インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~   作:王・オブ・王

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第三話 『無口なケダモノ』

 月曜日。

 朝の教室にて、杏澄と一夏とセシリアの三人が、くじを引く。

 そして……結果はセシリア一人が歓喜するものとなった。

 そもそもどうあってもセシリア以外は歓喜するものではないのだが、とりあえず杏澄は大きなため息をつく。

 

 一戦目 鬼柳杏澄VSセシリア・オルコット

 二戦目 一戦目勝者VS織斑一夏

 

 間違いなくろくなことにならないと思っていたが、このあとすぐに自分はセシリアと戦って学園中に恥を晒すのだと思うと気が重い。

 ニヤニヤしているセシリアは自分がいうのはアレだけど若干気色が悪いと思う。

 悔しいのはセシリアがとてつもなく可愛いことだ。

 

「ではこのあと第三アリーナにてお前たち二人には戦ってもらう。お互い悔いの無いように全力で挑むことだ!」

 

 そんな千冬の言葉に、杏澄とセシリアは声のトーンが全く違うが返事をして解散する。

 ISも今朝届いたばかりでまったく乗ってすらいない。

 脳内シュミレーションもまったくできていないので、このまま解散と手を挙げたいけれど千冬がブチギレるのでやめておくことにする。

 

「はぁ、ついてしまった」

 

 アリーナにて、ため息をついた杏澄だったが、その前に千冬が現れた。

 

「ほら、お前用のISスーツだ。作って送ってきたのはアイツだがな」

「ありがたやぁ~あんなピッチピチじゃ大変だからね」

「ピッチピチだが細工がしてある」

 

 同じか、と頭を抱えたくなる杏澄だがそんな杏澄の肩をポンと叩く千冬。

 珍しいと思い千冬を見れば、いつもより少しばかり優しい顔をしている。

 千冬から背を向けて着替え終えると、少しばかり自分の知っているISスーツと違うことに気づく。

 

「それはアイツが作ったものだ。まぁ似たようなのがこの世にあと一つほどあるが気にするな」

「そうなんだ」

 

 そう言って軽く跳ねてみるが、動きにまったく支障が無い。

 杏澄はまだ知らないがそのISスーツのデザインは一夏の着ているものとほぼ同じ。

 違う場所と言えば肩が出ていて色が違うぐらいのものである。

 メインの色は赤銅色に近い赤であり、紺色のラインが所々。

 

「でも、勝てないよたぶん……」

「相手は代表候補生だからな、勝てなくて当然だ」

 

 そんな千冬の返事に杏澄はため息をついた。

 

「じゃあ“オルコット”がクラス代表でも」

「褒美ぐらい考えてやる」

「よし! やるぞ!」

 

 欲望に忠実だな。とつぶやいて少しばかり笑みを浮かべる千冬。

 更衣室のドアを叩いて山田真耶が入ってくると、千冬はすぐに表情を固めてしまった。

 レアなそんな表情は一夏と杏澄とどこぞのドイツ軍人ぐらいしか見たことはない。

 

「時間です。鬼柳さん、機体が待ってますよ!」

 

 そう言って勢い良く両手をグッと胸元によせた真耶を見て、杏澄は表情をこわばらせる。

 目は見えないがそれを理解した真耶はビクッとするがそれに気づいて杏澄は口元に笑みを浮かべた。

 それに首を傾けた真耶だったが、杏澄は屈んでしまう。

 

「ど、どうしてしまったんですか?」

「いえ……若さゆえというか」

 

 目から下に汗を書いて言う杏澄。

 

「大丈夫だ鬼柳、真っ直ぐ立て」

「えっ、そんなこと!」

「大丈夫だと言っているだろう!」

 

 そう言うと千冬は杏澄の首根っこを持って立たせる。

 

「あうっ!」

 

 立ち上がった杏澄だったが、特になにもない。

 ダメ子な割には良いスタイル。その凹凸のついたボディもしっかりとわかった。

 特に“女の子”としておかしい部分はどこにもない。

 

「さ、さすがたば―――んぐ!?」

「黙って機体の元へと行け」

 

 そんな言葉に、頷いた杏澄は真耶と共に機体の元へと行くことにした。

 二人を更衣室から出した後、千冬は深いため息をつく。

 まったく困った少女だと思うも、大概千冬も過保護である。

 

