インフィニット・ストラトス~獣耳とかツイてる彼女~ 作:王・オブ・王
鬼柳杏澄、生徒が数多くいるだけでなく教師や事務員なども多いIS学園内にて話題に上がる数少ない人間の一人である。
彼女の家族同然の間柄である千冬や一夏は良い噂しか聞かないが、彼女の噂というのは良いものから悪いものと沢山であった。理由はいくつかあるがその理由のいくつかを上げるとすれば『織斑姉弟と親しい』こと『篠ノ之束と親しい』こと、そして『勝つためならなんでもする』ということである。
どの噂もかなり色々と尾ひれがついているようで、一つ目で言うなら『二人は実は付き合っている』やら『ただのしっぽりした関係』などで二つ目で言うと『実は束が作ったサイボーグ』やらだ。
三つ目はほぼ噂に尾ひれがついたものでありクラス代表戦で『初心者のふりをしていた』そこから派生した噂で『大人げなく一夏相手に遠距離ばかりしていた』などのせいだ。
そんな噂もある中、やはりどうして人見知りする方である彼女は一夏や箒以外と仲良くなれることもなくその噂に真実味をおびさせていた。
噂を知ってか知らないでか、どちらにしろ赤の他人に鬼柳杏澄が話かけることはそうそう無い。
だからこそ彼女は間抜け面のままいつも通り一夏とだけ話をしている。箒もやはりどこか気恥ずかしいのかそこまで休み時間に話に行く、などはできない。
つまりこの学園でまともに、自然に、ごく普通に一夏に話かけられるのは杏澄ただ一人なのだ。
彼女を良く思ってない生徒ももちろん居るが、このクラスは基本的にそんなことはない。ただ妙な噂が増えるだけだ。
「それがさ、しばらく体が重くてさぁ」
「大丈夫かよ。今日にでも部屋に行こうか?」
「!?」
クラス中でざわざわと音がし始めた。
体が重い、次に部屋に行こうかとくればそれは邪推せざるをえないだろう。やはり思春期真っ盛りの高校一年生の彼女たちにとっては夜、男が女の部屋にと言えばそういうことになる。
だがあの二人から良く話は聞く。ただ『昔から一緒なだけ』と……。
そうと言っているのは二人だけだ。その二人と昔から一緒に居た生徒はここには居ない。
あの二人の最近のことを知ってるのはあの二人だけなのだから仕方がなかった。
「うん、じゃあ待ってる。久しぶりだなぁ~」
「俺も相当上手くなったしなぁ、杏澄で何度もしてるおかげだよ」
「姉弟冥利に尽きますなぁ~」
「貴様たちは一体なんの話をしているぅ!」
そう言って二人の前に立ったのは篠ノ之箒だった。クラスメイトたちは『い、行った!』と立ち上がって箒に対して感嘆するも見守る。
一夏には元気よくアタックできるもあの戦闘の杏澄を見てはどうにも話しかけづらい。
「え、何の話って今の流れでわからなかったか?」
「私と一夏の仲だし、当然の流れなわけで―――」
「織斑一夏さん! 今まで貴女杏澄さんになにをしてらっしゃったの!?」
そう言って二人の席の前に来たセシリア。
二人の前には現在鬼の形相の箒とセシリアだが、一夏と杏澄は一体なんで二人がこんなに怒っているのかわけがわからなかった。
二人にとっては当然の会話だったからだ、前までいた中学校ではこんな会話をしても騒ぎ立てるものなど居ない。理解してくれていると二人は思っていた。
「う~んわからない」
「いや俺も杏澄に同……あっ!」
何に気づいたのか、一夏は今までの会話と箒とセシリアの言葉からどう誤解されているかを紐解いた。
そしてそれを理解した瞬間彼は顔を耳まで真っ赤にして立ち上がる。
わけがわからないという風に見ている杏澄。
「ち、違うぞ二人とも! 杏澄、勘違いされてるぞ!」
「私と一夏二人になんの勘違いを……あっ」
そこでようやく理解した。前までの学校と同じように全員が全員一夏と杏澄の会話を理解しているわけではないのだ。
だからこそ杏澄まで顔を真っ赤にする―――と言っても顔上半分は髪で隠れているわけだが、とりあえず二人は誤解があるということを、座って二人に説明する。
辺りの生徒たちまでもが自分たちの会話を聞いているとは夢にも思っていないのでそこらのアフターケアは考えていないのだ。とりあえず今解くべくは目の前の二人の誤解。
「一夏のマッサージがすごく上手で、お姉ちゃんのお墨付きでね、それを久しぶりにって話で……ってなんでオルコットさんが―――」
「セシリアで結構ですわ!」
「じゃ、じゃあセシリアさんが?」
誤解を解きながらも、さん付けしながらもセシリアと呼ぶ杏澄。
