インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~   作:王・オブ・王

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第三十三話『かすかな希望』

 天井のシミを数えてれば済むなんて言うけど、嘘だ。

 

 そう、鬼柳杏澄は思った。

 ベッドに横になっている杏澄、シーツを肩までかけてボウっとしていた。

 部屋にアスナはいない。やることをやってさっさと出て行ってしまった……だが、最後に頭を撫でられた時の感覚は嫌いでもない。

 それでも、杏澄は疑わざるをえなかった。

 

 自分は所謂、愛玩具であり……同時に兵器でもある。

 頭を撫でられればそうなるようにできているのかもしれない。一体どこからどこまでが自分の感情でどこからどこまでが“おもちゃ”としての機能なのか、自分で自分を疑う他なかった。

 故に、確かめようと起き上がって下着を拾う。

 

 シーツを見て眼を伏せる。

 嬉しいわけでも嫌なわけでもないが、事実として確認できた。自分はまだ処女(乙女)だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 IS学園。

 深夜にも関わらずあわただしい寮内と校舎。

 侵入者があったとあればそうもなるだろう。

 これで確実に武装する平和(アームドピース)はIS学園の敵となり、各国から狙われることになる。

 

 今まで狙っていた国はあったが今更どうして各国を敵に回したのだろう?

 “鬼柳杏澄”一人のためにだ。

 

 そんなことを考えながら、セシリアは休憩所にて彼女らしくもない缶の紅茶を飲む。

 前までは鈴に制されるほど錯乱していた彼女だが今では一夏と千冬ほどではない。

 

 千冬はあのあとしばらく固まっていた。

 鈴もシャルもラウラも固まってしまっており、まともに動けたのは箒とセシリアと一夏。

 だがまともに動けたというには一夏は暴走していた。

 

 千冬の胸倉をつかんで叫びを上げている姿を思い出す。

 

『なんでちゃんと杏澄のこと見ていてやんなかったんだよッ!』

 

 そう叫んだ彼は哀しみと怒りの織り交ざった表情をしていた。

 今まで生きて来てみたことがない人間の表情。

 セシリア・オルコットは織斑一夏への認識を改める。彼は現状ライバルとかそういう問題ではない。

 

 杏澄を助けるための“同志”だ。

 

 故に、とりあえず彼にはまともに戻ってもらわなければならない。

 すぐにシャルとラウラは戻ったが鈴は箒が部屋に付き添って行った。

 なぜ自分がこれほどまで冷静なのかと嫌になる反面、今はそれも悪いこととは思わない。

 

「……セッシー」

 

 声をかけられてハッとした。そちらにいるのは布仏本音と鷹月静寐の二人。

 心配そうな表情をしているがもう知っているのだろう。

 それもそうかと、苦笑した。

 

「……ええ、噂通りですわ」

 

「やっぱり、でもなんでそのまま……」

「あすみん……嫌いだったのかな、ここ」

 

 そんなわけがないと、セシリアは信じている。

 なんだかんだで楽しんでくれていたはずだ。訓練も辛そうにしながらも嬉しそうなときだってあった。強くなっている自覚もあったはずだ。

 ともなれば理由は一つ、ただ一つの……。

 

「いえ、きっかけ……」

「セシリア?」

「……すれ違い、ですわね」

 

 間違いなく、千冬は鬼柳杏澄を愛していた。

 妹のようにかどうかはわからないがそれでも愛していたのだ。でも彼女に伝わっていなかった。

 それは致命的で、今後の彼女の人生をもってしても最大の汚点でもあるだろう。

 

 セシリアは天井を見て、深い深いため息をついた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 アウターヘイヴンにて、鬼柳杏澄は制服姿のまま一つの部屋の前に立つ。

 すでにインターホンは押した。

 扉が開けばそこには……。

 

「杏澄、どうしたの?」

 

 アリエル・ハルバートン。

 この艦のIS部隊の隊長であり、杏澄の友達でもある。

 故に杏澄は彼女を頼った。

 だが、いざ開いたはいいものの言葉が出ない。彼女になんて言えば良いかわからない。

 

 『助けて』は違うと思った。

 この状況でもアスナの名誉を守ろうとする杏澄。

 いや、言ったところで付き合いの長いアスナと来たばかりの杏澄ならどちらを信用するかは明白だ。

 

