インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~   作:王・オブ・王

36 / 37
第三十四話『その日、その時』

 あれから、一日。

 

 外出許可をもらい杏澄はアスナに連れられて外に出ていた。

 日本近海からボートにてそのまま陸に上陸して、街中を歩く二人。

 杏澄の私服を用意していたのか、アスナに渡された服は薄手のシャツと上に涼しげなジャケット、ロングスカートでロングブーツ、中にはレギンス。

 

 基本的に露出を好まない杏澄のことをわかってはいるのだろう。

 連日、アスナに“遊ばれた”ことによりけだるさはあるが、外の空気というものはやはり気分を変える。

 外は嫌いだったが、今は悪くは思わない。

 

「お姉さま?」

「はひゃっ!?」

 

 突然声をかけられて驚く杏澄、そんな杏澄を見てクスッと笑うアスナ。

 そうしていると“あんなこと”無かったかのように錯覚するがそんなことはない。

 その瞳の奥にドロッとしたものを感じて眼を逸らすと、杏澄は心を落ち着かせる。

 

「このあとは予定通りショッピングモールに行く予定なのだけれどコンビニでも寄りましょうか」

「あ、うんっ」

「それとお手洗いを借りて来ますね」

 

 アスナはそう言うと、コンビニに入っていく。

 その後ろ姿を見て杏澄がとりあえず外で待っていようと思っていると……ふと見つける。

 そして、ゴクリと息を飲んだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 IS学園。

 織斑一夏はここ最近の日課とも言えるトレーニングを終えると食堂へとやってきていた。

 同じくセシリア、鈴、箒、シャルロット、ラウラの五人も共に、だが……。

 

 千冬はあれからあまり姿を見せない。一夏を避けているのかもしれないけれど……。

 罪悪感などもあるのだろう。

 ともかく、今はできることをするという方針で動いていた六人。

 

「夏休みなのになんもないなぁ」

「彼女の一人でもつくればよくってよ織斑一夏」

「相変わらずセシリアは冷てぇなー」

 

 セシリアの言葉に反応した箒、シャルロット、ラウラの三人、だが一夏は笑いとばすのみ。

 そもそもセシリアなりに三人を援護するようなつもりだったのだろう。

 だが余計な一言。

 

「私の愛はただ一人、杏澄さんに注ぐことにしていますの」

「ちゃっかりなに言ってんのあんた! 杏澄は渡さないわよ!」

 

「騒がしいなお前らは!」

 

 箒の言葉に三人がおし黙る。

 そうしていると、一夏の携帯端末が音を鳴らした。

 不思議そうな表情をしながら、一夏は端末の通話ボタンを押す。

 

「もしもし?」

『い、一夏……』

 

「え……あ、杏澄っ!?」

 

 ガタッと音を立てて立ち上がる一夏。

 そしてそんな言葉を聞いてセシリアと鈴をはじめとして箒たちも一夏の耳元に耳を向ける。携帯端末の奥からは震えるような息遣いが聞こえた。

 ゆっくりと深呼吸をする一夏、今この状態で彼女になにかを一方的に伝えるわけにはいかない。目的が合って連絡をよこしたのだろうから、今は聞くことにした。

 

「杏澄、どうした?」

『……けてっ』

「え?」

 

『助……けてっ……』

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ショッピングモール。

 

 服屋にて杏澄とアスナの二人が服を見ていた。

 状況的には杏澄はアスナのおもちゃで着せ替え人形状態なのだが、杏澄はそれで構わない。とりあえずはこれで……そして、杏澄は頷いた。

 しっかりと見つける。手を抜いて“騙す”ことができる相手ではない。

 

「アスナ、これ……似合いそう」

 

 そう言うと、嬉しそうな表情を見せるアスナ。

 そうして騙すということに罪悪感もあるが、恐怖もまたある。

 試着室に向かったアスナ、杏澄は踵を返して早歩きでその場を去った。

 

