インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~   作:王・オブ・王

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第一章-少女たちの園、IS学園-
第一話 『鬼柳杏澄』


 IS学園の新入生の入学日。

 どこの学校も入学式とはわいわいとしているものだが、今回のIS学園はだいぶ違う。

 静かな一年一組。そのクラスの教卓の前の席に、その原因はいた。

 頭を抱えることもできず、彼は女子生徒たちの視線に汗をかくのみの原因こと織斑一夏。世界で唯一の男のIS操縦者である。

 

「ほ、ほうき……」

 

 一夏はこのクラスで唯一自分を助けてくれそうな少女の方を見るが、顔をそらされるのみだ。

 

「(それが六年ぶりに会った幼馴染に対する態度かっ……俺、嫌われてるんじゃっ)」

 

 助けがいない。ただ一人焦るのみ。

 

「……くん……織斑一夏君!」

「は、はい!!」

 

 呼ばれていたことに気づいて大声で返事をする。

 目の前にいる女教師こと山田真耶はあきらかに困った表情をしていた。

 考えごとをしていたあまり気づかなかったようだ。

 

「あの~、大声出しちゃってごめんなさい……でも『あ』から始まって今『お』なんだよね。自己紹介してくれるかな?」

 

 教師に謝られて焦る一夏。山田真耶の方も男に慣れていないせいでどう扱っていいかわからないということだろう。

 

「えっと……織斑一夏です、よろしくお願いします!」

 

 立ち上がり、できる限り凛々しい表情でそう挨拶。

 このIS学園は制服の改造が認められているが、その中でも男子生徒である彼の制服などはじろじろと見られていた。

 この学園唯一の男子生徒。

 もっと多くの言葉や紹介を期待しているだけあって、女子生徒がまだ欲しがる。

 

「え、えっと……」

 

 困っているようだ。何を困っているかは無論―――なにを喋るかだ。

 

「(い、いかん……ここで黙ったままだと、暗い奴のレッテルを張られてしまう!)」

 

 ガチガチに緊張している姿は可愛い、とも思える。

 そしてようやく何かを思いついたのか、息を吸い込む。

 真耶含めて、女子生徒たちは何を言うのかと期待。

 

「―――以上です!」

 

 一気に落胆するクラスの面々。

 戸惑ってかあたりを見まわす織斑一夏。

 

「えっ! いや、だめでした!?」

 

 瞬間、大きな音が聞こえた。いや、正確には“声”が聞こえた。

 一夏にとっては聞き覚えがあるようなないような。いや、絶対ある声……しかしその声の主がこの学園にいるはずがないと思う反面、いてくれたら安心感が増すと思う。

 足音と悲鳴のような『やめてください! やめてくれ!』という声はどんどんと近づいてくる。

 そして足音は教室の前で止まった。

 

「ほら、入れ」

「待って! 心の準備、そう準備が!」

「敬語を使え私は担任だ」

 

 そんな声と共に、扉が開いて一人の女性が入ってくる。

 だが扉から先、すなわち教室へと歩みをすすめる様子は一切なく、ただその場にとどまっているのみ。腕は扉の外に出ていて、その腕が何かを掴んでいることまではわかるがそれ以上は一切不明。

 その場に立つ黒いスーツを着た女性を見て、一夏は思わず声を出す。

 

「げぇっ、千冬ねぇ!」

「織斑先生だ」

 

 睨む千冬と呼ばれた女性。つまりは織斑一夏の姉はそこから動かずに生徒たちを見る。

 

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物にするのが仕事だ」

 

 そう言い放った瞬間、黄色い悲鳴が教室中をおおった。

 数々の悲鳴が交差する中『叱って罵って』や『時には優しくして』や『躾して』などの言葉の数々。

 そりゃぁ百合百合もするし、したいだろう。なんたって女性しか本来は居ないはずなのだから……。

 

「静かにしろ! まったく毎年よくもこう……それに叱る相手は事足りている」

 