 

 

 ハンガーにて、杏澄はISスーツをまとって立つ。

 別にどこがどうとかではない。両足で彼女が立っているだけである。

 杏澄の隣には一夏と箒だが、一夏に関しては次の試合セシリアか杏澄と戦うこともありISスーツだった。

 二人して同じようなISスーツを着ていて、まるで子供の頃のようだと笑う。

 

「さて、私のISはどこかな……」

 

 結局当日まで届かなかった自らのISを探す杏澄。

 

「ところで杏澄はISの勉強とかしたか? 俺はめっきりだったけど」

 

 どうせ箒に剣道ばかりさせられていたのだろうと、大体察して苦笑する杏澄。

 気まずそうな顔をする箒だが、反省しているので許してやってくれと思う。

 あと可愛いと思う。

 ずいぶん成長したと思い箒の体を舐め回すように見ると、頷く。

 

「私は多少は勉強したけどちんぷんかんぷんで、実際に乗ってみないことには……」

 

 そう呟いて周囲を見渡すがやはり機体が見当たらない。

 杏澄がふと気づく、ほかの女子生徒が着るスクール水着のようなISスーツではない一夏と自分のISスーツ。

 

「それにしても一夏と同じ服なんて小学生低学年のころ以来だね」

「そうだな、昔はもうちょっとお前も純粋だった」

「うっさい」

 

 そうつぶやいて箒をチラッと見れば、自分の居ない時の話を楽しくなさそうな顔をして聞いているので一夏と昔の会話を抑えようと思う。

 相変わらず一夏はモテると思い、それに比べて自分は……とため息をついた。

 これからのことを思って、と一夏は思ったのか苦笑しながら『頑張れ』と肩を叩いてくる。

 杏澄は『お前も戦うんだよ』と思いながらも頷く。

 

「そう言えば杏澄、お前は前髪を上げなくても良いのか勝負の邪魔になるぞ?」

 

 箒からの意外な言葉に、杏澄は前髪を少しばかり触るが、すぐに手を離す。

 

「私はこれでいいよ。前髪なんかに絶対に負けない!」

 

 ―――前髪には勝てなかったよ……。

 となるビジョンが杏澄には見えたが、気のせいだと信じたいところである。

 

『鬼柳さん、用意できましたよ!』

 

 そんな山田真耶の声と共に、用意されたのは灰色のISだ。

 どこか見たことがあるような容姿なのはおそらく幼い頃の記憶だろう。

 昔の記憶はどこか曖昧だが、まあとりあえず当面の目的を達成しようとする。

 なんとなくだが、乗り方や扱い方すらもわかってしまう。

 

「よしっ!」

 

 ISに手をかけて跳ぶと、そのISへと搭乗し装着する。

 軽く変形して杏澄の体に完全フィットした。

 彼女の大きな胸を強調するかのようにフィットするISだが、普通なことである。

 ISを作ったどこかの誰かがいかに変態くさいかわかる構造であり、だが杏澄は自分のそういうとこはきにならない。

 セシリアの胸が強調されてたりするのは気になるが自分はどうでもいい。当然といえば当然である。杏澄はナルシストではない。

 髪で隠れている目の上、額あたりにバイザーが装備され、頭部のカチューシャは機械に変わった。

 腕や足は他のISと比べてスリムで、腕と脚の鋭い爪が凶悪さをアピールしている。

 背中には灰色の翼が二枚装備された。その翼はまるで鳥類のようでもある。

 

『よし、時間がないからフォーマットとフィッティングは自分でやれ』

「うん、了解」

 

 通信から聞こえてくる千冬の声に返事をして、目の前のモニターを視界に入れた。

 モニターが出るが、そこに表示されるのは機体の詳細。

 

「ん……サイレント・ビースト?」

 

 この機体の名前だ。機体の名前を彼女なりに訳してみる。

 ―――ハハッ『静かな獣』じゃなくてこの場合は『無口なケダモノ』って読んだ方が正しいのかな? たばねぇも結構キツイことやるねぇ~。

 杏澄は、前にこの機体を扱ったなんて言われてもピンと来なかった。

 目の前のモニターが切り替わり、セシリアの機体が移される。

 同じく一夏にも説明するようだ。

 

「遠距離射撃型のISです」

 

 絶対防御の説明などがされるが、一夏とは違い勉強を多少していた杏澄は聞き流してブルーティアーズの説明の方を見た。

 

全方位攻撃(オールレンジ)って、ファンネル付き!?」

『そうだ。お前はああいうの好きだろ』

「使う方としてはね、使われるのは少し……」

 

 ゲームの話だが、現実でお目にかかれるとは思わずに苦笑い。

 彼女は軽く手を動かしながら杏澄は思う。

 ―――馴染む……これなら結構良い線いけるかも?