 

 

 自分がやるべきことは違う。急いで目的の場所に向かうために、徐々に足は速くなり、駆ける。

 エスカレーターを駆け下りて、一つの喫茶店には入った。

 学生夏休みと言えど平日だし、時間も時間なのでオープンテラスの方には誰もいない。

 

 いや、6人の大人数が一つの席に座っていた。

 

 杏澄がオープンテラスに出ると、肩で息をしながらその団体を見る。

 一人の少年と五人の少女。

 そしてその一団が立ち上がると、杏澄は胸の前に両手を持ってきた。

 

 安心したように、ホッとしたような表情を浮かべる反面、思うところもある。

 自分で拒絶した面々、眼を見てこうして話すのは久しぶりで……。

 だがみんな、拒絶をした自分のために来てくれたのだ。

 

 

 一歩、踏み出す。

 

 

 この一歩で何かが変わると信じつつ、一歩一歩を踏み出して一夏の前に立った。

 怖いが、それでも助けを求めた相手も事実一夏で、杏澄の狭い関係の中で無条件で信じられて、迷惑をかけられるのは一夏だけだ。

 それ以外の相手の電話番号など知らないし、知っていてもやはり一度拒絶したのだ。選択肢なんてあってないようなものだった。

 だから、一夏以外の面子が来たのは驚愕するも、それよりも……。

 

「杏澄、どうしたんだ、助けてって……それだけ言って切ったけど」

「ご、めんっ……そんなこと、拒絶した、私がっ……」

「どうでも良いよ」

 

「一夏……」

 

 そっと、一夏が杏澄を抱きしめる。

 セシリアと鈴がなにかを言おうとするものの箒とシャルロットが口を塞ぐ。

 家族同士の再開、と言えるだろう。一夏がその頭を撫でると、杏澄が肩を震わせる。安心と喜びと、色々な感情が織り交ざって杏澄が静かに嗚咽を上げた。

 

 震える杏澄を抱きしめながら一夏がその頭を撫でているが、ふと表情を赤くする。

 気恥ずかしいとかそういうのではなく単純に、軟らかい感触が当たっていた。

 

「ごめんっ、一夏ぁ……わたし、勝手にっ」

「だ、大丈夫だから!」

「でも、私どのツラ下げて帰れば……」

 

 目元を服の袖で拭って杏澄が言うと、セシリアと杏澄が横にくる。

 

「大丈夫ですわ、杏澄さん……なにがあったかは知りませんが」

「もう、アイツらもIS学園にいないし、あんたが泣くようなことは無いから」

 

「セシリアさん、鈴……」

 

 鈴が言う“アイツら”が自分をいじめていた奴だと思った。

 そりゃあんなことされて残るとは思えないが、彼女たちがいないと聞いて安心する。わざわざ自分にあそこまでやった連中を心配してやれるほど杏澄は聖人君子ではない。

 故に、安堵したかのような表情で一夏の胸に頭を当てた。

 杏澄に耳を隠すようにもらったカチューシャを見て、一夏が少しばかり顔をしかめた。

 

 そこは、自分がいた場所だったから……。

 

「ごめん、みんなに心配、かけちゃったのかな……?」

 

 そう聞くと、箒が深いため息をついた。

 そのせいで杏澄がビクッとするが箒は苦笑して杏澄を見る。

 

「当然だ。友達の心配はする!」

「本当だよ、杏澄は自分に自信が無さすぎるのが玉に瑕だよね」

「杏澄、帰ろう……IS学園に」

 

 箒とシャルロットとラウラからの言葉に杏澄が嬉しそうに頷いた瞬間、足音がした。

 杏澄が振り返るとそこには妹ことアスナ。

 肩で息をしながら、笑う。

 

「お姉さま、私を騙して……裏切ったんだ」

「っ」

 

