インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~   作:王・オブ・王

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第四話 『幼馴染』

 更衣室にいるのは二人。

 先ほどの戦闘での勝者と敗者である二人。

 そして敗者であるセシリアがここにやってきた理由を考えれば一つ。

 

「(この鬼柳杏澄に対する、復讐!?)」

 

 戦慄する杏澄だったが、目の前のセシリアからそんな雰囲気は感じられない。

 

「……か、勘違いしないでください! あんなのまぐれですわ!」

「わかってる! わかってるから!」

 

 勢いよく叫ぶセシリアに圧され杏澄は何度も頷く。

 

「まったく、なんで貴女のような素人が私に勝つなんて……」

「私もどうやったのかわかってないっていうか、なんというか」

 

 そう言いながら杏澄は後頭部を掻く。

 愛想笑いも口元だけだと良くわからない。

 セシリアは溜息をついて杏澄の前髪に触れた。

 

「ちょっ、だめ!」

 

 突然のことに驚きながら、焦るように言う杏澄がセシリアの手を反射で払う。

 そして突然のことに驚くのはセシリアも同じで、手を払われたセシリアはキョトンとしている。

 

「あっ、その……ごめんなさい」

「いえ、あっ! ほ、ほんと私の手を振り払うなんて何様のつもりですの!?」

「いやぁ、うん」

 

 頷く杏澄は内心面倒くさいと思った。

 けれど口に出して言わない。いや、言えない。

 

「けれどまぐれとはいえ私に勝ったんですから、あの方にも勝ってくださいまし!」

 

 応援してくれてる? とか杏澄は思ったりした。

 けれどそんなわけがないなと自己解決する杏澄。

 

「なっ、なにをジッと見てますの?」

 

 前髪で隠れているはずの視線に気づいたかと杏澄は目線をそらす。

 それにしてもなんでここにセシリアが、と思いながらため息をついてから立ち上がる杏澄。

 前回はドン引きだった気もするがなんで接触する気になったんだろうとも思う。

 聞こうと思ったがそれより先に、部屋に千冬が入ってくるほうが先だった。

 

「杏澄、次の試合が始まる。連戦なのは運がないと諦めろ」

 

 淡々と言われる言葉に杏澄は口をへの字に曲げながら頷く。

 セシリアは一礼して部屋を出て行った。

 杏澄は立ち上がり背を伸ばす。

 

「ところでどうしてオルコットが来ていた?」

 

 純粋に疑問に思ったのだろう、千冬がそう聞いた。

 それに対して杏澄は口に笑みを浮かべて軽く髪を払う。

 

「私に惚れて!」

「黙れ童貞」

「ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」

 

 焦らそうとして言ったら逆に焦らされた杏澄。

 深呼吸をしてから、気分を落ち着かせる。カチューシャが外れそうにないか確認して、前髪も確認、自分のISスーツも確認して異変がないことに頷く。

 そして千冬を見ると彼女もうなずいて、二人で更衣室を出る。

 とりあえずセシリアには負けるなと言われた。なので頑張ってみようとは思った。

 

「一夏の機体は接近戦仕様となってる」

「え、教えていいの―――って痛ぁっ!」

「敬語」

「うぅ、教えて良いんですか?」

 

 頭を押さえながら聞く杏澄に、ため息をつく千冬。

 一夏も杏澄も同じぐらいアホだ、正直篠ノ之束の推薦があって助かったという気持ちもある。

 できれば杏澄を遠くに置いておきたくないという、明確な理由も千冬にはあった。

 

「ん、おね―――げふん、織斑先生?」

「ああ、お前の戦闘を織斑は見ているわけだからな、お前も知らなければ平等ではないだろう?」

「なるほど、そっか……」

 

 分かれ道で杏澄は千冬と別れて一人でハンガーへと入る。

 ハンガーにて杏澄は首のチョーカーに触れた。

 

「サイレント・ビースト!」

 