 

『気分が悪いなどは無いようだな』

「オーライ、やれるだけやってみるよ」

 

 少しばかりの笑みを浮かべて頷く千冬を視界に入れると、杏澄も同じように頷く。

 一歩一歩踏みしめて、移動し定置に着くと腰を下ろして前屈みになった。

 カタパルトに足をはめて、一夏と箒を視界に入れる。

 

「じゃ、行ってきますよ!」

「勝ってこい!」

「頑張れよ!」

 

 箒と一夏の励ましの声に頷いて、出撃する。

 ハンガーを抜けて空に飛び上がると、その灰色の機体を横回転させた。

 その灰色のカラスの翼を羽撃(はばた)かせるサイレント・ビースト。

 少しばかりしか動いていないが充分だと両手を軽く振る。

 上空にて、見下ろしてくるセシリアを見上げる。彼女は嬉々としているが杏澄はただ苦笑するのみ。

 

「今ここで謝っても、貴女だけは倒しますわ!」

「はは……悪役扱いですか」

 

 冷や汗を流しながら言う杏澄が、軽く手を握ったり開いたりする。

 黄色く『警告』の文字が表示されたが、すぐに赤く表示され警告音が鳴り響く。

 それと共にセシリアのライフル『スターライトmkⅢ』の銃口が向けられた。

 

「では、お別れですわね!」

 

 放たれたビーム兵器をすんでのところで体を後ろに逸らして回避する杏澄が、少しばかりバランスを崩しながら体勢をすぐに整える。

 アリーナの観客席から『おぉっ!』という声が聞こえるが黙っていてくれと思う。

 一夏対セシリアならば完全にアリーナの空気は一夏のものとなるのだが、杏澄対セシリアならばアリーナの空気はまばらだ。

 

「サイレント・ビースト、私にしっかりついてきなさ……って、うわっ!」

 

 大口を叩いたも完全に機体に遊ばれていると、苦い顔をする杏澄。

 おそらく千冬も今頃『機体に遊ばれているな、馬鹿者が』ぐらい言っているに違いないと、機体制御に集中するが逆にブルーティアーズのスターライトが掠る。

 エネルギーが減ったが比較的余裕はあって、まだ戦える。

 セシリアは下がりながらスターライトを撃つが、杏澄には一発も直撃していない。

 それでもセシリアはまだまだ余裕。

 

「さぁ踊りなさい! 私セシリア・オルコットとブルーティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

 そんな言葉に一々返している余裕もないので、攻撃を回避したり両腕で防いだりしながら武装を探す。

 

「武装は、えぇいっ―――これ!」

 

 言葉と共にサイレント・ビーストの右手にランスが現れた。

 

「うぇぇっ、ランスって!?」

 

 こんな武装で大丈夫か? なんて聞きたくなる杏澄だがここは我慢してセシリアの攻撃を回避しながらこの“遠距離武器”の使用方法を考えてみた

 武装を展開したものの扱い方がわからずに四苦八苦するがなんとか理解。

 ならば、と杏澄はランスを両手で持ちセシリアに向ける。セシリアはそんな近接武器で、と余裕の笑みを浮かべた。

 

「遠距離射撃型の私に、近距離格闘装備で挑もうなんて、気でも狂いましたか!」

 

 連射されるビーム兵器を回避しながら、杏澄はその口元をゆがませる。

 隙あり、とでも言いたそうなその表情でもない表情を読めるのは一夏と千冬と彼女の友達である二人ぐらいだ。

 

「く、ら、えぇぇぇっ!」

 

 ランスの大きく開いた柄上の部分の四つの砲門から赤い粒子ビームが放たれる。

 それに少しばかり驚くものの、セシリアは軽くそのビームを避けた。

 一斉に四つのビームが放たれたことによりダメージが期待できたものの避けられてしまう。

 

