インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~   作:王・オブ・王

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第二十九話『一人称』

 織斑一夏は焦っていた。

 なぜか、杏澄の友達であると聞いていた三年生が意識不明の状態で中庭の人目につかない場所にいたらしい。

 そして杏澄は行方不明と聞いてただひたすらに焦った状態で授業にも身が入らずにいる。

 ようやくその日の放課後になると同時に一夏はみんなと共に職員室へと向かった。

 

「千冬ねぇ!」

「勝手に入ってくる馬鹿がいるか!」

 

 怒鳴られるが、今の一夏にその程度の威圧が通用するはずもない。

 

「杏澄は!」

「今捜索中だが、丁度カメラの死角になっている場所の一角だった」

 

 舌打ちをする千冬。

 

「ど、どうしてこんなっ、杏澄が……そういや先輩たちはまだ起きてないのかよ!」

「あの三年たちならまだ意識不明の重体で」

「あ、おりむーいた!」

 

 そんな時に現れたのが、布仏本音と鷹月静寐の二人だった。

 またか、とため息をつく千冬だがなにかあるのだろうと黙っていることにしたそんな中、肩を上下させている本音と静寐の二人が息を整えて千冬と一夏を交互に見た。

 本音が静寐の方を心配そうに見るが、大丈夫という表情をしてから口を開く。

 

「その三年生たちだけど、たぶん杏澄ちゃんのこといじめてたんだと思う」

 

 瞬間、千冬と一夏が眼を見開いた。

 いや、全員驚いてそうはなったが一番らしくない表情と言うか、そんな感じだった。

 千冬はそもそもにして驚くこと自体が珍しいから、そして一方の一夏は今までと全く違うなんらかの感情が爆発したような感じだ。

 

「どういうことだ、鷹月」

 

 冷静さを取り戻した千冬がそう聞くと、静寐が話を続ける。

 

「あの、前にボーデヴィッヒさんの前に現れた先輩、覚えてる?」

「ん、あぁ顔はいまいちだが『杏澄を気に入らない』と言っていた奴らがいたな」

「そう、今回杏澄ちゃんと一緒に居たって言われてるのはその三年生たちなの……私たちがもっとしっかり見てれば良かった」

 

 自分を責めるように言う静寐を見て、拳を握りしめる一夏。

 なんで自分がしっかりと見てやれなかったのかと後悔ばかりが頭を埋め尽くすがどうしようもない。

 その流れから考えて、杏澄がいじめられていたのは確かで昨日会ったのも……それだし、朝の杏澄のことを考えると当て所の無い怒りばかりが頭を占める。

 それを察してか、千冬が軽く一夏の肩に手を置く。

 

「わかった、その件に関しての事実確認はしっかりとしておく……それよりも貴様らは出て行け、現在は鬼柳の所在を確認中だ」

「でも、なんでただのいじめであすみんが―――」

「ただの、ではありませんわ……ッ」

 

 そう言った怒りを抑えるような声で、セシリアが言う。

 いつかの日もセシリアも怒っていたが、現状のセシリアは前の比ではないほどの怒りを声に秘めていたし、そもそも髪も若干逆立っているようにも見えた。

 鈴も貧乏ゆすりがひどく怒っているのは確実で、シャルとラウラは悲しそうな顔をしているし、箒は俯いている。

 

「とりあえず、三年があの数あの状態にされたということはいざという時のことを考えておいた方が良いだろうな」

「いざという時って、なんだよ千冬ねぇ?」

「……全員、早く教室に戻れ」

 

 千冬が睨みつけて言うと、全員渋々と言った様子で頷いた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 杏澄は妹に抱えられて、IS学園から数十キロは離れた海に浮上した外側の楽園(アウターヘイヴン)へとやってきた。

 ハンガーへと入った二人、同時にカタパルトが閉じ格納される。

 周囲の人間から『おかえり』と言われる妹の腕の中から降りて、杏澄は周囲をキョロキョロと見まわす。

 すると、いつぞやのツナギを着た少女がやってきた。

 

「おお、いつぞやのISの子じゃん、なに持ち帰ってきたの?」

「お姉さまは今日から家族よ、ね?」

「え、えっと……」

 

 言いよどむ杏澄に対して、ツナギの少女は楽しそうに笑いながら背中を叩く。

 