 叫ぶと同時に展開されるIS。

 先ほどと同じように翼のあるISが杏澄に装備された。

 黒いISの翼を軽く動かしてみるが、まるで生き物のように滑らかな動きをすることに驚く。

 戦闘中などには意識できないことである。

 彼女はカタパルトに足を乗せて、体勢を整えた。

 

「サイレント・ビースト、鬼柳……行きます!」

 

 宣言と同時にカタパルトが動き出し、杏澄はアリーナへと飛び上がる。

 先ほどの戦闘のせいもあってか杏澄を見る目が少しばかり違う。

 だが杏澄がそれに気づくはずもない―――。

 

「(一度言ってみたかった!)」

 

 浮かれているからだ。

 それに気づいた千冬はモニターに映る杏澄の顔を見て軽くため息をつくのだった。

 少ししてから杏澄が出撃したカタパルトとは逆方向に設置してあるカタパルトから、灰色の機体が飛び出す。

 先ほどと同じような感じだと、杏澄は笑う。

 相手も杏澄に高度を合わして笑った。

 

「杏澄、お前とこうして真剣勝負なんて久しぶりだな!」

「そうだね、お互い子供じゃなくなったってのもあるんだろうけど」

 

 慣れ親しんだ“杏澄と一夏”の会話。

 それを嫉妬する声なんかも中にはあるけれど、二人はそんなこと気にもしていない。

 二人は家族とも言えるほどの仲であることを誰も知らない、知ることがない。

 大衆にとって杏澄は『二重人格のひどい人』ぐらいである。

 その『ひどい人』のレッテルを張られる原因となったセシリアは観客席にいた。

 しかしそれすらも杏澄にとってはどうでも良いことである。さきほどのように上手くいかないかもしれないけれど一夏相手であれば勝てる確率だってある。

 つまりは―――。

 

「(ふふふふっ、お姉ちゃんのご褒美がもらえる! うっはー! 女教師食い!)」

 

 煩悩の塊である。彼女の考えていることまでは理解できていない一夏はその手に剣を持ち、構える。

 杏澄もハッとするとその手に先ほど使ったランスを持つ。

 お互いが余計なことを考えるのをやめ、構えた。

 瞬間―――開始のブザーがアリーナに鳴り響く。

 

「行くぜ杏澄!」

「来んな一夏!」

 

 正面から接近戦かと思われた戦いだが、そんなことするわけがない。

 杏澄はランスから粒子ビームを撃つ。

 四門の銃口から一斉に、ではなく順番に出すことによってマシンガン程ではないにしろ連射性を得る。

 先ほどの戦闘から少しは成長している戦い方であるけれど―――接近戦を楽しみにしていたアリーナの生徒たちからは不評であった。

 しかし正しい戦い方であるとISの熟練者たちは思うだろう。

 

「一夏め、これで近づけまい!」

「くそっ! 汚いぞ!」

「結構!」

 

 一夏は削られていくシールドエネルギーに舌打ちをしてまず攻撃を避けることから始めることにした。

 空を駆ける一夏とそのIS『白式』はスピードが早く杏澄のランスでの攻撃では当てることができない。

 面倒に思ったのか杏澄が撃つをのやめて動き出した。

 

「おっ、ようやくやる気になったな杏澄!」

「嫌なんだけどね~」

 

 心底面倒そうに一夏へと接近する杏澄。

 一夏は素早く身をひるがえして杏澄の方に体を向けると、唯一の武装である剣を上から振るう。

 上から襲いかかるそれを杏澄はランスにて受け止める。

 

「うっ、一夏と力比べするはめになるなんて……ねっ」

「ほんといつぶりだっけかな!」

「一夏がまだ純粋で可愛かったころだね!」

「つまりお前が純粋で可愛かったころか!」

 

 一夏の力の方が強く、やはり押されていく杏澄。

 ランスを両手で支えて一夏の攻撃を受け止めているせいでいまいち身動きができない。

 

「はぁっ!」

「あぅっ」

 