 身体を振るわせる杏澄を、一夏が後ろにやった。

 震える杏澄を庇うように前に出る一夏。

 そしてセシリアと鈴もだ。

 

「……お姉さま、お仕置きね?」

「ひっ!」

 

「ふっざけんじゃないわよ!」

「そうですわ、何様ですの!」

 

「妹よお姉さまの、血のつながった妹鬼柳アスナ! そしてあなたたちのしらないことを山ほど知ってる!」

「なに言ってるんだお前!」

 

 一夏の怒号に、アスナは片手で顔を押さえて笑いだす。

 それは愉快痛快と言う風に、笑う。あざけるように、嘲笑するように笑う。

 杏澄にとっても初めて見るタイプのそんな笑い方に恐怖よりも驚きの方に心が支配された。

 

 そして、アスナは深呼吸する。

 

「ふぅ、ならお姉さまのことを教えてあげましょうか、あなたたちが正しい用途をできるように」

 

 その言葉に、杏澄が眼を見開く。琥珀色の眼を開いて口を開き、大きな声を出す。

 

「やめてアスナっ!」

「やめないわよお姉さま、だってそちらに帰ってしまうならしっかりお姉さまの使い方を教えないと」

「アスナぁっ」

 

「ああ、そうやって懇願する姿……そそりますっ」

「変態ですわね……!」

 

 恍惚とした笑みを浮かべるアスナが、息をついた。

 また冷静さをかいてしまったと頭を左右に振る。

 作ったような笑顔を浮かべるアスナ。露骨に仮面を張り替えたとわかる表情。

 

「お姉さまはまず、人造人間というところからかしら」

「なん、だと……?」

 

 そしてアスナが話を始める。

 杏澄が『人造人間』の一体であるということ、そして戦場での長期利用を目的に作られたということ……。

 さらに“兵士たちの心身の慰安”に使われる物だということ……。

 話を終える頃には、杏澄は一夏の服の裾を掴んで震えていた。

 

「どう、しっかり使ってくれるかしら貴方たちは?」

「……ふざけてんじゃねぇぞ! なんでそんなこと言った!」

「あら、あの織斑一夏も人の子ね、そんな風に怒るなんて」

 

 クスクスと笑うアスナ。

 一夏は怒りをむき出しにして杏澄を守るように立つのみ。

 決して変わらない。セシリアと鈴もただ真っ直ぐと敵を見据える。

 

 箒たちは杏澄を守るように周囲を固めるのみだ。

 

「あらぁ、お姉さまにツイてることを知ってもあなたたちは変わらないのね?」

 

「むしろ大歓げふん! ともかく……杏澄さんの身体がどうであろうと変わりませんもの」

「そうね、杏澄は杏澄! あたしの……親友なのよ!」

 

 大事なところでヘタレた二人。

 それはともかく、杏澄は救われたような笑顔を浮かべる。

 そんな自分を受けれてくれた面々、大問題になるかと思っていたことをあっさりと受け入れてくれた周囲。

 目元に涙をためて、杏澄は嬉しそうに頷く。

 

「……お姉さまこちらに」

「え?」

 

「ふざけんな、杏澄をお前には渡さねぇ……!」

「じゃあお姉さまの体を使ってあげられるのかしら織斑一夏?」

 

 穏やかな声音でそう言うアスナ。

 だが次の瞬間、表情をこわばらせた。

 

「お姉さまを泣かせるだけでしょう!」

「お前だって杏澄を怖がらせてんだろ!」

 

「あなたに私たち姉妹の何がわかるの!?」

「テメェに俺たち兄妹の何がわかるんだよ!?」

 

 お互い平行線、重なることは無い考え。お互いにそれを理解したが動きが無いのは相手が読めないからだ。

 しかし相手の動き云々より前に、アスナには手があった。JOKERとも言える一手が存在しており、鬼柳アスナはそれを切ることを余儀なくされた。

 いや、結局は余裕の状況でも使っただろう。

 

