もしかしたらあったかもしれない、そんな未来   作:サクサクフェイはや幻想入り

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第三十七話

「また負けた」

 

最後のAAでISが強制解除となり、簪さんを抱えて地上に降りているのだが、その顔は不満顔だ。 まぁ、勝負に負けたのだから当たり前なのだが

 

「いやいや、危なかったよ」

 

「嫌味?」

 

ジト目を向けてくる簪さんだが、別にそんなつもりはなかった。 純粋な賞賛なのだが、まぁ負かした相手に言われても煽ってるようにしか思えないか

 

「そんなつもりじゃないけど...... 気に障ったんなら謝る」

 

「ううん、分かってたから大丈夫」

 

「・・・・・・はぁ」

 

今度はこちらがジト目で見る番だ。 簪さんをジト目で見るが、簪さんは楽しそうに笑っていた。 そんなたあいもない会話をしているうちに、地上に着いたので簪さんを下ろし、ホワイトグリントの展開を解く。 いやぁ、本当に満足した。 地上に着くと同時に、アリーナの中にのほほんさんと布仏先輩が駆け込んでくる

 

「かんちゃん、大丈夫!?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

「本音、虚さんも大丈夫ですから」

 

二人とも慌てたように体の具合を確かめているが、確かめられている簪さんはどこか恥ずかしそうだ。 遅れて楯無先輩も入ってくるが、やはり元気がない。 そんな風によそ見をしていれば、のほほんさんに引っ張られる

 

「シロクロ!」

 

「ん? なに、のほほんさん」

 

「何じゃないよ!かんちゃんにあんなに酷いことして!!」

 

怒っているのか目を開けてこちらを見るのほほんさんだが、これはどうしたものだろうか...... まぁ、戦っているときは気にならなかったが女の子にしていい戦い方ではないわな。 だからと言って謝るのもそれはそれで違うし、どうしたものか。 頭を悩ましていると、その様子を見かねて簪さんがフォローに入ってくれる

 

「本音」

 

「かんちゃんは黙ってて!私はシロクロとお話してるの!」

 

「本音、私を心配してくれるのは嬉しいけど、それ以上白石君を困らせないで」

 

簪さんの強い制止を受けてたじろぐ本音さんだが、怒りは収まらないらしい

 

「でも、かんちゃんを蹴ったりハチの巣にしたり、爆破に巻き込んだのは事実だよ?」

 

「うん、それはそう。 でも、それだけ白石君が本気で戦ってくれたってことだから。 私は気にしない」

 

「む~!!」

 

頬を膨らまし、無言の抗議。 だが、簪さんは苦笑するだけだった。 やがてのほほんさんも諦めたのか、こちらを向く

 

「今回はかんちゃんがこう言ってるから何も言わないけど、次からはだめだからね!」

 

「気を付けます」

 

次があったとしても、これよりひどいことになりそうな気がするが、まぁなるようになるだろう。 そう思いながら、簪さんにお礼を言う

 

「助かったよ」

 

「ううん、さっきのは私の本心だから。 でも、次は勝つ」

 

「ははは、お手柔らかに」

 

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ホワイトグリントの整備を布仏先輩に手伝ってもらい、手早く終わらせて部屋へと向かう。 本当に、整備に関しては布仏先輩にお世話になりっぱなしだ。 この間通販で頼んだケーキを日頃のお礼ということで渡したら喜んでもらえたが、今度のお礼はどうしようか。 そんなことを考えながら、何処か閑散とした寮内を歩いていた。 にしても、明日から学校か。 そう考えると、面倒だ。 自分の部屋の前まで来てノックをする。 一応人の気配はあるが、ノックをしても返事がない。 楯無先輩ならいいが、他の人が入っていた場合厄介なので、静かに鍵を開け、慎重に中に入る。 部屋の中は薄暗いが、ベッドの中で何かがうずくまっていた。 いや、暗いからわからないけど。 人の気配がそこからするから、人以外の可能性はない。 電気をつけ確認すれば、膝を抱えた楯無さんがシーツを頭からかぶっていた。 どうやらまだ落ち込んでいたようだ。 そんな状況にため息をつきたくなるがぐっとこらえ、着替えをしながらいつもの調子で話しかける