「……」

「とりあえず、は、入る?」

 

 静かに頷く杏澄。

 アリエルはベッドの上に杏澄を座らせて、隣に自分が座る。

 そうしていると杏澄は身長が高いんだと思い少し驚く。

 

 そういう印象は持っていなかった。もっと小さいイメージだ。

 そんなことを思っていると、か細い声で杏澄が呟く。

 

「……頭、撫でて?」

「……へっ!?」

 

「っ」

 

 ビクッとする杏澄。

 アリエルはそうではないと思いつつ、狼狽しながら、焦りに焦りながら胸に手を当てて深呼吸。

 やるべきことは説教とかではない。とりあえず落ち着いて目の前の少女のことを思う。

 自分が短い間で好きになってしまった少女。

 

「……な、撫でるよ?」

「あ、ありがとう」

 

 確認をとって、アリエルは立ち上がると杏澄の頭に手を乗せる。

 ビクッと驚く杏澄だが、そっと優しく撫でていく。

 狼の耳が不思議だが、さらさらな髪を撫でていると気にもなり、少し触る。

 

「ひゃんっ」

「あ、ごごご、ごめん!」

「う、ううん……!」

 

 首を横に振る杏澄。

 アリエルは手を放して再び横に座った。

 杏澄を見れば、なんとも言えない表情をしている。困惑のような、嬉しそうな……。

 

「どう、したの?」

「こんなことしても、意味ない、なんの照明にも……」

「杏澄?」

 

「あ、ううん、なんでもない!」

「杏澄……」

 

 ただ名前を呼んだ。杏澄と眼を合わせるとアリエルはゆっくりその頬に手を当てる。

 ビクッとする杏澄だが、そのままそれを受け入れて嬉しそうに微笑んだ。

 そんな杏澄が愛おしく思いながらも、アリエルは杏澄の首筋に一つ、見つけた。

 

「ッ!!?」

 

 瞬間、そのまま杏澄をベッドに押し倒す。

 驚く杏澄に構う暇もなく、そのまま杏澄の服をはだけさせる。

 すると、赤い痕があった。

 

「……これ」

「ち、ちがっ……」

 

 怯えるような表情の杏澄、アリエルが手を放せば急いで服を着る。

 インターホンが鳴ると開く。

 そこには鬼柳アスナ。

 

「あんた一体なにっ」

 

 瞬間、アスナの腕がアリエルの首を掴む。

 

「がっ!?」

「お姉さまになにしようとしてるの?」

「ち、ちがっ違うからっ……!」

 

 焦ったような杏澄の言葉。

 腕を掴む杏澄を見てアスナが手を放す。地面に膝をつくアリエルが、正面のアスナを睨む。

 杏澄がアリエルの前に膝をつくがその後ろにいるアスナが杏澄の首に舌を這わす。口をおさえる杏澄の体を、撫でるアスナ。

 純粋に、狂気的だとアリエルは思った。アスナの杏澄への思いは間違いなく愛だが、歪んでいる。

 

「アリエル……お姉さまは私のなの、わかる?」

「お前、一体……」

「すぐにわかるわ……ふふっ」

 

 瞬間、艦内放送が入る。

 

「あら、本当にすぐだったわね……行きましょうお姉さま?」

「……うん」

「杏澄っ」

 

 アリエルが手を伸ばすが、杏澄は取らない。首を横に振るのみ。

 部屋を出ていく二人、アリエルも行くことにはなるが、それでもアリエルは黙ったまま拳を床に叩きつける。

 守ってやりたかった少女、わずかな間ながらも、なのに……。

 

「なんでっ……!」

 

 

 

 ブリーフィングルーム。

 顔をしかめている片瀬、他の面々も困ったような、マズイというような表情。

 アスナとその隣に座る杏澄、アリエルも少し離れた位置に座っている。

 そして、片瀬が話をはなじめた。

 

「アームドピースが本格的に狙われるようになるそうだ」

「なんでまた?」

 

 綱木が聞くと、片瀬は困ったような表情を浮かべつつも、話を始める。

 

「今回の特務でIS学園に侵入したせいだろう」

「なるほど、それでは私たちのせいねお姉さま」

「あ、いやその……ごめん、なさい」

 