「少しばかり驚きましたが、ここまでですわ!」

 

 連射されるスターライトを避けながらも、当たりそうになるものをシールドで防ぐ。

 だが防ぎ方が下手故に、ダメージをゼロにすることもできずに体勢を崩しシールドエネルギーも減っていく。

 何か武装は無いのかと探しながらあらゆる画面を流して見て行く。

 

「このブルーティアーズを前にして、初見でこうまで耐えたのは貴女が初めて……褒めて差し上げますわ!」

「ありがたきお言葉でございますわオルコット様!」

 

 馬鹿にしたように言う杏澄だったが、鋭い瞳にてセシリアは杏澄への苛立ちを表情に現す。

 

「そこまで貴女が幕を引いて欲しいなら、そろそろ終幕(フィナーレ)と参りましょう!!」

 

 ブルーティアーズからビット兵器が射出され、その一つ一つが杏澄へと襲いかかる。

 だがどこか違和感を感じる杏澄だがその攻撃を弾くことで精一杯であった。

 全方位からのオールレンジ攻撃に杏澄は身を翻しながら防ごうとするがどうにもうまくはいかない。

 ランスからの射撃にてビットを落とそうとするが、その小さい的を初心者の杏澄が落とすには至らなかった。実際杏澄はISを動かしただけで充分なのだ。

 

「これで!」

 

 スターライトmkⅢが掠って杏澄が体勢を崩したところで、ビットが一斉に放たれる。

 あまりのピンチに口元を歪める杏澄だが、なにもできずに直撃をうけてシールドエネルギーが残り200単位まで削られた。

 地へと落ちる杏澄だが、地面スレスレで体勢を整えて、上空のセシリアへとビットが戻ると彼女の腰部にあるプロペラントタンクのようなものが杏澄の方を向く。

 先ほどブルーティアーズの装備を見た時にあったブルーティアーズ、その“残りの二機”だ。

 

「ま、さか……」

 

 ミサイルが放たれた。

 それを避けようとした杏澄は地上を飛行し、追ってくるミサイルを振り切ろうと上空に上がるがスピードが遅く、しっかりとついて行ったミサイルは程なくして杏澄に―――。

 

「終わりですわ」

 

 ―――直撃する。

 爆煙が上がり生徒たちが『やっぱり』というような顔をするが、終了のブザーがまだならないことに疑問を覚えた。

 つまり、まだ彼女は落とされていないということだ。

 爆煙が晴れた時、そこに飛んでいたのは杏澄だった。

 

「これは……そっか、ようやくフィッティング終了ってわけね」

 

 彼女のISことサイレント・ビーストの姿は形をそのままに黒へと変わった。

 その羽、間違いなくカラスと呼ぶにふさわしいその姿。

 前髪で見えない目はともかくとして、口元で彼女も少し混乱しているのがわかった。タイミングが良すぎて驚いているのだろう。

 

「さて、やるだけやって……ん?」

 

 目の前に表示されるモニターに一風変わったものが表示された。

 

「なにこれ……」

 

 モニターには『BEAST SYSTEM』という文字が浮かんでいる。

 そのいかにも色物な名前のそのシステムを起動するかどうかで悩むが、今はそんなことをしている場合じゃないと頷く。

 セシリアも『ファーストシフト!?』と言っている。

 初期設定だけで戦っていた杏澄に驚愕は隠せないようだ。

 

「いいよ、やってやる。私もこういうの嫌いじゃない……『BEAST SYSTEM』発動!」

 

 パネルが赤く輝く。

 瞬間、杏澄の目の前に表示されているモニターにさらに文字が映った。

 

「え、モード『LAUGHING RAVEN』……?」

 

 訳すならば『笑うカラス』その“ラフィング・レイヴン”と呼ばれる何かを見た瞬間―――何かが変わった。

 冷静さを取り戻したセシリアと、どこか困惑につつまれるアリーナ内、そしてそれを見ていた千冬も眉を潜める。

 杏澄の蒼い髪が風でなびくが、その鼻より上は見えない。

 一瞬、杏澄の口元が吊り上ると同時に額に装着されたバイザーが降りて杏澄の目を塞ぐように装着された。

 

「ひひゃっ、はははははっ、ひゃはっははははっ!」

 

