もしかしたらあったかもしれない、そんな未来   作:サクサクフェイはや幻想入り

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第十七話

夜、もう少しで食堂が閉まる時間に俺は食堂に居た。 この時間は割と片付けなどで忙しい時間なのだが、手伝うという条件で俺は例外的に使わせてもらっていた。 仕事は厨房ではなく、食堂の机といすの拭き掃除だ。 アルコールで湿らせた布巾で机といすを拭くだけ。 もちろん数があるため時間はかかるが、食堂のおばさん何人かと手分けしてやっているため苦ではない。 流石に一人でやらされるのなら使う時間を改める所ではあるが。 どうも食堂のおばさんは女尊男卑思考に染まっていないらしく、男一人にやらせようなどとも考えもしない。 だからこそ、こうやって手伝っているのだが。 食堂のおばさんにお礼を言うと、何故か俺もお礼を言われた。 不思議に思って聞いてみると、食堂の利用時間ギリギリに来た生徒でも、手伝っていかないのは手伝っていかないらしい。 それなのに俺は毎日手伝ってくれているから、らしい。 いや、俺が毎回のように利用時間ギリギリに来ているからなのだが。 それでも、手伝ってくれるだけありがたいそうだ。 そんなふうにお礼を貰いつつ、俺は寮の廊下を歩いていた。 一番端にある俺の部屋だが、数日もすればなれるものだ。 まぁ、相変わらず女子からの視線が煩わしい。 まぁ、俺の部屋の付近までくればその煩わしい視線もほぼなくなるのだが。 だが今日は珍しいことに、部屋に行く前に呼び止められた

 

「あの」

 

「あぁ、更識さん。 こんばんわ」

 

「簪でいい、苗字あんまり好きじゃないから」

 

更識さん改め、簪さんに呼び止められた。 ここに簪さんがいるということは楯無先輩は話しかけるのに失敗したか、それとも昼のことを引きずっているのか。 まぁどちらにしろ、楯無先輩の事は置いておいて、今は目の前の問題を片付けなければ

 

「なら簪さんで。 何か用か?」

 

「ちょっと、話したいことがある」

 

俺の目を見てじっと言われるが、時折視線を周りに向ける。 真剣な話はいいが、ここで話したくないと。 まぁ、少なくなったとはいえ俺のことを見ている女子はいる。 俺の部屋でもいいのだが、流石に楯無先輩と引き合わせたら、まずいような気がする

 

「いいけど、何処で?」

 

「ここ」

 

手を引かれ、簪さんが背にしていたドアの中に入る。 ・・・・・・意外に近かったんだな、部屋。 生徒会長権限で調べられそうなものだが、あえて調べないのか、そのことを忘れているのか。 前者だといいが、後者のような気がする。 楯無先輩、妹のことになると途端にポンコツになるからな

 

「あ、かんちゃん探し人は見つかった?」

 

「うん」

 

どうやらルームメイトはすでにいるようで、ルームメイトと喋っていた。 挨拶せねばと思い歩き出すのだが、妙に聞き覚えがある

 

「あ、シロクロだ~」

 

「のほほんさんか」

 

「シロクロ?」

 

いやまぁ、分かってはいた。 のほほんさんは最初あった時のように、着ぐるみを着ていた。 どうやら、予想していたように寝るときに着るようだったようだが。 そんな俺とのほほんさんの会話を不思議そうに見る簪さん。 ていうかうん、やっぱり独特なんやな俺のあだ名

 

「そう言えば自己紹介がまだだったな。 俺は白石黒夜、だからシロクロだ」

 

「あぁ、だから......」

 

納得したように頷く簪さんだったが、突然頭を振って真剣な表情で俺を見てくる。 なんだ?