 力をくわえられ、ランスを落としてしまう杏澄。

 そして一夏の攻撃が杏澄に直撃する。絶対防御により体にダメージはないものの吹き飛んで体勢を崩す。

 杏澄は地面ギリギリで体勢を整えて飛び上がる。接近特化の機体の攻撃が直撃したのだ、シールドエネルギーもかなり削られた。

 杏澄は武装を探す。

 

「まだまだいくぜ!」

「くんなぁ!」

 

 杏澄は二挺のハンドガンを持ち一夏に狙いを定め撃つ。

 何度もトリガーを引くが一夏はそれを回避する。それでも先ほどよりも杏澄も射撃に慣れてきたのか何発かは当たったりもした。

 一夏はこのままでは消耗戦になると踏み、その前に杏澄のエネルギーを削り取ることに決める。

 杏澄の方に体を向けてバーニアを吹かす。

 

「ハァァァッ!」

「へへ、こういうのはとっとくもんだよね!」

 

 そういうと、杏澄は二挺のハンドガンを量子化した。

 次に杏澄の機体ことサイレント・ビーストが片手に持つのはセシリアに撃ったスティンガーのようなミサイル。

 鈍く輝く黒いそれを向けられた一夏は表情をしかめた。

 

「うぇっ!?」

「私からのプレゼント!」

 

 引かれるトリガー、放たれるミサイル。

 一夏はすぐに身を翻して逃げようとするが伊達にロックオンしてホーミングするISの兵器を名乗っているわけではないそれは一夏をしつこく追いかける。

 結局逃げ切ることなどできるはずもなく、一夏はそのミサイルの直撃を受けた。

 着弾点こと一夏を中心に爆煙が巻き起こる。

 

「ふぅ~!」

 

 やりきったという感じで息をつき、弾のなくなったそれを量子化する。

 だが杏澄は決して油断することはない。

 

「普通に考えてブザー鳴ってないもんね」

 

 そう言った瞬間、爆煙が消し飛びそこに白い機体が現れた。

 先ほどよりもよほど綺麗で美しいその機体は間違いなく一夏の乗っている白式だ。

 自分と同じような……つまりはフィッティング終了、ということである。

 

「ようやくこの機体が俺専用になったらしいな……」

「知、る、か、あぁぁぁぁ! 私はご褒美さえもらえればなんでもいいんだから!」

 

 杏澄は一夏を待つことなく、すぐさまその手にランスを出現させて粒子ビームを連射した。

 先ほどと比べ物にならないスピードで飛び、杏澄の攻撃を回避していく一夏は目の前のモニターに表示されている文字を見る。

 

「攻撃を回避しながらモニターを見るなんて器用な真似をっ!」

 

 杏澄の悪態も彼に届くことは決してない。

 苛立つ杏澄を知っていてか知らないでか一夏は画面の、今現在装備しているそれの名前を知る。

 

「雪片弐型。雪片って千冬ねぇの……」

 

 杏澄が射撃をやめると一夏が移動をやめた。

 お互いがお互い戦闘行動を停止する。

 杏澄は空気を読んだわけではなく、ただ疲れたからやめただけだ。

 

「杏澄、俺たちは世界で最高の姉さんを持ったよ」

「このクソシスコンめ」

 

 一夏の白式がその右腕で持つ『雪片弐型』と呼ばれる剣が変形し、エネルギーの刃を生成した。

 

「でもそろそろ、守られるだけの関係は終わりにしなくちゃな。これからは俺も、俺の家族を守る」

「何を言ってるのさ一夏……っ」

 

 自信に満ち溢れたその表情を見て、杏澄はわずかにたじろいだ。

 今の一夏に勝っているビジョンがどうあっても見えない。セシリアとの戦いの時に使っていたガトリングも何故か今は使えない。

 舌打ちをしてから杏澄はランスを量子化してミサイルを一夏に向けた。

 

「とりあえずは千冬ねぇの名前を守るさ、弟が不出来じゃカッコがつかないからな!」

「しゃらくさいんだよね、一夏ァッ!」

 

