インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~ 作:王・オブ・王
あれから二日。
対電子機器用のステルス機能を展開しながら、アウターヘイヴンはIS学園近海に近づいた。
そして、IS学園に海から這い上がる二人の少女。
もちろん杏澄とアスナの二人であり、ダイビングスーツを脱ぐとISスーツだった。
それから通常の服装へと戻ると、アスナと杏澄は手首につけた装置を使ってワイヤーを放つ。
先端の鍵爪になっている部分が堀へと引っかかると、そのまま引き上げられてIS学園へと潜入。
杏澄としてもそこらは通ったことも無い場所なので見覚えも無く思い出も無い。
アスナと共に音を立てずに走る。
「お姉さま平気?」
「うん、ただ……」
「どうしたの?」
「カメラ、平気なの?」
「ええ、あれが私たちの姿を捉えることはないわ……でも急いだ方が良いのは確かだから、職員室に行きましょう」
「職員室、ああ資料……」
その言葉にうなずいて走り出すアスナに、杏澄はついていく。
久しぶりのIS学園の制服、アスナも着ているのは新鮮だが、いざ見つかった時のためだろう。
とりあえず消灯時間は過ぎているし教師もそんじょそこらを歩いているとも思えないが、とりあえず目的は職員室だ。
途中までくれば杏澄も道がわかる。むしろ人通りが少ない道を案内する側だった。
そしてそのまま、アスナと杏澄が職員室の前へと着く、誰も周囲にはいない。もちろん中にも……となればあとはアスナの仕事だろう。
杏澄は外で待つことにする。
見つかってもアスナが見つかった時ほど面倒なことにはならなうだろう。
「私が、守らなくちゃ……」
たった一人の家族。一夏は確かに姉弟のものだったと思っていたけれど……。
彼女とは血が繋がっている。
確証はないし証拠も無かったが、彼女のことは、ここ数日で理解した。
―――だから私が……。
「杏澄?」
声が、聞こえた。聞きなれた声、その声の方に、顔を向ける。
今は前と同じように前髪をおろしていて、カチューシャこそつけていないが……前にここに居た時と変わりない。
だからこそ気づく人は気づくだろう、だがそれで良い。それならばまだ良い。
アスナが見つかったわけでもないし……それに……。
「やっぱり杏澄だ! ボクだよ、シャルロットだよ! みんな心配してっ」
「っ!」
「杏澄!?」
その場から走る。全力ではない、だがそれで良い。シャルロットは追いかけてくる。
職員室なんて一ミリも気にかけていない。
だが一つ問題があった。
思ったより、騒ぎになってしまうことだ。
だがそれはアスナが見つかった時もまた同じようなことであり、それならば追われて捕まるのは自分の方がましだった。
故に走る。走って走って、シャルロットを撒く。
あえて寮に入るのは、校舎の方から気を逸らすためだ。
見慣れた階層の廊下を走っていると、近くの扉が開く。その開いた扉から手が伸びて、杏澄の腕を掴むと引き込む。
顔をしかめる杏澄だが、部屋にいれられると外で誰かが走る音が聞こえる。
そしてそのまま杏澄は腕を引かれた。
「一夏……!」
「杏澄っ!」
そこは杏澄の部屋。
一夏は杏澄が逃げ回ってると聞いて、この前に来るのを待っていた。
そして思い通り杏澄は前を通ってようやく掴まえたのだ。
「なんで今まで連絡よこさなかった!」
「ご、ごめん……」
「っ」
なんだか、杏澄は怯えているような表情だった。
「ど、どうした……怒ってるわけじゃないんだ」
「一夏からもらった、カチューシャ折られちゃって、お弁当もひっくり返されて……私っ」
「あんなもんもう一回買ってやる!」
「っ……あんなもんじゃない、私にとっては大切なっ、家族だってくれた……!」
「そ、そんなことより今はお前が戻ってきたことだ!」
違う、一夏は自分自身を否定した。