 その一括で静かになるあたりはそんなにやんちゃな生徒ばかりではないということだろう。

 山田真耶と軽く言葉を交わす千冬が、次は廊下側に顔を向けた。

 

「おい、お前も挨拶をしろ」

「ちょっ、私の百合色学生生活は」

「何度も言わせるな」

 

 織斑千冬はなんの慈悲もなく、廊下に回していた腕と一緒に教室に入る。

 その腕に掴まれていたのは一人の少女であり、IS学園の制服を着て教卓前、千冬の隣に立たされた。

 クラス中の視線を受ける少女はあきらかに動揺し(テンパっ)ている。

 

「あ、えっと……」

 

 一夏は、目の前の少女を知っていた。

 腰ほどまで伸びていてあまり梳かしたりはしていないボサっとした黒いストレートの髪、そしてカチューシャ。

 長い前髪によって顔は下半分ぐらいしか見えず、その雪のように白い肌は黒とのコントラストで通常よりも綺麗に見える。

 つい最近まで中学生だったとは思えないほどの発達した胸や、一夏や千冬ほどではないにしろそこそこ高い身長。

 基本的には元気っ子で通っているくせに突然のことに対応できない性格。

 彼女のことを、一夏はよく知っていた。

 

「なんで杏澄(あすみ)が!?」

「私だって知らないよ! お姉ちゃんを説得してよ一夏! この人マジキ―――ひぎぃっ!」

 

 杏澄という名の少女の頭頂部を押さえて痛みに声を出す。

 

「一夏、こいつをそこらの高校に放つのか?」

「さすがちふ……織斑先生」

「それが一週間ぶりにあった幼馴染に対する態度か!?」

 

 一夏は目を逸らして杏澄をなかったことにする。

 こうして助けが無くなった杏澄の耳元に千冬は『はやくしなければ好き勝手に紹介するぞ』と言葉を囁くと、なんの意味があってか、千冬に敬礼してすぐさまクラス中を見渡す。

 男子生徒に対する興味のある歓迎的な視線でもなければ、千冬を見た時の尊敬の視線でもない。

 ただクラス中の女子生徒は杏澄を“不思議なものを見る目”で見ている。

 普通の学校ならば地味であったかもしれない杏澄の前髪で表情が見えないというのはお洒落っ気の高いIS学園では逆に目立つものだ。

 

鬼柳 杏澄(きりゅう あすみ)です。よろしくお願いします!」

 

 それだけで終えようとすると『この登場の仕方でそれだけ?』という視線の中、杏澄は見えない目や眉毛をよそに口元が笑っている。

 完全にやり終えたというふうな雰囲気に包まれている杏澄を見て、一夏がため息をついた。

 千冬も同じくため息をつく。

 

「ちなみに鬼柳は一夏と篠ノ之の間だ」

 

 そんな言葉に、杏澄は『ん?』と一夏の隣の空いている席を見た後、その隣を見た。

 

「モッ……箒ちゃん!?」

 

 声を出して驚いたが、箒と呼ばれた少女は顔をそらして知らんふりだ。

 

「さっさと席につけ、時間は有限だ」

「うん……って痛ァ!」

「敬語を使え」

 

 さっそく二発目の拳を脳天に受けた杏澄は大人しく席につくのだった。

 とりあえずいざという時のために杏澄用の『切り札』はとっておくこととしようと、千冬は頷く。

 杏澄をあまり放置しっぱなしというわけにはいかない―――色々な意味で……。

 

 

 

 休み時間になると、IS学園とISの説明をされた先ほどの授業のことを思い出す杏澄。

 まったくわけがわからなかった。ISについての勉強なんてまったくしていない……。

 カッコイイと思うし扱ってみたい気はしていた。

 

「ISか……」

 

 頬杖をついてため息をつく杏澄。

 それに気づいてか気づかないでか、一夏が話しかける。

 