 トリガーを引く杏澄。

 放たれるミサイルはまっすぐに一夏へと飛んだのだが、突っ込んでくる一夏は呆気なくそのミサイルを切り裂き爆発する前にその範囲内から出る。

 

「お前も千冬ねぇの妹だけど、名前を守れるのは俺だけだ……だから勝たせてもらうぜ杏澄!」

「いつまでも一夏に負けてばかりでぇっ!」

「見える! お前の攻撃、すべて見えてるぜ!」

「馬鹿なっ、ニュータイプとでもいうのか!?」

 

 比較的余裕があるのか杏澄がそういって笑う。

 理由は二つほどあった。

 一つは現在一夏が雪片弐型から放っているエネルギーの刃、それを発動してから減っていく白式のシールドエネルギー。

 二つ目は自分のシールドエネルギーにまだまだ余裕があるということだ。

 この勝負、自分が負ける可能性はまったく考慮されない。

 

「とりあえず倒れてよねぇ!」

 

 ランスから放たれる攻撃をハイスピードで避ける一夏。

 もはや撃っても無駄だと悟った杏澄がランスを構えて一夏へと自分も飛ぶ。

 そして、お互いが接近戦範囲に入ったと同時にアリーナ全体の空気が変わった。

 杏澄がランスを突き出す。

 

「遅い!」

 

 一夏は今日までまったくISの訓練というものをしてこなかったというハンデがある。

 だがISの訓練が必要なほど、白式は装備が豊富でも無かった。どちらにしろ変わらない……結果ここでものを言ったのは“剣を使う訓練”だった。

 ランスでの刺突を、一夏は雪片弐型で逸らす。

 それによって杏澄に大きな隙が開く。

 

「これでえぇぇぇっ!」

 

 そのエネルギーの刃を相手に、杏澄は何もできなかった。

 ただその攻撃が直撃。シールドを切り裂く一撃は杏澄のISが絶対防御を発動せざるをえないほどのもの。

 そしてそれは同時に大幅なシールドエネルギーの消費を意味した。

 衝撃と共に、サイレント・ビーストのシールドエネルギーは削られる。

 

「ぐぅっ、こん、なっ……!?」

「これ、でぇぇぇっ!」

 

 手を返し、一夏は剣を振り下ろそうとする。

 だが杏澄はそんな状況下でも一夏のシールドエネルギーを確認していた。

 もうすぐ、あと少しで勝てる。

 

「(一夏のエネルギーは減り続けて……ない!?)」

 

 ハッとした表情で一夏を見ると、目の前の一夏の表情には笑みが浮かんでいた。

 振り下ろされた雪片弐型は最初と同じくエネルギーの刃は無い。

 最低限の安全は守られながらも衝撃は杏澄を襲う、その衝撃を体に感じながら杏澄は右腕で一夏に拳銃を向ける。

 しかし右腕を左腕で掴まれた。

 

「お前、俺のシールドエネルギー気にしすぎだよ。おかげでわかったんだけどな!」

「くそっ、一夏ぁっ!」

「これでっ、終わりだぁっ!」

 

 一夏の斬撃をモロに受け、サイレント・ビーストのシールドエネルギーは0へと変わる。

 ブザーが鳴り響きそれにて戦闘終了のお知らせだ。

 お互いが武器を量子化する。

 

「結局こうなったぁ」

「へへ、今回は俺の勝ちだな!」

「はいはい、そうですね」

 

 杏澄は不貞腐れてそのまま元居たハンガーへと戻った。

 特になんでもないという風にISを解除してから周囲を確認すると、すぐに表れたのは千冬だ。

 安心したように息をつく杏澄。

 

「みんな一夏の方に行ったのかと思った」

「私まで行ったら全員向こうに行ったことになるだろう」

「やっぱり一夏かっ」

 

 あきれるようにため息をつく杏澄を見て、千冬がわずかに笑みを浮かべた。

 軽く杏澄の頭を撫でる。

 それもカチューシャが取れないようにやさしく。

 