 

「いるならいるで返事してくださいよ。 他の人が部屋に侵入したと思ってびっくりしたんですから」

 

「・・・・・・」

 

「ふぅ...... まだ気にしてるんですか? 簪さんに手も足も出ずに負けたことが」

 

「っ」

 

酷い言い方になるが、事実は事実だ。 ちゃんと受けとめてもらわなければならない。 俺の最初の言葉に無反応だったが、次の言葉には反応する。 体をビクつかせたと思えば、さらに膝を抱え込んで小さくなってしまう。 こういうのは、俺の役割じゃないと思うのだが。 そう思いつつ、ベッドに近づく

 

「仕方ないですよ。 簪さん、妹さんはISにもそこそこ乗ってますし、ビルドファイターズ経験者なんですから」

 

「・・・・・・負けたことを気にしているんじゃないの」

 

「・・・・・・」

 

どうやら楯無先輩は話す気になったようなので、そのまま話を聞くことにする

 

「油断は、してなかったと思う。 貴方と何回もやって、世界クラスの実力は分かってたから。 慢心も、なかった。 でも、心のどこかで私は簪ちゃんを見下していたのよ!簪ちゃんなら勝てる、そう思ってた自分がひどく嫌になったの!!」

 

「・・・・・・」

 

無意識に、ということなのだろう。 簪さん自身気にしないと思うが、そのことを気にしている楯無先輩。 本当に、こういうのは俺の役目じゃないのだが.......

 

「慰めることはしません、それに対する言葉を俺は持ち合わせていませんから。 何を言っても、楯無先輩は気にするでしょうし。 でも、まぁ一緒にはいますよ。 一人よりも二人のほうが心細くないでしょう?」

 

そう言って俺が使っているベッドに座る。 隣に座ればポイント高いんだろうが、生憎その気はない。 小説を片手に寝転がる。 鼻をすするような音は聞こえるが、泣く様子はない。 別に泣いたところで二人しかいないのだから、気にしなくてもいいと思うのだが。 いや、聞かれるのは恥ずかしいか

 

「こういう時は、隣で慰めるものじゃないの?」

 

「俺と楯無先輩はそう言う関係じゃないでしょう?」

 

横目で見れば、泣きはらした顔でこちらを見る楯無先輩。 これでも最大限の譲歩なのだが、楯無先輩は不満らしい。 かといって、俺もこれ以上何かするつもりはない

 

「女の子が困っているのに、薄情ねっ!」

 

「年下に慰められるなんて、不憫なお姉さんでですね」

 

俺は興味を失くし、小説の字を追うのに視線を戻す。 楯無先輩が移動する気配がするが特に気を留めず、そのままにさせておいた。 おいたのだが、それが失敗だった。 俺の隣に寝転がってきたのだ。 これは流石にひとこと言わなければと思い視線を向けると、シーツをかぶったまま俺の服の裾をつかんでいた

 

「何やってるんですか?」

 

「お願い、今だけはこうさせて」

 

「・・・・・・はぁ」

 

思わずため息をつくと、それを返事と受け取ったのか抱き着いてくる楯無先輩。 本当に、俺と楯無先輩はそう言う関係じゃないのだが...... まぁ、否定もしなかった俺も問題か。小説を脇に置き、天井を見上げる。 楯無先輩を見れば、肩が上下していた。 寝てんのかよ。 それと気が付いたが、いつの間にか楯無先輩の頭をなでていた。 いや、本当に気が付かなかった。 昔の癖、だろうな。 頭を振って気を取り直し、寝ることにする。 それにしても

 

「汗かいたから、シャワーを浴びて寝たかったのだが......」

 

どちらにしろ、楯無先輩が抱き着いている時点でそれは諦めたほうがよさそうだ。 流石にこの状況、楯無先輩を起こさずに抜け出すのは不可能だし。 早々に諦めて、俺は眠りにつくのだった

 


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