バカとテストと召喚獣IF 優子ちゃんinFクラス物語   作:鳳小鳥

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問10 開戦の狼煙

ダンッッッッ!!!!

 

「俺達Fクラスは、Aクラスに宣戦布告を行う────っっ!!!!」

 

朝のHR後、教壇に立った雄二が両手を教卓に叩き付けながら、雄雄しくそう宣言した。

 

『なっ、宣戦布告!? Aクラスを相手に試召戦争するのかっ』

『そんな! 無謀だ!』

『勝てるわけないだろ!』

『木下姉弟がいれば何もいらない!』

 

悲鳴にも似た絶叫が教室内に響き渡る。

Aクラスは学年最高成績者の集まるクラス、対してFクラスといえば勉強嫌いが集まる最低クラス。

優等生VS劣等性。

召喚獣が点数を武器に戦う性質上、誰から見てもその戦力差は明らかだろう。クラスの非難は至極当然のことだった。

 

「………………」

 

ざわめき立つクラスメイトを黙らせようとはせず、雄二は自然と喧騒が静まるのを持っていた。

しばらくして教室内に静寂が訪れると、改めて雄二は口を開く。

 

「みんなの不満はもっともだ。だが俺は勝てない勝負はしない。やると決めたからには勝つ」

『どういうことだ?』

『何を根拠に』

『勝てる見込みなんてないだろう』

「ある」

 

押し寄せる非難の波を雄二は一言で相殺させる。

 

「何の策もなく試召戦争をしようなんて言わない。このクラスにはきちん勝てる要素がそろっている。今からそれを説明しよう。まずは──」

「…………」

 

雄二がどこかに視線をやると同時に、ムッツリーニが席を立ち壇上まで歩いていった。

そして雄二の横に並ぶ。

 

「すでに何人かは知ってると思うが、こいつがかの『寡黙なる性識者(ムッツリーニ)』だ」

『なに!? あいつが!』

『信じられない』

『だが見ろ! 良く見ると頬に畳の後が残っているぞ! あれはきっとスカートの中を覗いていたに違いない』

「…………(ぶんぶん)、そんなことはしていない」

『顔を真っ赤にして否定した!』

『なるほど、確かにムッツリーニの名に恥じないむっつりスケベぶりだ』

 

しょうじき、その認識のされ方はあんまりだと思う。

 

「ムッツリーニにはこの二日間、他のクラスの情報収集をやってもらっていた。すでに敵の情報はすべて把握していると言って良い。情報は戦の要。その大部分をすでに握っている我々が他のクラスより一歩リードしていることは説明するまでもないだろう」

『『『おおおおっ!!』』』

「次に木下姉弟。姉の方は、説明するまでもないだろう」

「…………」

 

雄二に意味ありげな視線を向けられた優子さんが無言で見つめ返す。

 

「Aクラスレベルの学力を誇る木下姉は現在俺達の最大戦力だ。弟の秀吉も演劇の才能をフルに生かして敵を霍乱してもらうことができる」

『おお、なんだかすごそうだな』

「あまり期待をされても困るが、ワシなりに全力を尽くそう」

「……質問、いいかしら?」

 

優子さんが手を上げて言った。

 

「何だ?」

「クラスの総意としてAクラスに試召戦争を仕掛けるのはいいわ。決まった以上はアタシもクラスの一員として本気で戦う。でもアタシの点数は主席どころか次席ですらないのよ? そんなアタシをAクラス相手の要にしていいの?」

 

その質問にクラスの視線が一斉に雄二に向けられる。

確かに今僕らの学年で一番頭がいいのはAクラス代表、霧島翔子さん。そして次席が姫路さんだろう。

その下は確か男子の久保君だったと思うから、優子さんの点数の順位は良くて4位、最悪もっと下の位置にいる。

つまり、いくら優子さんの点数が高くても、Aクラスにはそれ以上の学力を持つ生徒が最低三人はいることになる。これは間違いなく不利だ。

 

「わかっている。それも織り込み済みだ。その上で俺も点数差をフォローする作戦を考えている。そもそも前提として有利不利を言うなら俺達は点数では全面的に負けているんだ。どの道、木下以外にAクラスとまとも相対できるのはいないんだからそこはあまり問題にしなくていい」

 

ようはやりようだ。と雄二は不敵に笑う。

 

「……分かったわ。いろいろ疑問は残るけど、今はそれで納得しておいてあげる」

「感謝する。木下は行動派のようだから、なるべく現場での指揮も執ってもらうことにする。いろいろ役割が多くなると思うが、よろしく頼む」

「ええ」

「勿論、俺も代表として全力を尽くす」

『おお。なんだかんだで坂本もやる時はやるよな』

『坂本って……確か小学生の頃は神童って呼ばれてたらしいぞ』

『ってことは学力もAクラス並になるってことか』

『振り分け試験では手を抜いていたのか』

『すげぇ。考えてみればこれってすごい面子じゃないか。な、なんかいける気がしてきたぞ』

 

クラス中がやる気に満ちてくる。

壇上に立つ雄二の弁一つで、今間違いなくクラスの士気は上がっていた。

 

「それに、吉井明久もいる」

 

………………………………シン

 

一瞬で下がる士気。ちぃっ! 僕の名前はオチ扱いかっ!