 目の前の織斑一夏が本気で嫌いだからこそ、鬼柳アスナは笑みを浮かべつつケータイを取り出す。

 

「お姉さまの頭についてるカチューシャを爆破するわ」

 

「……は?」

 

 ニッコリして彼女は言う一つのボタンを押すと、カチューシャの横部分が赤く光る。

 まるで警告するかのように光るそのカチューシャに杏澄は触れられない。

 彼女がいかに“イカれてる(病んでいる)”かはすでに知っているから……事実だということすらも、わかる。

 

「私のものにならないなら、そうするわ」

「あ、アスナ……」

「どうせはったりだ! なんで杏澄を殺す、杏澄が好きなら殺すなんて、わけわかんねぇ!」

 

「止まりなさい織斑一夏!」

 

 セシリアの活に一夏は止まる。

 止まらざるをえないほどの威圧感ある一言に一夏は止まった。鈴も何も言わない。

 杏澄は怖れながらも、一夏の背後を抜ける。

 

「待て杏澄!」

 

 振り返ることはない。誰も止めない。杏澄の背中が『止めるな』と言っている。

 故に止めることができないまま、杏澄がアスナのところに行くのをみすみす見ている六人。

 セシリアも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべており、鈴に至っては握りしめた拳に爪が食い込んで下に血が滴るほどだ。

 念願かなって杏澄と出会えて、ようやくと思った矢先に目の前で他の女にかっさらわれる。

 

「これほどの屈辱は初めてよっ……」

 

「あらあら怖いお友達ね姉さま!」

「アスナ、やめてよっ……なんで私の大事な、友達まっ」

 

 瞬間、アスナが横の椅子を足で起用に引き寄せると杏澄の腕を同時に取った。

 腕を引きつつ回転をくわえ、足で前にもってきた椅子に座らせる。

 アスナの前で杏澄が椅子に座るような体勢になった。

 

「さぁお姉さま、お別れを言わなきゃ……お姉さまを助けてもくれなかった“大事なお友達”に?」

 

「っ!」

 

 それは、十分六人の心を抉るに値する言葉だった。

 もっとも心を抉る一言によって六人の心にダメージを与えるとアスナは笑みを浮かべるのみ。

 本当に心底杏澄を愛しているからこそ、杏澄を守れなかった六人を嫌っている。

 だがその愛はやはり“歪”だ。

 

「お姉さま、じっとしていてね?」

「え?」

 

「そのまま指を噛んでみていなさい、お姉さまは私のものだということを……ふふっ」

 

 アスナが杏澄の首に舌を這わすと、杏澄は両手で口を塞ぐ。

 それだけで杏澄の“スイッチ”を入れるには十分だ。感覚が変化するのを杏澄は身を持って実感している。

 自分が元々そういう体質なのか、そういう風に設計されているのかわからない。

 

 だが杏澄はただ、蹂躙されるしかないし、そんな考えも快楽の激流に流されてすぐに頭から離れる。

 

「テメェなにをっ!」

「あら、織斑一夏あなたにできないことよ? 家族として私はお姉さまの全てを満たしてあげるの! アハハッ!」

 

 アスナの両手が杏澄の脇腹を撫で、そのまま腹部につたい上へと上がるとこの中の誰よりも大きな乳房を鷲掴みにする。

 下から持ち上げるようにそうすればいかにボリュームがあるかわかった。

 セシリアと鈴の二人は不覚ながらも顔を赤くする。目の前で杏澄が好き放題されているというのに、杏澄に対する情欲が先にきた。

 嫌悪感を抱きながらも、二人は気を張る。

 

 反対に一夏はうろたえていた。

 目の前にいるはじめて見た杏澄を前に、一夏はうろたえ歩みを止める。

 そのまま、アスナが杏澄の頬を舐めて妖艶に笑みを浮かべた。

 

