俺は部室で小説を読んでいた。
左を向けば、雪ノ下と由比ヶ浜が楽しそうに会話をしている。ただ、不思議な事に読んでいる小説の内容がおかしかった。信頼、信用、好意などの熟語が無造作に散りばめられている。そもそもこれは小説と呼べるのだろうか?
疑問に思いながら、ふと顔を上げると、先程まで左の方で会話をしていた二人が目の前にいた。
(いつの間に!?)
俺は驚くが、二人は気にも留めず会話を続ける。
徐に二人がこちらを向き、俺に笑いかけてくる。
「ーーー」
聞き取れない。何を言っているんだろうか?
「ごめん、聞こえなかった」
二人に聞き返す。
「ーーー」
やはり聞こえない。耳がおかしくなったのだろうか。
「だから聞こえないって」
すると二人が俺の手を優しく包み込んだ。
視線を落とし、そこで気が付いた。
これは夢か。
二人がこんなことをするはずがない。そもそも距離感からしておかしい。奉仕部の仲は険悪ではなかったが、ここまで良いという程でも無かった。
ただ夢だと気付いても、握られた手を振りほどこうとは思わなかった。
"暖かい"
夢だというのに手には確かな温もりがある。
"嬉しい"
心の内からそんな感情が湧き上がる。
思わず握られた手を、握り返す。
すると、まるで最初からそこに無かったかのように、二人の手が消えて無くなる。
視線を上げる。二人は遠くにいた。
なんで、なんで離れるんだ
夢なんだろ、もっと見せてくれよ
もう一度手を握ろうと必死になって手を前に伸ばそうとする
けれども、思うように腕が上がらす二人には決して届かない
腕を見る
たくさんの傷痕が残っていた
「お兄ちゃん!」
「…ん?」
目が覚めた。
「お風呂さっさと入っちゃってよ!洗濯機回せないでしょ!」
「お、おう。わかった」
思い出した、ソファーで寝てしまっていたのか。
「ほらほら、早く早く!洗濯するの小町なんだから全力で急いでよ!」
「わかってる、わかってるから引っ張るな」
小町に急かされ浴室へと急ぐ。鏡を見たら、腐った目がほんのりと赤く腫れていた。
(うわっ、小町に気付かれてないよな)
心配になりながらも、頭と体を洗い浴槽へと浸かる。
「なんだよ、あの夢」
先程まで見ていた夢を思い出す。不思議な事に徹頭徹尾、αからωまで鮮明に覚えていた。
「馬鹿か、俺は」
変な期待はするなと自分に言い聞かせる。
ふと夢の中で、腕が上がらなかったことを思い出す。
「なんだよ、動くじゃねぇか…」
浴槽の中で伸ばしたその手は、ゆっくりと視界に現れ、確かに空を掴んだ。
今思えば、
平塚「転校が決まった」
八幡「いやだー」
平塚「拒否権はない」
八幡「なら、致し方あるまい」
ぐらいの超速展開にすれば良かったかな。