輝きがほしい比企谷八幡   作:SHSH

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いつもより少しだけ長いです。


第十三話

 今日は、始業式。そして、初めての浦の星女学院。

 

 時間や、浦の星女学院までのみちのり、持ち物は渡された紙に書いてある。何も問題はない。問題はないが、やはり緊張はする。

 

「よし、行くか」

 

 俺は浦の星女学院へと向かった。

 

 校門の前へと着き、校舎を眺める。

 

(お~、綺麗だな。こんなに良い所そうなのに、廃校の危機に瀕しているのか…)

 

 そう、廃校の危機に瀕していた。内浦へと来る前、理事長である小原さんから電話で聞いたのだが、今年の学校説明会での応募者が一定数を上回らなければ、正式に廃校が決定するそうだ。じゃあ、なんで俺を転入させたんだよ。と思ったが、小原さん曰く、今年を乗り切った後の事を考えているらしい。

 

(とりあえず、職員室に行けばいいんだよな)

 

 正門をくぐり、職員室へと向かうべく、鞄から地図を取り出した俺は辺りを見渡す。まだ、時間が早いため生徒の姿は見られない。

 

(えーと、あっちが北だから、沼津駅前バス停はこっちか……ん?)

 

 地図を握るその手に力が入る。

 

 

 

 

「…これ、沼津駅の地図じゃねーか!」

 

 違っていた、別の地図を持ってきていた。忘れ物はないかと何度も確認したはずなのに…。いや、忘れてはいなかった、別の場所の地図だっただけで。

 

(…適当に歩いて、人に尋ねるか)

 

 最近浮かれていたのかもしれない。昨日も、考えずに走り回ったせいで道に迷っただろう。気を引き締めないといけないな。

 

 そう思いながら人はいないかともう一度辺りを見渡す。すると、一人の少女と目があった。端正な顔立ち、健康的な体型、そしてバレッタで留めた赤紫色のロングヘアー。

 

(…美少女だ)

 

 見惚れてしまった俺は、大事なことを忘れていた。

 ここは女学院、俺は男、そして見つめられた彼女がなにを思うかなど想像に容易い。

 

「ふ、不審者…」

 

 不審者認定された俺は、急いで釈明会見を開く。

 

「ち、違う、俺は不審者じゃない!」

「ひっ、近寄らないで!不審者はみんなそう言うのよ!」

 

 不審者じゃなくてもそう言うと思うけど、今はそんなことはどうでもいい。

 

「待って下さい、転校生なんです!信じてください!」

「だから、近づかないで!警察呼びますよ!」

「じゃあ近づかないので、警察は呼ばないで下さい」

 

 しばしの沈黙、にらみ合う二人

 

「…わかりました」

 

 そういいながらも、携帯を手にする彼女

 

「待って、本当にそれだけは待って!」

「…じゃあ、証拠はないんですか?自分が不審者ではないという証拠」

「そ、それは…」

 

 転校生であるという証拠はあるが、不審者でないという証拠はない。転校生であって不審者でもあるという可能性があるからだ。

 しかし、そこで比企谷八幡閃く。迷子も解消し、彼女からの疑いも晴らす一発逆転の奇策を。

 

「そこまで言うんなら職員室に突き出して下さい。そこで白黒ハッキリさせましょう」

「…わかりました。それでいいです」

「それで、職員室はどこにあるんでしょうか?」

 

「…え?」

 

 

 

 

 

 

 

 職員室へと赴き、誤解を解く事が出来た俺は現在、先ほどの女の子、桜内さんと共に応接室で待たされていた。

 

「あの…、不審者とか言ってごめんなさい!」

 

 桜内さんが謝る。そんなに俺の目は怪しく見えるのだろうか…

 

「いや、大丈夫だから。そういうの言われ慣れてるし」

「だよね!仕方ないよね、怪しく見えたんだもん!」

「…だからと言って、居直るのは違うんじゃないですかね?」

「うっ、ご、ごめんなさい」

 

