バカとテストと召喚獣IF 優子ちゃんinFクラス物語   作:鳳小鳥

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問18 ランチタイム/明久side

Aクラスへ来た僕達。

少し遠慮しがちに教室に入り周囲を見渡すがやはりAクラスだけあってかなり広い。

おかげで姫路さんの姿がなかなか見つけられなかった。

 

「んー、どこにいるんだろ姫路さん」

「誰かに聞いたほうがいいんじゃないかしら」

「そうだね」

 

優子さんの言葉に従う事にして取り合えず話しやすそうな人を探す。

と、そこで丁度僕達の横を通り過ぎようとした女子を発見した。半ば条件反射的に僕はその子に向かって声を掛ける。

 

「あの、ちょっといい? 人を探してるんだけど」

「うん? ボクのことカナ?」

 

振り返った子は陽気そうに僕達の方へ顔を向けた。

その子は優子さんよりも短髪で全体的にすらっとしたスレンダーなスタイルの活動的な印象で元気そうなイメージを感じさせる人だった。

足とかすごく細くて水を弾きそうな健康的な艶に悪いと思いつつもつい目がいってしまった。きっと前は運動部とかに入ってたんだろう。

胸は……ちょっと残念な感じだけど、全体的なプロポーションがとても整っていてボーイッシュで綺麗な顔付きだった。

僕のその視線に気づいたのか、女の子はちょっと妖しい目で僕に近づいてきた。

 

「どうしたの? 人の身体をジーッと見て。ンフフ、ひょっとして興奮しちゃった?」

「そ、そそそんなことないよ!? 初対面な人の身体をがん見するなんて無礼な真似するはずないじゃないか!」

「そんな緊張されて言われてもなー。…………よかったら、見る?」

 

言って、女の子はスカートの手の爪先でちょいと摘まんで持ち上げる。僅かだがそれで綺麗な太ももの一部が目に入ってきた。え、ええええぇぇーーーーっっ!?

 

「ほーら、もうちょっとで見えちゃうかも。どうしようカナー。君が見たいって言うならもっと上げても……」

「ぜ、是非っ!」

「ふんっ!」

「うぎぃ──っ!?」

 

目の前の女の子のスカートに目が釘付けになっていると、突然左足に激痛が走った。

泣きそうになるほどの痛さに僕は攻撃された方へ首を振ると、優子さんが怖い笑顔を浮かべながら僕の足を串刺していた。

 

「……姫路さんだけじゃなくてまた別の女にもちょっかい掛けるなんて、一体何様のつもりなのかしら、ねぇ!」

「痛っ!? ちょ、上靴の踵で足の甲をぐりぐりされると失神するぐらい痛いんですけど! 痛い痛い痛いっ!」

「うるさい! このまま千切れてしまえ!」

「だぁぁぁーーっっ!? もう足の先の感覚がなくなってるぅ! これ以上は本気でヤバイよ!? ピンチピンチ!」

「アハハハハハ! 面白いね君たち」

 

さっきまでスカートの裾を摘まんでいた女の子が僕と優子さんを見て豪快に笑っていた。

 

「もう、ヒドイよ~」

「ゴメンゴメン。あんまりにも反応が面白くてつい遊んじゃった。あ、そういえば自己紹介がまだだったネ。ボクは工藤愛子だよ。よろしくネ」

「僕はFクラスの吉井明久。それでこっちは同じクラスの木下優子さん」

「ふぅん、君が例の観察処分者なんだ。へぇ」

 

珍しい者を見るような目で僕を観察する工藤さん。じっと見つめられるとなんだか恥ずかしい。

 

「アタシ達姫路さんに用があって来たの。ここにいるかしら?」

 

そんな視線を遮るように、優子さんが僕たちの間に立って用件を告げる。

 

「姫ちゃん? うん。いるよ。ちょっと待ってて」

 

言うや否や工藤さんはくるりと回って元来た道を引き返して行った。

僕達は入り口の前から動かずじっとしていると、それから1、2分で、たったったと小走りのような軽い音が連続して耳に届き僕達の前で静止した。

 

「すみません。お、お待たせしました……」

 

肩で息をしながら遠慮しがちにそう言ったのは3日ぶりに見た姫路さんの姿だ。

腰までありそうな長髪と僕の肩程度の身長なのに自己主張の激しい大きな胸がアンバランスのようで実はすごいバランスがとれている。

まるでどこかお姫様のような可憐な容姿は百人に聞けば全員が綺麗と迷いなく頷くほど可愛い。

ただ傍に来ただけなのに、僕は思わず見惚れてしまいそうになった。

 

「う、ううん! 全然待ってないから! 大丈夫だよ!」

 

上ずった声から僕の口から出る。思っていた以上に緊張してしまったらしい。いかん、身体がガチガチになって動けないぞ。どうしよう!

