インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~   作:王・オブ・王

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第三十一話『令』

 あれから一週間……。

 

 鬼柳杏澄はアウターヘイヴンでの生活もすっかり慣れた。乗組員たち、いや仲間と言っても良い彼らからの悪意はやはり一ミリも感じない。

 そもそも感じないというほど杏澄は悪意を感じやすいタイプでもない。だからこそ全員が全員自分に悪意を抱いているように感じて“通常なら”ビクビクしているのだろう。

 

 ともかく、杏澄も乗組員たちもすでにお互いを仲間だと認めているのは間違いない。

 

 IS学園でのことを思いだしたりもする。辛い記憶、嬉しい記憶、そのほかにもちょっとした日常。

 恋しくないと言えば嘘になるが、妹ことアスナもいるしツナギの少女こと綱木(ツナギ)や片瀬とも楽しく話をできるし、耳や尻尾のことで気を張らなくて良い。すでに実家のような安心感すら抱いている杏澄だが、一夏に一言でも声をかけていきたかったなとは、思う。

 

 だが、もう会いにくい。

 向こうは知らないだろうけれど既に杏澄は人を手にかけている。命を奪っている。

 あの日の翌日には、杏澄は思ったより引きずっていなかった“アスナが手を握っていてくれた”おかげかもしれないが、それでも鬼柳杏澄はすでに“十以上の命を奪っている”のだ。

 あの日の戦いから二日後に戦いが一度、そしてその後さらに一日またいで二日連続で戦いがあったが、似たような戦場だった。

 

 あの日の翌々日の戦いには出なかったが、残り二回は出た。

 そして、鬼柳杏澄は“自分の意思”で戦いに出て、IS乗りを殺している。

 

 最初より、あっさりとした気分だった。

 最初の一人、そして次の一人、それ以上の顔は覚えていない。

 

 仲間のIS乗りがやられそうになっているのを助けて、褒められはしない。この組織はいくら敵を倒しても褒めない。

 人の命を奪うと言う行為に罪の意識があるからだろう。それでもやめなが、だからこそ自分たちが他人を殺しても褒め合わない。

 でも、助けた仲間に礼を言われた。

 

『救ってくれてありがとう』

 

 そうお礼を言われて、杏澄は思わず泣いてしまった。

 誰かに必要とされ、誰かにありがとうと言われ、自分を肯定されたような気がしたのだ。

 だから、涙が止まらなかった……だがその仲間、“アリエル・ハルバートン”は杏澄を抱きしめ続けた。

 

 暖かい仲間たちと、自分を必要としてくれる人、そして自分(耳と尾)を隠さなくて生きて良い場所。

 そこが、居場所だと思った。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ブリーフィングルーム。

 そこに集まるのは艦のトップとIS乗りたち、つまりは鬼柳杏澄、そして妹である鬼柳アスナ、さらに友人とも言えるアリエル・ハルバートンもだ。

 二人の間に挟まれている杏澄は、耳は出ているし前髪も髪留めで留めてあり眼も普通に出している。

 横のアリエルがやけに近く、胸が腕に当たって少し顔を赤らめる杏澄。

 

「あらアリエルさん、お姉さまに近づきすぎじゃない?」

「そう? アスナこそお姉ちゃんが返ってきたのはわかるけど近づきすぎじゃない?」

 

「え、えっと二人共……静かに聞かないと片瀬さんが」

 

「本当に杏澄は良い子だ。お前達も見習って静かにできんか?」

 

「うっ、ごめんなさい……」

「面目ないです」

 

 片瀬の言葉に軽く頭を下げる二人。笑みを浮かべた片瀬が杏澄の頭をその大きな手で軽く撫でる。くすぐったそうだが嬉しそうな杏澄。

 そうしているとまるで親子のようだと、メカニックのトップとして来ている綱木は思った。

 そして、ブリーフィングルームの照明が消えて暗くなり、モニターだけが明るく表示される。

 

 そこに映るのは―――

 

「IS学園!?」

 

 まっさきに反応するのは案の定鬼柳杏澄だった。

 驚く面々、片瀬も少し苦々しい表情を浮かべるのだが、やはり杏澄のことを思ってだろう。

 そして、作戦の説明を始める。

 

「みな知っているであろうIS学園への潜入任務だ」

 

「……っ」

 

 生唾を飲む杏澄、そのマップを見て顔をしかめた。

 あまり思い出さないようにしていた日々が一気に思い出される。それでも人間の性か、思い出すのは嫌な記憶の方が大きいし強い。

 そっと、横のアスナが手を重ねた。

 安心したように息をつく杏澄。

 

