「…さぁ?知らないけど」
知らない…か。
「そうですか。ありがとうございました」
では、と回れ右をして駆け足でその場を後にする。"あ、ちょっと!"と言う声が聞こえたが俺は立ち止まらない。…が"ハンカチ落としてる!"という声が聞こえ俺は立ち止まる。右ポケットを触ると確かにハンカチが無くなっていた。
(…恥ずかしい)
急いで振り返りハンカチを取りに戻ると、何とも言えない苦笑いをされてしまった。……殺せ!もういっそ殺せ!
一瞬目を見て、軽くお辞儀をすると今度は質問をぶつけられる。
「スクールアイドル部がどうかしたの?」
「…ええと、クラスメイトがスクールアイドルを始めようとしてるんですけど、生徒会長がそれをよく思ってないみたいで」
「…ふーん、それでスクールアイドルを認めない理由を探ろうと?」
「はい、三年生に聞けば分かると思ったんですけどね」
「…そっか、ごめんね力になれなくて」
…まぁ、実を言うとおおよその察しはついている。休み時間に携帯で、浦の星女学院スクールアイドルで検索したら意外にも情報は残っていた。二年前"Aqours"というグループ名で三人の一年生が活動していたこと、そのメンバーの中に生徒会長の名前があったことも、すでに把握済みだ。そして、目の前にいる彼女がメンバーの一人として活動していたことも。…これはたった今確信したことだけど。
先程から会話をする中で彼女は僅かに迷っていた。逡巡するが故に生じる微かな間、俺はそれを確かに感じ取っていたのだ。それに"知らない"はずがない。
「じゃあ、俺はこれで失礼します」
「あ、うん、じゃあね」
とはいえ、知らないと言われた以上こちらから執拗に聞くことは出来ない。ネットに載っていたのは、結果と事実であり、過程や動機は分からなかった。もしかしたら人に聞かれたくないことかも知れないしな。
どうするか考えながら教室へ戻ると、千歌と曜が桜内さんと楽しそうに話していた。
「え!ホントにいいの!?」
「う、うん。スクールアイドルやってみようかな」
「ありがとう~梨子ちゃん」
千歌が桜内さんに抱きついている。一体何があったんだ…
「あっ八幡君!梨子ちゃんもスクールアイドル部に入部してくれるって!」
「そ、そうなのか。けどホントにいいのか?」
「うん、だって比企谷君も入部するんでしょ?」
…ん?
「いや、俺は…」
「そうだよ!私と曜ちゃんと八幡君、それに梨子ちゃんが加わって四人。後一人集めれば創部は目前だよ!」
「ちょ、だから…」
「いやー順調でありますなー八幡君」
「曜、お前…」
「…てへっ♪」
…かわいいなおい。
「そうだ聞いてよ八幡君、梨子ちゃんのお家がお隣さんだったんだよ」
「そうなのか?」
「うん、昨日帰ってから気付いてね。夜もベランダ越しに千歌ちゃんが是非!スクールアイドル部に!ってしつこくって」
ホントに押しに弱かったのか…、俺も人のこと言えないけど。
「それより八幡君お昼食べたの?」
「ん?あ、まだだ」
時計を見るとお昼休みは、残すところ10分となっていた。あれ!?時間経つの早くない?
「じゃあこれ食べる?」
千歌の手元を見ると、そこには"しおから"のみが佇んでいた。お弁当にしおから?…いいセンスだ。
「なに、嫌いなの?しおから」
「えっ!?…全然、好きだけど?」
目を見て言ってくれ。
「ま、まぁまぁそんなことより、はい、あーん」
そう言いながら箸を持ち上げ俺の口元にねじ込もうとしてくる。
「いや、食べるとは一言も…むぐっ!」
「どう?おいしい?」
千歌はこれをおいしいと思っていないから俺に食わせたんだろう…どの口が言うんだ。
「…おいしい」
けれど塩辛いはずのしおからは、どこか甘くおいしく感じられた。
…ホント俺も、押しに弱いな。
千歌ちゃんってしおからが嫌いなんですね。