言いたかったのはそんな言葉じゃない。謝りたかった。
気付いてやれなくてすまなかったと、だがそれよりも感情がその言葉の前に違う言葉を、言わせる。
「私は戻ってきたわけじゃない、ここには戻らないっ……戻れないっ!」
「杏澄お前いい加減にっ!」
「杏澄さん!」
扉が開かれて、セシリアと鈴の二人が入ってくる。
肩で息をして焦ったような嬉しいような表情を浮かべながら入ってきたその二人を見て、杏澄は驚く。
だが今ここで彼らの元に戻ることはできない。
自分には自分を待ってくれている仲間と……妹がいる。
「ご、ごめんっ……!」
腕を振り払うと、窓の方へと走ってそのまま窓を開いてベランダに出た。
一夏とセシリアと鈴がそんな杏澄へと走るが、杏澄は腕のワイヤーをひっかけてそのまま地上へと跳ぶ。
ワイヤーが伸びて急速な落下を防ぎ、無事着地。
手首に装備した機械にワイヤーが回収されるとそのまま走る杏澄。
上から一夏とセシリアと鈴の三人がISを使って降りてくる。
そして道を走る途中に、アスナが現れた。
止まる杏澄とアスナ、その二人後ろには一夏とセシリアと鈴の三人。
「杏澄、そいつ……」
「ごめん杏澄、あんたを守れなかったこと……気づいてあげられなかったこと、謝る。だから戻って来てよ!」
「杏澄さん、私たち……私たちは貴女を失いたくない!」
「セシリアさん、鈴……私は、助けてもらったんだ……危険を冒してでも助けに来てくれたんだ」
「そちらの方、ですの?」
「誰よあんた……IS学園の生徒じゃないでしょ!」
「その通りだ」
凛とした声と共に、三人の後ろから現れるのは織斑千冬。そしてシャルロットとラウラと箒。
結果的にはいつもの面子が集まって、杏澄とアスナの前に揃う。
このまま後ろに逃げることも可能だろうかと杏澄はアスナを見る。
そして、少しばかり顔をしかめているアスナを見てから、千冬の方を見た。いつもと同じ、どこまでも……。
「……悪いようにはしない、戻ってこい鬼柳」
「っ」
千冬からの言葉、そしてそれに続くように箒が話だす
「杏澄! 頼む杏澄、戻って来てくれ!」
「また……お前と共に、過ごしたい。ここにいるみんなと、お前で!」
「杏澄っ、ボクは君のことを友達だと、思ってる!」
「あっ、私はっ……でも、それでもっ」
「杏澄、家族の元に、帰って来てくれ!」
瞬間―――アスナの唇が歪み、同時に杏澄がハッとした表情をうかべた。
強風に、前髪がさらされてその表情が見え、杏澄が苦虫を噛み潰すような表情を浮かべて、口を開く。
「でもね、一夏……」
「どうした?」
「お姉ちゃんは、そんなこと思ってない……」
「……な、なに言ってんだよ杏澄。千冬ねえだって」
そう言って一夏は千冬の方を見るが、驚いたような表情を浮かべていた。
千冬がそんな表情を浮かべるのは珍しいことであり、この中では誰も見たことがないだろう。
一夏と杏澄を除いて、それでも杏澄はもう止まらないし千冬のことなど見えていない。
「こんな時ぐらい、じゃあこんな時ぐらい名前で呼んでよ!」
「あ、杏澄……?」
「もっと心配してよ、臨海学校の時だって! もっと愛してよ。前はもっと私のこと呼んでくれたよ! 見てくれてたよ!」
一度決壊したダムの勢いは凄まじい。
「でもしょうがないじゃん! お姉ちゃんは私を好きじゃないから、そんなことできないよっ! 私はっ、私は他人だから! お姉ちゃんの家族じゃないからっ!」
「違う杏澄!」
「違くない! 私のっ、私の家族はアスナだけだっ!」
その言葉に、全員が黙る。
突然出てきた知らない名前に全員が固まるが、杏澄の隣のアスナは笑みを浮かべながら杏澄に近づく。
IS学園の制服を脱ぎ捨てると、ISスーツのまま杏澄の手を握った。そして片腕にはUSBメモリと紙の資料。
「そう、お姉さまの家族は私だけ……あんな紛い物の家族とは、違う……」
「な、なんなんだよっ、お前はッ!」