 

『……誰だ吉井って?』

『知らんが名前からしてなんか馬鹿そうだ』

「ちょっと雄二! どうしてそこで僕の名前を挙げるのさ! そして今名前をバカにしたやつ表出ろ!」

 

雄二やムッツリーニと違って僕はいたって普通の生徒だ。妙な期待をされても困る。

名前を聞いたことがあるといっても、大抵ろくなもんじゃないだろう。

 

「知らないやつに教えてやろう。この吉井明久は、《観察処分者》だ」

 

あ、それ言っちゃうんだ

 

『観察処分者? それってすごいのか?』

 

クラスメイトの一人が手を上げて聞いた。

 

「そうだな。誰にでもなれるものじゃない。慎重な選考の末、特別に選ばれたものだけに与えられる称号だ」

「そのおかげで明久は毎日いろいろな先生に呼び出されるぐらいの人気者じゃからのう」

「…………引く手数多」

「ホント、アキは先生に頼りにされてるもんね」

「なんかそれだけ聞くと僕、すごい優等生みたいだね」

「実際はバカの代名詞だけどな」

「雑用係よね」

 

雄二と優子さんがバッサリと言い捨てた。な、なんかヒドイ……。

 

「《観察処分者》っていうのはつまるところ木下の言う通り教師の雑用係だ。主に力仕事なんかを特例として物に触れる召喚獣を使ってこなしたりしている」

 

召喚獣は原則として、現実の物に触ることが出来ない。

それは召喚獣が人間より数倍もの力を持っているからだ。だから試召戦争の際には先生に特別な《フィールド》を展開してもらいその中で勝負する。それが試召戦争における召喚獣勝負の大まかなルールだ。

だけど、例外として普段から雑用係として召喚獣を使わなければならない《観察処分者》だけは、そのルールからはずれ召喚獣が物体に触れることができる。

勿論、その分のペナルティもあるんだけどね。

 

「でもアキの召喚獣って本人と感覚を共有してるんでしょ?」

「うん。だから重たいものとか持つとフィードバックで体中が痛くなるんだ」

 

それが副作用。《観察処分者》の召喚獣は物に触れる代わりに、痛みのフィードバックが発生する。これが結構キツイんだよね……。

 

『それって試召戦争で役に立たなくないか? だって戦うたびに痛い思いするんだろ』

『おいそれと召喚できないよな』

 

そう、その通り。

僕の召喚獣はフィードバックの仕様の所為で召喚者である僕までダメージを受けてしまう。

さすがに僕だって痛いのは嫌だから、なるべく召喚する機会は少なくしたいものだ。

 

「大丈夫だ。明久でも立派な長所はあるぞ」

「えっ、長所ってどんな?」

 

意外だ。あの雄二が僕をフォローするようなことを言うなんて。

 

「ああ。お前の良さは”いてもいなくても戦力に影響しない”ということだ」

「それ遠まわしに役立たずって言ってるよね!?」

「とまあ長々と前口上を述べてみたわけだが」

「無視!?」

 

ひどい! あんまりだ!

 

「正直言おう。こんなのは建前でしかない」

 

今までの自分の言葉を否定するように雄二は突然そんなことを言い出した。

 

「みんな、この春から二年生に進級し二日が経った。最初は戸惑うだけだったこのボロいクラスにも慣れたヤツもいるだろう。当然、他のクラスの設備も見たはずだ。その上で今一度、自分の教室を見渡してほしい」

『『『…………………』』』

「卓袱台に腐った畳。隙間風だらけの窓。汚い埃。恐らくみんなの知りうる限りここは最低の教室だろう。────それに比べて、Aクラスはシステムデスクにリクライニングシート。お菓子食べ放題にジュース完備。さらに超巨大なプラズマディスプレイときた。教室の面積だけでFクラスの約6倍だ。教室格差もここまでいくといっそ清清しいよな」

 

新学期初日にAクラスを覗いた時のことを思い出す。

あの時は自分のクラスの設備の差に軽く絶望したものだ。

 

「それを踏まえて、俺はみんなに聞きたい」

 

そして、雄二はすぅ、と一息吐いた後、はっきりと言った。

 

「────不満はないか?」

 

『『『おおありじゃああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!!!!!!』』』

 

クラスの意思が一つになった瞬間だった。

 

『なんだよあの設備!? 俺達って同じ学費払ってんだろ! それでこの待遇の差はあんまりだ!』

『こんなの差別じゃないか!』

『そうだ! 改善を要求する!』

「俺達に必要なものはなんだ? 卓袱台か? 違うだろう!」

『『『そうだ!』』』

「この境遇に大いに不満だろう」

『『『当たり前だ!』』』

「ならば全員ペンを執れ! 出陣の準備だ! 今もなお上でふんずり返っているAクラスを蹴り落とす為に!! そしてシステムデスクを俺達で手に入れるんだ!! その為にまずはDクラスを落とすぞ!!」