「さんなんて付けなくてもよろしくてよ!」
「じゃあセシリア!」
「貴方じゃなくてよ! 織斑一夏!」
激昂するセシリアに一夏はあきれるように肩をすくめた。
本当に心底わけがわからなくてそうしたものの、セシリアは『きぃー!』と怒りながら地団駄を踏むのみ。
「とりあえずセシリアさんも、箒ちゃんも誤解は解けた?」
そんな言葉に、セシリアも箒も同じように軽く咳き込んでから頷く。
良かったとため息をつく一夏と杏澄の二人だった。
お互い『なんでこいつとそんなことを』と思いながらお互いを見て目があい、少しばかり気恥ずかしくなる。
今までまったく気にしなかったがこうなればさすがに気にせざるをえない。夜行くのも迎えるのも遠慮したいところだったが、そんな風に意識していると相手に意識してると思われるので忘れることにした。
とりあえず次の授業だ。それが終われば実習だし頑張ろうと、一夏と杏澄は二人でようやく読み終えた教材のことを思い出しながら準備をするのだった。
すぐに実習の時間になった。着替えは杏澄はダッシュで制服を脱いでトイレにかけこみその後黄昏ながら出てくるとすぐに校庭へと向かう。
ちなみにISスーツは常に中に着ている杏澄なので制服を脱ぐだけで結果オーライなのだ。
校庭にて集まる生徒たちの中にいる専用のISスーツを纏う三人。あまり目立ちたくない杏澄にとっては御免なのだがもう後戻りもできはしない。
生徒たちが並ぶと、ジャージ姿の織斑千冬と山田真耶が現れた。
「あぁ、お姉ちゃんただでさえ女っ気がないのに」
「おい鬼柳、次余計なことを言えばグラウンド100週だ」
「いえっさー!」
あまり目立ちたくない性格のわりにはまるで正反対のことをするのが鬼柳杏澄だ。
千冬は生徒たちの前に立つと口を開く。
「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう、織斑、オルコット、鬼柳は試しに飛んでみろ」
顔をしかめた杏澄だが、セシリアが返事をして前に出る。それと同時に専用機であるブルーティアーズを身に纏うとクラスメイトたちから少し離れた。
一夏と杏澄も生徒たちから離れて二人で顔を合わせて口元をニヤリとゆがませると頷く。
千冬はなにを考えてるのかと思ったが二人して構えをとると同時に腕を上げる。
「白式!」
「サイレントビースト!」
二人で元気よくそう叫んだ。
そして白式を纏った一夏と、サイレントビーストを纏った杏澄の二人が現れる。なんかカッコいいポーズでISを出現させたいと練習した成果であった。
実に無駄なことだが、役に立たないわけではないと千冬は大目に見ることにする。
「よし、飛べ!」
「はい!」
返事と同時に飛び上がるセシリアに『さすがだなぁ』と感嘆の声を上げる杏澄。
出現させる練習と剣道しかしてなかったせいで、まったく飛び上がることなどは考えていなかった杏澄と、そんなことを振り返りもせずに勢いよく飛び上がろうとして盛大な助走を付ける一夏。結局飛んでいたから何も問題ないが、杏澄はため息をつく。
「早く行け鬼柳!」
「……はい」
正面に角錐をイメージして―――飛び上がる。
杏澄は一夏と違い真っ直ぐと飛び上がり、クラスメイトたちは感嘆の声を上げた。そんな中昔の幼馴染こと篠ノ之箒は安心したように息をつく。
一夏、セシリア、杏澄の三人が空を飛ぶ。
スピードを上手くコントロールできずにセシリアの後ろを同じ程度の速度で飛ぶ二人。
そんな時千冬から通信が聞こえる。
『遅い、スペック上の出力なら白式の方が上だぞ!』
「そう言われても……」
「やーい一夏ののろま!」
『サイレントビーストの方がスピードがもっと上だぞ』
「……」
黙ってしまう杏澄。二人してこれ以上スピードを上げる方法がいまいち思いつかないのだった。
二人して角錐をイメージということを口に出してみてもどうにもできない。
飛び上がるまではできたがその先が……。
「イメージは所詮イメージ、自分にやりやすい方法を模索する方が建設的でしてよ?」
困っているところに現れてそういうセシリア。
大体空を飛ぶということ自体がわけがわからない二人にとってはどうすれば良いかわからなかった。
一夏は『どうやって空飛んでるんだ、これ?』と悪態をつく始末。杏澄も色々と考えてみるがどうにもと言った様子だ。そんな杏澄を見てセシリアが少し顔を赤らめながら言う。
「よろしければ指導してさしあげますわよ?」
「一夏だよ」