「ほんとびっくりしたよ杏澄、お前がIS学園にくるなんて……」

「お姉ちゃんがやらかした」

「千冬ねぇってほんと杏澄相手でも容赦無いっていうか、まああれでもかなり杏澄のこと」

「それ以上は言わないで、嫌われてるってわかってても私が落ち込む!」

 

 そう言ってため息をつく杏澄を見て、苦笑する一夏。

 あんな驚愕の展開と共に現れた杏澄だったが、やはり世界初の男性IS操縦者である一夏の前には影も形も忘れ去られていた。

 だがここで、杏澄の話が女子生徒たちの間に流れる。

 織斑一夏と親しげに話す女子生徒、それはかなりのイレギュラーであった。

 

「はぁ~私の学園生活……」

 

 そうため息をつくと、自分の席の前を通って一夏の方へと行く箒に眼が行く。

 

「ちょっといいか?」

「え……ああ、杏澄も一緒に行くか、久しぶりだし」

「私は遠慮しとく、馬に蹴られて死にたかないからねっ」

 

 そう言った杏澄を一夏は『何言ってんだ?』的な眼で見て箒と共に教室を去る。

 なんだか寂しいものだと思う反面、軽く教室を見渡す杏澄。

 

「(良い制服……ぐふふふっ)」

 

 両肘を机に乗せたまま、手を組んで口元を隠す杏澄と、その周囲に一気に詰め寄る女子生徒たち。

 そんな女子生徒たちに驚く杏澄だったが、直後に目の前の生徒が声を上げる。

 

「織斑君とどういう関係なの!?」

 

 なるほどそういうことかと、若干落胆した。

 一夏込みでの話は中学時代から良くあったことなので慣れてはいるのだが、やはり『おのれ一夏』と思う節が無いことはない。

 

「えっと……一夏は、相方?」

「相方?」

「うん、昔っから一緒なんだよね。まぁ特にどういう関係でもないんだけどみんなが思っているよな関係じゃないから安心して私と話してね!」

 

 目は見えないがキリッ、と音が聞こえそうな感じの杏澄。しかし女子生徒たちは一夏と特に良い関係でも無いと知ると杏澄の周りから去っていった。

 一生徒に絡んでいる暇があったら一夏を見に行くのだ。

 

「また一夏のせいで私の百合色学園生活がっ!!」

 

 頭を抱えて机に突っ伏す杏澄だったが、チャイムと同時にすぐに起き上がる。

 一夏が帰ってきたことにより教室中の一夏の話もぴったりとやんで女子生徒たちも席につく。

 両隣の生徒が同時に帰ってきたことにより、杏澄が足を組んで隣の少女の方を見る。

 少女の方も杏澄を見て『なんだ?』と言いたげな目。

 

「箒ちゃん、変わらないね。一部変わってるけど」

「そ、そうか?」

「うん、綺麗になったよ」

 

 杏澄がそう言うと、恥ずかしいのかなんなのか顔を赤くする篠ノ之箒。

 おそらくだが、言われることがそう無いからなのだろう。

 討ち取った! と思う杏澄だったが、後頭部からの軽い衝撃に振返る。

 

「お前はさっそくか……」

「お、お姉ちゃ、げふっ!」

 

 頭部がさらに打たれ、杏澄は『織斑先生』と言い直した。

 それを聞いて満足そうにうなずくと、千冬は教卓の横に立つ。

 教卓を前に立つのは副担任の山田真耶で、ISの“基本的な説明”をしていくのは復習のたまだろう。

 けれど、教卓の前の一夏とその隣の杏澄はそっくりな体勢で汗をかきながら説明を聞いていた。

 

「様子がおかしいようですが織斑君と鬼柳さん、なにかありますか?」

「うぇっ!?」

「だぁっ!?」

 

 一夏と杏澄の二人が同時におかしな返事をするが、真耶はそれになにも感じずに聞く。

 

「質問があったら聞いてくださいね、なにせ私は先生ですから!」

「……先生」

 

