インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~   作:王・オブ・王

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第三十話『命』

 あれから三日、杏澄は温かい歓迎を受けて現在ではすっかり仲間たちに可愛がられていた。

 あまり自己表現ができない性格で、それでいて笑顔を見せることも少ないがそれでも、可愛らしい妹のように扱われている杏澄、それを自覚してはいないが杏澄自身嫌われていないことはわかっている。

 だから、妹ことアスナとも一緒にいた。

 久しぶりの浮上ということで、杏澄も外の空気が吸いたいなと思ったがアスナが連れてきてくれたのはブリーフィングルームであった。

 

「?」

「お姉さま、私たちはこれから任務なのよ」

「……わ、私も?」

「いや、参加する義務はないさ」

 

 片瀬がそう言って後ろから歩いてきた。

 部屋で座っている人間たちが杏澄の方を見て手を振るなり笑顔を見せるなりして歓迎する。

 片瀬は座っている男と女たちの前に立ち、その背後のスクリーンに巨大なマップを出現させた。

 

「今からアウターヘイヴンを浮上させるインド洋北部に浮上し、そこから紛争地へとISにて飛び、武力を持って鎮圧してもらう」

「鎮圧……」

 

 武装する平和、アームドピースという組織はISを持ってして紛争を鎮圧する。

 いや、正確にはISが出てきた紛争や武力抗争を鎮圧すると言った方が正しいんだろう。

 ISが出てきた瞬間、ISにてISを破壊し同じ土俵に立たせてそれからは……任せる。

 当初こそ混乱を呼んだこの組織だったが、今では紛争地帯などでは都市伝説的な噂をされているらしい。

 

「君はアスナたちの仕事を見てくると良い」

「見てくる、ですか……?」

「あぁ、実際にその眼でこの世界を見る、それが一番だと思うね……」

 

 そう言われると、杏澄は断れるような性格をしていない。

 だからこそ、杏澄はおとなしく頷くことになり、結果わけもわからないままに用意されたISスーツを着てハンガーへとやってくることになった。

 元々持っていたISスーツも今じゃ自室のクローゼットで眠っている。

 束のISスーツと同じようなものがほどこされてるのか、あまり色々と目立たない。

 

「サイレントビースト」

 

 名前を呼ぶと、杏澄は一人だけ専用機を纏う。

 すでに顔見知りで挨拶以外にも軽い雑談を交わすような仲である女性たちもすでに量産型であるラファール・リヴァイヴや打鉄を纏っている。

 その機体の総数は圧巻と言うにふさわしく、正直授業でも使わないような数だった。

 

「こんな、沢山……」

「総勢35機よ、リヴァイヴが20機で打鉄が15機……すべて違法なことをした国から奪ったものだけれど、現在の世界にはびこるISの総数は467機。その35機がここにいるって素晴らしいことよね、これからさらに増えるけど」

「増える?」

「えぇ、壊して持って帰ってくるの……そしてやがて、世界からISを消す」

 

 ISが35機。

 もはや小さな国単位の数のISであり、IS学園のISの総数と比べればまだ少ないかもしれないが十分脅威となりえる戦力……にもかかわらず杏澄はこの組織をつい最近まで知ることが無かった。

 なぜだろうと思いながらも、杏澄はとりあえずこの組織の“活動”というものを見ようと思った。

 

「お姉さま、これが私の専用機よ。リボーンズ」

 

 アスナが纏ったのは銀色の翼の着いたISだった。

 機械チックなその翼、なんとなく銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を思い出す姿だが、なんだかあの機体よりも禍々しさもないし、翼もあれより薄くなっていてスリムな印象がある。

 腕部には小さなガトリングが装備されており、射撃機なのがわかった。

 

 そんなことを思いながら、カタパルトに足を付ける。

 横にアスナとその横に一機のリヴァイヴが着く。

 正面のハッチが開くと三日ぶりの空が視界に映るが、杏澄としてはそれほど嬉しくも思えなかった。

 茜色の空を視界に入れて、沈みゆく夕日をただ、むなしく思う。

 

「ラファール・リヴァイヴAP、アリエル・ハルバートン!」

「リボーンズ、鬼柳アスナ!」

 

 横二人がそう言うことに、杏澄が戸惑った。

 

「さぁお姉さま、コールを―――」

「あ、えっと……サイレント・ビースト、鬼柳杏澄。出ます!」

 