「アハハハッ、ねぇお姉さま織斑一夏はやっぱりお姉さまを受け入れられないみたいよ?」

「ふぇっ……?」

 

 杏澄が一夏の方を見ても、一夏は顔を静かに逸らすのみ。

 それしかできない。杏澄のそんな姿を見ていたくないと思った。家族としてかはわからない。

 だがそれでもそれを直視できなかった。

 

「やだっ、見て欲しくないよっこんなのぉ……」

「泣かないでお姉さま、もっといじめたくなってしまうので……ふふっ」

 

 いたずらっぽく笑うアスナが杏澄の胸を撫でる。

 杏澄はすぐに口を押えるが息が漏れ、徐々にそれが激しくなっていくのがわかった。

 シャルロットは我慢ならないと言う風にISの腕部を展開してガルムを構えるがアスナに向けて引き金は引けない。

 杏澄が前にいるから……。

 

「もっと私とシテる時のように声を荒げてよがってくださればいいのに、まだそれは早いかしら?」

「あんた、なんて……?」

 

「中国の代表候補生、鳳鈴音……お姉さまってナショナル……ねっ」

「んあっ……!」

 

 声が漏れて、真っ赤な顔の杏澄が口を押える。

 胸の先の方を触っていた手を降ろしたアスナが杏澄の太股に手をやって撫でていく。

 ピクピクと反応する杏澄を楽しんでいるかのようなアスナが杏澄の頬に舌を這わした。

 

「そのままの意味なのだけれど、単細胞には大人すぎたかしら?」

「言ってくれるわねっ」

「だって事実だもの、お姉さまの体を少しずつ私色に染め上げてる途中なの、どこまでしたか教えてあげましょうか?」

 

 クスクス笑うアスナを前に、青筋を浮かべながらも冷静であるセシリアと、明らかな怒りを全面に押し出している鈴。

 どちらが強く想っているかではない。そういう性格なのだ。

 鈴もセシリアもド直球で自分の考えたことを行動に移してしまうタイプだったが、セシリアは少なからず変わっている。バランスが取れたコンビになったとも言えるだろう。

 

「……さて、そろそろ帰りましょうかお姉さま」

「……うん」

「お仕置きよねぇ~♪ えっちなえっちなお仕置き~♪」

 

 らしくもなくはしゃいでるアスナだが、杏澄にとっては恐怖以外のなにものでもない。

 一夏たちが動こうとした瞬間、上空からオープンテラスに入ってくる三人ほどの男たち。

 ISを展開する時間は無い。一夏たちに襲い掛かったスーツ姿の男たちは三人。

 

「お姉さま、お友達がどうなるか見てましょうか」

「っ!」

 

 だが、セシリアが一人の手首を片手で取るとそのまま返す。上手く返しつつもう片手を添えて思い切りたたきつけるとISの腕部を展開して首を掴んだ。

 鈴が軽く跳ぶとその首に蹴りを打ち込み、セシリアと同じようにISの腕部を展開して首を掴む。

 二人が同時に男を投げる。ただしアスナの両側に……。

 

 そして一夏は男の腹部に膝蹴りを打ち込んでから両拳を合わせて頭部を殴打。

 すぐに顔面に膝蹴りをいれてアスナの前に転がす。

 

「はぁもう油断するから……」

「み、みんな……」

 

「杏澄ともう一度話がしたくて、そのために鍛えた。並の状態じゃ話はできないと思ったから……!」

 

 だが、取り返すすべはない。

 故に立っているしかできないが、アスナは違う。

 専用ISことリボーンズを展開すると杏澄を胸に抱いた。

 

「さようなら、そして貴方たちは……私が必ず殺す」

 

 冷たいアスナの瞳に屈することなく立つ六人。

 仲間はさらさら置いていく気のようで、別にそこについては文句は言わない一夏。

 言う必要がない。

 

「杏澄はボクの友達だ!」

「そして私の!」

 

