インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~   作:王・オブ・王

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第七章-あの日見た笑顔
第三十五話『動き出す意思』


 ―――食堂

 

 食事をしている者は二人、杏澄とアスナだけだ。

 これでも仲良し姉妹で通っている二人、なのだから食事は一緒。ちなみにトイレ以外ほぼ一緒と言っても過言ではないだろう。普通にそうしている分には多少鬱陶しくても苛立ちはしないし怖いと言うことも感じない。

 だがアスナはすでに杏澄の恐怖の対象である。故に近場にいるだけで十分、彼女にとってはストレスが溜まるとかいう問題を通りこして気力と精神がゴリゴリ削れていく。

 それでも杏澄は、今日もアスナと一緒だ。

 

「お姉さま、もう10連敗ってとこよ?」

「いや、勝負とかしてないし……」

「まったく理性が効かないんだから、すぐにシテって」

 

「そ、それはアスナが……あんなこと、するから、で……」

「あら照れてるの? 可愛いっ♪」

 

 楽しそうに言うアスナに、少しばかりの恐怖を覚える。

 故に杏澄はうつむきつつ、ボソボソと声を出すしかない。

 

「そ、そういうのじゃ……」

 

 まともに反論できずに、杏澄は食事を続ける。

 IS学園の頃のように普通の量のアスナと比べて大喰らいの杏澄、アスナに言わせれば『燃費が悪いのが唯一の弱点』だが身体能力も今でこそ中々に良くなってきたが、その前までは酷いものだ。

 小学校時代、箒が転校するまでは剣道やら運動を良くする子だったし運動神経も良かった。兵器故の才能というものだろう。

 しかし、その後に“色々あって”引きこもり気味になってからはてんで運動もしなくなった。

 

 それを思えば健康的にはなったのだろう。カロリー消費が激しすぎるのはアスナが問題な気もするが……。

 静かに息をついて、杏澄は食事を再開する。

 そうしていると、突如艦内放送が流れた。

 

『こ、これより本艦は浮上します!』

 

「えっ」

「どうして今、なにも聞いてないのに……お姉さま行きましょう」

「あ、すぐ食べ……」

 

 少し食事の速度を上げてすぐに杏澄とアスナはブリッジに向かうことにする。

 二人で廊下を歩いて、ブリッジ側へと歩いていくが物々しい雰囲気となっていた。歩いていると、兵士たちが数人いて銃を構えているのを発見、ビクッとする杏澄の腰を抱くアスナ。

 一回り身長が近いのに、アスナにそうされて背中にゾクゾクとした感覚が奔る。

 なにはともあれそうしていると、通路の向こうから誰かが出てきた。

 

「えっ」

「アリエルっ!?」

 

 杏澄とアスナの二人が声を出すと、アリエルが驚いたような、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる彼女の腕の中には整備士である綱木がいる。

 そのこめかみに拳銃を当てているアリエルが歩き出すと綱木も引っ張られつつ歩くことになった。

 誰も動けないし、動かない。

 

「待ちなさいアリエル、あなたなにをっ!」

「黙れ売女(ばいた)!」

 

「ばいっ……アリエル!」

「杏澄、貴方も来て……そうしたら綱木は解放するわ」

「えっ……わ、私?」

 

 驚くというより、怖れるような杏澄。そんな彼女を見てアリエルが顔を歪ませたがそれも一瞬で、すぐに表情を引き締める。

 アスナが杏澄の前に立つ、その背中を見て杏澄は複雑な心境でいた。自分を怖がらせて弄ぶアスナと、自分を守るナイトであり妹であるアスナ。

 二人のアスナが一度に存在している。大事な妹だと思っていたし、今でも思いたい。

 

 けれどアスナは自分を蹂躙し、弄ぶ……わからなくなる。混乱する。

 

「杏澄!」

「あっ、わ、私は……」

 

「一緒にいくわよ杏澄ッ!」

「往生際が悪いわよアリエル!」

 

「っ」

 

 アリエルは怪訝な表情をしながら、綱木に銃をつきつけつつ歩きだす。

 しっかりと360度警戒しながら、ゆっくり歩きだす。

 それについていく形でアスナと杏澄も共に行く。

 

 目的地はハンガーであり、そこから外に出るつもりなのだろう。

 浮上したアウターヘイヴン。

 ハッチが開くと、アリエルは傍に置いてあるISを素早く纏ってすぐに綱木を片腕に抱えた。

 

「杏澄、一緒に行こう、逃げよう!」

「お姉さま聞かないで! あれは少し錯乱している!」

 

「杏澄!」

「お姉さま!」

「黙れアスナァッ!」

 

 叫びをあげたアリエルがその腕にガルムを持ってアスナに向ける。

 誰よりも早くISを展開したのは杏澄だった。ここ数週間の訓練、そして兵器として作られた故のポテンシャル。それにより強化された杏澄前とは比べ物にならない強さだ。

 すぐさまランスを展開しアスナの前に立つとランスを回転させて、アリエルのガルムから放たれた弾丸をすべて弾く。

 驚愕するアスナ、そしてアリエルの二人、杏澄は苦々しい表情を浮かべながらランスを構えて接近する。

 