 宣言と共に三機のISがアウターヘイヴンから飛び立ち、それを機に次々とISが飛び出す。

 全機が出るわけではないのは当然だが、20機もあれば内紛ぐらい軽く止めることができるだろう。

 杏澄は今から向かう場所が戦場だと自覚し、気を引き締めた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 織斑一夏は、鬼柳杏澄の部屋に居た。

 実はこっそり帰ってきているんじゃないかと思いながら、この部屋に来てしまった自分のことを自覚して、一夏は自嘲するように笑う。

 なんて情けないと思いながらも、箒すら泣くほど杏澄は思われていたんだなと思った。

 

「俺、シスコンだったんだな」

 

 杏澄がいないと、なんだかやる気が出ない。というよりやるせない。

 もうなにがなんだかわからない状態であり、千冬でさえも時たま授業でミスを見せるほどだ。

 家族をこれ以上、失いたくないという気持ちがわからないでもないが千冬は度を超えたシスコンだということは一夏にはわかっているので、こうなるのも仕方がないと思った。

 

「はぁ、くそ……なんで俺に相談してくんなかったんだ」

 

 ため息をついて、一夏は机の上に飾られた自分と千冬と杏澄の映った写真を眺める。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 杏澄は部隊の最後尾に着いたまま、紛争地帯の上空へと飛んでいた。

 すでに空は暗く、サイレント・ビーストの黒はその宵闇に溶け込んでいる。真下で起きている戦闘は、間違いなく実際のものであり、人の死というのがありのまま見えた。

 戦場では二つの勢力がぶつかり合い、その中のISや兵器を次々と破壊していくアームドピースのISたち。

 

「こんなのっ……」

 

 自機についているハイパーセンサーにて戦場を見ていると、その戦場で前線に駆り出されている歩兵は五割以上が杏澄より幼いであろう子供ばかりだ。

 知識としては知ってはいた。ニュースなんかでも見たことがあった。それでも、いざ自分の目の前にある戦場でその子供たちが血を流し、体が吹き飛ばされていたりする光景を見せられれば、絶望もする。

 自分が不幸で無かったとは言わないけれど、それよりも不幸を知らない不幸というものを、目の前でありありと見せつけられれば考え方もだいぶ変わった。

 

『見えるお姉さま、これが戦場よ』

 

 妹ことアスナからの通信に、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる杏澄。

 

『だから、こんなものなくしてしまわなければならない、私たちが!』

 

 瞬間、視界に映ったのはISが少女に向けてライフルを撃つ姿であり、それを見た瞬間に彼女の表情は一転した。

 バーニアを吹かして、今まで“自力では”出したことのないスピードでその場所へと飛びながらライフルを出現して放つ。

 その弾丸が少女を“殺そうとした”ISの体勢を崩させ、そこに生まれた隙にランスを出現させマシンガンを撃ちながら近づくとランスをで突きを放った。

 

 ―――やった。なんだ、私だってやれるじゃないか!

 

 杏澄は内心で喜びながらも、手のクローで相手本体を切りつける。

 

「アームドピース!」

「ISでッ! たばねぇの作ったものでよくもこんなことォ!!」

 

 蹴りをくりだしたが、その蹴りは敵のISに掴まれて投げられる。

 

「う゛ァッ!!」

 

 衝撃を受けながらもなんとか体勢を整えて敵機を睨みつけるも、敵機はサーベルをふりかざしていた。

 

「ッ!」

 

 すぐにバーニアを吹かして下がるが、敵機はさらなる追撃をしてこようとするも、杏澄は一度だけ目を伏せる。

 その意味合いは、今捨てた。

 すぐに目の前のモニターのパネルをタッチする。

 

「……BEAST SYSTEM発動! モードLAUGHING RAVEN!!」

 

 杏澄の叫びと共に、杏澄の目が細まり獲物を狩るようなその視線に睨まれた相手が警戒して少し下がる。

 しかしすでに杏澄は通常の範囲を超えた能力を持った“獣”であった。

 すさまじいスピードで接近した杏澄がランスで敵機を攻撃し続ける。

 

「ぐぅっ!」

 

 シールドエネルギーがすべてなくなる音がして、それと共に絶対防御が発動しだす。

 相手はこれ以上のダメージを受けて絶対防御でエネルギーがなくなる前にサーベルを出現させた。サーベルを持ったところで、サイレントビーストがそのサーベルのリーチから出る方が早い。

 素早く距離を話すとその両手にガトリングが現れる。

 

「ひゃははははっ、イッちまいなぁ!」

 