 そうして八重歯を出して笑うのは杏澄で、雰囲気は杏澄ではない。

 

「貴女は一体……」

「けひひ、鬼柳杏澄以外の誰でもないだろぉがぁっ!」

 

 そのバイザーの向こうが見えているのか、杏澄はセシリアを“視界”に入れた。

 八重歯を出して笑う杏澄がランスを量子化させて消すと、次に両手に武器を出現させる。

 黒い翼を羽撃かせながら杏澄はその両手の“ガトリング”の銃口をセシリアへと向けた。

 その一挺六連、計十二連の銃口を向けられセシリアはまだ混乱が抜けないものの勝つことに集中する。

 

「行きなさい!」

 

 ビットが再び射出されて、杏澄を四方から狙うが先ほどとは桁違いの身のこなしでビットからの攻撃を避けていく。

 横からくるものを少し背をそらして避け、次に正面から襲ってくるビームを高度を上げて避ける。そして上空と斜め下から襲いくるビームを、体を回転させるようにして避けた。

 そして今まさに杏澄を撃とうとするそのビットにガトリングの銃口が向いていた。彼女は口の端をニッと歪めてトリガーを引いた。放たれた弾丸は咆哮とも言えるその銃声とともにビット一機を破壊した。

 

「ヒハハハハッ、まだやる気かよセシリアぁ?」

「まだまだ!」

 

 ビット一機を破壊した杏澄の背後から三機のビットが狙いを定めるが、すぐに上空へと飛んで背後からの攻撃を避ける。

 空中の杏澄はそのまま地面に頭を向け翼を羽撃く。

 彼女の視界に映る三機のビットの一機に狙いを定めると、彼女はバーニアを吹かせて移動しながらガトリングを掃射する。

 その弾丸の雨を回避することができずビットの一機がまた落ちた。

 

「先ほどとは動きが違う!?」

「ヒァッハハハッ、今更かぁ? このエネルギー残量だよ、隙を見せてやれっと思うなよぉ、ケヒヒッ」

 

 翼を羽撃かせながら、彼女はその名の通り笑い、そして

 目標である残り二つのビットは杏澄を挟むように配置されるが、両腕を横に向けてトリガーを引く杏澄。

 吐き出される無数の弾丸はビット二機を同時に破壊。

 笑う杏澄がセシリアへと向く。

 

「この程度でっ、私を馬鹿にしてただですむと思わないことですわね!」

「ケヒヒヒヒッ、さっすが英国民プライドだけなら高いねぇ!」

「グレートブリテンを馬鹿にしましたわね!」

「笑わせんじゃねぇよぉ! ヒハハハハハッ!」

 

 放たれるミサイルを、杏澄はガトリングで撃ち落とす。そして爆風が巻き起こりその瞬間セシリアは全速力で杏澄のもとへと飛んだ。

 手にはブルーティアーズ唯一の近距離武装であるインターセプターを持つ。

 爆煙を打ち消すほどのバーニアで近づいたセシリア。

 杏澄の前へと移動したセシリアがインターセプターを持った左手を上げる。

 

「これではそのガトリングでの攻撃も無理でしょう!」

「あめぇんだよ、お嬢様!」

 

 爆風を打ち消した先にいた杏澄に一撃当てようとするセシリアだったが、杏澄はガトリングを量子化してIS用のハンドガンを二挺手に用意した。

 真上から振られるインターセプターを杏澄は片手のハンドガンの銃身で受け止め、もう一方のハンドガンでセシリアを撃つ。

 両腕と胴体に撃たれたことにより衝撃でインターセプターを手放す。

 直後、杏澄が蹴りを放ちブルーティアーズは落ちる。

 

「くっ、さっきとは違う。なにもかも!」

 

 だが負けるわけにはいかないと、セシリアは体勢を整えてからスターライトを連射する。

 しかしそれらは避けられ、杏澄の手には再びガトリングが握られその銃口から放たれる弾丸だけが直撃していく。

 威力はそれほど高くなくダメージを食らう、というよりはエネルギーを削られるといった表現のほうが正しい。

 

「この程度の攻撃!」

 

 セシリアはバーニアを吹かせてまず杏澄の攻撃範囲から遠ざかった。

 スターライトⅢは大体にして遠距離からのスナイプが基本、一対一なぞはその戦い方とはかけ離れている。

 だからこそ相手の射程外からの攻撃を行おうとしたが、杏澄の顔立ちでほぼ唯一確認できる口その端を歪めた。

 