 軽く手を挙げて一夏がそう言うと、真耶は笑顔で質問を聞こうとする。

 その姿は教師として鏡と言えるかもしれないが、それで言うならば一夏と杏澄は半比例するようにダメな生徒だ。

 

「ほとんど全部わかりましぇん……」

「えっ、全部ですか?」

「今の段階でわからないって人どれぐらいいますか!?」

 

 クラスの生徒たちを見るが、誰も手を上げることは―――杏澄だけが上げていた。

 下を向いて一夏と同じだけ汗を顔に浮かべる杏澄。顔半分は見えないが確かに汗をかいている。

 

「(不味い、わからない、わかるわけがない。一夏はともかくとして私に対しての冷たい視線が痛い)」

 

 隣の一夏が名簿で叩かれているのを見ると、次は自分かと空笑いすら出てきた。

 一夏が杏澄の前に立つと、じっと杏澄を見る。

 目も見えないが千冬には杏澄のことなど簡単に読めた。

 

「お前は仕方ないだろう。一夏にもお前にも参考書を発行してやるから一週間で覚えろ……いいな?」

 

 ドスの聞いた声でそう言われると、一夏と杏澄の二人は大人しく『はい』と返事をした。

 その時、突然生徒の一人が手を挙げる。

 

「なんで鬼柳さんは仕方ないんですか?」

 

 そんな質問に、杏澄も疑問に思うがほうっておいてくれと思う。

 ここで千冬が何かに気づいてどつかれては無駄にダメージを受けたことになり……非常に損だ。

 だからこそ下を向いて黙っている杏澄だったが、一夏もそんな杏澄を疑問に思った。

 ため息をつく千冬。

 

「話しても問題はないか……織斑が政府からの推薦で三ヶ月前からIS学園に入る予定だったのは知っているだろう、これに関して織斑は拒否権は無いわけだがそれと同じように鬼柳にも拒否権がない推薦があったわけだ。しかも昨日な」

「政府と同じほどの権力の推薦、ですの?」

 

 金髪の生徒がそう聞くと、頷く織斑千冬。

 なぜだか、嫌な予感をビンビンに感じる杏澄はそっと千冬の顔を見る。

 

「鬼柳には後で教えるつもりだったが……お前は篠ノ之束からの推薦でいまここにいる」

「たばねぇの!?」

 

 杏澄の言う“たばねぇ”とは先ほどの言葉で出た篠ノ之束のことである。

 束+姉ということだろう。

 ISの開発者であるその人物はこの学園にしてみれば充分な権力を持っていると言える。

 篠ノ之束の妹である篠ノ之箒は驚いた顔で杏澄を見た。

 

「あの篠ノ之束博士の推薦!?」

 

 クラス中が杏澄の話題でざわざわとちょっとした騒ぎになるが、すぐに千冬のおかげで静かになる。

 

「(あぁ、変なふうに話題の的に)」

 

 思いながらももう時すでに遅し、クラス中の視線の先には杏澄。

 そこからも色々知らない単語が飛び出す中、杏澄と一夏は嫌な汗をかきながらもなんとかついていくのであった。

 

 

 

 休み時間を迎えた時、すでに一夏と杏澄はふたり揃って椅子を近づけて笑い合っている。

 おもに『わけがわからない』ことについてだ。本当は箒を交えて話しても良かったのだが、箒は休み時間になったとたん教室を出て行ってしまった。

 普通の公立中学校に通っていた頃のノリのまま話す一夏と杏澄。

 そしてそれを羨ましそうに見る女子生徒たちだが、一夏は杏澄を、杏澄は一夏をまったく気にしていない。

 

「ちょっとよろしくて?」

「は?」

「ん?」

 

 突然二人以外の声がして、そちらを向く。

 

「まぁ! なんですのそのお返事!」

 