『『『よっしゃああああああああああああっっっ!!!!』』』

「……うわぁ」

 

クラスの勢いに圧されたのか優子さんは軽く引いていた。

まあ無理もない。Aクラスに入るはずだった彼女はからすれば、目の前でこんな喝采を上げられるのは完全に未体験ゾーンだろう。

思わず守ってあげたくなる衝動に駆られるが、グッと堪えた。何せ、彼女にはもう心に決めた男性がいるんだから。

 

「ところで明久。お前振り分け試験で一番良かった科目はなんだ」

 

そこに雄二が間に入るように質問を投げかけてきた。

 

「それって点数って意味だよね? ……うーん、一番は多分日本史だと思う。ほとんど分からなかったけど、日本史だけはある程度自信があったし。ていっても80点ぐらいだけど」

 

召喚獣の戦いにはテストの点数を使用する。当然点数が高ければその分召喚獣は強くなるし、ある程度の点数を超えると特殊な『腕輪』が使えるらしい。

きっと雄二はクラス代表として使える戦力を調べまわっているんだろう。

その雄二は僕の点数を耳にすると、顎に手を当てて何かを考え始めた。

 

「80か……。悪くはないが確実性に欠けるな」

「? 何の話?」

「ん、ああ、ちょっとな。────木下、少し良いか」

「なにかしら」

「さっそくで悪いが頼みがある。これから昼までの時間になんとか明久の日本史の点数を100点以上にしてくれないか」

「ひゃくうっ!?」

 

100点って、今の点数よりさらに20点も上げないといけないの!?

いくら他の科目よりマシだったからって、それはいくらなんでも無茶じゃないかな!?

 

「100点以上? しかもお昼までなんて……、そんな短期間に点数を上げられるわけないでしょう」

「無理は承知だ。別に100点じゃなくてもいい。とにかく今より少しで良いから点数を引き上げてほしいんだ」

「どうしてアタシが……」

「お前しか適任者がいないんだ。知っての通り、Fクラスは勉強嫌いな連中の集まりだからな」

「……はぁ、仕方ないわね。……ただし、やるなら徹底的にやるからね」

「ああ、登校時に試召戦争をやるってことで朝は全部自習にしてもらったから、思いっきりやってくれ」

 

あの、僕を介さずに勝手に僕の予定を決めないでほしいんだけどなぁ……。

 

「開戦は放課後を予定している。午前はみっちり自習、午後にテストを受けてもらう手筈になっているからしっかり勉強しておけよ」

「雄二は?」

「俺は総大将として試召戦争の作戦を練らないといけないんだよ」

 

どうやら午前はデスマーチ決定らしい。分かっていたけど、いざ決まってしまうとなんだか憂鬱だなぁ。

これから勉強漬けになることに途方に暮れていると、雄二が僕の肩に手を回して耳に囁きかけてきた。

 

(そう肩を落とすな。これも愛しの木下の為だと思ってがんばれ)

(ぶふっ!? な、何を言うのさ雄二は! 僕は別にそんなこと考えてなんて)

(あーはいはい。とにかく、朝は歯を食いしばってそのスカスカな脳に知識を叩き込んでおけよ)

 

軽く流すようにあしらわれる。なんか子ども扱いされた気分だ。

 

「……仲良く肩を組んで………。やっぱり、美紀の言うとおりあの吉井君と坂本君は……」

「(ぶるるるっ)!?!?」

 

な、なんだ! 今物凄い寒気が!?

 

「明久、やけに震えておるがどうかしたのかの?」

「ひ、ひでよしっ!? な、なんでもないよ! ただいきなり悪寒がしただけだから」

「? そうか」

「多分気のせいだと思うけど。……さて、僕も勉強しないと──ってあれ」

「………………(ぶつぶつぶつ)」

「優子さん?」

「えっ!? 吉井君!? な、ななな何かしら!」

「いや、何って……。雄二に言われたとおり勉強教えてもらいたいんだけど」

「勉強? あ、ああそうね。そうだった。それじゃあはじめましょうか。時間もないしね」

「??」

 

なんだか様子がおかしい。どうしたんだろう。

顔を赤くして何か独り言を言っていたみたいだけど────はっ! ひょっとして昨日のことか!?

せっかく彼氏ができたのにさっそく僕のような駄目人間と二人っきりで勉強する状況に内心で彼氏に対して申し訳なく思っているとか。そんなだったら僕はショックで窓からダイブしてしまいそうだ。

 

「不幸指数120%……。この世には神も仏もいないのか……」

 

暗い気分のまま、僕は試験勉強を開始することになった。

はぁ……。こんなを僕を迎えてくれる温かい天使のような女の子はいないかな……。

 

 

 

 

 


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