もしかしたらあったかもしれない、そんな未来   作:サクサクフェイはや幻想入り

47 / 58
第四十五話

医務室に常駐している養護教諭に妹、白石桃華を見せれば気を失っているだけで命の別状はないということ。 ホッと一息つきつつ、パイプ椅子を引っ張りベットの近くに座る

 

『そう言えばさ黒夜』

 

『なんだ?』

 

『助けてって言われたときお兄ちゃんて言ってたけど』

 

『あぁ、その話か。 まぁ、少し長くなるがたまにはいいか。 昔話も』

 

----------------------------------------------------------------

 

俺は捨て子なんだ。 白石孤児院ってところに捨てられててな。 俺の苗字が白石なのも、そこからとられてる。 生まれてそんなに経ってない状態で捨てられたらしくてな、育てるのには苦労したって聞いたな。 

その孤児院には俺と同じ様に生まれてすぐ捨てられた子供や身寄りのない子供が多数いてな、共同生活を送っていたというわけだ。 施設は決まりにうるさくてな、外で遊ぶ時間以外は室内で勉強だとか運動なんかばっかりだったな。 まぁそんな厳しい施設だったが、貰い手が見つかったりして結構入れ替わりが激しい施設だったんだが、俺は例外でな。 結構長い期間いたからみんなから兄貴分として慕われてたわけ。 その中の妹の一人が、桃華だったというわけだ。 こいつは特にべったりでな、嫌な事があれば泣きに来たし嬉しいことがあったら褒めてもらいに来たりもしてたな

 

『でも、それにしたってなんで白い閃光を?』

 

『まぁ、小学校に入って自由時間が増えてな。 そこでISの発表もあって、あのゲームが出来た。 それで、小学校高学年になっても俺の後をくっついてくる癖も治らなかったら』

 

『あぁ、なるほどねー。 一番間近で戦い見てたわけだし、教えるのも楽だからね』

 

『まぁ、そう言うことだ。 あのゲームがなくなったが、ならISで自分がって張り切ってたからな。 それがなんでこうなったのか』

 

そうやって頭をなでていれば、薄く目が開く

 

「おにい、ちゃん?」

 

「あぁ、久しぶりだな桃華」

 

「っ!?」

 

ベッドから跳ね起きると、俺と距離をとる桃華。 思ったよりも元気そうだな。 そう思い、俺は椅子をたたんで席を立つ

 

「何でアンタがここに」

 

「何でも何も、ここはIS学院の医務室だ。 お前がVTシステムとやらに飲み込まれて、それを救出してここに運んだに過ぎない」

 

「・・・・・・」

 

睨みつけてくる桃華を気にせず、俺は眼鏡をかけると出入り口に向かって歩き出す

 

「待ちなさいよ」

 

「まだ何かあるのか......」

 

飽き飽きしながら桃華の方を振り向けば、俯いていて表情を伺えなかった。 だが、さっきより幾分かは口調は和らいだような気がする

 

「なんで、今更......」

 

「今更、ね。 本当にその通りだが、まさかISに乗れるなんて思わないだろ?」

 

「ずっと、ずっと探してた。 あの施設を出て、連絡も取れなくなって......」

 

「施設を出てって、半場追い出されたようなものなんだが......」

 

女性利権団体なんてものが出来て、施設はその煽りを受け少数の男を残し俺達を追い出した。 どちらにしろ貰い手が付かなかった俺は、そのうち追い出されていたわけだが

 

「私ずっとお兄ちゃんを探してた、でも見つからなくて...... そのうちにISの適性が見つかって」

 

「・・・・・・」

 

「頑張って代表になればお兄ちゃんが見つけてくれるって。 でも、お兄ちゃんは!」

 

多分、俺が施設を離れてこいつは一生懸命探し回ったんだろう。 そんなときISの適性があって、あれよあれよという間に代表に決まったのだろう。 褒めてくれる相手もおらず、毎日毎日心を擦り減らせていた。 それが、さっきの戦いの結果なのだろう。 だとしたら、俺のせいか

 

「ごめんな」

 

そう言って、俺は桃華を抱きしめる。 桃華は力が抜けたように、俺に体重を預けてくる

 

「ずっと不安だった、寂しかったよ、お兄ちゃん」

 

そう言って、ずっと泣き続けた

 

----------------------------------------------------------------

 

「あら、まだ生きていたのね」

 

「・・・・・・・お久しぶりです、院長」

 

医務室に姿を現したのは、数人の部下(?)を引き連れた院長改め、女性利権団体幹部だった

 

「汚らわしいわね、そんな風に呼ばないでほしいのだけど」

 

「・・・・・・」

 

その言葉を聞いて黙り込む。 遠い記憶の院長は...... いや、思い出せない。 院長は俺の横を通り過ぎ、眠っている桃華を一目見ると、部下と何やら話していた。 それも数秒のことで、部下のような人は桃華に触れようとしていた。 それを俺は叩き落とす

 

「「・・・・・・・」」

 

無言で睨みあう俺と院長。 だが、譲る気はない

 

()の分際で、私に刃向かうつもりかしら」

 

I()S()がない貴女に何ができるんですか?」

 

拡張領域から木刀を取り出し、数回振るう。 院長の元に戻せば、こいつはもとの生活に逆戻りになる。 それは避けなければならない。 たとえここで、俺がどうなろうとも。 実際、四人の部下は俺を取り囲んでいる。 その目に憎悪を浮かべながら。 過激派でも、さらに過激な連中か? だが、俺は引かない

 

「何やら来賓の方がいないと思ったら、穏やかな状態じゃないですね」

 

「学園長」

 

偶然通りかかったわけではないだろう。 こうなるか、こういう状況を予想していたのだろう。 それならもっと早く来てくれてもよさそうなものだが。 心の中で悪態をつきつつ、俺は木刀を拡張領域にしまう

 

「勝手に歩き回られては困りますよ?」

 

「日本代表がここに運び込まれたと聞いたものですから、回収を」

 

笑顔で二人とも会話をしているが、互いにけん制し合っている。 ひー、こわいこわい

 

「心配なさらずとも、さっきの件と合わせて調査していますので、ご安心を」

 

「さっきの件、あぁ、正体不明のシステムですか。 怖いものですね」

 

「えぇ、怖いですね。 ですがご安心ください。 ここはISでも最新のデータがそろうところ、責任をもって調査しますので」

 

「・・・・・・それは心強い」

 

俺に聞こえるような声で、舌打ちをし去って行く院長。 その院長と一緒に退場しようとした学園長(妻)は一瞬だけ俺を見ると、頭を下げる。 そして、そのまま何事もなかったように医務室の扉は閉まった

 

「はぁー......」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。