「いや、上層部からの特務だし結局はこうなっていたさ。誰もお前を攻めはせん」

 

 片瀬が微笑しつつ言うので、杏澄が周囲を見渡すが誰も杏澄たちが悪いという表情はしていない。

 頷く面々、むしろ守ろうとしてくれている者たちもいる。

 暖かい感覚と、寂しいような感覚がせめぎ合う。

 妹だって愛してくれている。歪んでいようとも、愛してはくれているのだ。

 

「どうだ、今度は日本近海に行くが買物でも行ってきては……まだ個人個人の身元まではバレていないだろうし行動していてそうそうバレて捕まるわけでもない」

 

「片瀬司令の好意に甘えましょお姉さま?」

「う、うん……」

 

 杏澄は、素直に頷いた。

 うなずかざるをえないと言った方が正しいだろう。どちらにしろ今は杏澄の言うことを聞くしかないし、逆らうような気力もいまの杏澄にはない。

 アニメやゲームのように、杏澄の理想のように、先の行為は幸せなものでもなかった。

 今あるのは妙な感覚、哀しみだとか苦しみだとかショックだとかではない。

 

「……日本、かぁ」

 

 隣のアスナにも聞こえないような声で小さくつぶやく杏澄。先のIS学園も一応は日本だが、やはり本島ともなると違う。

 そしてそんな杏澄を、少し離れた位置から見るアリエル。

 アスナの本性、というかアスナが杏澄に何かをしたのは確かだと、静かに深呼吸。

 

 ―――杏澄、必ずアスナの手から救い出す。

 

 悪は見えていた。正義の中に、確かな悪が……。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 二日後。

 

 

 何も着ないままシーツだけかかった杏澄が、上体を起こす。

 理由なんて些細なことだ、昨晩までアスナがいた。それだけ……。

 着替えを済ますと部屋を出る。

 

「部屋かな……」

 

 無論アスナのことだ。

 そんなことを考えていると、通路の奥に誰かが見えた。

 アリエル・ハルバートン、最近は話すことも減ったがまだ二日しか経っていない。彼女が軽く駆けて杏澄の前にやってくる。怯えることもなく杏澄が微笑を浮かべた。

 IS学園でも数少ない生徒にしかそこまで気を許すことはないだろう。

 

「杏澄……」

「どうしたの?」

 

「ああ、いやその……杏澄のことが心配って今更、いいやとりあえず部屋に」

「でもアスナに見つかったら、その……」

 

 また酷いことをされるかもしれない。

 そう言いたかったが言えなかった。心の中で彼女に来てほしいと思っているから、余計に言えない。

 彼女が傍にいてくれたらどれだけ心休まるだろうと思うと言えない。

 

「……うんっ」

 

 頷いて、杏澄はアリエルを部屋に招いた。

 部屋の中、ベッドに座るアリエルに缶紅茶を渡す杏澄。すぐにプルタブを開けたアリエルが一口飲んで前のテーブルに置き、一息つく。

 沈黙、気まずい沈黙ではない。

 

「杏澄、アスナになにをされた?」

「あ、え……そ、の」

「……ごめん、わかってるのに聞いた。ちょっといじわるだったね、確認したかっただけなんだ……」

 

 片手で頭を押さえるアリエルに、杏澄は恐る恐ると言った表情で、口を開く。

 

「た、たぶん当たってるから、その想像……その、そういう……ことだった」

「っ!」

 

 

 拳を膝にぶつける。

 自分のふがいなさへの怒り、今も部屋にかすかに残る香りで昨晩も同じことをされたと察した。

 故に、アリエルは自分を戒めるために拳を握りしめていたが……。そんな拳に手が添えられる。

 

 震えているのは慣れないことをしていて、振り払われるとかそういう心配ばかりしているせいだろう。

 

「だ、大丈夫……だから」

「杏澄……」

「あ、アリエルのせいじゃ……ない、から」

 

 精一杯にそう言う杏澄を見て、アリエルは決意する。

 自分が彼女を助け出す。でなければ自分はアームドピース(ここ)に正義を求めた意味が無い。自身がここにいる意義も……。

 

 ならばとその手を握った瞬間―――扉が開かれる。

 

