初めて、EOSに乗り、模擬戦を行ってから二週間の間のIS実技の授業は殆どがEOSの稼働データ収集だった。
そして、休日である今日。俺と一夏はそれぞれ、専用機の開発元なる研究所に向かうことにしている。俺の場合はドッグだが………。
加えて、今日は機密ドッグにとある人たちを招くことになっていので、更識の息がかかっている喫茶店の個室で、俺はその人を待っている。
雷真「お久しぶりです。ハルバートン准将、バジルール中尉」
デュエイン「黒牙中尉、准将は止めてくれ。もう、私は軍人ではないのだ」
ナタル「私もだ。普通に名前で呼んでくれて、構わない」
雷真「分かりました」
挨拶を済まし、椅子に座る。
雷真「お二人とも飲み物は何にしますか?」
デュエイン「私は、ホットコーヒーを」
ナタル「私は、ホットレモンティーを」
二人の飲み物を注文し、飲み物に口を付けたあと今日の本題を話す。
雷真「今日はご足労いただき、改めて、ありがとうございます」
デュエイン「前置きはいい。今日は以前の電話で言っていた“天使”と
雷真「はい。加えて、こちらの報告書をご覧下さい。お二人には、驚かれる内容が書かれています」
デュエイン「拝見しよう」
ハルバートンさんとナタルさんに四枚のA4サイズのクルーゼ襲撃事件のことを纏めた報告書を渡した。
デュエイン「拝見した。しかし、まさかブルーコスモスの名手、ムルタ・アズラエルまでもがこの世界で生きているとは………」
ナタル「デュエイン委員長、私が生きているのです。可能性としては、有り得たことです」
デュエイン「それでもだ。クルーゼのことも驚いたがアズラエルのことも驚いた。黒牙中尉が言っていたように、この世界でも“
ハルバートンさんは、コーヒーを入れながら目を瞑った。すると、ナタルさんがハルバートンさんにある意見を口にした。
ナタル「でしたら、各国のIS委員会に応援要請をすれば!」
デュエイン「誰がそんな戯言を信じる?奴らは、自国さえ危険に晒されなければ動かん腰抜けだぞ?加えて、我々と奴らとでは五年間というアドバンテージがある」
デュエイン「その間に、奴らは
デュエイン「ましてや、クルーゼの配下にはコーディネイターがいるはすだ。この世界には、本当の戦争を体験したことがない者も多い。我々の方が、この世界は異質だということを忘れたか?」
ナタル「いえ………」
ハルバートンさんの言葉に、ナタルさんは唇を噛んでしまう。空気を少し変えるために、このあとの話をする。
雷真「飲み物を飲み終えたら、機密ドッグをご案内します」
デュエイン「頼む」
ナタル「………」
その後は、シノブを呼んで機密ドッグへ。隠しエレベーターに乗りながら“天使”のドッグを二人に見せるとナタルさんがあの艦の名前を口にする。
ナタル「アークエンジェル?」
デュエイン「のようだが、少し違うな」
クルーゼとの一件や俺の入院なんかが重なり、以前、ナタルさんに渡すはずだった“天使”の詳細は渡せていないため、二人は初めて“天使”を見て、アークエンジェルの名前を口にしていた。
雷真「ええ。外見は、アークエンジェルに酷似していますが、あの艦の正式名称はアークエンジェル級三番艦“メルカバー”です」
デュエイン「メルカバー………なるほど、アークエンジェルやドミニオンよりも上階級の天使か」
雷真「それだけではなく。メルカバーは、座天使。天の車という説もあるんですよ」
ナタル「なるほど。天の車か………」
雷真「次は、アストレイ部隊です」
ナタル「部隊の人数は?」
雷真「総勢62人です」
ナタル「一個中隊くらいか」
デュエイン「一個中隊の全員が
とハルバートンさんは、部隊人数で想像した戦力を口から溢していた。その後、車を降りて、ハルバートンさんとナタルさんをアキトがメルカバーの船内を案内。俺とシノブはフリーダムの所へと別れ、格納庫へ。
雷真「シノブ、フリーダムの状況は?」
シノブ「それが、以前若様からの連絡をいただいた2日後から出力が一向に83%から上昇しないのです。申し訳ありません」
雷真「気にするな。あんなボロボロにやられてしまったフリーダムを良くここまで直してくれた。それだけでもありがたい」
俺の目の前で佇んでいるフリーダムは、外見は完全に修理が完了している姿だった。