 アリエルはすぐに綱木を放してハンガーを出ていく。杏澄はそのあとをついていくために追う。

 

「戻ってっ……なんで逃げるのっ」

「杏澄、一緒に逃げなきゃ! 貴女をアスナの傍になんていさせてはおけない、あいつは……貴女をっ!」

「逃げれない。だってアスナは戦うから……妹なんだよっ、置いていけない!」

 

「怖いんじゃないの、アスナはあれが!?」

「怖いよ、逃げ出したいよっ、逃げ出そうとしたよ! でも今は、今はもうっ」

 

 出撃してこないアスナ、それを理解してアリエルは内心苛立った。

 いっそのこと撃墜してやりたかった。できるかどうかはともかく……。

 出てこないのは杏澄に自分(アリエル)を打たせるためだと理解できた。

 

「杏澄、なら無理矢理連れて行く……!」

「サイレントビーストォ!」

 

 杏澄の正面のモニタに文字が表示される。

 

『BEAST SYSTEM』

『LAUGHING RAVEN』

 

 瞬間、杏澄の雰囲気が変わった。

 アリエルもそのシステムを知っているし見たことがある故に、危険性がわかるし勝率がグンと下がったことも理解する。それでも戦いをやめるわけにはいかない。

 杏澄は怯えている。にも関わらず“アスナを放っておけない”という気持ちもあった。

 

 だから、アリエルは無理矢理引き離すために戦う。

 外道と呼ばれようと、杏澄に嫌われようと、それでもそれが彼女のためになると信じている。

 そうでなければきっといつか良くないことが起きる。そう思った。

 

「ひはっ、ひゃはははははっ!」

 

 狂気的な笑みを浮かべる杏澄。

 普段の杏澄とはまるで違う姿、ビーストシステムは他のもそうだった。あまりに好戦的で、あまりに戦いに特化した精神。

 そこまで考えて、アリエルはなんとなく察した。

 

 本来の戦闘本能がそれだとしたなら、いつもの杏澄は戦闘本能を無意識に封印している形となるはずだ。

 人間は元来ある戦闘本能を理性で押さえいる。だが戦うために作りだされた生命が戦闘本能を封印しているとなればわけが違う。絶えず湧き上がるであろう戦闘本能、それを……封印していた。

 兵器として生まれた女の子から“普通の女の子”として育てようとした人物が封印した。したのはそうしようとした鬼柳夫妻だろう。

 

 そして、その湧き上がる戦闘本能を表に出そうとしたのが……。

 

「篠ノ之束っ、彼女は一体なにを考えて」

「よそ見してんなよアァリエルゥ!」

 

 ハッとするアリエルの視線の先には狂気的な笑みを浮かべていた杏澄。

 今まで封印されていた戦闘本能。それは両腕にガトリングを持ちアリエルへと放つ。

 ラファール・リヴァイヴにて攻撃を避けつつ、両腕にガルムを展開し撃つ。

 

「誰に当てるきだよ、けひひっ」

 

 モードラフィング・レイヴンを発動したサイレントビーストが素早くガルムでの銃撃を避けつつ二挺のガトリングを乱射する。

 アリエルも回避しようとするのだがその弾幕を相手にどうしようもなくダメージを喰らっていく。

 シールドエネルギーが消耗されていき顔をしかめるアリエル。

 

「ひひゃはははっ! 逃がすかァ!」

 

 二挺のガトリングを消すとランスを持って突っ込む。

 アリエルがガルムを消して近接用の実体剣を持つ。

 下がりながらガルムを打ったところで追い付かれて斬られるのがオチだ。ならば近接で迎え撃つ方が利口であるというとっさの判断は正しい。

 だがその正しい判断一つで、勝てるというわけでもない。

 

「おらぁっ!」

 

 実体剣にてランスを弾こうとするが受け止められ。もう一方の手に出現させたハンドガンにて機体を撃ちぬかれる。

 何度も何度も撃ちぬかれて、シールドエネルギーが削られていき、絶対防御発動範囲に入った。

 そこで絶対防御を発動させるわけにはいかないと、アリエルは絶対防御をOFFにする。

 危険度は上がるが逃げるだけならばこれでことたりると離れようとした瞬間、弾丸の一発が腹部を貫く。

 

「ぐぅっ!」

「おいおいなに逃げてんだよ! 楽しくねぇだろうがァッ! アハハハハッ!」

「杏澄っ、ごめん……」

 

「遺言はそれだけかよォ!」

 

 アリエルが逃げようとするが、杏澄は素早くランチャーを持つ。

 悔しそうな表情を浮かべるアリエルを前に、迷わず杏澄(闘争本能)はトリガーを引き、放たれる。

 スティンガーのようなミサイルがアリエルへと直撃すると、爆発を起こし、周囲には爆煙が舞う。

 