 顔をしかめるアリエルがそちらを見れば、そこにはアスナがいた。

 彼女のことは嫌いではなかった。だが今は違う……彼女は明確な“悪意”と言えるだろう。

 今も手を震えさせている。弱い少女(杏澄)を蹂躙し、弄び、穢した。

 

 だが自分には彼女に勝つ術がない。見つからない。

 専用機持ちであるアスナは今すぐにでもISを展開して自分を殺せる。アリエルのISは倉庫だ。

 そして自分(アリエル)を殺しても彼女は“特別(スペシャル)”だ。どうにでもなるだろう。

 

「……」

「そうよねアリエル、それが利口よね……でも貴女は知らないんじゃない?」

「なにを……?」

 

「ま、まってアス」

「お姉さまは黙っていてくれるわよね?」

 

 笑顔を向けるアスナに、杏澄は静かにうつむく。

 アリエルはアスナの言葉を待つ。

 笑みを浮かべたまま、アスナは話を始めた。

 

 

 話したことは“あの日”杏澄に話した内容とほぼ変わらない。

 人造人間である杏澄たちのこと、アスナと杏澄の出生や、どういういきさつで杏澄だけが平和に暮らしていたのか……。

 “特務”のこと、死人にしてでも、もともと杏澄をこちら側に無理矢理にでも引き寄せる手筈だったこと。

 

 そして、杏澄の存在理由とその“使用方法”……。

 

 

 うつむいたままの杏澄、アリエルの手を握っていた手もすっかり離れていた。

 アリエルは杏澄の隣に座ったまま、深呼吸。

 事態は理解した。どうしてアスナが杏澄にそういうことしたのかも……。

 

「復讐、に近いの?」

「ええそうね、それに近いのかも……私は戦場に身をヤツしていたのに……」

「なんでそんなこと、アームドピースの」

 

「なぁんて言うと思ったのアリエル?」

 

「理念……は?」

 

「そんな感情既に超えて私はお姉さまへの愛であふれているわ!」

 

 片手を胸に当てて、片手を杏澄の方に出して宣言するアスナ。

 唖然としてしまいなにも言えないアリエルをよそに話は続く。

 陶酔しているのだ……愛に。

 

 

「私の愛はお姉さまへの、汚らわしくて悍ましくて強欲で罪深い……原初の愛! 長期利用を目的とされたお姉さまは若い時期が長い。その美しい身体は長く保たれる。そしてそれは私の愛をより長く受け入れてくれることに等しい! 私の愛は色に濁った愛。でもなにもおかしいことはないわ! かのアダムとイヴが罪を犯したその日から人間に渦巻く原初の()そして()! それを受け入れるために作れらたお姉さま。だけれど正しい使われ方をされていなかったお姉さまを私は正しく使っている! 正しくその意味を、存在する意義を、果たさせてあげている!」

 

「都合のいい言葉ばかり並べて!」

「だってそういうものでしょ、愛って?」

「っ!」

 

 純粋に、イカれていると思った。

 その愛はどこまでも深く、どこまでも罪悪にまみれ、どこまでも純粋で、どこまでも狂気的だった。

 すでに芸術の域にすら達しているのではないかと錯覚させるほどの彼女の“愛”は、無邪気。

 

「私のこの一方的な愛を受け入れてくれるお姉さま、ああお姉さま! 私は貴女を愛している。愛玩具として、一つの道具として、そして姉として! 女として! だからその体の隅々を一つずつ蹂躙していく、私好みに、貴女の本来の用途通りに! 紛い物の家族と呼んでいた織斑一夏や織斑千冬とは違う。私は家族として! 貴女を受け入れて、貴女は私を受け入れる! そして最後の最後にお姉さまが私に懇願することになるわ、私に、家族に……女にしてほしいとっ……フフッ、フフフッ!」

 

「そんな家族、ありえない!」

「いいえ、これが“私たち鬼柳の家族のありかた”なのよ?」

「そんな家族があるわけがない……杏澄逃げましょ! こんな奴と共にいたら君は壊される!」

 

 アリエルが手を引こうとしても、杏澄は動かない。

 なぜと思ったがすぐに理解した。間違いなくこの少女が心配しているのは自分だと気づく。

 臆病なくせに、優しい。

 

 だから……アリエルは諦めて杏澄を連れ出すことをやめた。

 

「杏澄、貴女は優しすぎる……」

「……ごめん、なさぃっ」

 

 謝る杏澄の頭を撫でるアリエル。

 笑みを浮かべたままのアスナが片手を頬に当ててなにかを考えるしぐさをした。

 そしてなにを思ったか、口を開く。

 

「お姉さま、アリエルにキスをしてあげなさい」

「えっ?」

 

 驚いたのは杏澄の方だった。

 アリエルは『何を言ってる?』とまたしても茫然としてしまう。それは彼女の“独占欲”に支障をきたすものではないというのだろうか?

