早起きを宿命付けられた俺は、眠気と闘いながら自転車で登校していた。坂道に入り、頑張って自転車を漕ぐのをやめ、頑張らずに自転車を押して登っていると校門が見えてくる。携帯を見ると約束の八時より五分前、相変わらずの完璧なペース配分だ。
「八幡くーん!」
校門の前で、千歌が大きく手を振って叫んでいる。が、俺は手を振り叫び返すのが恥ずかしいので、小さく会釈をする。千歌はそれが不満だったのか、坂を登り切った俺に詰め寄ってくる。
「手、振り返してよ!」
「…いや、会釈してたでしょ」
「すごい小さくだけどね!?あんなの会釈の内に入らないよ!」
ならば、アレは何だったのだろうか。
「わ、悪かったよ……じゃあ、はい」
と目の前で小さく手を振る。
「遅いよ!それに近いよ!も~!」
そう言いながら俺の体を揺すってくる。ちょ、ちょっと、そういうのドキドキしちゃうからやめて!
内心喜びながら、迷惑そうな顔を作っていると、突然視界の隅から曜が現れる。
「八幡君、おはヨーソロー!」
「お、おう、おはよう」
元気一杯の挨拶と共に、弾けるような笑顔を向けてくる曜。…守りたい、この笑顔。
「…というか、曜も手伝ってくれるのか」
「うん!私もスクールアイドル部に入ることにしたから、これくらい当然だよ!」
「いや、入るって、…水泳部はどうするんだ?」
「水泳部とは掛け持ちになるけど、…多分大丈夫!」
まぁ無理はするなよ、と言おうとしたところで千歌が声を上げる。
「あっ、一年生が来たよ!ほら二人共、これ持って!」
渡された物を見ると、メガホンだった。…あー、これは俺も声を出すのか。想定していた事だが、やはりボッチだった俺が声を張るのは想像以上に難しい。
「スクールアイドル部でーす!」
「大人気、スクールアイドル部でーす!」
あなたも、是非!と大きな声で勧誘をする二人に対し
「あー、大…人気?スクール…アイドルです」
とボソボソ声を出す。というかこの言い方だと、俺が大人気スクールアイドルみたいに聞こえるな。…それより、さっきから登校してくる生徒全員、興味が無いのか一瞥するだけで、立ち止まりはしない。
「大人気…スクールアイドルでーす…」
「あなたも…一緒に、スクールアイドル…」
次第に二人の声も小さくなっていき、万事休すかに思われたところで、曜がボソッと呟いた。
「…美少女だ」
曜の視線の先を見ると、茶髪の子と、赤髪の子が、今まさに校門をくぐろうとしていた。そして、その二人に接近するオレンジ色の影。
「スクールアイドルやりませんか!」
「ずらっ!?」
「…ずら?」
「あっ、いや、なんでもないです」
千歌が一年生を驚かせてしまったようだ。だってほら、"ずらっ!?"って言ってるし。……ずら?
「スクールアイドルやろう?ね?悪いようにはしないから」
千歌がジリジリ距離を詰めていく。ただ、その誘い文句は如何なものか。
「あのっ、ライブとか、あるんですか?」
赤髪の女の子が尋ねる。
「ううん、まだなの。だからあなた達みたいな可愛い女の子に是非!」
そう言いながら千歌が手を取ると同時に、茶髪の女の子が素早く耳を塞ぐ。なにをやってるんだ?
「ぴぎゃあああ!!!」
辺り一面に響く、けたたましい金切り声。突然の事に驚きながらも、第六感が唐突に告げる。"木から何かが落ちてくる"と。まさか、と思いながらすぐ近くにある木を見ると女の子が落ちてくる途中だった。なんで!?
「っ!、いっ…」
無事着地したものの、続けて鞄が落ちてくる。
「ぐぇっ!」
うわぁ…頭の天辺から足の爪先まで痛そうだな。そう思っていると、千歌が心配そうな顔で木から落ちてきた黒青髪の女の子に声をかける。
「ちょ、色々大丈夫…」
すると、この場にいる五人の視線を独占する女の子が口を開ける。
「ふっ、ここはもしかして地上?ということは、あなた達は下劣で下等な人間という事ですか」
あー…そうか、これは。頭の中までイタそうだな…