雷真「インパルスの方は?」
シノブ「解析は完了しています。武装も例の三機のうちの一機に転用できるか検証しています」
雷真「そうか」
シノブの説明を聞いて、俺はフリーダムへと近付いて、ボディーに触れ、目を瞑り対話を試みる。けれど、何の反応もない。
雷真「ダメか………。シノブ、姉さんのアストレアはどうなってる?」
シノブ「それでしたら、予備パーツで修理を終えています。加えて、新しいストライカーパックも届けてあります」
雷真「なら、俺がいない間でもあまり心配はいらないな」
現在のIS学園でまともに戦えるのは、織斑先生を筆頭に刀奈、簪、シャルロット、姉さんの五人だけだ。
もしも、この俺がいない間にクルーゼかアズラエルの息がかかった者たちが学園に攻め込んで来たら迎え撃つにも戦力が足りない。アストレイ隊を出せば守れるだろうが、そうなると色々と面倒な案件が出てくる。
シノブ「若様、フリーダムとまでは行きませんが若様の予備機体を用意してあります」
雷真「予備機体?」
シノブ「M2アストレアの四号機です」
雷真「四号機………」
◇◆◇
《sideシャルロット》
鈴「はー。なんか、かったるいわねぇ」
そうぼやきながら鈴は、ストローに溜めた飲み物の水滴をシワシワになったストローの袋の上に落として、子供がよくやるイモムシの遊びをしていた。
シャル「フフ。一夏がいないからでしょ?」
僕が鈴にグッテーとしている理由を言うと、途端に顔を赤くしながら慌てて否定する。
鈴「な、なぁっ!?/////」
鈴「ち、違うわよ! ふん! あんな奴、居なくたって別に平気よ!」
シャル「はいはい。(鈴も素直じゃないなぁ)」
そんな照れ隠しをしてしまうほど一夏のことを好きな鈴を微笑ましく眺めながら、僕は手元にあるミルキーティーを飲む。
鈴「しっかし、この間のクルーゼの襲撃事件で虚さん以外は全部修理か……。パーソナルロックモードで暫くの間はISが使えないってのは、ヤバいわよねぇ………」
シャル「一夏は白式の開発元まで、雷真の場合はシノブさんの研究所に行っちゃったからね」
鈴「………ったく、早く帰ってきなさいよ」
鈴は空を見上げそう呟いてから、ハッとした表情になると僕のことに気付くと慌てて照れ隠しをする。
シャル「フフフ」ニコニコ
鈴「な、なによ!別に寂しくなんかないわよ!」
シャル「うんうん。心配なんだよね?」
鈴「ち、違っ────」
鈴が続けて声を荒げようとすると食堂が突然停電した。それも食堂だけでなく、廊下や電子掲示板までもだ。すると、今度は窓の防護シャッターまで降りて、体内時間で約3秒経過すると鈴が口を開いた。
鈴「ねぇ、シャルロット」
シャル「うん。緊急用の電源にも切り替わらないし、非常灯も点かない。おかしいよ」
突如して起きた異変に僕たちは背中合わせで警戒しながらISをローエネルギモードで起動して、視界にウィンドウを呼び出し即座に暗視、ソナー、温度、動体、音響視覚と言った全てのセンサーやレーダーなどを起動させる。
レーダーなどの起動を完了させると緊急のプライベートチャンネルで織斑先生からの通信が入る。
千冬『専用機持ちは全員、地下特別区間へ集合。マップは転送する』
そう言い終わるのと同時に専用機にマップデータが転送されてきたので、それにしたがって速やかに集合ポイントへと急ぐ。集合ポイントに着くと即座に織斑先生からIS学園の異変について説明された。
千冬「では、状況を説明する」
千冬「現在、IS学園の全てのシステムがダウン。つまり、ハッキングを受けているものと断定する」
真耶「今のところ、生徒に被害は出ていません。が、何としても学園のコントロールは取り戻さねばなりません」
織斑先生と山田先生からIS学園の状況説明が終わるとラウラが挙手をする。相変わらず、雷真といい、ラウラといい、現役軍人は有事の際に行動が機敏だ。
ラウラ「IS学園は独立したシステムで動いていると聞いていましたが、それをハッキングされることなどあり得るのでしょうか?」
刀奈「あり得るわよ」
ラウラの質問に刀奈が即答した。
刀奈「可能性としては、あって欲しくはないけど。クルーゼの息がかかった者によるハッキング。彼らは、遺伝子操作をされた人間。通称、“コーディネイター”」