「はぁ?」
「貴方でなくってよ織斑一夏!」
杏澄はそういうセリフは自分に言われたのではないと思い込んでしまうように成長してきた。主に一夏のせいで、だからこそこういう時一夏の方だと思ってしまうが自分のことだと思い彼女は意外そうにする。
顔上半分をこの学園で見ているのは現在千冬と一夏とセシリアの三人、だからこそその内側の顔が容易に想像できた。
『織斑、オルコット、鬼柳、急降下と完全停止をやってみせろ!』
「りょ、了解です! ではお先に!」
一夏を睨んだ後、杏澄に笑みを向けるがそれがわけがわからず首をかしげる二人。
急降下をするセシリアが地上スレスレで体勢を整えて停止、そのまま優雅に後ろ髪を払った。
空にて二人は同時に『お~』と声を上げる。
「上手いもんだな、よし!」
「さて私も行くかなぁ」
急降下を同時に始める二人だが、一夏のスピードがダントツで早い。
それを見た杏澄がヤバいと思うも自分は怪我をしたくないので離れる。そのまま落ちて行った一夏が砂埃を上げて派手に落ちるが少し離れた場所に杏澄は奇跡的に綺麗に完全停止した。
自分のその腕に驚いた杏澄が嬉しそうに口元に笑みを浮かべる。
「や、やったよ!」
そう言ってクラスメイトたちの方を見るが誰一人として自分を見ておらず箒や千冬すらも落ちた一夏の方を向いていた。
正直挫けそうだったが、そこで近寄ってきたのは青いISスーツを纏った少女、つまりはセシリアだ。
笑われるのかと思った杏澄だったが、近寄ってきたセシリアは杏澄のことを察してか静かに笑う。
「流石ですわ」
「!?」
その時セシリアが天使に見えた。と彼女は後々語る。
誰も見ていないがこれが最初で最後の杏澄が訓練で行えた唯一の急降下からの緊急停止であった。映像には残っているものの千冬も一夏も『お、おう』ぐらいしか返す返事がない。
仕方ないと言えば、仕方ない。
夜、食堂はほぼ一年一組の貸切状態となっていた。
その中の一席、ソファに座る一夏、その両隣に杏澄と箒。そして杏澄の隣にはセシリアだ。集まっているクラスメイトたちとその背後の窓ガラスに張られたこの宴会の理由。
ソファに座っていないクラスメイトたちが一斉に手に持ったクラッカーを鳴らした。
「織斑君、クラス代表おめでとー!」
一斉に鳴らされたクラッカーの中身が飛び散るがそれらを勢いよく払う杏澄とその振り払う腕を被害をこうむる一夏。
その腕を押さえて膝に乗せさせると、コホンと一息つくセシリア。若干目が怖いので一夏は目を合わせないようにした。
とりあえず自分がクラス代表なのは間違いない、だが理屈じゃなく納得いかない部分があった、
「杏澄がクラス代表の方がよかったんじゃないか? セシリアに勝ったんだし」
「私もそう思いますわ、私と戦った時の杏澄さんはすごい強さでしたし! って私を呼び捨てに―――」
「だけど織斑君はそんな鬼柳さんに勝ったんだよ?」
そうなのだがあの時の杏澄はどこか違うとわかっているから一夏は素直に喜べない。
やはり男子にするべきだとの声も多い。
一夏の隣にいる箒はあまり楽しそうな顔をせずに一夏に横眼を向けた。
「人気者だな一夏」
「そう思うか?」
「私は思うね」
杏澄が横からそう言うが一夏は苦笑するだけだ。
機嫌が悪そうにする箒のことすらわからなのかと呆れてため息をついた杏澄、そしてそんな杏澄にムッとする一夏だが―――瞬間、ライトがたかれた。つまりは写真を撮られたということだ。
それに全員が黙っていた。理由は見慣れない人物がそこにいたからという単純な理由。
「はいはーい新聞部でーす! あっ、セシリアちゃんと杏澄ちゃんも一緒に写真良いかな?」
典型的な漫画のパパラッチキャラだと頷く杏澄。
少しだけ不服そうなセシリアが一夏をチラッと見る。
「三人で、ですの?」
杏澄は『多分一夏と二人で撮りたかったのかも』と思い、いたたまれなくなった。
少しだけ新聞部のメガに期待してみるが、その思いが届くはずがない。
目が見えていれば目で訴えるということもできただろうが、彼女の目は他人には見えないように隠れているのだからそれは無理と言うものだ。
「ん、注目の専用機持ちだからねぇ、しかも篠ノ之束博士の推薦という杏澄ちゃんも! あっ、握手なんてしてると良いかもね!」
「そうですかぁ! あの、撮った写真は当然いただけますわよね!?」
「もっちろん、じゃあ立って立って!」
そう言われて面倒そうに立ち上がる一夏と杏澄、それと正反対に先ほどと違い嬉しそうなセシリア。