「今回はアームドピース本部から直下の命令により、特務扱いとなる」

 

 片瀬の言葉に、聞きなれない単語を見つけた。

 

「え、特務……?」

「アームドピース本来の戦いではないから、本来の戦いをするためのミッション」

「つまり、戦場以外で」

 

「命は奪わないわ。ただ資料を奪ったりが多いの」

「ああ、そうなんだ……」

 

 少しほっとしたような表情を浮かべる。

 片瀬が顔をしかめつつ、資料の入ったUSBメモリをアスナへと渡した。

 驚く杏澄だが、アスナは笑みを浮かべてそれを受け取る。

 

「本部からのパスがかかっている。この艦でそれを開けられるのはアスナだけだ。つまり……」

「私専用ってわけよお姉さま」

「え、大丈夫、なの……?」

 

「これでもエース、本部直属のこの艦の中じゃ片瀬司令の次に偉いんだから」

「いや、本部からのパスを知っている時点で彼女の方が本部にとっては貴重人物ではあるが、ね」

 

「……なら、良いんだけど」

「心配してくれてありがとうお姉さま、でも私……失敗しないから♪」

 

 とは言われたものの、心配ではあった。

 唯一の肉親、家族なのだ。

 IS学園には最強の人間がいるのを知っているし、捕まったとしたら……。

 

「そ、それさ……」

「ん?」

 

「私も着いていくわけには、行かないかな?」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 杏澄の提案は、あっさりアスナからOKが出た。

 作戦内容はアスナ以外には機密であり、片瀬も知らないことだ。だが今回の内容を見て、アスナは杏澄が着いていくことに対してOKを出した。

 片瀬はそれ以上何を言うでもない。彼もアスナに対して絶対の信頼を寄せていて、彼女が許可したということは杏澄がいてもカバー可能だと判断したからだろうと理解している。

 故に、杏澄は今一度、IS学園へと向かうこととなった。

 

 それに備えて運動はしておけとのことだが、IS学園やこっちに来てからも運動には事欠かない。

 身体は外面だけみれば相変わらず肉付き良く性的な意味でだらしなさそうな身体だが、動きに問題はなく持ち前のセンスか才能かすっかり運動能力は高くなっており、杏澄としてもそこは疑問だが悪いことじゃないし良く思っている。

 

 水面下で着々と作戦が進む中、杏澄は部屋を出て休憩所にてコーヒーを買う。ちなみに缶コーヒーはこの艦では2/6程度しかいない男の中での一部と杏澄ぐらいしか買わない。

 そして缶コーヒーを買うと、後ろにいたのはアリエルだった。

 反射的に“あの時のこと”を思い出す杏澄。

 

「ひっ!」

 

 手の中の缶コーヒーを落として、尻もちをつく。

 

「あ、杏澄!?」

 

 驚いたアリエルが膝をついて杏澄の顔を見る。

 お世辞にも顔色が良いとは言えないで、眼が泳いでいるのを確認するとすぐに頃がった缶コーヒーを拾い傍のベンチに置くと、杏澄に手をかしてベンチに座らせた。

 その隣に座ると杏澄のことを見る。

 アリエルの橙色のツインテールが揺れた。

 

「大丈夫?」

「あ、うん……ご、ごめんね」

「なにがあったの? 今の、普通じゃない……」

 

「いや、学園でちょっと」

「話せないことなら良いんだけど、なにかあるなら……」

 

 その言葉にウソ偽りがあるとは思えない。だからこそ、話すことにした。

 

 一つ一つ、あの日あったことを話す。

 一夏からもらった弁当などのことはわからないだろうし話はしないが要はいじめにあっていたという話をした。

 こちらに来てから人に色々と話すようになったのは良い傾向と言えるだろう。

 そして話を終えると、アリエルが立ち上がる。

 

「許せない! あたしのあす―――」

「?」

 

「あ……あたしの友達の杏澄にそんなことすんなんて!」

「……大丈夫だよ、ありがとう。そう言ってくれる人がいるってだけで、ほんと、私……嬉しぃっ」

 

 消え入りそうな笑顔でそう言う杏澄を見て、アリエルはそんな杏澄の横に座って手を握った。

 

「私が……私が……守るから!」

「……うん、ありがとう」

「あらあらお姉さまに色目を使う豚が一匹」

 

「!?」

 