 明らかなお嬢様言葉。

 それを察してか杏澄は驚愕した。この学園はお嬢様までいるのかと、じゃっかんなりともこの学園に来ても良かったと思えることの一つだ。

 目の前の金髪の少女は間違いなく先ほど杏澄のことについて質問した少女。

 

「わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

「(わぁ、高飛車)」

 

 内心でおもしろがる杏澄。

 

「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」

 

 こういう高飛車の少女はおちょくりたくなるものだと思う杏澄だったが、一夏は素でやっているのだろうと若干恐怖心すら抱く。

 またこの少女も一夏の毒牙にかかるのだと思うと気持ちも重たい。

 

「私を知らないっ!? このセシリア・オルコットを!? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこの私を!?」

 

 候補生とはすごい。と内心で関心する杏澄だが、軽く視線だけを一夏の方に向ければ時すでに遅し。

 

「あ、質問いいか?」

 

 一夏が手を出して静止をかける。

 止まったセシリア・オルコットは笑みを浮かべた。

 そして杏澄が浮かべるのは若干の冷や汗。

 

「フン、下々の者の要求に答えるのも貴族の努めですわ。よろしくてよ!」

 

 THEお嬢様な態度でそう言うセシリア・オルコット。

 真剣な表情で、一夏は口を開いた。

 

「代表候補生って……なに?」

 

 コントさながら、周囲の女子生徒は見事にこける。

 

「(出遅れたっ!)」

 

 周囲を見渡して焦る杏澄だがもう遅い。

 

「信じられませんわ! 日本の男性というのはこれほど知識に乏しいものなのかしら、常識ですわよ。常識!」

 

 さすがにこれに関しては杏澄も同意せざるをえなかった。

 しかし、常識という言葉を強調して言ったセシリアだったが問題はないのではないかと考える杏澄。

 結局、男子高校生なんてISをいくら知っていようが意味はない。

 ISが好きな人間は知っていて話のネタになったりもするかもしれないが一夏にとっては関係のない話だったりする……つい最近まではだが。

 

「エリートと同じクラスになるだけでも幸運なのよ! その現実をもう少し理解していただける?」

 

 一夏に代表候補生を説明して、少し怒ったような声で一夏を見た。

 

「私的には可愛い子が同じクラスならなんでも良い……」

「なにかおっしゃいまして!?」

 

 呟きが聞こえてなかったようで安心した杏澄。。

 

「そうか、そりゃラッキーだ」

 

 つい最近まで大してISのことを知らなかった一夏にとってはどれだけのものかわかっていない。

 しかしそれでも杏澄も思う。代表候補生と同じクラスだからといってなにがラッキーなのだろうと。

 

「馬鹿にしていますの?」

 

 その言い方じゃそうなる。

 だがこれでも一夏は素直に感じたことを言葉にしただけ、天然でこうするのが織斑一夏であった。

 最初は喧嘩していた女子生徒も男子生徒もいずれは一夏に落とされる。そういうのを何度も見たことがある杏澄は深くため息をついた。

 

「貴女、今ため息を吐きましたわね!」

「いや、今のはそんな意味じゃ」

「貴方たちは揃いも揃って私のことを馬鹿にしていますの? 唯一の男性IS操縦者と聞いて期待した私が馬鹿でしたわ! しかも片方はその知り合いのエコヒイキさんですか」

 

 そう言った途端、一夏が眉をひそめる。

 自分の悪口は“そこまで”気にする方じゃないが知り合いの悪口ともなると話は別、一夏はそういう男だと知っていたからこそ、一夏の机の前にきたセシリアに見つからぬよう杏澄は一夏に向けて勢い良く首を横に振った。

 納得してか文句を言おうとするのをやめる一夏はセシリアの話を大人しく聞く。

 

「(まったくもってよろしくないと思う。一夏はこういうところが面倒なのよね、まぁ悪い気はしないけど……こんなことしてるから惚れる女と男が多いってことに未だ気づかぬ頭が可哀想な子。それにしても一夏、やはりいつ見てもいい尻してる……尻だけなら結婚しても良いと思う私が憎い)」