「ヒャーハハハハッ! 逝けよオルコットぉっ!」

 

 杏澄の両腕に現れるのは、二挺のランチャー。IS用の大きさなのだが見かけは『スティンガー』と呼ばれる対空ミサイルそのものだ。

 遠ざかる背中、それをバイザー越しに見る杏澄の視界ではセシリアを赤いサイトが確実にロックしていた。

 相変わらず、笑いながらトリガーを引く杏澄。

 

「このっ!」

 

 振り返ったセシリアは迫りくる二つのミサイルを視界に入れて、残った二発のミサイルで撃ち落とす。

 再び巻き起こる爆煙、だが今度は油断せずにISのハイパーセンサーで大気の流れを観測する。

 だが、一瞬だった―――。

 

「確認までが遅いんじゃねぇのぉ~? ヒヒャァハハハハッ!」

 

 ―――目の前に迫った鬼柳杏澄と言う名の獣は、そのラフィング・レイヴンの名にそぐわぬ程笑いながら、空いた片腕でセシリアの腰を抱き、引き寄せる。

 驚愕するセシリアは思わずその手のスターライトを落とす。

 目の前に迫る杏澄、密着する体―――吐息すらかかりかねないその距離でセシリアは抵抗する術を持たない。

 

「ぁっ……やっ……」

 

 腕で必死に押し返そうとするも無駄。瞬間、セシリアは自分の胸下部に違和感を感じる。

 そこには自分を抱き寄せる右腕と違う拳銃を握った左手、その銃口は自らの違和感の感じるそこに当てられていた。

 シールドエネルギーは半分より下だがまだ戦えるほど残っている。

 相手はあと少しで落ちるのにもはや抵抗する術はない。

 

「けひひひっ、ひゃははっ……セシリア・オルコットぉ~?」

 

 名前を呼ばれ、セシリアは視線を拳銃から杏澄の顔へと移す。

 敵を見る鋭い視線で杏澄を睨みつけるが、突如彼女の目を隠すバイザーが上へと上がる。

 

「―――っ!!?」

 

 息を飲んだその瞬間、杏澄の八重歯がギラリと光り左手にある拳銃が撃鉄を起こす。

 何度も何度も引かれるトリガーにブルーティアーズのシールドエネルギーは削られていき、その度にセシリアは体をビクンッ、と反応させる。

 脊髄反射、のようなものだろう。

 見ている生徒たちが息を飲むようなその攻撃にて、セシリアのシールドエネルギーは削りきられ―――ブザーが鳴り響く。

 静かなアリーナ、杏澄の片腕に抱かれたセシリアが動く。

 

「ッ……ハァッ……ンァッ……」

 

 口の端から涎を流し、上気した表情で杏澄の顔を見た。

 杏澄の前髪が徐々に垂れていきその顔を再び隠した時、拳銃が量子化され刺々しいような雰囲気も消える。

 そこにいるのはまぎれもなく―――。

 

「ファっ!?」

 

 ―――ただの杏澄だった。

 彼女は驚いて周囲を見渡し、さらにはセシリアの顔を見る。

 終わっていると思い冷や汗を流す杏澄。いや、その原因は目の前のセシリアもあるのだろう。

 

「んッ……き、鬼柳ぅ、杏澄ッ……ハァっ」

「(なっ、何事!?)」

 

 アリーナの観客席は沈黙ばかり。

 なんの歓声もないせいで杏澄は周囲を見渡す。ただ、誰も頭で理解できなかった。

 今日初めてISに乗った少女があそこまでの動きをしたことが……。

 

 

 

 ハンガーに戻った後、そこに一夏と箒がいなかったのは戦闘が待っているからだろう。

 次は杏澄対一夏だが30分の休憩が入るらしい。

 いまいち頭での理解がおいつかない杏澄は考えるのを一旦放棄した。

 ISを量子化するとその姿はチョーカーへと姿が変わった。

 

「うん、おしゃれにバッチシ!」

 