「ラウラさん、シャルロットさん……」

 

「杏澄さん、待っていてくださいまし!」

「あたしたちが絶対迎えにいくから!」

「今度は私が守るから!」

 

「セシリアさん、鈴、箒ちゃん……」

 

 そして、一夏が白式の腕部を展開、零落白夜を持ちその切っ先をアスナに向けると、その剣と同じまでに鋭い瞳を向けた。

 今までしたことが無いような殺気の籠った目、人畜無害であった一夏にしては実に珍しい類の眼。

 それを引き出すほどに、鬼柳杏澄は彼にとって大事な人間だった。

 

「杏澄……」

「一夏……」

 

「さようならね」

 

 そう言うと、アスナとリボーンズが飛んでいく。つまりは杏澄も連れ去られた形になる。

 冷静だったセシリアが纏ったISの腕で隣のテーブルを殴った。

 店内もすでに誰もいなくなっている。

 問題にはなるだろうけれど、やむをえないとは言われると信じたいところだ。

 

「このあとに杏澄さんがあの女の手でいじくられるなんて考えると反吐が出ますわ」

「考えない方が神経に優しいわよっ」

「そう、だな、私たちも戻って千冬さんに報告とかを……一夏?」

 

「……必ず、取り返す。杏澄はッ!」

 

 五人が力強く頷く。異論はない。あるはずがない。

 今やるべきことは戦いに備えることだ。

 

 生身はもう良い、ISだ。リボーンズを倒さなければまず杏澄を取り返すことができないとわかった。

 ならばやることはひたすらに訓練。

 それ以外にないし、自分たちの友人は取り返す。

 

 これは奪還だ。故に負けることは許されない。

 チャンスは一度かわからないが一度と思って挑むべきだ。

 一夏は頷いて、空を見上げた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ―――アウターヘイヴン。

 

 アスナの部屋から彼女自身が出てくる。

 それを見てアリエルが近づく。お互いに不穏な空気が流れているものの、アスナは笑みを浮かべている。

 アリエルはそんな余裕はないとりあえず聞くことは一つ。

 

「杏澄はどうしたの?」

「お姉さまはお仕置き中よ?」

 

「……は?」

 

 なんと言って良いかもわからずにただ、口を開いていたアリエル。

 そして彼女は表情を強張らせてアスナに掴みかかろうとするも、止まる。

 どちらにしろ勝てないのはわかっている。わかっているが……。

 

「なにを、してるっ……!」

「ちょぉっと興奮状態にしてぇ、おもちゃでいじめつつ放置~……一時間後に戻ってお姉さまが懇願しなければお姉さまの勝ち、あらこれじゃゲーム?」

「あんたっ!」

 

「でもぉ、お姉さまが懇願しなければ私の負け……その時は大人しくぅ、お姉さまを沢山気持ちよくしてあげるの♪」

 

 楽しそうに言って、アスナは去って行った。

 このままではだめだとアリエルは悟ったのだが……現状、このアームドピースは他の国に敵と認識されており、どうしようもない。やはり協力者はいない。

 そこまで考えて、少しばかり頭を冷静にして考えた。

 

 いや、ここで諦めるわけにはいかない。

 杏澄を助けることを諦めるわけにはいかなかった。

 なにをしてでも、杏澄を助ける。

 

「なりふり構って、られないか……」

 

 苦虫を噛み潰したような表情でアリエルは頷いた。

 

 

 彼女(杏澄)は、幸せになるべきだ……自分がする。

 

 




あとがき

あんま進んでない感じに見えますが若干伏線張ってたり
多く語りすぎてもネタバレになるので、次回はがっつり話が進むことになります

お気に入りも600を超えて、楽しんでくださっている方がそれだけいるってのは嬉しいもんです
自分が書いたものをそこまで受けれてくれる人がいるってのはホント嬉しい

それじゃ杏澄が幸せになるまでは遠いけど……お楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。