バカとテストと召喚獣IF 優子ちゃんinFクラス物語 作:鳳小鳥
Fクラスにて──。
「では坂本雄二、覚悟はよいな?」
「暴論だぁ! あれはクラス間の交渉であって決して逢引とかそんなのじゃない! これは冤罪だぞ!」
「と、被告人は無罪を主張しておりますが、吉井検察官」
「被告坂本雄二はCクラス代表の小山さんから好意を持たれておりました。これは純然たる事実です」
異端審問が行われていた。
教室の中心には縄でぐるぐるに縛られた雄二が芋虫のように暴れている。その周りには覆面ローブの集団が円を築いていた。
「てめえ明久ふざけんな! 一体どういうことだこれは!?」
「観念しろ雄二。ここが年貢の納め時だよ」
「……やれやれ、Cクラスから帰って来たと思ったら忙しい連中じゃのうまったく」
「ほんと懲りないわねあんたら」
後ろで秀吉と美波が溜め息が吐いている気配を感じた。
カンカン
「静粛に」
裁判長(仮)の須川君が静かに一喝する。
周囲に静寂が訪れると、須川君は改めて雄二に視線を落とした。
「坂本雄二、遺言はあるか?」
「弁解の余地はないのか!? 待てお前ら! こんな裁判認めてたまるか! 大体俺と小山がそんな雰囲気になったという証拠はあるのか!?」
「吉井検察官」
「はっ。カモン、ムッツリーニ」
「…………(すっ)」
しゅたっ、と上から降り立つ影の諜報員ことムッツリーニ。
今まで天井に張り付いて何かしていたかとか聞いてはいけない。
僕はムッツリーニの方へ振り向かず、前を向いたまま命令を告げた。
「──例のものを」
「…………
『《坂本君》《ステキ》《私と付き合わない?》』
『《勿論》《小山》』
スピーカーから流れる偽れざる真実。
「有罪、死刑」
「「「異議なし!」」」
「ちっくしょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!?!?」
悪が滅びた瞬間だった。
「さあ、覚悟の決めなよ雄二」
「ざけんなコラァ! ていうか今の絶対ムッツリーニの持ってる小型レコーダーで音声加工してるだろ! 証拠の捏造だ! 訴えるぞこのバカ野郎!」
「往生際が悪いぞ雄二! いい加減諦めて異端審問会の裁きを受けるんだ」
「横溝、窓を開けろ。このまま直接頭から落とすぞ」
「了解です須川会長」
「氷室はスコップを用意するんだ。裏庭の土は固いからな」
「はっ」
「く──っ、このままじゃマジに殺される。ま、待てお前ら。一つ大事なことを忘れているぞ」
「何?」
「そこでえらそうにしている明久だって最近木下優子と親密な関係にあるだろうが! それを見逃していいのか!」
「なっ!? 雄二キサマ!」
「全員で吉井を捕らえろ」
「「「
「ひぃっ!? みんなが一斉に僕の下まで!? 落ち着いてみんな! これは雄二の狡猾な罠だ! 今処刑されるべきなのか坂本雄二ただ一人のはず!」
「へっ、俺だけ被害を被ってたまるか。死ぬ時は一緒だ」
「このクソ野郎っ!」
「……何をしとるんだ、お前達は」
なんて鉄人が呆れたやりとりとかいろいろあって時間が経ち。
☆
朝からのテスト漬けが終わり昼休みが訪れた。
「……ふふふ、ついに、ついに念願の昼休みの時間が来た! この時間の為に僕は今日のこれまでを必死に生きてきたと言っても過言ではないね! 優子さんという最強幸せのスポンサーを得た僕にもはや食事の不安はない。これぞ夢見たユートピア!────なんて、言ってられないよね……」
はぁ、と深い溜め息が漏れた。
原因の昨日帰り際にAクラス代表の霧島さんから告げられた言葉だ。
夕暮れの射す教室に突然やってきた霧島さんは『……瑞希がお弁当を作ってくるから、食べてあげて』といきなり約束を取り付けてしまった。有無を言わせぬ電撃作戦である。
瑞希さんとはAクラスであると同時に学年次席、二位の実力者である姫路瑞希さんのことだ。
それにしても一体どうして僕なんかが姫路さんに呼ばれたんだろう? 小学校の頃から長い間一緒に学校だったけど、だからって別に仲が良かった訳でもないのに。
さっきの異端審問会の影響でFクラスも少しピリピリしているし、これ以上余計な刺激を与えるのは僕の寿命的によくない。
取り合えず、今は身の安全の為にも一刻も早くこの場から離れることから始めるべきだろう。
「吉井君、お昼のご飯だけど……」
「優子さんこっち!」
「えっ!? ちょっとなんなの──!」
手に巾着袋のようなものを持ってやってきた優子さんの手を掴んで一目散に走り出す。
「あ、アキどこ行くのよ!」
「鉄人に呼ばれてるんだ。また後でね美波!」
「え、ちょっ!」
何か叫んでいる美波の声を背中に受けながら教室を飛び出て、旧校舎から渡り廊下を経由し、新校舎の踊り間まで来たところで僕は足を止めて背後へ振り返った。追っ手は……ないな。よし!