「まぁ、これからよろしくな! とりあえず片瀬のおっさんのとこ行って来い」

「えぇ、お姉さま行きましょ? これから仕事やなんやで日本を離れることも少なくないと思うけれど私たちは国境無き軍隊、武力平和を求めるために頑張るのよ!」

「わ、私は戦いとか……」

「えぇそうよね、お姉さまはそれを嫌う人だわ……とりあえず、そこの話も含めて片瀬司令と話ましょ?」

 

 杏澄は、頷く以外道は無いと頷いた。

 そもそもここに来たのも、もうあの場所にいられないからだ。

 秘密がバレればどうなるかわからない……知っている人間たちは離れはしないだろうけれど、それでもあの場にいれば気持ち悪がられることもあっただろう。

 だから、これでいいのだとまだ決心がつかない自分を無理矢理納得させた。

 

 ―――どうせ私が居なくなっても、なにも変わらない。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 一夏はいつものメンバーと共に夕食をとっているが、明らかに会話が少ない。

 理由としてはもちろん杏澄が完全に“行方不明”認定されたことと、彼女が三年の生徒たちにいじめを受けていたということが確実になったからだ。

 なによりも皆の気分が沈むのは、間違いなく自分たちが杏澄が苦しんでいたことに気づかなかったからだろう。

 ラウラだって仲が良かったし、シャルだって良く話をしていた。セシリアと鈴は言わずもがなであり、箒はかつて何度も助けられた、そして一夏は……。

 

「くそっ!」

 

 苛立ちをあらわにしてテーブルを叩く一夏。

 

「そんな苛立ったってしかたないだろう」

「わかってるよっ」

「えぇ、その気持ちは痛いほど良くわかりますわ、ほんっとうに……」

 

 怒りを抑え込むように言うセシリア。

 この怒りの当て所は間違いなく、例の三年生だろうけれど彼女たちはすでに罰を受けて、挙句に今夜が峠とまで言われている生徒がいるほどだ。

 だからこそ怒りを当てる場所がなく、一夏とセシリアと箒の三人はただただ苛立っていた。

 シャルとラウラは後悔するのみ、鈴はというと思いのほか冷静な表情である。

 

「そんな苛立ったって状況は変わらないわよ」

「よくもそんな冷静にっ、貴女も杏澄さんのことを慕ってたはずですのにっ……!」

「これじゃ臨海学校の時と変わんないじゃない、あたしたちがここで苛立ってもどうしようもないでしょ、せめて空気悪くしないように隠すぐらいしなさいよ」

「そう、ですわね……」

 

 冷静になるためか深呼吸をするセシリア。

 気づけば、周囲の生徒たちもだいぶ少なくなっている。

 理屈ではわかっていても、苛立ちが収まるわけではない。

 

「っ……」

「なっ、箒あんた泣いてんの!?」

 

 死ぬほど珍しい。

 いやそれどころの話ではないだろう、プライドが高い箒が人前で泣くなど今まで見たことも無かった。

 それは長く一緒に居た一夏も同じことであり、涙すら臨海学校の日に初めて見たぐらいだ。

 

「わ、たしはっ……杏澄を、あんなに昔、助けてくれていた杏澄をっ、助けてやれなかったっ……」

 

 ボロボロと涙を流す箒に、かける言葉が見つからずに全員下を向くぐらい。

 それを食堂の入り口から見ていた千冬は、何も言わずに踵を返してあるいて行った。

 悲しくないわけじゃない、悔しくないわけじゃない、だがなんとなくだが杏澄が出て行った理由が予測できるからこそ、なによりも歯がゆかった。

 千冬は廊下で立ち止まると、勢いよく壁を殴る。

 

「くそっ……」

 

 壁がひび割れへこむ。

 そんなことをしてしまった自分の手を見て千冬は頭を押さえた。

 こんな思いをするぐらいなら感情なんていらないと、千冬は本気で思う。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 アウターヘイヴンでは、杏澄がブリッジへと出てきていた。

 扉が開いてその中へと入ると、数多くの人間がこの空母の管制を行っており、杏澄が良くやるゲームなどに出てくるようなものを彷彿させる。

 周囲をキョロキョロ見まわしていると、前に立ったのはいつぞやの初老の男性、片瀬だ。

 