刀奈「そんな彼らが、たかたが学園のシステムをハッキングすることなんて何の障害とも感じられないわ。簡単に言えば、雷真と同等の頭脳を持っていると考えていいわ」
刀奈のその言葉に、僕たちは戦慄する。確かに、雷真と同等の頭脳が持っているのであれば学園のシステムをハッキングするなど造作もない。
しかし、刀奈の仮説を織斑先生が否定する。
千冬「その可能性はないだろう。もしもそうなら、こんなまどろっこしいことはせずに学園を戦地にしているはずだからな」
シャル「確かに、クルーゼの学園への目的は雷真の抹殺と学園の破壊」
虚「若様の方はシノブさんたち、黒牙の部隊が居ますから大丈夫なはずです」
ラウラ「なら、一体誰が?」
千冬「そんなことが分かっているのなら苦労はせん。犯人や目的も不明だ」
ラウラの質問が終わると他に挙手する者は出なかった。その後は、山田先生から作戦内容が伝えられた。
真耶「それでは、これから篠ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんの五名にはアクセスルームへ移動してもらい、そこでISコア・ネットワーク経由で電脳ダイブをしていただきます」
山田先生の作戦内容に、僕たちは戸惑ってしまう。
セシリア「で、電脳ダイブ………」
鈴「それって……もしかして……」
ラウラ「IS操縦者保護神経バイパスから電脳世界へと、仮想可視化しての侵入………というやつか」
シャル「理論上、可能なのは知ってるけど……」
未だに、電脳世界にダイブすることに対して戸惑っていると織斑先生の手を鳴らして渇を入れる。
千冬「各自、スタンバイ!作戦を開始する」
「「「「了解!」」」」
千冬「更識簪と布仏虚の二人はダイブのバックアップを」
簪「はい」
虚「わかりました」
織斑先生の声で、僕たち電脳ダイブ組は直ぐにISスーツに着替えて、ダイブするための機械に横たわる。MRIのように機械の中へと臍の辺りまで運ばれてるとスピーカーから簪の声が聞こえてくる。
簪『それでは、仮想現実の世界に接続します』
簪『皆さんはシステム中枢の再起動に向かってください。始めます』
簪の声が終わると目の前に5秒のカウントダウンが表示され、カウントダウンがゼロになるとISを展開させるような感覚で僕たちの意識を電脳世界へとダイブさせた。
◇◆◇
《side簪》
シャルロットたちが電脳世界へとダイブした後、フリーのお姉ちゃんに織斑先生から指示が飛ぶ。
千冬「さて、お前には別の任務を与える」
刀奈「なんなりと」
千冬「間もなく、何らかの勢力が学園にやってくるだろう」
刀奈「排除………ですね?」
千冬「そうだ。今のあいつらは戦えない。悪いが頼らせてもらうぞ」
刀奈「はい」
簪「お姉ちゃん!」
刀奈「なに?簪ちゃん」
簪「無茶はしないでね」
刀奈「大丈夫よ」
そう返事をしてオペレーションルームからお姉ちゃんが出ていくと織斑先生と山田先生が重い口を開く。
千冬「私たちは何をしているんだ………。守るべき生徒たちに戦わせて、私たちは………」
簪「織斑先生………」
こんな時、雷真が居てくれたらと、ふと思ってしまう。
千冬「さあ、ぼんやりしている暇はないぞ、真耶。我々には我々の仕事がある」
真耶「はい!」
そうして、二人はオペレーションルームから出ていき、ある準備に取りかかった。
アヴァロン・フリーダムのビーム兵器を実技演習の授業でも使用するかについて
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アヴァロン・フリーダムの使用禁止
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アヴァロン・フリーダム ビーム兵器の禁止
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別機体のビーム兵器を使用
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別の機体を使う
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雷真は見学