吹き抜ける風が仄かに暖かく、どこか気持ち良い。そんな中俺は、おそらくみかんが入っていたであろう段ボール箱に座り、木の前で盛り上がっている美少女五人を見守っていた。すると茶髪の子が、木から落ちてきた子に詰め寄っていく。
「あれ?善子ちゃん?善子ちゃんだよね!私だよ、花丸だよ!幼稚園以来だね~」
「は、花丸!?」
どうやら時を越えた感動の再会らしいな。…と思っているとその二人が突然ジャンケンを始めた。そして、善子ちゃんと呼ばれた女の子がジャンケンに負けると、急に校舎の方へと走っていく。
「私はヨハネ、ヨハネなんだからねー!」
自称ヨハネの善子ちゃんを追って、二人の一年生もそれに続く。
「待ってよー善子ちゃーん!」
「花丸ちゃん、待ってー!」
一年生の三人が走り去っていき、残された千歌と曜がこちらへ駆け寄ってくる。
「あの子達絶対人気が出る!後でスカウトに行こう!」
「そうだね千歌ちゃん」
「ね、八幡君もそう思うでしょ!」
「お、おう、そうだな。というか時間。そろそろ教室に行かないと」
「あ、ホントだ…」
メガホン片手に、肩に鞄をかけて千歌と曜が校舎へと歩いていく。その後ろを黙って着いていく俺。ストーカーに勘違いされそうだな。誰かに見られて通報でもされたらどうしようと、後を振り返ってみると、不意に目が合う。
…段ボールと。
もう少しで置いて行ってしまうところだった。危ない危ない。さっきまで俺がいた場所に戻り、段ボールを手に取ろうとすると不意に声をかけられた。
「あの、よろしいですか?」
「ん?あ、はい」
顔を上げると、そこには落ち着いた雰囲気の黒髪美女が立っていた。
「いつ何時、この浦の星女学院にスクールアイドル部なるものが出来たのです?」
「えーと、出来たというより、これから出来るんだけど君も入りたいの?」
聞いてきたということは、入りたいということだろう。ただ、今まで見てきた一年生と何かが違う。…ネクタイの色が緑?まさか…
「あっ、三年生か!」
「ええ、そうですわ。そして浦の星女学院の生徒会長も務めております」
「そうなんですか、…じゃあ何のご用で?」
「少しお話よろしいですか?」
「…はい」
何を言われるのか全く想像がつかない。まさか勝手に勧誘活動をしていたのがマズかったのだろうか。
「スクールアイドル部のことですが、たとえ部員が五人集まったとしても承認は致しかねますわね」
「えっと…理由はお聞きしても?」
「それは、この浦の星女学院にスクールアイドル部は必要ないからですわ」
「…必要ないって、それは生徒からの需要に依るんじゃないですか?」
「需要があったとしても承認致しません」
…これは相当の頑固一徹みたいだな。ここでどれだけ正論を言おうとも聞く耳は持ってくれないだろう。とりあえず問題を先延ばししておくか。
「そうですか。だとしても俺に言われても困ります。スクールアイドル部を作ろうとしてるのはあの二人なんで」
それに、と続ける。
「五人も集まりそうにないですよ」
「そうなんですの?…というかあなたも先程勧誘していませんでした?」
「あぁ、あれは手伝えと言われてやっただけで俺は入部しませんよ。なにせ男ですから」
そう言うと生徒会長は、そうですか…失礼しましたと去っていった。
さて、これで生徒会長がスクールアイドル部の創部阻止に焦ることはないだろう。…多分。"集まらない"に"俺は入部しない"のダブル文句。少なくとも今日の放課後か明日までは千歌と曜に話が行くことはない。
(…しかし、生徒会長のあの目。スクールアイドルに何か恨みでもあるのか?)
二人に話が行き、引導を渡される前に理由をつきとめる。生徒会長がスクールアイドル部を認めない本当の理由を。わかりさえすれば後は…なんとかする。うん。きっとできる。
昨日千歌が言っていた事を思い出す。
『私は今までずっと普通だったけど、スクールアイドルになって浦の星を廃校から救うんだ!』
"普通だった"
千歌は今変わろうとしている。普通だった自分から変わりたいと思っている。それは簡単なことじゃない。人間そう簡単に変わらないのは、おれ自身が身をもって体験しているからな。けど、平穏を捨てて革新の一歩を踏み出そうとしているんだ。その気持ちをここで終わらせてほしくない。それに…
(手伝うって言ったからな)
こんなこと言ってますけど、大したことはしません。