「わっ」

「良くやった方だ、とりあえず着いてこい」

 

 そう言ってから千冬は踵を返し歩く。

 驚きながらも杏澄は口元に笑みを浮かべて頷いた。

 学園生活を初めて一週間近くが経ったが今日初めて杏澄の笑いを見たものは多いだろう。

 この学園に来てからなんだかんだで人見知り体質もある杏澄が笑うことは少なく、それもどこかぎこちないものだった。

 そんな杏澄を内心心配していた千冬は少しだけ視線を杏澄にやると、前を向いて安心したように笑う。

 さすがに部屋を出ればいつも通りの冷たい顔だが、まぁそれが千冬である。

 

 二人は特になにを話すでもなく一夏たちが居るであろうハンガーへとやって来た。

 杏澄と千冬を見つけた一夏が軽く手を上げる。

 それに対して杏澄も軽く手を挙げて一夏が杏澄の手に手をぶつけた。

 綺麗な音が鳴る。

 

「へへ、俺の勝ちだったな!」

「わかってるから、はぁ~」

 

 身内に負けるというのも些か気に食わないと、ため息をつく杏澄。

 嬉しそうな一夏を見て『まぁいいか』と千冬の方を向く。

 頷く千冬がモニターを出す。山田真耶と千冬がそこに立ちちょっとした講義が始まった。

 

「今回織斑が使った『零落白夜』だが、あれがどういうものかわかるか?」

「わかるか杏澄?」

「わかるわけないじゃん」

 

 あのエネルギーの刃、白式の単一能力(ワンオフアビリティー)こと『零落白夜』がどういうものか、いまいち二人はわかっていない。

 二人の答えに箒がため息をつく。

 考えることすらしないのかと、言いたい気持ちが千冬には良く分かった。

 

「あれはバリア無効化攻撃でISのバリアを切り裂いて本体に直接ダメージを与えるものだ。それによってISは絶対防御によって搭乗者を守りそのぶんシールドエネルギーが多大なダメージを受けた」

「そっか、だから私のサイレント・ビーストがやけに痛いダメージを」

「そう、そしてこの零落白夜は自らのシールドエネルギーを使って相手のシールドエネルギーに多大のダメージを与える。諸刃の剣なんです!」

 

 真耶の解説に頷く千冬が一歩踏み出す。

 

「そう、いわばお前の機体は欠陥機!」

「け、欠陥機!」

「言い方が悪かったな、ISは完成してもないのだから欠陥も何もない。お前の機体は他の機体よりもちょっと攻撃特化だということだ」

 

 安心したのかなんなのか一夏は大きくため息をついた。

 どうせなら完全な欠陥機を渡されれば自分の優勝だったのにと杏澄は内心思う。

 そんな杏澄の内心を察してか千冬があきれたような顔をする。

 

「ISは今待機状態ですが、織斑君と鬼柳さんが呼び出せばすぐに展開できます。規則があるのでちゃんと読んでおいてくださいね」

 

 やさしく言ってから真耶は一夏と杏澄に教本を渡す。

 受け取った二人は同じような体勢のまま固まり、冷や汗を流した。

 それを少し離れた場所から見た箒は、安心したように息をつく。

 これにてクラス対抗戦に出るためにクラス代表を決めるための戦いが終了した。

 結果としてクラス代表は誰が考えるでもなく一夏、なのだがなんとも言えないというのが事実でもある。あの杏澄がセシリアを下してただの杏澄が一夏に負けたのだから当然と言えば当然ともいえた。

 

 なにはともあれ、一組の生徒たちに異論はないからこの件はこれでおしまいであり、杏澄は一人寮までの道を行くのだった。

 

「(戻ってとりあえず一回、それからゲームでもして時間つぶして……)」

「おい杏澄!」

 

 背後からの声に、杏澄は深いため息をついてから振り返る。

 そこに居たのは一夏と箒の二人で、箒の方は腑に落ちないという表情をしていた。

 

