気付いたら俺は、奉仕部の前まで来ていた。転入の話を雪ノ下にどう説明するかあれこれ思案していたら、もう着いてしまったのだ。集中していると時間が経つのは早いもので、買った小説を読んでいて、気付けば深夜12時なんてことはざらにある。
そして部室の扉を見つめる。思えばここまで扉を確り見る事は初めてじゃないだろうか。所々傷はあるものの、年代を感じさせない清潔感がある。
この扉を開けば奴がいる。口を開けば罵詈雑言、目を開けば俺を射殺さんばかりのレーザービームを放つあの女王様が。
「なんて説明しようか…」
元を辿れば周りが勝手に決めたことであり、俺自身に非は全くない。だが有り体に事実を伝えるだけでは、それをネタに罵られ、聞くに耐えない祝言を頂くだけである。
そこで比企谷八幡は考えた。いや、feelingで感じたと言ってもいいかもしれない。扉を開けば奴がいる。逆を言えば扉を開かなければ奴はいないのだ。そもそも絶対に今日言わなければいけない訳ではない。明日言えばいい。それがダメなら明後日、明々後日。明日やろうは馬鹿野郎とは言うが、俺は馬鹿じゃないからその限りではないはず。
そう思い付いてからの行動は早かった。扉に向かってお辞儀をし、体育の先生も唸る綺麗な回れ右を決める。
それと同時に、作戦の失敗も決まった。
「比企谷君、そんなところで何をしているのかしら」
奴がいた。
俺が奉仕部に入ってから今に至るまで、雪ノ下が俺より後に部室に来るなど一度として無かった。だから今日も俺より先に部室にいるだろうと、そう思っていた。
その先入観が俺を調子付かせた。扉に向かって律儀にお辞儀をし、綺麗に回れ右のワンコンボ。この行動は最早弁明のしようがない。
逃げて楽をするはずが、自分で自分の首を絞め楽になろうとしていた。
「よ、よう雪ノ下、今日は来るの遅いんだな」
努めて平静を装い、無難な挨拶をする。
「ええ、本当はもう少し早くきたかったのだけれど、あなたが部室の前で奇行をしていたものだから、遅くなってしまったのよ」
見られていた。振り向いたらいたのだから当然といえば当然なのだが、再認識したと共に手に汗が滲む。
「そうか、それは申し訳なかった。」
謝罪の言葉が息を吐くようにすんなり出る。発汗は多いが、思考は自分でも驚くほどに冷静だった。いける。俺ならどんなピンチも切り抜けられる。
「とりあえず部室に入るか」
「ええ、そうね」
そういい俺は部室の扉に手を掛けた
ガチャガチャ
「鍵まだ開いていないのだけれど」
「あっ」