「はぁ、はぁ、何でいきなり走り出すのよ……」
「ご、ごめん優子さん。ちょっと急いでたもんだからつい。大丈夫?」
「これぐらいは全然平気だけど。……あの、そろそろ離してくれないかしら」
「へ?」
「手、さっきから握りっぱなしなんだけど……」
あ、どうりでなんか手に持っているものがさらさらで柔らかくて気持ち良いなと思っていたら!
「あわわわっ!? こ、これはつい弾みで! 決して邪な他意はないんで信じてください!?」
慌てて手を離す。そうか。なんだかさっきから妙に周囲の視線が優しいなと思ったらそういうことか。
僕達旧校舎から新校舎の踊り場まで手を繋いで走ってきたんだもんね。うわぁ恥ずかしい!?
僕と同じことを思っていたのか、正面に立つ優子さんも顔を赤くしながらさっきまで繋がれていた手の甲をもう片手で撫でながらボソボソと言葉を紡ぐ。
「べ、別にアタシは良いんだけど……。それより急いでるって何のこと? お昼休みに用事でもあったの?」
「それは……えっと、実は今からAクラスに行かなきゃいけないんだ」
僕は正直に話した。こういう場合下手に黙っていると後で被害にあう確立が高いことは女の子を攻略するゲームで経験済みだ。
無論今から言ったって現状が変わるわけでもないが、何にせよ早く説明したほうが余計な誤解を与えずに済む。正直者は福を見るってね。これ、テストに出るから覚えておくように。
「Aクラスに? どうして? また試召戦争関係の話し合い?」
「試召戦争とはまた別の件で、昨日優子さんが帰った後すぐにね────」
僕は昨日霧島さんから告げられた内容を優子さんに説明する。
最初は普通に耳を傾けていた優子さんだが、話が進むにつれ段々と顔に不機嫌そうな表情が浮かんでいき、最後まで話終える頃には柔らかい微笑を浮かべていた。
「──と言うわけなんだ」
「……なるほど、話は分かったわ。そういうことなら仕方ないわね」
「分かってくれた? はぁ、よかったぁ。僕怒られてご飯抜きにされるんじゃないかとひやひやしてたよ」
「バカね。そんなわけないじゃない」
「だよねー。あははは」
「ええ。────ところで吉井君、右腕と左腕。どっちを折られたい?」
おかしい! 話がかみ合ってるようで全然かみ合ってない!
「な、なんのこと!?」
「何のことですって……? ふふふ、良いご身分なことね吉井君ったら。アタシだけじゃなく姫路さんとも約束しているなんて。どうしましょう、煩悩って頭を開いて中に直接バーナー突っ込んで炙ればなくなるのかしら」
優子さんは笑っている。笑いながら殺気を放っていた。
やばい……。なんか僕、地雷踏んじゃった感じ?