 

「真剣な話があるの」

 

「・・・・・・あぁ」

 

話がしたいからと言って部屋に連れてこられたわけだが、のほほんさんの登場で忘れていた。 簪さんはそのことに気が付いたから、頭を振ったわけね。 のほほんさんパナイな

 

「貴方にはああ言ったけど、考えているうちにわからなくなったの。 私が本当にあの子を、打鉄弐式を大切にしていたのかどうかを......」

 

「かんちゃん?」

 

それっきり俯いてしまう簪さん。 それを心配そうに見るのほほんさんだが、次に俺を見る。 どうも事情を説明しろということらしい

 

「最初にあった時、俺が彼女のIS打鉄弐式に触れようとしたんだ。 それで、席を外していた彼女がちょうど帰ってきてな、触らないでって言われたんだ。 それで、そのことを謝罪するときに、大事にしているものを触ろうとしてすまないと言ったんだ」

 

「かんちゃん...... でも、かんちゃんは大事にしてると思うよ? そうじゃなきゃ、製作途中の弐式を引き取って自分で完成させようなんて思わないよ」

 

「でも、私は弐式を利用してる。 お姉ちゃんは一人でISを完成させた。 なら私も一人で完成させればお姉ちゃんと同じ土俵に立てる」

 

なんかいろいろと新事実が出てきているんだが、白

 

『はいはい、困った時の白だよ!まず弐式の製作途中ってはなしだけど、元々は倉持技研というところが製作をしていたんだ。 でもその倉持技研だけど、開発を途中で中断したんだ』

 

『なんで?』

 

『原因は君たち。 男と言う貴重なサンプルが出たことによって、倉持技研は国からの命令で男の専用機を作ることになった。 まぁ、それも芳しくなく白式を最終的に完成させたのはママンなんだけどね。 それで、白式にはママンの技術が使われてるってことで、弐式の開発は完全に凍結。 それを簪が引き取って、こないだ見た形まで仕上げたっていうところかな』

 

『まぁ倉持どうのこうのは、この際何も言わない。 で、楯無先輩がひとりでISを作ったっていうのは? たしかISって何人もチーム組んで作るものだろ?』

 

『その件はねー、簪の言うことは正解でもあるし、不正解ともいえる。 元々楯無のISは原型は完成してたんだよ。 グストーイトゥマンモスクヴェから得られたデータをもとに、フルスクラッチで組み上げた機体なんだ。 でも、意見は貰ってたみたいだし、完全に一人というわけじゃないみたいだねー』

 

『ふーん』

 

なんかいろいろ分かったが、俺が知りえない情報まで知りえてしまったようだが、まぁいい。 聞きたいことは別にある

 

『それで、弐式のコア自体はなんて言ってるんだ?』

 

『コア自体は気にしてないみたいだよ? 早く一緒に空を飛びたいみたい。 あー、でも心配はしてる。 毎日毎日、朝早くから夜遅くまでプログラムとかやってるみたいだし。 今日は、どこか上の空だって』

 

『コア自体は気にしていないが、本人が気にしてるか』

 

まぁ、なるようになるか

 

「君が何でそこまで必死になって打鉄弐式を組んでいるのかは知ってる」

 

「っ!? なん、で?」

 

「楯無先輩から聞いたからな」

 

部屋の温度が急激に下がった気がする。 ずっと簪さんを見ていたが、伏せていた目は親の敵とばかりに俺を睨んでいる。 正直言ってやらかした感が半端ないが、このまま押し切らせてもらう

 

「楯無先輩の言葉を受けて、君がどう思ったか、何ていうのは分からない。 君自身の気持ちだからな。 別に、あるものを利用して同じ土俵に立つのは悪いことじゃないと思うが?」

 

「貴方と話すことなんて、ない」

 

「君になくても、俺にはある。 君のIS、打鉄弐式のコアは、そんなこと気にしていないそうだ」

 

「貴方に、何が!」

 

「その通りだ、俺にはわからない。 だがな、白にはわかるんだよ」

 

「白?」

 

「何々呼んだー?」

 

「「!?」」

 

白の声が聞こえた瞬間、驚く二人。 声の主を探そうとキョロキョロするが、そんなことをしても見つかるはずがない

 

「あはは!そっちじゃないよ、こっちだよ、こっち」

 

今度ははっきり聞こえたのか、俺の方を見る。 俺は俺で、ネックレスを掲げる

 

「まさか......」

 

「そのネックレスが?」

 

「そうだよー!初めまして、かな? 僕は白!白石黒夜の乗る純白の打鉄のコアの意識と呼ばれる存在かな」

 


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