 ニコニコしながら現れたアスナにビクッとなる二人。

 杏澄が振り返るとアリエルも手を離す。

 耳をぴょこぴょこ、尻尾をぶんぶん振りながら杏澄は両手も振る。

 

「色目って、そんな……ね!?」

「そ、そうだよ私は友達として!」

「なら良いんだけど~♪」

 

 

 ちょっと、妹が怖いと思った。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 IS学園、医務室。

 一週間と少し、ようやく治療が完了した者たちがいた。

 学園内の集中治療室にいたのだが、今はすっかり通常通りだ。

 

 さすが最新医学の粋を集め作られた場所だと、言わざるを得ない。

 

 その医務室の前に、織斑千冬は立っていた。

 そして、これから会う相手が杏澄をいじめていた生徒だと知りつつ、織斑千冬は話を聞くこととなる。

 扉を開けばそこにはIS学園に残ることを希望した3人の生徒。

 

 千冬はどのツラ下げてとも思うが彼女たちは知らないのだ。杏澄をいじめていたことがバレているなど……。

 

 そして入ろうとした瞬間、そこに現れる数人の生徒。

 弟である織斑一夏、そしてそんな彼に思いを寄せる篠ノ之箒とシャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒ。

 さらにこの件の重要人物、彼女(鬼柳杏澄)を思っていたセシリア・オルコットと(ファン)鈴音《リンイン》の二人。

 合計六人が目の前に立つ。

 

「ここからはお前達には酷なこととなる」

 

「わかってるよそんなこと、でも一言二言……言わせてくれよ」

「そうですわ、今すぐビットで突撃しないだけでも私自分をほめてあげたく思います」

「千冬さん……」

 

「私たちだって、杏澄がなぜ奴らにそんなことをされなければならなかったのか知る責任があります」

「うん、ボクら結局、杏澄の友達として……なにもしてあげられなかった」

「杏澄を……」

 

「……ダメだ」

 

 そう言う千冬に反論しようとする五人だが、部屋の中から声が聞こえた。

 女子生徒三人の声だ。

 その声が聞こえだすと、自然と全員声を止める。

 

「このままじゃ済まさないよ」

「でもまたアレが出てきたらどうする?」

「知らない、捕まってんじゃないあれだけしといて……ホントむかつく」

 

 本格的に全員が黙る。黙らざるを得なかった。

 これ以上を聞くためにだ。

 聞きたくもない衝動にかられるが、それでも聞いてしまう。

 

「もうアレに助けてもらえないようにする、とか?」

「えー、どうやるのそれ?」

「ほら、あんたらもアレ気になるって言ってたじゃん? カナコたちも結構良いって言ってたし、身体はぁ? あといじめてて面白いのと、なぁんかエロいじゃん鬼柳」

「わかるけど、それこそ大変なことに」

 

「だから、アレに助けてもらえないようにアイツが『言わないで』って言ってた……あった、この写真使って輪姦(まわ)して、それネタにまたゆすりまくれば良いんじゃね? 規模大きくなれば私たちに手ェ出したらばら撒かれるわけだからもうアレを止めるっしょ」

「天才じゃん! それで行こっか、いやぁ一回やってみたかったんだよねぇ処女膜破るの」

「うわー最低」

 

 下品な笑い声が聞こえる。

 

 どこまでも下種で下品な言葉の応対がされる。

 それでも、千冬が耐えていた。握りしめた拳から血が滴り、その下に血がボタボタと流れ出す。だが千冬がそれほどまでして我慢してることを、正面の六人が我慢できるわけがない。

 まさに血走るという言葉がふさわしいだろう。

 

 箒とシャルロットが部屋に入ろうとするのをラウラが腕を掴んで止める。そんなラウラも唇を噛んだのか血を垂らしていた。

 そして千冬が突撃しようとするセシリアと鈴の両腕を掴んだ。

 最終的に、一番危険なのは目の前の二人だと思った。

 

 修学旅行時に二人に『杏澄がなんで好きか』と聞いた時にはぐらかされはしたが、この二人がどれだけ妹分を思っているかはわかっているつもりだ。だからこそ止めた。

 

 そして、一夏は放っておいてもなんだかんだで自制する―――そう、買い被っていた。

 

 

 理解が浅かったのかもしれない。

 白式の腕部を部分展開して、雪片にて医務室の扉を叩き斬るとその扉を蹴破る。

 バラされ二枚になった扉が中に飛んでいく。そしてその視界に映る三人の生徒の手にあった携帯端末が落ちると、そこには自室のバスルームで額から血を流して耳が晒されている杏澄。