「なんで先に行っちゃうんだよ杏澄」

 

 一人で帰るのが寂しくないわけでもないけれど、箒のことを考えて先に行った身としては呆れる他はない。

 杏澄は一夏にデコピンをくれてやった。

 額を押さえて何もわからない様子の一夏。

 

「悪いね」

「気にするな、一夏がこうなのは今にはじまったことじゃないし」

 

 箒からも了承が出て杏澄は頷くと歩き出す。

 三人で歩いているとふと杏澄がくすくす笑い出した。

 どうしたかと思う箒と一夏。

 

「いや、なんだか三人で歩くのも懐かしいなって」

「ああ、そういうことか」

 

 一夏もうなずいて杏澄に同意した。

 小学生の頃、それも箒が転校してしまう前のことつまりは白騎士事件が起きた後だ。

 ISというものはその前からできていたし、杏澄自身もISに乗ったのはその時だ。束がすごいとか言っていても当時の一夏と箒と千冬はどうでも良いという風な顔をしていた。

 ただそれだけにISが一気に有名になり箒が街に居られなくなったのはそれなりにショックだった覚えが杏澄にもある。

 このころは千冬も一夏も杏澄が中学生男子のようになるなどと予想しなかった。

 

「そういえば杏澄はなんで……」

「ん?」

「いや、やっぱなんでもない」

 

 ふくみのある一夏の言葉の内容を理解できたのか少しばかり怪訝な顔をする杏澄。

 その雰囲気が良くわからない箒にとってはただ首をかしげるしかできない。

 この学園の生徒……。というより一夏に興味や好意を抱いている生徒たちを差し置いて一番一夏に興味がない杏澄が今現在一夏に近い存在、それを箒は理解できている。

 なぜか……はわからないけれど、昔からそうだったから納得はできているけれど、その他の一夏に惚れている生徒たちはやきもきしていることだろう。箒も昔はそうだった、だから理解できた。それを思うと若干なりとも笑ってしまう。

 

「どうしたの箒ちゃん、楽しそうに」

「めずらしいな」

 

 二人からの問いにさらに笑いそうになるのを、我慢してみる。

 

「なんでもない……そういえばこれからはISの訓練もしなくてはな!」

「まぁ剣道の訓練もあながち無駄じゃなかったけどな」

 

 動体視力なんかも鍛えられるから良いかもしれないが、専用機を手に入れた一夏にISの訓練は必要だ。

 箒が専用機を持っていないが、申請さえ出せば借りられる。

 一夏の木刀で殴られる日々も終了。

 なんだかそれはそれでつまらない気がした杏澄だが、自分には関係ないことだと頷く。

 

「明日からは杏澄もどうだ?」

「え?」

 

 意外にも、そう聞いてきたのは一夏ではなく箒だった。

 彼女は薄く笑みを浮かべてそう聞く。杏澄は『良いの?』と言うと箒は頷く。

 それに安心したように口元に笑みを浮かべた杏澄。他人から見れば杏澄の目は見えないのでそれで伝わる。

 

「じゃあ明日から」

「そうだな!」

「よし、では戻るとしようか」

 

 三人並んで目立つとあの頃を思い出すと、三者三様思う。

 ―――なんだか懐かしいなぁ、二人とも大きくなったし……俺もか。

 一夏はそう思い懐かしむ。

 ―――杏澄も一夏も見ないうちに成長したものだ、一夏はまたカッコよく……。

 箒は一夏を見て顔を赤らめる。

 ―――箒ちゃん、おっぱい大きくなったなぁ~!

 言わずもがな、杏澄の目がどうなっているかはわからないが口元が妙にニヤけていた。

 

 こう並んでいると異様な三人。

 人通りが少なかったのが救いだろう。

 

 

 

 

 

 




あとがき

とりあえずこんな感じで、まぁ一夏とばっか絡んでるけど……。
次回はあの子がやってくる!

ということで多くは語るまい次回をお楽しみにしてくださればまさに僥倖!
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