 そういって俯いてしまう桜内さん。不審者扱いはちょっぴり傷付いたが、気にしていても仕方ないだろう。

 

「そんなことより、桜内さんも二年生だったんだね」

「え?"も"ってことは、その…比企谷君も?」

「そうだよ、俺も二年生。千葉県にある総武高校から、共学化のテスト生としてここに来たんだ。桜内さんは?」

「私は、東京にある音ノ木坂高校から…、その…、転校してきたんだ」

 

 何か事情があるのだろうか?何か困っているなら助けてあげたい、そう思った。

 

「理由は…聞いても?」

「それは…」

「ほら、初めて会う人間だから言える事ってあると思うんだ」

「じゃ、じゃあ…」

 

 

 

「私ね、ピアノから逃げてきたんだ」

「逃げてきた?」

「うん、逃げてきた。この間のピアノコンクールでね、何も弾けなかったんだ。最初は楽しかったのに、だんだんみんなに期待されだして、頑張ろうって思えば思うほど、よくわかんなくなって…。」

 お父さんのお仕事の都合もあるんだけどね、と一言。

 

 

「…」

 

 

 今思えば本当に浮かれていた。

 

 

「そっか、でも大丈夫だろ」

「…え?」

 

 

 戻れるものなら戻りたい。

 

 

「それでも大好きなんだろ、ピアノ」

 

 

 一度欲しいものを手にした俺は、

 

 

「桜内さんならできるって」

 

 

 こんなにも

 

 

「だから頑張ろうぜ」

 

 

 薄っぺらい人間になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…勝手なこと言わないでよ、何も知らないくせに」

 

 そういい放ち、桜内さんは部屋を飛び出していった。

 

 …やってしまった。

 桜内さんの過去を聞き出し、あろうことか無責任な発言。自分を押し付ける浅ましい思考が気持ち悪い。

 

 不意に先生が応接室へと入ってくる。

 

「あれ?桜内さんは?」

「え、えっと、外に行っちゃいました…」

「そっか、じゃあ私探してくるから、比企谷君はここで待っててね~」

 

 そう言い、桜内さんを探しに行く先生。

 

 閉められた扉を眺めながら後悔する。

 

 "頑張れ"、"大丈夫"、薄っぺらい言葉だ。桜内さんはきっと、そんな心ない言葉から逃げてきたのだろう。いや、それこそ思い上がりか。俺は彼女の事を何も知らない。知らないくせにそんな言葉を投げ掛けたのだ。

 

 人間そう簡単には変わらないと思っていたのは確か。今も思っている。それでも自分が、今まで断固として唾棄すべきものと息巻いていた上部だけの人間に変わり果てているとは、夢にも思っていなかった。

 

 しばらく経ち、先生と桜内さんが戻ってくる。

 目は合わせない。合うはずがない。

 

 学校生活の説明を受ける。

 今日は始業式に出ずに帰っていいそうだ。

 

「じゃあ、また明日」

「はい先生、ありがとうございました」

 

 挨拶を済ませ帰路に就く。

 

 

 

 

 

 鍵を開け家に入ると、驚くほど静かで怖くなる。

 そうだった、いつもこうだったじゃないか。俺の周りには誰もいなかった。ここ最近がおかしかっただけで、これが普通なのだ。由比ヶ浜と雪ノ下とは友達になれたと思う。でもそれは、積み上げてきた時間があってこそのものだった。それを勘違いした俺は、浮わついた気持ちで人の心へと、土足で上がり込んでしまい結果、桜内さんを余計に傷付けた。

 床に倒れ込み自嘲する。お前は馬鹿だと。

 明日謝ろうと思いながらも、グチャグチャになった思考がまとまらない。学習しない頭ではこんなものなのか。

 

 

 …考え疲れた俺は、気付けば眠っていた。




まだ、まだ慌てるような時間じゃあない
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