 

 千冬も一瞬、我を忘れそうになるが一瞬だ。一夏はすでに我を忘れている。

 

「止まれ一夏!」

「止まるか! こいつらが杏澄をっ、許さねぇ! テメェらだけは“叩き斬って”やるッ!」

 

「ひっ!」

 

「怖いかよ! でも杏澄はもっと怖かったんだ! 一人で、テメェらは沢山で、なんでっ、なんで杏澄がそんな目に合わなきゃなんねぇんだよ!」

 

 いつの間にか、千冬はセシリアと鈴の手を放していた。

 そして足は動かないことに気づく、千冬は初めての経験だった。自分の身体が自分の思い通りに動かない……それはラウラがISを使ったわけではない。無意識だ。

 無意識下に織斑千冬は『殺ってしまえ』と思っていた。それを、理解する。

 

 そして、一夏は雪片を振り上げた。

 

「ウオォォァッ!!」

 

「一夏ァ!」

 

 叫ぶ千冬、そして振り下ろされた雪片弐型。その一撃は一夏と千冬の今までに無い怒りの形とも言える。

 

 そして、その刃は生徒たちの身体を両断。

 

 

 ―――しなかった。

 

 

 火花が散る。振り下ろされた雪片弐型の刃は受け止められていた。

 

 なににか? ISだ。鳳鈴音の甲龍が青龍刀にて雪片を受け止めていた。

 

 鈴の背後にいる三人の生徒は涙目で失禁するが、それに構っている余裕があるものは現状どこにもいない。

 一夏の表情はいまだに怒りに染まっており、今までに見たことのないような表情のまま今までにない力で剣を押し込んでいくが、鈴の青龍刀に合わせるようにセシリアがインターセプターを持ち二人の力で押し込む。

 後ろに下がる一夏。

 

「ふざけんな! なんでそんな奴ら守るんだよ、そいつらはッ!」

 

「わかってるわよ! でもそれは違う。こんな奴らのために一夏が、あんたが手を汚す必要はない!」

「そうですわ。誰も……望まない!」

 

「でも、杏澄はァッ!」

「一夏!」

 

 箒の叫び声に、止まる。すぐにラウラとシャルが横にやってきて、一夏の手に触れて手を降ろさせる。

 部分展開されていた白式が消え、床に膝をつける一夏。

 前のめりになって、そのまま両腕の拳で床を殴りつける。

 

「ぐっぞぉ゛ぉぉっ!!」

 

 千冬が一夏の背中に優しく手を置く。

 一夏を止めた二人を見れば、当て所の無い怒りをその表情と力一杯握りしめた拳に表していた。

 大きな音を聞きつけた山田真耶や他の教師たちがやってくる。

 

「ああぁあぁっああっ!!」

 

 叫びながら床を強く叩く一夏。

 全員、並の状態ではないのははっきりとわかる。

 そしてそんな中、真っ先に動いたのはセシリアと鈴の二人だった。一番恨みを持っていてもおかしくない二人が一番冷静に、一夏の傍に寄ると立たせて、俯いたままの一夏の背中を押して出て行こうとする。

 

「オルコット、鳳……」

 

「先生、すみませんでした。私たちが最初から言うことを聞いていれば……」

「懲罰は後で受けますから、今は……泣かせてやってください」

 

 一夏とセシリアと鈴の三人、その三人に千冬は言葉をかけられなかった。

 静かに頷いて千冬は状況を見る。

 箒たちも戻っていく。

 

 怯える三人の姿を見て、近寄った千冬がその携帯端末を殴り砕き、三人にしか聞こえないようにつぶやく。

 

「杏澄に近づいてみろ……私が、“殺してやる”」

 

 それだけ言うと、三人は気を失う。

 立ち上がった千冬が三人を見てから真耶を見る。

 苦々しい顔をした真耶と共に千冬は三人を移動させることとなった。

 

 

 重苦しい現実だけが、杏澄がいなくなり残った。

 

 彼女がいかに中心となっていた人物だったか、今ならはっきりわかる。

 

 1年1組の面々も、真耶も、それをはっきりと理解した。

 

 

 




あとがき



相変わらず重苦しい話ですが、まだまだ重苦しいのが続きます
この章が終わったら楽しくおかしいギャグ回を入れたい、早く書きたい……

読むのきつくなる人もいるかもしれませんがもうしばらくお付き合いいただければと思います

では感想なんかもありましたらお気軽にー
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