新米提督の日常(?) 作:朝人
「ほんと、お願いなんでもう勘弁してください」
太陽が丁度真上を回る頃。
鎮守府のとある執務室にて、一人の新米提督がある艦娘に対し土下座していた。
「えっと……なぜ榛名に対して土下座をしているのですか? 提督」
その当の本人、金剛型三番艦榛名はその意味が分からず疑問を口にする。
「……本当に自覚はないか?」
「は、はい……」
提督の言葉にもう一度改めて記憶を掘り起こすも、やはり身に覚えはなかった。弾薬を過剰に使ったわけでもないし、毎回大破しているわけでもない。むしろ中破にすら滅多にならないのであまり資材を切り詰めることはしていない。それなのに何故……?
「……まあ、これはお前が悪いというよりはどちらかというとオレの運の所為でもあるんだが……」
「は、はぁ……?」
益々もってわけが分からなくなった榛名に助け舟が渡る。
「提督が着任してそろそろ一ヶ月が経つのは知ってるよね?」
現秘書艦の瑞鳳が提督に代わり説明を始める。
「はい、確かにそろそろそのくらい経ちますね」
「あ、お祝いでもしますか!」と一人息巻く榛名に「それはいいけど、一先ず置いておこうね?」と軽く流す瑞鳳。
「それで今度の任務が“あの”沖ノ島海域であることも知ってるよね」
『沖ノ島海域』。それはあらゆる提督達が挫折を味わい、羅針盤が本格的にラスボスに変わる地獄の一丁目。敵の戦力強化と岐路の多さで資材がどんどん削れていく魔の領域。文字通り最初の難関である。
「勿論です! 第一艦隊として榛名頑張ります!」
ぐっと拳を握り気合を入れる。
金剛型は高速戦艦として知られる通り、彼女達は回避に優れている。火力と装甲が他の戦艦より劣ってしまうが、なるべくダメージを抑えたいこの提督はその戦闘スタイルを好んで彼女達を愛用しており、一番艦である金剛を除いた比叡、榛名、霧島の三人は既に第一艦隊の固定メンバーになっているほどだ。……ちなみ、長女である金剛は何故か未だに出ないままであり、そろそろ妹達のレベルが15に達しそうなことはなるべくなら触れないようにしよう。……姉より優れた妹などいないのだ……。
閑話休題。
「……それであと一隻くらいは戦艦が欲しくて毎日建造しているのも」
「勿論知っています」
「そっかぁ……」
真剣に聞き、頷く榛名を見て言っていいものかと一瞬思案するが、ここで切ってはかえって気になって戦闘に支障をきたすかもしれない。そうなったら提督の胃がマッハで危ないだろう。
「実は、その建造で一番多く出る戦艦がね……榛名なの」
結果、素直に言うことにした。
「え……」
その言葉に当の本人はそう反応するしか出来なかった。要約すると「ダブり」が発生したということだ。
他のソーシャルゲームならダブっても同じ隊やパーティに入れることができるが、『艦隊これくしょん』というゲームにおいてはダブった場合同じ隊に同じ艦娘を入れることは出来ないのだ。一応他の隊に入れることはできるが、そこでもやはり一人しか入れることしか出来ない。仕様だから仕方ない上、本来ならそんなに戦艦が出てくることはない為あまり気にすることはないのだが……今回は事情が違った。
「……榛名、そんなに出たんですか?」
「……うん」
まさかと思いつつも問いかけた言葉に瑞鳳は首を縦に振った。
「よ、四人とか……」
とりあえず今ある艦隊より少し多目の数を出してみる。
「それで済んだら、提督はあそこまで追い込まれないよ」
だが答えはノー。部屋の隅で「本当にお願いなので出ないでください、榛名さん」とぶつぶつと呟いている提督に視線を向ける。
「六人とか……」
そんな状態の提督を必死に見ないフリをして再度瑞鳳に訊ねる。しかし瑞鳳はただ黙って首を横に振るだけ。
「は……八人?」
半ば現実から目を背けるように空ろな声で訊く。お願いだから当たって欲しい、流石にこれより上はないはずだ。そんな懇願も虚しく、瑞鳳は静かに首を横に振りその答えを言った。
「十人だよ」
「………………」
絶句。流石にその数値には絶句せざる終えなかった。なにせ榛名が初めて配属されたのが凡そ三週間前、それから今日の間に十人もの榛名が建造されていたのだ。
『艦隊これくしょん』において行動する際に必要になる資材を確保する主な方法とは……放置である。遠征や出撃でも取れる場合もあるが、デメリットやリスクを犯さず、安全に確保できる方法……それが放置なのだ。
三週間。期間にすれば長いかもしれないが実際に行うプレイ時間や建造回数は思ったほど行っていないのだ。特に建造に関しては戦艦を出すために鋼材が600ほど勢いよく飛んでいくので尚更だろう。実際一日に作れる回数は2~4辺りが限界だ、この新米提督では。
つまりだ、三週間(21日)の間に榛名が十人ということは単純に考えても二日に一人、回数で見るなら大体建造六回の内一回は榛名が出る割合なのだ。……意味がわからない? 大丈夫、提督の中では既に榛名のゲシュタルト崩壊が始まっているから。
「……榛名って本当に戦艦だよね?」
「正真正銘の金剛型戦艦ですッ!!」
そのあまりの出現率の高さについそんなことを口走った瑞鳳に間髪入れずに否定の言葉を投げる。
「……実はね、那珂ちゃんの方が榛名より建造率が低いんだよ」
「え!?」
今日までに那珂ちゃんが出た回数わずか二回。
「更にそれより低いのが五十鈴だよ」
今日までに五十鈴が出た回数まさかの
「いくら提督が好きだからって他の娘の出番まで奪わなくてもいいと思うの」
「提督のことは好きですが、提督の邪魔になるようなことはしません!」
現在進行形で別固体の榛名が邪魔をしていることは言わぬが花だろう。
「……ところで、何故提督はそこまで追い詰められているのですか? 榛名が言うのもおかしいかもしれませんが、余分にいるのであれば解体したり近代化改修に回せばいいのではないですか?」
「榛名って……意外と鈍感?」
「え……?」
新米提督が好きなタイプは黒髪ロングが似合う娘です。
今回のネタは榛名さん大増殖の巻きでした。ちなみにこの榛名さん十人は本当にあった話です……というか三日連続榛名さんとか止めてくださいお願いします。
増えすぎた榛名さんは榛名さんが責任を持って処理しました。おかげで火力が90代行きました、そして新米提督は軽く涙を流しました。
こんな感じでネタがあったら書いていくかもしれません。なかったら続きません。
……いい加減五十鈴は出て来い。