「やぁ鬼柳杏澄君」

「あ、はい……こ、こんにちはっ……」

「そうかしこまらないで良い、これからは私たちの仲間なのだから」

 

 そう言って差し出された手に、握手で返す杏澄。

 

「それにしても、泥だらけだな」

「あ、その、色々ありまして……」

「そうか、とりあえず色々と案内してあげてくれ」

「了解です!」

 

 妹がそう言い、杏澄の手を引く。

 報告だけに来たのかと、杏澄は疑問に思いながらもとりあえずついて行くことにした。

 

 少しして着いたのは、おそらく居住区らしきところでその中の一部屋を案内される。

 やはりIS学園の寮と比べるとずいぶん機械チックで生活環が無く、扉も自動ドアで勝手に横に開くが、中を見て杏澄はビクッと体を震わせた。

 その内装はと言えば、普通の部屋だ。

 扉の中に入って靴を脱ぐと一段高くなっているフローリングへと足をすすめて、ふかふかのカーペットの感触を確かめる。

 ベッドもパイプベッドなどではなく、普通のスプリングがきいていそうなベッド。

 折り畳みのテーブルやらもあり、そこは誰かが住んでいたのではないかと疑いたくなる。

 

「私の部屋は隣だから、あまりこの部屋と変わりはないけどなにかあったら聞いてね?」

「あ、うん……」

「その耳も、尻尾だって出しっぱなしでも誰も気にしないわ、お姉さまはお姉さまのままでいられる。そう、ここが私たちの楽園……」

「楽園……」

 

 ニッコリと笑みを浮かべる妹に、杏澄はどう声をかけていいかわらかなった。

 だが妹もそれから余計なことを詮索したりせずに、カーペットの上に座る。

 杏澄はそんな妹のテーブルをはさんだ向かいに座った。

 

「お母様とお父様のこと、知りたい?」

 

 そんな問いかけに、杏澄がうなずかないはずもない。

 

「……お姉さま、ごめんなさい今は話せないわ」

「な、なんで……?」

「色々と、私もショックが大きいの……だから、時が来たら話すわ」

 

 もったいつけて、苛立ちを覚える杏澄。

 

 ―――この娘、なんでも知ってるような口調だけどっ……。

 

 だけれど、自分が彼女に色々と教えてもらうためには時をここで過ごすしかない。

 嫌なわけではないが、良いわけでもなく、ただ杏澄がここにいる理由は“消去法”の結果、最も“自由”が

きく場所を探した結果であり、少なからずあの学園よりは平和だし傷つくこともないだろうという結果。

 あの生徒たちが起きれば自分の写真はばら撒かれかねないし、それで嫌われるのはさすがに辛い。

 

 だから杏澄はもうIS学園になど行きたくないから……。

 

「わかった」

「良かったわ、でもお姉さまと私の血は繋がっていて同じお父様とお母様の遺伝子を持っているわ……それは信じて?」

「うん、信じる」

 

 それに関しては、なんとなくだが疑う気がしなかった。

 動物的直感と本能だろうと杏澄は自分を納得させて、自分の出生のことを聞きたい気持ちがあったがそれもまたはぐらかされるのだろうととりあえずはおとなしく妹の言うことを聞くことにする。

 向かいに座っている妹が楽しそうに笑いながら自分を見てくることに、若干の不気味さを感じる杏澄。

 美少女に見つめられるのはやぶさかではないのだが、なんだかたまにセシリアから感じる感覚に似ていた。

 

「お姉さまは今までどうしていたの?」

「い、今まで?」

「んー、たとえば小学生の頃とか教えて欲しいな♪」

 

 直前までとはまったく違う種類の空気を纏って笑みを浮かべてそう聞いてくる妹がどことなく可愛く、というかめちゃめちゃ可愛く見えた杏澄は伸びそうになる鼻の下をなんとか引き締める。

 そして杏澄は話を始めた。

 楽しそうに相槌を打ってくれる妹に、杏澄はちょっとだが心を開く。

 

 

 それからしばらくして、話を一通り終えるとインターホンのような音が鳴った。

 杏澄がどうすれば良いのかわからないという表情をしていると、妹が立ち上がって扉の近くに行きモニターのようなもののボタンを押して扉の向こうを表示させる。

 そしてボタンを押すと扉が開く。

 