 そのチョーカーを首につけた杏澄のもとに現れたのは意外にも千冬だ。てっきり一夏の元にいくと思っていたから驚く。

 彼女は軽くぼさぼさの髪を掻く。

 杏澄の名誉のために言っておくと風呂にはしっかり入っている。ただ手入れをしていないだけだ。

 目の前の彼女、織斑千冬はいつもと変わらぬ様子で聞く。

 

「さっきのはなんだ?」

 

 千冬も知らないようで、驚く杏澄だが自分もわからないということだけを伝える。

 そんな言葉に頷くと共に少しだけ、本当の千冬を知らない者にはわからないほど少しだけ、表情をこわばらせる千冬。

 それを見て心配してくれているのかと少し嬉しくなる杏澄だが、彼女はそれだけ聞くと踵を返した。

 ―――それだけか! と思ったが立ち止まる千冬、今度こそ期待してみる。

 

「さきほどの話は後でしっかりと聞かせてもらう」

 

 ねぎらいの言葉一つ無しかと、彼女は大きなため息をついた。

 出ていった千冬、だが入れ替わるように入ってきたのは……。

 ―――意外ッ! それは箒!

 

「一夏はいいの?」

「み、見に来てやったのになにを!」

「あははっ、ごめんごめん」

 

 そう言うと箒も笑う。

 二人は揃って休憩するために更衣室にいくと飲み物をそれぞれ買ってベンチに腰かける。

 この学園に来てからというものの二人きりというのは新鮮、いや、この学園に来る前から箒と二人きりということなぞそうそう無いことだ。

 昔だって杏澄は箒と一夏が話している時は一歩引いていたから、こうして箒から声をかけてくるということ自体新鮮である。

 

「それにしても凄まじかったな、お前は……」

「あぁ~よくわかんないけど、うん……なんか勝ったよね」

 

 そんな言葉に、箒は良くわからないという顔をするのみ。

 

「あの時、えっと……サイレント・ビーストがフィッティングを終えた時にあるシステムがあってそれを押したら、なんだったんだろう?」

 

 首をかしげる目の前の杏澄を見て、箒はため息をついた。

 皆が皆なれるわけではないISの代表候補性相手に、こんなやつが勝ったと思うとため息以外出てこない。

 案外自分もなんとか倒すことができるのではないかと思わされるが、姉が興味を持った数少ない人間の一人なのだから只者ではないんだとは思う。

 それでもやはりなぜ目の前のこいつが、と思っていた。

 

「お前は一体……体に異変はないか?」

 

 そう言うと箒は杏澄の体をぺたぺたと触っていく。

 

「わひゃぁっ!? だだだ、大丈夫! 大丈夫だから!」

 

 焦ったように言う杏澄に、今度は箒が首をかしげる。

 杏澄は内心かなり焦っていた、いや普通に焦っているがそれにしてもいつもの比じゃないと箒は疑問を覚える。

 昔は杏澄と自分と一夏でしょっちゅう遊んでいたのにと若干ながらできた距離に少し寂しさを覚えた。

 

「(箒ちゃんのせいでむしろ異常ができたと言いますか……すげぇ全然目立ってないよたばねぇ! やっぱり天才だったんだ!)」

 

 妙なところで篠ノ之束を尊敬した杏澄だが、彼女にとっては大事なことだ。

 なにをとは言わないが彼女には彼女で誰にも知られるわけにはいかない秘密がある。

 杏澄の秘密を知っているのはこの世で数える程度しかいないのだから……。

 

「じゃあ次は一夏との戦いだからまた後でね箒ちゃん!」

 

「あ、ああ……それではな」

 

 更衣室から出ていく箒を見て項垂れる杏澄。

 危うく自分から墓穴を掘るところだったのだから仕方がない。

 一夏の方に行ったであろう千冬と箒。

 

「結局一夏か……」

 

「なにがですの?」

 

 そんな言葉に、杏澄は『ギギギ……』と音がなりそうな感じで顔を上げる杏澄。

 目の前に立っていたのは先ほどまでの対戦相手であるセシリア・オルコットだった。

 ―――これは、ヤバい?

 杏澄は冷や汗を流しながら思わぬ珍客と目を合わせた。

 




あとがき

なんか今回、あんまり笑える要素なかったですなぁ。
まぁなにはともあれ、初戦闘!
ということであまりはっちゃけられなかったということもありまして、次回は一夏戦!

では次回もお楽しみいただければまさに僥倖!
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