「あ、すみ……」

 

 そこから出てきたボロボロのラファール・リヴァイヴ、それを纏った血まみれのアリエルはそのまま海へと落ちる。

 少し遅れて杏澄も出てくると、アウターヘイヴンへと降りる。

 サイレントビーストが量子化すると、足をつく杏澄。

 

 怯えるような表情で自分の両手を見る。こうなることが予想できなかったわけではない。

 それでもアスナを守らなければと思った。

 今一度考える。好きではない、嫌いでもない、単純に怖い。

 そんな相手を必死で守ろうとした自分が、わからない。

 

 杏澄に近寄る少女が一人……アスナ。

 

「ありがとうお姉さま……お姉さま……ふふっ、お姉さま」

 

 抱きしめられる。だがなにを言う気にもならない。

 ただ黙って抱きしめられるだけ、涙も出ない。人を殺しすぎた故の弊害かもしれないと、杏澄は冷静に自分を思った。

 そして同時に、アリエルを殺してしまった恐怖は止まらない。

 自分は何をしたのか、哀しみもある。だがそれでも涙は出なかった。いっそ出てくれた方が良かった。

 

「私は……」

 

 その一言をつぶやいても、アスナは杏澄を抱きしめるだけ。

 自分にはもうここしかない。

 でもそんな自分を受け入れようとしてくれた一夏たちが、IS学園にはいる。

 

「お姉さまだけ、お姉さまだけよ……お姉さま、愛してるの、貴女だけ……もうお姉さましか、見えないっ」

 

 アリエルと行くことが正しかったのか、それともここに残ったのが正しかったのか、もうなにもわからない。

 一つだけ、光を見つける。

 結局、自分にアスナしかいないように、アスナには自分しかいない。

 

 守ろうと誓った。この場所と、大事であり同時に畏怖の対象である(アスナ)を。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ―――IS学園・アリーナ

 

 一夏たちの前には一人の女性がいた。

 白い機械的なうさ耳をつけたのは篠ノ之束、箒の姉であり杏澄の友達とも言える存在。

 彼女がここにいるのはただ一人、連絡手段を持っている妹が連絡をしたからだ。

 

 そして束を前にしている一夏、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、千冬。

 面々にとってはこれは最後の頼みの綱と言っても良い。彼女だけが頼りで、箒も内心では頼りたくない相手ではあったが、それでも、そのプライドを捨ててでも杏澄を取り戻したかった。

 全員がそうだ。なにがなんでも、どんな手を使ってでも杏澄を取り返すつもりだった。

 

 事情を話しても、束は表情を変えない。

 だが、雰囲気は違った。怒りなのかなんなのか、妙な雰囲気を醸し出している。

 

「ふぅーん、ふむふむ……この束さんの可愛い義妹に手を出すとは、おいたがすぎるなぁ」

 

「お前の助けが必要だ」

「良いよ!」

 

 千冬の言葉に、食い気味にそう言った束。

 ならば良い。これが切り札であり、これが効かない可能性は考慮しない。

 こちらがJOKERを切って、負けることはありえない。

 

 だからこそ、一夏は笑みを浮かべる。

 一度は届いた腕だ。ならばもう届かないなんてことはない。

 

『織斑先生、織斑千冬先生、至急職員室へとお越しください』

「ん?」

「行ってらっしゃいちーちゃん!」

 

 杏澄が消えたあの日より前に、臨海学校で自分が杏澄を意識してしまった故に起きたこと、自分が杏澄を避けてしまったから起きてしまった一連の出来事。

 それを繰り返さないためにも、今度こそ掴んで、放さない。

 彼女を自分の手で今度こそ掴んで離さない。

 

 自分がいま現在、鬼柳杏澄にどういう感情を抱いているのかわからない。

 嫌悪感やらマイナスの感情でないのは確かだ、好意的な感情である。

 

 愛じゃないとは完全に言えない。家族愛かもしれないし、本当に女として愛しているのかもしれない。だがそのわからない感情も、愛も、杏澄を取り返してからしっかりと確認して行けば良い。わかり合って行けば良い。

 まだまだ若いのだ、恋愛だったとしても家族愛だったとしても、これから育めば良い。

 そしたらきっとセシリアと鈴も、また騒がしく杏澄を取り合ったりするのだろう。

 思えばそれも今では見るのが楽しみで仕方ない。

 

 一刻も早く、杏澄を取り戻そうと決意する一夏。

 

 

 

 それがどういうことになるかも知らずに……。

 

 

 

 

 




あとがき


動き出します。とうとう物語は佳境に!
アリエルが落ちて杏澄はアスナに依存状態、一夏たちはとうとう次の一手を切る
全員が全員やるタイミングややろうとしてることがすれ違ってる感じで

一夏がガッツリ主人公やってますが、すぐにセシリアや鈴にも出番が回ってくる!

では次回もお楽しみいただければまさに僥倖!

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