バカとテストと召喚獣IF 優子ちゃんinFクラス物語 作:鳳小鳥
Dクラス代表が戦死したことで戦争は終結し、僕達はその後すぐに戦後対談の為Dクラスに集まっていた。
周囲には二つも上のランクのクラスに勝利したことで歓喜の絶叫を上げるFクラスと、自分達の負けを知らされて悲鳴を上げたり、意気消沈と落ち込むDクラスの二つが不協和音を奏でている。
勝利者の代表である雄二は、その中でつい先ほど、僕に敗れガックリと項垂れていた平賀君の下に歩み寄っていた。
「さて、この戦争、俺達の勝ちだ」
「……分かっている。まさかFクラスにこれほど狡猾な策を巡らす代表がいようなんて思いもしなかった。下位クラスだからと侮った俺達の完全な敗北だ」
「褒め言葉として受け取っておこう。勝利者の俺が言ってもなんの慰めにもならんだろうが、Dクラスもかなりのものだったぞ」
「そう言ってもらえるだけで、いくらか心が軽くなるよ」
ようやくショックから立ち直ったのか、平賀君がゆっくりと立ち上がり雄二と向き合う。
「ルールに則りクラスを明け渡そう。だが今日はもうこんな時間だ。移動作業は明日でも構わないだろうか?」
二人の代表は極めて事務的にこれからの戦後処理に相談に入った。
きっとこれから平賀君は教室内で息苦しい毎日を過ごす事になるだろう。
試召戦争での責任はすべで総大将であるクラス代表に返る。これからDクラスは敗戦期間の三ヶ月間、あの畳と卓袱台の汚い教室で粛々と過ごさなければならない。
その不満、怒りを平賀君はこれから受け止め続けなければならないのだ。それに関しては少し彼に罪悪感を覚えてしまう。
「勿論だよ。それでいいよね雄二?」
これ以上の無理をさせることもないと思い横から雄二に進言する。
ところが、
「いや、その必要はない。クラスの移動はしなくていい」
雄二は頭を振ってそんなことを言い出した。
「え? 移動しないって、どういうこと雄二?」
「そのまんまの意味だ。設備の移動はしない。俺達はこれからもあのボロい教室のままだ」
疑問に思う僕に、当たり前のように雄二はそう言い返した。
設備の交換をしないって、それじゃあ苦労してDクラスに勝った意味がないじゃないか!
「じゃ、じゃあどうしてDクラスと戦ったのさ! せっかく普通の設備を手に入れられるのに!」
「俺達の目標はAクラスを落とすことだ。Dクラスの設備で満足してどうする」
「それならはじめからAクラスに攻め込めばいいじゃないか!」
「少しは自分で考えろ。それだからお前は近所の小学生に『バカなお兄ちゃん』と呼ばれるんだ」
「ぐぬぅ……」
くっ、本当に言われているだけに反論の言葉がない……。
「……俺達としてはありがたいが、本当にいいのか?」
「勿論条件付きだ」
あ、やっぱり。そういうこと。そうだよね。でないと今までの頑張りが全部無駄になるわけだし。
雄二の言葉をその部分だけ受け取っていたら、今頃クラスメイトが大暴動を起こしていただろう。無論僕も包丁を片手に雄二を襲うことも吝かではない。
「設備を交換条件に出すほどのこととなると、よほどの無理難題でもふっかけてくる気か?」
ホッと安心する僕に対し、平賀君が疑惑の念を言葉に現す。
「そう警戒しなくてもいい。要件は単純だ」
そう言って、雄二はDクラスの窓際に視線を向けた。
「Dクラスの窓の外に設置してある室外機。アレを俺が指示した時に壊してほしい」
「室外機? ……あれはBクラスのエアコンを動かしているヤツか。でもどうしてそんな」
「無論、次のBクラス戦に勝つ為に必要だからだ」
僕も感じた疑問を問うた平賀君に、口元に悪役のような笑みを作って答える雄二。
Bクラス戦……、と雄二は言った。Dクラスに勝って浮かれている僕らと違って、雄二はすでに先を見据えているらしい。
予想外の提案だったのか、平賀君は若干面食らった様子で雄二の動向を伺っていた。
「本当にそれだけで良いというなら、こっちとしては願ってもない提案だが、いいのか?」
「学校の設備を壊すんだから、当然教師連中には睨まれる可能性が高い。だが、悪い取引ではないだろう?」
向こうが断れるわけがないと分かっているのに、雄二はあえて疑問調で言いかける。まるでヤのつく人のようだ。
うん。やっぱりコイツは悪役の方がよく似合う。
平賀君は僅かに逡巡した
「そうか。そういうことならありがたくその提案を呑ませてもらおう」
「時間とタイミングについては後日詳しく話す。今日はもう帰って良いぞ」
「ああ。ありがとう。FクラスがAクラスを倒す日を楽しみにしてるよ」
「無理するなよ。Fクラス風情がAクラスに勝てるわけがないと思ってるだろ?」
「ははは、そうだな。俺達Dクラスと戦うのとは訳が違う。社交辞令みたいなもんだ。だが、坂本ならそれでもなんとかしそうで、ちょっと恐ろしいな」
「当たり前だ。その為にこうして交渉しているんだからな」
「そうか。まあ期待はしておこう」
じゃあな。と手を振って平賀君は去っていった。
それに合わせて、他のDクラスの生徒もぞろぞろと教室を出て行く。
「みんな今日はご苦労だった! 明日は失った点数の補充試験をやるから、今日はゆっくり休んでくれ!」
雄二が残ったFクラスに最後の号令を掛けると、みんなは雑談を交えながら旧校舎の方へ歩いていった。これから帰り支度を行うのだろう。
「さて、俺達も帰るか」
「そうだね」
みんなに続いて、僕と雄二もD教室を後にする。
チョイチョイ
「ん?」
今、誰かが僕の肩に触った?
後ろに振り返ると、そこには筋骨隆々の教師が憮然と立っていた。
「待て吉井」
「げっ、鉄人!?」
「鉄人じゃない。西村先生と呼べ」
「そ、それで、何か用ですか? 見ての通り僕達試召戦争を終わらせて疲れてるんですけど……」
「うむ、その試召戦争で残ったゴミの掃除をしてもらいたい。誰かは知らんが、学園の備品である消火器を無断で使用したやつがいたようでな。廊下が真っ白になっているのだ」
「消火器? …………あ」
そういえば、Dクラスの目くらましの為にそんなこともしたような。
「何だそういうことか。それじゃあな明久」
「あ! こら雄二! 自分が関係ないからってあっさり帰ろうとするな!」
「吉井。さっきの『あ』とは何だ? 何か知っているのか?」
「え!? や、やだなぁ。僕が知ってるわけないじゃないですか!」
「そうか。それはともかく、廊下の掃除はきちんとしておくように。これも《観察処分者》としての責務だ」
「あの、西村先生。僕今すごく疲れてるんです。これ以上一歩も走れないぐらい」
「む、そうか」
「はい! そういうわけで今日はもう帰らせていただきま──」
「じゃあ少し休んでから掃除するように。以上だ」
「鬼! 悪魔!」
去っていく鉄人に罵詈雑言を見舞う。
くそぉ。せっかくDクラスに買って晴れ晴れしく帰れたのに。なんて空気の読めない鉄人なんだ。
雄二は雄二で先に帰っちゃったし。疲れているクラスメイトを放っていくなんてあの野郎、それでも僕の友人か!
前回を比例するように、今回短いです。
いや、また最近執筆に取れる時間ないんですよ!