「どうしたんです片瀬司令?」

「ん、せっかくだから歓迎会をと思ってな、食堂にみんな集まっている」

「管制とか大丈夫なんですか?」

「ぬかりないよ、せっかく新しい仲間が来たのだからパーティーぐらいはね」

 

 片瀬が杏澄を見てフッ、と笑う。

 杏澄は軽く会釈をしてから、ようやく前髪を軽く整えていつも通り眼が見えないようにするが、妹がすぐに前に来て杏澄の前髪をわしゃわしゃと動かし眼を露出させる。

 確かに今更だが、と思う杏澄。

 

「その前髪、普通にしてても可愛いよ?」

「そ、そんなわけない……!」

 

 ちょっと語尾が強めになったのは本気でそう思っているせいだろう。

 だが杏澄は素材は悪くない。否、むしろ良い方であるのだがどうにもその自覚もなく、根暗な杏澄は『自分なんて……』という性格上あまりそういったことを言われるのに慣れていない。

 前髪が少し鬱陶しそうに見えた妹は笑って軽く杏澄の髪を撫でた。

 

「あとで前髪を少し切りますね、おろしてもあまり邪魔にならないように……もう隠す必要もないんですから」

「あ、うん」

 

 杏澄は心から安心はしていないが、とりあえずそう言うのだから大丈夫だろうと思ってはおいた。

 大丈夫と言われても怖いものは怖いのだから仕方がない、杏澄がこの外側の楽園(アウターヘイヴン)の人間を信用するにはもう少し時間がかかるかもしれない。

 とりあえず片瀬は『先に行っている』と言い残してその場を去った。

 部屋に残される二人、妹がクローゼットを開いて一着の服を用意する。

 

「お姉さま用に用意しておいた制服よ!」

 

 出されたのは、軍服のようなもの。

 スカートもあるようだが、杏澄的には現在着ているISスーツとは外せないので、妹が隣の自室に帰っている間に着替えたをすます。

 もう二度と袖を通さないであろうIS学園の制服を畳んでベッドの上に置くと、杏澄は笑みを浮かべてクローゼットの開いた場所にある姿見で現在の自分を見る。

 黒い軍服、前髪を整えて眼を見えるようにし、耳もそのまま。

 一夏からもらったカチューシャのことを思い出すと悲しくもなるけれど、今は自分を隠さなくていいのだと心が若干穏やかになる。

 

 すると、先ほどと同じように音がなり、ビクッとすると深呼吸をして先ほど妹がやっていたようにボタンを押して扉を開く。

 そこにいたのは、自分と同じ軍服を着ている妹だが、クスッと笑った妹は杏澄のネクタイに手を伸ばす。

 

「ネクタイが曲がっているわよ、お姉さま」

「あ、その……IS学園じゃしてなくて、中学の時もネクタイはしてなくて……」

「ふふっ、なにその言い訳」

 

 笑う妹に、ちょっとぎこちない笑みを浮かべる。

 

「さて、行きましょう?」

「う、うん」

 

 杏澄は妹の後をついて行く。

 だがふとそこで気づいたが、聞くべきかどうか悩む。

 それは、名前―――。

 

 既に聞いていたとしたら非常に失礼なことを聞くことになるから、自分から聞けない。

 ならどうするか、黙っているのが一番だと杏澄は決意する。

 だがそう考えた直後に、妹が振り返った。

 

「そういえば遅れちゃった、私は鬼柳アスナ……これからよろしくね、お姉さま♪」

「よ、よろしくお願いします」

 

 良かったと安堵の気持ちを心に溢れさせながらも、杏澄は妹であるアスナに対して軽い笑みを浮かべる。

 笑顔が苦手な杏澄だが、頑張ったと褒めてやりたい70点の笑顔を見てアスナが再びおかしそうに笑う。

 なんで笑われているのかわからない杏澄は、自分におかしいところがないか探すのだった。

 

 少なからず、鬼柳杏澄はIS学園にいた時よりはこちらの方が良いと思い始める。

 




あとがき

今回から、まぁ前回からかもしれませんが、オリキャラと杏澄の話が多くなります
一夏たちの話ももちろん入るんですが杏澄の話が主な話となるのでオリキャラたちの話が多くなるってことで、IS学園のみんなを楽しみにしてくださっている方々には申し訳ない!
では、次回もお楽しみいただければ!
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