 だがそんなことを思うアリエルと杏澄に近づくアスナ。

 ニコニコしながらもう一度言う。

 

「お姉さま、アリエルにキスをしてあげなさい?」

「や、だっって……」

「大丈夫、嬉しいものねアリエルは?」

 

「っ」

 

 ただ苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるアリエル。

 

 

 嫌では無いとそれだけで悟ることができるほど杏澄は察しが良い人間ではない。

 それでも、アスナが冷たい眼をアリエルに向けた瞬間に、杏澄は覚悟を決める。嫌われるのは怖いが、ここまでアスナが言っても自分を連れ出そうとした彼女に、危害を加えさせたくはなかった。

 だからこそ、アスナの言うことを聞く。

 

 アリエルが杏澄の方を見た瞬間、杏澄はアリエルの唇に唇を重ねた。

 それだけ、だが杏澄が離れようとした瞬間、アスナが言う。

 

「そのままよ♪」

 

 驚愕するようなアリエルだが、すぐに表情を変える。そして両腕が杏澄の方に伸びていく。

 杏澄はそれに気づきながらも押しのけるなら早くしてくれと思った。

 だがアスナが口にする言葉は違う。

 

「今すぐ押し倒したいのよね、お姉さまを穢したいのよねアリエルは♪」

 

 そんなわけがないと思った杏澄だが、アリエルは明らかに唇を離すことなく、むしろついばむように重ねる。

 ここまできて鈍感な杏澄でもない。故にアリエルがそうなっても、それは自分のせいだと思うことにした。

 そういうことのために作られた存在なのだと……。

 

「良いのよアリエル。お姉さまはそのために作られた。そしてお姉さまはその運命を知ってなおここにいて、私の命令とは言え貴女にキスをした。誘われてると同義でなくって?」

「んっ……!」

 

 アリエルの手が杏澄の方を掴む。

 

「ほら、その罪もまた、貴女の罪ではないわ……お姉さまを使って良いのよ? こんなこと今回っきりよアリエル?」

 

 その言葉にアリエルは手に力を込める。

 杏澄がその痛みに顔をしかめるた瞬間、杏澄の体はアリエルから放された。

 驚く杏澄がその勢いのままベッドに倒れ込んだ。アリエルはというと杏澄から放した両腕で自分の肩を掴む。

 

「っ……耐えたよ!」

「どうして耐える必要があるのかしら……?」

「教えて欲しい?」

 

 そんな言葉に、アスナは首をかしげた。

 

「あんたみたいなストーカーの強姦魔とは違うからよっ、この××××がッ!」

 

 瞬間、アスナがアリエルの胸倉をつかんで立ち上がらせる。

 そして拳がアリエルの腹部を打ち、そのままアリエルはうつ伏せのまま床に倒れた。

 杏澄が驚愕した表情を浮かべてアリエルの傍に膝をついて仰向けにする。

 

「アリエルっ……」

「気絶してるだけよお姉さま、アリエルはお姉さまへの愛が足りないのよ、だから耐えるなんて平気でできるの……」

 

 クスッと笑うアスナが、杏澄の腕を掴んでベッドに座らせるとその膝の上に向かい合う用に座って首に舌をはわせる。

 ゆっくり杏澄の背中に手を回してそのままベッドに倒すと頬を舐め、唇を舐めてから口を放す。

 妖艶な笑みを浮かべるアスナ。杏澄の眼から見ても十分彼女は魅力的だ。

 

 

「可愛いわよっ、お姉さま♪」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 IS学園。

 

 夏休み中にもかかわらず、校舎の廊下を歩く鷹月静寐。

 彼女は沢山のペットボトルを抱えて一つの教室の前に来ると、足で扉を開ける。

 中の冷気が体に気持ちが良いが、生憎と部屋が汗臭い。

 