「私は鬼柳アスナ、血のつながった妹……お姉さまの本当の家族、あなたのような紛い物とは違う」
「と、突然出てきて……!」
「じゃあ貴方はお姉さまがおかしいってわかったの?」
「っ! も、戻ってこい杏澄!」
「いいえ、貴方が自ら手放したのだから、戻らない」
「ふざけんな、俺は杏澄のっ」
「お姉さまのなに? 他人よ」
「っ……千冬ねえもなんとか言えよ!」
だが、ただうつむいて黙るのみ。
「ふざけっ」
「もうやめて一夏っ!」
「っ」
「もう、私たちは一夏に関わらないから……一夏も、私を放っておいて」
泣いていた。涙が流れていた。一夏は何も言えなかった。
その懇願に、その切ない願いに、そのか細い声に、何も言えないまま雪片弐型を地面に落とす。
杏澄とアスナはISを纏い、そのまま飛び上がる。
その速度についていけるのは箒の赤椿だが、止まっていた。
誰もそこから動けないし、一言も発せない。
杏澄に否定された。それは杏澄自身が思うより、彼らにとっては重苦しい言葉だった。
◇◇◇◇◇◇
二機のISがアウターヘイヴンへと戻る途中、アスナがUSBメモリと資料を放り投げると、リボーンズのビットを使い熱で焼滅させた。
杏澄が驚きつつアスナを見るが、満足そに頷いてから杏澄の方を見て頷く。
それで良かったのかとホッとした表情の杏澄、ゆっくりとアウターヘイヴンの甲板からハンガーへと入る。
二機が戻ると『おかえり』の声が聞こえて杏澄は『ただいま』と返してISを降りた。
アスナも同じく降りると、二人は静かに床に足をつける。
やってきた片瀬も少し安心したような表情だ。
「おかえり二人共、特務の方は?」
「無事終了です片瀬司令♪」
「はい、無事です」
「……大丈夫、なにかあっても大丈夫だ」
目元が赤い杏澄を見て、笑顔を浮かべつつ片瀬は杏澄の頭を撫でる。
くすぐったそうで恥ずかしそうだが尻尾が揺れているのですぐに嬉しいのだとわかった。
特務について片瀬がそれ以上、聞くことはない。
「それじゃ部屋に戻るね」
「待ってお姉さま、大事な話があるの」
「え?」
その“大事な話”のためにアスナは杏澄の部屋へと入った。
誰にも聞かれないようにと、アスナは部屋のロックをかけるとベッドに座る。
杏澄はアスナの好きな紅茶を淹れて、自分は缶コーヒーを、二つをテーブルの上に置くと、アスナの隣に座った。
静かにアスナの話を待つと、アスナが真っ直ぐと杏澄の眼を見つめる。
「お姉さま、私たちは同じ鬼柳の血を持つ人造人間」
「……え?」
「私とお姉さまは戦場で戦うためだけの存在」
「ちょ、ちょっと待って……私たちの、私の出生の……」
「そう、落ち着いて聞いて」
「う、うん……」
「試験管の中で生まれた私たち、もっと沢山の姉妹兄弟がいるはずだけれど今は二人、計画が中断されたせい。お姉さまは数少ない動物との融合人間の成功例」
「私が、だから狼の耳と目と尾……」
「そう、そして私は身体能力だけを底上げされたもの……なぜそんなものを作ったか、戦争に使うため、圧倒的生産性と圧倒的な能力、それのために作られた生き物」
「そんなっ」
「お姉さまはプロトタイプの中でもトップクラスの出来だった。将来を鑑みた結果だけれど、そういうことなの。そしてお姉さまを連れて行ったのは実験の主任であった二人、鬼柳京太郎と鬼柳さくらの二人」
「私を、っていうかお父さんとお母さんの名前……」
「そう、私たちを置いて……だけれど」
苦笑するようなアスナ。
だが置いていかれたアスナ達と、連れて行かれた杏澄。それを思うと最初の態度も納得できる。
あれは単純な嫉妬だったと考えれば、むしろなんで許してくれたのか疑問だが……。
そんなことを考えていると、アスナが杏澄のもみあげを撫でる。
「お姉さま、さっきの資料……なんだと思う?」
「え、そんなのわかんないけど……」