まずセシリアが一夏と握手し、そこに杏澄が手を重ねる。なんて政治家が良くやっていそうな三人握手である。
セシリアには秘策があった。写真の真ん中に一夏がいればもちろん3ショットは避けられないが、こうして真ん中に杏澄がいるのであれば一夏の部分だけ切り取るということができるのだ。
そして新聞部の女は合図を送る。
「セシリアちゃんもっと寄って、杏澄ちゃんの方にじゃないんだけど……まぁいっか、撮るよ、はーい!」
シャッターが切られた瞬間、沢山の生徒たちが写真へと入ってきた。
なんというスピードかと内心戦慄する杏澄。
「なんで全員入ってますのぉ!」
「まぁまぁセシリア」
「抜け駆けは無しだよ!」
やはり一夏かと盛大に深いため息をつく杏澄。
そしてセシリアも杏澄と二人で写真を撮りたかっただけあって深い深いため息をつくのだった。
だがセシリアは自分で考える。
決して自分は鬼柳杏澄に“恋愛感情など持っていない”と……。
その後、鬼柳杏澄という一人部屋を与えられた織斑一夏よりある意味貴重な扱いを受けた少女の部屋の前。
そこからは一人部屋にしては聞こえるはずのない二人分の声がわずかに漏れていた。
本当にわずかな声であり、聴きたい者たちはそれぞれ聴診器やら紙コップで作った電話やら扉に耳をあてたりなどしていた。ちなみに沢山の生徒がそこにはいたということだけがわかる。
―――ん、一夏上手になったぁ? んぅっ。
―――まぁな、ちょくちょくお前の相手してりゃそりゃぁ……。
―――でも、やっぱり上手っ……あっやばい……。
「なぁにを、やってますのぉぉ!」
大声を出すセシリアに驚く集まった生徒たちは一斉に散った。
何度も扉を叩くセシリアが大声を出すものだから、白いジャージを着た彼氏いない歴=年齢の貧しい青春を送っていた教師が降臨されることとなった。
それを扉を叩きながら大声を出しているセシリアが気づくわけもなく、背後から静かに振り上げられた拳がセシリアを地面に伏せさせる。
まさに一撃必殺。倒れたセシリアを壁に寄せる千冬、中から出てきたのは一夏であり少しばかり汗をかいていたが、昼間の通りしていたのはただのマッサージだ。
「織斑、オルコットを隣の部屋に寝かせた後にお前はこっちの部屋で寝ろ」
「いやちふ、織斑先生っさすがに昔と違って杏澄は女の子なんだし」
「家族同然だろう」
「でもさっ」
いつも杏澄の前でもふつうの一夏にしては珍しいと思う千冬だが、一夏は少し考えこむ。
さすがに意識しだしたかと思った千冬、やはりセシリアは部屋に戻そうと思ったがその直後。
「はい」
おとなしく指示に従う一夏を見て、頷く。千冬は杏澄の部屋に入ってベッドの上でうつぶせになっている寝間着の杏澄を見る。
まったく動かない杏澄が頭だけを千冬の方に向けた。あるものを隠すためのカチューシャをしておらず髪留めで前髪も避けている。
そんな特殊な杏澄を見て千冬はため息をつきながら寝間着の上をめくってウエスト部分を露出させた。
「や、やめてお姉ちゃん!」
「ISスーツは着ていないのか」
「だから起き上れないんだよ……」
溜息をつく杏澄。
「一夏には興味がないんじゃ無かったのか?」
「ただ、ベッドにあんな力いっぱい押し付けられるとさすがに……」
「そうか、まぁ今日は一夏にこの部屋で寝るように言ってある、すこしベッドを開けてやってくれ」
「えっ……あぁ、うん」
千冬は杏澄のことが手に取るようにわかった。
ここで否定しないのは千冬本人に面倒をかけさせないようにだ。千冬の頼みに余計なことは言わないのは別に千冬の頼みを拒否する理由が無いから。
杏澄にとっての問題は一夏と同じ部屋で一夜を過ごして、クラスメイトたちに文句を言われないかは問題かもしれないが千冬からのお願いの方が優先である。
そして千冬は踵を返す。
「頑張れよ」
そう言ってから千冬は部屋を出て行った。
杏澄は嬉しそうに笑顔を浮かべ―――。
「うん!」
そう、大声で返事を返すのだった。
うつぶせのままというのはやはりシュールだが、杏澄らしいと言えばらしい。
彼女を知っている者は総じてそう言うことだろう。
あとがき
いやはや、今回は結構長い日常パート……日常パート?
とりあえず一夏と杏澄の怪しい関係ということで、まぁこんな感じで曖昧な、少しずつこの二人の心情についても紐解けていけばと思ってるしだいで……。
次回はチャイナガール登場!
お楽しみいただければまさに僥倖!