「……なんでこんな冷えてるのに凄い汗かいてるのさ」

 

 溜息をつきつつ、机も無い教室にてペットボトルを置く。

 沢山のトレーニングマシンがあるその教室。

 そしてそこでトレーニングをしている面々。

 

 その中の一人、セシリア・オルコットがルームランナーから降りて、ペットボトルを一つとる。

 蓋を開けると一度口づけただけでスポーツドリンクの半分を飲んでしまう。

 いつものロングの髪を縛ったポニーテールが揺れる。

 

「……すごいね」

「当然ですわ。杏澄さんを取り戻すために、いえ杏澄さんと話をするために……今できるのは身体を鍛えることのみ!」

 

 いつもの表情ではない。遊びでは無いという様子が伝わってくる。

 彼女は真剣に、杏澄を救いだすあらゆるパターンを想定して現状、基礎体力向上に努めていた。

 やはりトレーニングマシンを使ってひたすら腹筋をくりかえす鈴、懸垂をする一夏、凄まじく暑苦しい。

 

「ゴールドジムかなんか?」

「そう呼んでいただいて結構、なんと言われようと……」

「本気で、IS以外の戦闘になると?」

 

「ならなくても良いんですわ、今はただ……できることをするしかないでしょう?」

「……エレガントじゃないなぁ。ていうかおかしいよ、みんなさ」

 

 笑う静寐。

 だがセシリアも同じように笑った。

 鈴と一夏もトレーニングをやめてペットボトルを取りに来る。

 

「朝早くからこんなことに付き合ってくれる貴女もですわ……」

 

 笑みを浮かべるセシリアを見て、静寐は心底感じた。

 彼女を昔から知っているわけではない。それでも彼女がきっと変わったと思う。

 でなければ一夏や杏澄に決闘など挑むわけもなくあそこまで高飛車であるはずがない。

 

「……恋って凄いなぁ。いや、凄いのは鬼柳さんかな」

 

 そういって苦笑すると、鈴とセシリアが眼を見開いていた。

 

「敵が増えましたわよ鈴さん!」

「なるほどね、やってやろうじゃない!」

「そういうことじゃないからっ!」

 

「かしましいなぁ」

 

 苦笑する一夏がペットボトルの中のスポーツドリンクを全て飲み干すと背を伸ばす。

 

「さてと」

 

「あ、でもこの飲み物代はどこから出るの?」

「わ、私カード以外は持ち歩きませんの」

「一夏ァ!」

 

「俺かよ!?」

 

 ツッコミを入れた瞬間に教室の扉が開く。

 

「一夏来たぞ! さぁ特訓だ!」

「もう箒は、ラウラもなんとか言ってよ」

「なにかおかしなことがあったか?」

 

 全員集合、とりあえずは今日もトレーニング。

 杏澄を“連れ帰るため”ではない。ただ“杏澄としっかり話をするため”に、杏澄に近づくために今はできることをする。

 それが近々なのか遠くなのかはわからない。それでも来るべき日のために……一夏は決意した。

 

 セシリアに頼み込んでこれだけのものを用意してもらって、鈴たちを巻き込んで、今ここにいる。

 

 

 ―――杏澄、必ず……会いに行って話を聞かせてもらうからな!

 

 

 




あとがき


二日後を分けようと思ったんですが分けずに投降してみました
わかりにくかったかなー? とかも思ったんですが、短すぎた気がして

とりあえずイメージとしては光と闇って感じですね。杏澄サイドが闇・一夏サイドが光
でも一夏がわざわざ闇サイドに近づいていきます
学園サイドが明るすぎる気もするんですが、杏澄が不幸なことになってるなど知らない面々はって感じです。

これから家族愛とかそこらへんも掘り下げていきたいとこですがー
原作改変が凄まじい勢いで起こってく
当初の予定通り話は進んでるんですが形にしていくにつれて当初の予定の

【主人公:杏澄・一夏】から【主人公:一夏・セシリア】

みたいな感じになってますねーヒロインは杏澄
まぁこの小説におけるセシリアの成長とかも感じていただけたらなと思います

では次回も一ヶ月以内を目指してやってきますのでお楽しみに!
感想とかもあればお気軽にー
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