「正解はね……IS学園のお姉さまのデータ」
「……そりゃそうだよね、あそこにいつまでも置いておくわけには……あれ、でも」
「それと同時刻にお姉さまの戸籍が置いてある場所も焼き払ったわ」
「え?」
「ありとあらゆるお姉さまの情報をありとあらゆる場所にハッキングや物理的に消した。思い出以外ね」
「なんで……そんなことしたら私」
「お姉さま、貴女は死んだの♪」
嬉しそうな声で、楽しそうな声で、彼女はそう言った。
「もう死人、戻れないわ……これで、戻ることは許されない。ふふっ……ふふふっ……」
「な、なんで……」
「今まで楽しい思いは沢山したわよね? だから、今度は私と一緒にね?」
「な、なんでっ……アスナっ」
「そう、そうやって名前を呼んでお姉さま?」
そのまま、アスナが杏澄をベッドに押し倒す。
押しのけることもできないほど、精神を麻痺させたアスナの言葉の数々。
自分の出生なんてどうでも良い。資料が消えたこともだ……だが、今は……。
「お姉さま、貴女は私の姉妹だけど少しだけ違うわ」
「え?」
「……貴女はね、戦場での長期利用を目的とされてるの」
「長期利用……?」
「そう、だから貴女の体は男も女も悦ばせるようにできている。わかるでしょ?」
「ひっ」
すっと下腹部を撫でられると、杏澄が身体を振るわせる。
杏澄には誰にもバレてはいけないことがある―――その最後にして最大のものが彼女が本来、女性がツイていないものがツイているということ……。
それを知ってなお、一夏は彼女を受け入れてくれていた。家族として……。
だがそれでも、今日……拒絶したのは彼女だ。
「お姉さまは戦場で兵士の慰安も目的とされているの、故にそういう風に体はできあがるし……そういう風な体をしながらも戦えるようになっている。それと、性欲強いでしょ、お姉さま♪」
杏澄は応えられない。
すべてはその通りである。性欲はかなり強いし、一夏も弾もそれは知っていた。
ISスーツの女子生徒を見るだけでムラッとするし、すっきりしてもすぐにだ。
つじつまが嫌なほど合う。
「いやっ、やだっ……私、はっ……」
「嫌じゃないのお姉さま、ふふっ……私がたっぷり可愛がってあげるからね」
「やだっ、やっ……」
あの時、自分をいじめていた女を拒絶した時、その時のように気絶したかった。
でもできない。自分はもう行く場所がない。
ここを出てもどうしようもなかった。
片瀬ならば助けてくれるだろうか、それでも……この家族のような艦に亀裂を入れたくはない。
「大丈夫お姉さま。大事な大事なお姉さま……フフフッ、私が守ってあげるから……そして、私が穢してあげる」
「うぁっ……あっ……ひっ……」
「泣いてるの?」
両手で顔を隠して嗚咽を上げる杏澄。
妹に、騙されていた。結局すべてを間違えた。
嫌だ。今すぐ跳ね除けたいが、勝つこともできないだろう。
「た、すけっ……い、ちかぁっ」
まただった。無意識下で助けを求めるのは彼だ。
でもその次に鈴とセシリア、箒、シャルロット、ラウラと浮かぶ顔、そして最後には千冬。
それでも口に出したのは一夏の名、その瞬間、上に乗っていた妹の腕が杏澄の両腕を捕まえる。
「あの男っ、あんな偽物! 偽物っ、許さないっ!」
「やだっ、私はッ」
「お姉さまっ、あはは! あははははっ! 大好きだよっ、うん、私がっ! 私だけが幸せにしてあげる。あげるからァッ!! アッハハ、ハハハハハッ!」
笑うアスナ。
「あんな男も、女共もっ、忘れさせて……私だけのお姉さまをっ!」
アスナはただ笑いながら―――蹂躙する。
あとがき
とりあえず、絶対に幸せにはなります
色々とニッチでコアな話なんですが、読み続けてもらって良かったと思える作品を作れればなと思います
それでは、次回どうなるか、アスナ……家族としてじゃないけど愛してくれてるよやったね杏澄
ではまた次回、なるべく早く更新したいなって