「あ、貴方も教官を倒したって言うの!?」

「!?」

 

 驚いて飛び上がりそうになる杏澄だが、隣から突然大声が聞こえてくれば仕方ないと思う。

 おそらく一夏が教官を避けてそのままノックダウンさせたという話のことだ。それはつい最近メールで聞いた。

 

「お、落ち着けよ。な? それに俺なんかより杏澄の方が強いぜ! きっと!」

「(友達を売るのか一夏!)」

 

 焦る杏澄だがわかる。特に杏澄を売ったという気すらまったくしていないのだろう。

 むしろ『すごいんだぜ俺の友達!』ってぐらいのノリをただ焦って言っているだけだ。本気で売るきであれば一夏の括約筋を破壊してやると、心の中で思う杏澄。

 キッ、とした眼で杏澄を睨むセシリアだが、すぐにフッ、と鼻で笑う。

 

「本当ですの?」

「ああ、昔の話だけど訓練無しでIS適正A+を叩き出したとか、何がすごいのかわかんないけど」

 

 なら喋んなよ! とは言えない杏澄はセシリアの先程とは違う睨むような視線に目を逸らすことしかできない。

 おのれ一夏と恨むもそれが一夏に届くことなく、グッ! と親指を立てた手を向けられて余計に腹が立つだけだ。

 一夏は自分にだけやけに不幸を呼ぶ気がする。

 チャイムが鳴る。

 

「ッ! お二方、この話の決着はいずれつけますわよ!」

 

 そう言って去っていくセシリア。

 助かったとは思わない……むしろターゲットにされてしまったと片手で頭を抑える。

 一夏を怒る気力すらない杏澄は次の授業に備えて準備をするのだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 放課後、寮の部屋を知らない杏澄と一夏の二人は、二人して教員に渡された部屋番号を見て歩いていく。

 寮に入った後に二人は自らの部屋に向かうも隣同士。

 お隣ということで苦笑いでなんとなく会釈した二人は部屋に入ろうと扉を開く。

 

「おい杏澄」

「んん?」

「あまりハッスルするなよ」

 

 どういう意味か、IS学園にいる人間ほとんどにはわからないだろう。

 わかるのは一夏と千冬と本人ぐらいなものだ。

 杏澄はどういうことか片手を顔に当てて恥ずかしがるふりをする。

 

「一夏の変態め」

「みさくら語だけは勘弁な」

「あれは若気の至りさ」

 

 それだけでお互い話は通じたのか扉を開いて中に入る。

 杏澄が入ると、部屋はシーンとしていた。誰も居ないのは確実、おそらくだがここの寮長は千冬なのだろうと察しがついた。

 IS学園の教師をしていて月に二、三回しか帰らないことから予想がつく。

 そして千冬はおそらく、自分を隔離したのであろうということも予想できた。

 

「フッ、さすがお姉ちゃん。だけれど私を阻止しようとしてもそうはいかない! 私は今度こそこの学園で捨てる! そう! 大人の階段のぼっ―――」

 

 瞬間、外から凄まじい音と共に一夏の声が聞こえる。

 おそらく同居人は箒だろうと思い外に出ようとする杏澄が扉のドアノブを回した。

 

「待て! 出てくるな杏澄!」

 

 そんな声を発した一夏だったが時すでに遅し、扉を開けばそこは一面の美少女。

 誰もかれもが薄着で、一夏はすでに扉にすがりついているあたり箒に追い出された。どうせミスターラッキースケベのことだから風呂上りの箒でも見たのだろうと思う反面、薄着の美少女たちを視界に入れて杏澄は顔をしかめた。

 

「ぐっ!」

 

 下腹部を押さえて前屈みになる杏澄。そんな杏澄の様子に心配する少女も数人居たが……杏澄は下腹部を押さえながらさらに前屈みになり床に膝をつく。

 