「おお落ち着いて優子さん! さっきからなんだか思考がいけない方向へ向かってるよ!?」
「アタシは落ち着いてるわよ。それで? 吉井君は圧死と感電死ならどっちがお好み?」
「ひぃっ!? なんかオプションが増えてるぅ!」
こ、これはデンジャーだ。エマージェンシーコール!
ってさっきまで周りで僕達を眺めていたギャラリーが誰もいない!? おのれ、いち早く危険を察知して逃げて行ったな! なんて訓練された連中なんだ。
「悪気はなかったんです! どうか平にご容赦を!?」
「……まあ、吉井君が悪いわけじゃないし今回は特別に許してあげる。まったく、本当に要領悪いんだから」
腕を組みながら溜め息と呆れた声を発して肩を落とす優子さん。僕はといえば、まったくその通りすぎるのでぐぅの音も出なかった。
今回の件の場合、実状はともかく優子さんと先に約束していながら姫路さんとも約諾してしまった僕が全面的に悪いのは事実なので、ここは素直に謝罪した。
「ご、ごめんなさい。もっと早く言っておくべきだったよね」
「そういう問題じゃあ! ……はぁ、もういいわ」
「?」
あれ? 報告するのが遅いから怒ってるんじゃなかったのかな?
「それより吉井君。貴方姫路さんとはほとんど交友関係なかったんじゃなかったの? その彼女がなんでお弁当なんて作ってくるのよ」
「そのはずなんだけど、僕にも分からないんだ。昨日も急に霧島さんが『お弁当食べてあげて』って言って来ただけだったから詳しい事情は僕にもさっぱりで」
「ふーん……」
歩きながら話す僕ら。優子さんはどこか気になるところがあるのか難しい顔で俯きながら何か考えていた。
Aクラスへ向かう途中、その優子さんがふと顔を上げて僕を見る。
「吉井君」
「うん? 何?」
「アンタ、姫路さんのこと好きなの?」
「ぶっはっ!」
吹いた。それも後方へ勢いよく仰け反るというおまけつきで。
「ななななな何言ってるのさ優子さん! そ、そんなことがあるわけ──」
「あるわけ?」
「──ない、と思うじゃないか」
「日本語がおかしくなってるわよ。あるのかないのかどっちなのよ」
半眼で睨まれる。ど、どっちって言われてもそんなの答えられるわけじゃないか。
確かに姫路さんは小学校の頃から知ってるし、頭も良くて可愛くて性格もよくて発育も上々──げふんげふん。
ともかくこの話題は危険だ。なんとか誘導回避しなくては回復不能な地雷を破裂させてしまいそうで怖い。
「だ、大体どうしてそんなこと聞くの?」
「……別に、もし吉井君が姫路さんに片思いしてるのならアタシ邪魔かなーって思っただけよ。吉井君って姫路さんみたいな人が好みそうだし」
「む」
顔をしかめる。姫路さんが可愛いというのには激しく同意だが今の台詞は反論したい。
「そんなことないよ。僕は今日はずっと優子さんの作ってくれたお弁当を楽しみに待ってたんだから。姫路さんと優子さんなら僕は迷わず優子さんと一緒にお昼を過ごすよ」
「っ!? い、いきなり何恥ずかしい事言ってんのよバカ!」
ぼふん、と顔を赤く上気させて怒鳴る優子さん。
何が恥ずかしいのか。優子さんの料理の腕は昨日の残り物のお弁当を食べた時に実証済みだし。どっちを選ぶかなんて安心して食べられる優子さんの方に決まってる。
「だって昨日もらった優子さんのお弁当すごく美味しかったもん。だからまた食べられるのすごく楽しみだったんだよ。姫路さんと優子さんなら(食べるなら)優子さんの方を選ぶに決まってるじゃないか」
「~~~~~~っ!!!」
とたとたとた!と物凄い早歩きであっという間にAクラスまで行ってしまう優子さん。
うーん、ひょっとしてまた怒らせちゃったのかな。女心って難しいな。
「早っ! ちょっと待ってよー!」
前途多難な不安を覚えながら僕は慌てて優子さんの背中を追いかけた。