 轟音と共に、回転するガトリングから吐き出される弾丸を相手がサーベルで切ろうとするもすべてを切れるわけもなく、ダメージが確実に入っていく。

 

「しつけぇんだよクズが!」

「違う、こいつの雰囲気、何もかも!」

「わかってるんだろ、この私のすべてが違うということ! なら大人しく、逝けよやぁぁっ!」

 

 絶対防御のエネルギーが無くなり、ガトリングによりズタズタになる相手の機体とその人間。

 だが今の杏澄はなにを恐れるでもなくただ笑いながらその光景を見るのみ。

 どこまでも残酷になり、どこまでも敵意を抱けるこの姿、そして相手の顔も判別なくなってから、杏澄は元の杏澄へと戻る。

 

「ッ……ハァッ……ハァ……うっ」

 

 ISをまといながら、その場で嘔吐する杏澄へと近づいてくる先ほど杏澄が助けた子供。

 

「……」

 

 なにを言っているのかわからないが、その少女は涙を浮かべながら杏澄に笑みを向ける。

 感謝しているということは伝わり、杏澄は嘔吐したばかりで苦しく辛い状況だが、笑みを浮かべられた。

 

 人を殺した。

 その手ではじめて人を殺したことを自覚して、震えながらも飛び上がりその戦場から去ろうとした。

 

 瞬間、背後からの衝撃に驚愕する。

 

「お姉さま私よ」

「あ……うん」

 

 アスナが自身を支えてくれているのだとわかり、少しばかり操作を放棄して連れて行ってもらう。

 嘔吐感が止まらないまま、アスナに連れられて杏澄はアウターヘイヴンへと帰る。

 

 帰還後、杏澄はアスナに支えられながらも部屋へと戻ると、そのまま倒れこむ。

 

「ハァッ、ハァッ……うぁっ……」

 

 人を殺す感触というものは、銃であるから伝わってくることは無いが、それでも自身が人を殺したというのはそれなりのダメージを彼女に与えた。

 キリキリと締め付けられる感覚、名も知らぬ相手の死に顔、すべてが頭にフラッシュバックする。

 

 もっと楽観的に物事を考えられる性格であれば良かったと思う、そうすれば悩まなくても済む。

 

「お姉さま、お姉さまは自分の正しいと思ったことをしたのよ……だから良いの、悩まないで、平和のための……生かしておいてはいけない人間を消しただけ」

「生きてちゃいけない人間なんてっ……いないよッ!」

「……そうね、ごめんなさいお姉さま。それでも貴女は正しいことをした……苦しくなったら私を呼んで、辛くなったら私を呼んで、かならず一緒にいるわ」

 

 アスナはギュっと杏澄を抱きしめる。

 唯一の肉親として、精一杯の愛情を杏澄に伝えるかのように杏澄の頭を胸に抱く。

 

「あんな“偽物の家族”とは違う、私はお姉さまの味方、必ず……だからお願い、一人で抱え込まないで」

 

 自分が苦しかったことすべてを受け止めて、“誰か”に言ってほしかったことすべてを言ったアスナに、杏澄は心を開いた。

 アスナに抱きしめられながら、杏澄もアスナを抱きしめ返してその胸の中で大声を上げて泣いた。

 一夏すらも見たことも無いように、子供のように泣く。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夜中のIS学園。

 勢い良く起き上がった千冬が肩で息をしながら頭を押さえる。

 そんな彼女の姿を見たことがある人間は、この学園にはいないだろう。

 

「くそっ……」

 

 どんな夢を見ていたかなんて思い出せないが、千冬がこうなるのは間違いなく一夏か杏澄に関連したことだ。

 杏澄がいなくなるということはそれほど千冬の心にダメージを与えていた。

 

 自分がいけなかったのかと自分を責めることをしながらも、いつもは鉄の仮面をつけて平然と過ごす。

 それがどれほどの精神力が必要なことかを、誰もわからない。

 だがそれでも、千冬はここで弱音を吐くわけにもいかなかった。

 

 杏澄がいなくなって苦しんでいる人間は自分だけでないのだから……。

 

 

 




あとがき

今回はあまり重要な話、というわけでもないような重要な話のような、微妙なラインですが必要ではありましたって感じで
次回はIS学園側をメインに話を進めていきます
杏澄がこんな感じになっていると知らない一夏はどうしているか!

どっちが幸せか、微妙なラインになってきた!

では、次回もお楽しみいただければ僥倖!
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