「杏澄! だから出るなって!」

「へっ、一夏……一片の悔いなし、だ」

「……馬鹿野郎!」

「野郎じゃないよ」

 

 杏澄は膝をついて下腹部を押さえながら扉をしめる。

 ついでに鍵もしめるとここが一人部屋で本当に良かったと思う。ここまでくれば一人部屋なのは確実だと思った。

 とりあえず異常がある自分が大人しくなるまで部屋から出るわけにいかない。

 杏澄は大人しくその場で待つことにした。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 しばらくしてから一夏と箒の二人は隣の部屋の扉をノックした。

 一度して出る気配が無いから、少し大きな音でノックすると次は部屋から出てくる。

 どこか黄昏ているような表情で出てきた杏澄だったが、二人を見ると自嘲気味に笑う。

 

「ハッ、二人ともこんな私になんのよう?」

「これは……」

「間違いない賢者タイムだ」

 

 そう言った一夏に箒が『賢者タイム?』と疑問を投げかけるが一夏は無言で杏澄の肩に軽く手を置くのみだった。

 

「とりあえず食堂に飯食べに行こうぜ。箒も久しぶりに話したいって」

「了解待っててね、すぐに支度するから……明日、山田先生に謝ろう」

 

 踵を返して部屋の中に行き扉をしめる杏澄の背中を見送って、一夏はたまらず目頭を押さえた。

 そんな一夏を不審に思った箒だが、二人にしかわからない何かがあるのだろうと頷く。正直な話これがほかの女だったら箒も嫉妬しただろうけれど、相手が杏澄ならどうでもいい話である。

 隣の一夏は『さっそく山田先生でか……』とつぶやいているが箒には一切わけがわからない。

 突如、勢い良く開く扉。

 

「よし! 行こうぜ一夏!」

「相変わらず回復早いな!」

「フハハハッ!」

 

 先ほどと打って変わって笑う杏澄を見て、元気なようでなによりだと安心する箒。

 とりあえず食堂だと、三人は移動を開始するが、やはり注目の的であることは免れなかった。

 一夏もだが『篠ノ之束』の推薦で入ってきた杏澄もだろう。

 ことがバレれば箒だってそこそこの有名人になる。

 三人が夕食を持ってテーブルにつくと、箒は素朴な疑問を口に出す。

 

「そう言えば今日ここに着いたのだろう。制服はどうやって?」

「あぁ、お姉ちゃんが用意しててくれたんだけど……サイズピッタリさすが教員!」

 

 そういう杏澄だが、一夏にはわかる。

 あの姉、確実に杏澄の三サイズなどその他もろもろを暗記しているのだ。

 実際にそうであり、一夏のことに関してもいろいろと暗記している。

 わざわざ杏澄の制服を改造してスカートの丈と袖を少しばかり長くし、パンストとブーツを用意したのは“どこぞの教師”の趣味故であった。

 しかしこの事実を知る者はこの世で一人しかいない。

 

 共に幼少期を過ごした三人は話をしながら食事を終えてそれぞれ自室に帰った。

 部屋に帰った杏澄は一人部屋の一つのベッドで横になって深いため息をつく。

 

「これから三年……絶対死ぬ」

 

 つぶやいて上半身だけを起こすと、頭を抱えて笑った。

 千冬と一夏と箒がいるだけマシだと思うことにして、杏澄はシャワーを浴びることにする。

 こうして、IS学園での一日目が終了。

 慣れない部屋だが、ふかふかのベッドで寝るのはそこまで大変なことでも無かった。

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

ええ、まぁ今回は入学式ということで色々とぶっとんだ感じに……したかった!
こんなんじゃ満足できねぇぜ……。
もっと下ネタ満載に行きたい! と思うキングではあるのですが、とりあえず鈴が出てくるぐらい、つまりひと段落つくまではどうにも激しい動きができない!

ということでまた次回をお楽しみいただければまさに僥倖!

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