押さえるので精一杯だった。
三年生の一人が、飲みかけのコーヒーを杏澄の頭の上でひっくり返す。
「あぅっ……」
ボタボタとこぼされるコーヒーに、どうすることもできない。
もう『ホットじゃなくて良かった』と考えるような思考に陥っている杏澄は、どうすることもできずにいた。
その缶のコーヒーが無くなると三年生は軽くその缶をつぶしてから杏澄の前に落とす。
「このこと、ちくったりしたらこうなっちゃうよ?」
「っ!?」
ドスの低い声で言われて、杏澄は悲鳴も出せないままその場に座っていた。
三年生と二年生の団体はそこから笑いながら去っていき、その場に残されたのはコーヒーを頭からかぶった杏澄だけ。
いつまでもそうしていればクラスメイトやらに見られかねないと、杏澄は急いで缶をかき集めて走って自室へと帰った。
すぐに鍵を掛けてから缶コーヒーを冷蔵庫に入れてバスルームへと行き服を洗濯機に投げ込むとシャワーを浴びる。
そのまま真下を見ても胸が邪魔でお腹がろくに見れないので鏡で確認すると、そこには青い痣があった。
でも、誰もここが見えるわけがない。
「じゃなきゃ、やんないか……」
まさかあんな風なことをしてくるなんて思いもしなかった。
杏澄はため息をついてからその腹部をそっと触って痛まないかを確認するが……。
「痛い……」
自嘲するように笑うと、杏澄はシャンプーを手に乗せて頭をガシガシと洗うのだった。
その日から、今度は杏澄も一夏と必要以上に話すことをやめた。
◇◇◇◇◇◇
それから数日、自分の部屋にいることがさらに多くなった杏澄だったが、登校しなければ怒られるので不本意ながら登校はする杏澄だった。
それでも、練習を断り続ければツンデレこと鈴が文句を言うのは当然であり、同時にラウラもやってくる。
そして結果、放課後に二人に呼ばれた杏澄。
「なんで最近サボってんのよ!」
「もうすぐ夏休みだからって良くないぞ杏澄!」
わかってる、けれどこれ以上一夏と一緒にいて、怖い思いをしたくない。
だから断りたいけれど『いじめられるから』と素直に言えるわけもなく、杏澄は黙ってうつむいているのみだ。
いつも通りの根暗っぽいそんな仕草に、違和感はない。
「杏澄!」
「杏澄!」
だが二人に呼ばれて、杏澄の思考はぐちゃぐちゃになる。
「……さぃ」
「ん?」
「どうした?」
「う、うるさい! うるさい! 一夏が全部悪いんだ! 全部あいつが悪いんだっ、私は悪くない、昔からっ、うあぁっ!」
叫んでから走り去っていく杏澄。
そんな杏澄に唖然としてなにもできなくなる鈴とラウラの二人は、顔を見合わせてからただ事ではないと一夏の元へと行くことにした。
そしてそんな光景を見て、心配そうな顔をする者もいれば笑う者たちもいる。
その笑う者たちは、顔を見合わせてから杏澄の元へと行くのだった。
織斑一夏は制服も着ずにISスーツのまま走っていた。
原因はと言えば鈴とラウラに杏澄が錯乱していたことを聞いたから、いや正確には『一夏が全部悪いんだ!』と言っていたと聞いたからだ。
最近、杏澄とぎくしゃくしていた自覚はあったしその原因が自分であることもわかっていた。
そもそも友達が少ない杏澄、身内が居ない杏澄、なぜもうちょっと配慮できなかったと自分を責めながら走るも、杏澄の部屋が見えてきた時、杏澄の部屋の扉が開いた。
「あれ?」
「あ、あぁ織斑君!」
出てきたのは三年生で、その三年生と二年生の団体を見た一夏は足を止める。
なんだか驚いていた三年生たちだが杏澄はどうしたのだろうと思うも、三年生たちに事情を聞こうと思った。
「杏澄ちゃんね、最近は私たちと遊んでたんだけどちょっとイライラしてたみたいで……織斑君って男の子で、専用機を持ってる子たちも君に近いでしょ? 杏澄ちゃんのことは私たちに任せてくれないかな?」
「えっと、先輩たちは杏澄の友達、でしたか……」
「うん、あと部屋に走ってくる最中でこけて額ちょっと怪我しちゃったみたいで、こっちで応急処置はしたけどまだちょっと不安定だから、そっとしておいてあげてくれる?」
そんな風に心配するような表情を見せる三年生たちに、一夏は『杏澄にもしっかり友達ができてたんだな』と安心して安堵の息を吐いた。
「ありがとうございます先輩方、それじゃ杏澄のことお願いします!」
「うん、あと昔の杏澄ちゃんのこととか聞きたいから今度一緒に御飯しようよ」
「はい、最近杏澄とうまくいってなくて、ホントありがとうございます!」
笑顔を浮かべて一夏は去って行った。
三年生たちは笑顔でそんな一夏に手を振って……一夏が言ったのを確認すると、今度は彼女たちが安堵の息を吐いた。
「たく、殴った拍子に壁にぶつけるなんて、どんだけ間抜けだよ!」
「まぁまぁ、とりあえず放って部屋行こうよ。良い脅しの写真も撮ったしさー」
「そだね!」
三年生たちがその場を去る。
部屋の中の杏澄はと言うと、バスルームに居た。
シャワーノズルが水を出しながら床に転がっていて、杏澄は制服のまま壁に背を預けて座っている。
カチューシャは外れて地面に落ち、犬耳ならぬ狼耳はむきだしであり、その額からは血が出ていてすぐ横の壁に血がついているのを見ればそこにぶつけたとわかりやすいだろう。
前髪もわけられて眼が見えているが、その眼に一切の光は無い。
もう絶対に逆らえない、脅しの写真こと杏澄の耳がある写真を撮られた。
頭の先から足元まで、制服ごとビショビショの杏澄は特に表情を変えるでもなく、制服を脱いで洗濯機に入れると、ISスーツも脱いで生まれた姿そのままシャワーノズルを持って壁に掛ける。
鏡に映る自分の腹部や太股には青痣があり、視線を移して額から流れる血が排水溝へと流れていくのを見ながら、杏澄はそのまま床に座り込んで口元に笑みを浮かべた。
「あ、あははっ、もう無理っ、逆らえなぃ、終わった……私の楽しい生活、終わっちゃったよ、あははっ! あははははっ、うっ、うぐっ……うぅっ」
自分の体を抱きしめながら、杏澄は唇を噛みしめ声を押し殺す。
シャワーに混じって排水溝に流れるのは額から流れるそれと、琥珀色の瞳から流れるナニカ……杏澄は、ただ声を堪えることしかできずに全身にせめて暖かいぬくもりを得るのだった。
誰も悪くない、だけれど誰かのせいにしないとつぶれてしまう。
だから杏澄は一夏のせいにする。
それがこうして裏目に出るなんて思わずに、先ほどそうしてしまった……。
―――後悔は、先に立たない。
あとがき
今回は人によってはかなり不愉快な思いをしたんじゃないかと思いますが、ここからは鬱なシーンが多くなると思います
ですがギャグも入れていきたいので、これからも応援してもらえればなと思います
胸糞な感じで終わったので次回はもうちょっと早く更新します
なんとか次回はスッキリできればなと思いますので、お楽しみにしていただければ!