 

「こんにちは、姫路さん」

「え。……あなたは、木下さん? どうしてここに?」

「それはそこで固まってるバカに聞いて。ほら、吉井君さっさと説明するっ」

「え」

 

いきなり首根っこを掴まれて前に立たされた。つい放心してしまって話を聞いてなかった。えっと、とにかく事情を説明すればいいのかな。

僕は言われた通りに昨日の事情から今日ここまでの経緯を掻い摘んで姫路さんに話す。

 

「──と言う事で優子さんと予定が被っちゃったんだ。ごめんね姫路さん」

「い、いえ! とんでもないです! 寧ろ私も方こそごめんなさい。無理に吉井君をつき合わせてしまって」

 

申し訳なさそうにしゅんとする姫路さん。

だけどそれは違う。姫路さんに悪いところなんてどこにもない。原因は僕の要領の悪さなのだから姫路さんが罪悪感を感じる必要なんてないのだ。

 

「そんなことないよ! そ、それよりご飯にしよう。僕もうお腹ぺこぺこだよ」

「あ、そうですね。じゃあ屋上に行きましょうか。木下さんもそれでいいですか?」

「アタシは構わないわよ」

「よし、それじゃあ行こっか」

 

僕が先頭に立ち姫路さんと優子さんを先導するように教室を出る。

Aクラスの室内から見えた空模様はとても晴れ晴れとしていたから、きっと屋上は日の光で暖かくなっている事だろう。

僕は弾む気持ちを胸中に抱きながら、なるべくそのことを悟られないよう余計なものには目を向けず真っ直ぐに屋上を目指した。

 

 

     ☆

 

 

重たい鉄扉を押し開けると、眩い太陽の日差しが扉の隙間から差込み思わず目が眩んだ。

この学校には旧校舎と新校舎という二つの校舎が隣接してるのだが、僕達がやってきたのは新校舎の方の屋上だ。

こっちの方が新しいだけあって屋上も綺麗で清潔感がありご飯を食べるのには適している。運がよく周囲には人影がなく僕達の貸切のようだ。

雲一つないどこまでも続いているかのように感じられる広い青空と頬を優しく撫でる春の涼風に髪を揺さぶられる。太陽の光が眩い熱を発していてまるで全身を洗われているようでとても気持ちが良い。

 

「風が気持ちいなぁ」

「わぁ、いいお天気ですね」

 

右斜め後ろの位置で姫路さんが額に手を当てながら嬉しそうに太陽に顔を向けて笑顔を浮かべていた。

その隣では、優子さんも頬を少し緩ませている。

 

「本当、晴れてよかったわね。これならちょっとしたピクニック気分が味わえるんじゃない?」

「いいですね。なんだか楽しそうです。私シート敷きますね。ちょっと待ってください」

 

そう言って姫路さんは懐から青いビニールシートを取り出してコンクリートの床に敷いていく。確かにこれならちょっとしたピクニックだ。

僕は恐縮する気持ちで靴を脱いで上がりシートの上で腰を下ろした。その左隣に優子さん。真正面に姫路さんが座った。

 

「それじゃあはい。吉井君、これ」

 

優子さんが僕に向かって手を伸ばす。その先には教室でも見た巾着袋が握られていた。おそらくお弁当だろう。

 

「ありがとう優子さん。いただくね」

「ええ。少なくても昨日より腕は上達してるはずだから、食べて驚けば良いわ」

 

自信満々に胸を張る優子さん。

手にお弁当を乗せてみるとずっしりと重い。平均的なサイズのお弁当箱だが中身は結構は充実しているらしい。これは食べ応えがありそうだ。

と、そんな僕と優子さんのやりとりを正面から見ていた姫路さんが少しだけ驚いたように目を見開かせた。

 

「え、どうして木下さんが吉井君にお弁当を渡すんですか?」

「えっと、そ、それは……」

「しばらくアタシが彼の食事の面倒をみるようになったからよ」

 

僕が言い淀んでいると優子さんはあっさりとそう口にした。えーっ!? そんな簡単に暴露しちゃっていいの! これってもっと溜めるべきところだと思うんだけど!

 

「ど、どうしてですかっ!?」

 

予想通り姫路さんは慌てた形相で疑問を投げかける。

それに対し、優子さんは至極当たり前の事項を語るように単々と告げた。

 

「どうしてって言われても、成り行きよ」

「…………」

「あ、でも勘違いしないでね。別にこの先ずっとってわけじゃないから。あくまで試召戦争に関する問題が全部終わるまでの期限付きだから」

「そう、なんですか。試召戦争というと吉井君達のクラスは昨日Dクラスに勝ったんですよね」

「そうだね。姫路さんも知ってたんだ」

「はい、二年生の間では結構有名ですよ。遅れましたけどおめでとうございます」

「いやぁ、ははは。ありがとう。でもまだDクラスは通過点だから喜ぶには早いかな」

「そうなんですか? じゃあやっぱり吉井君たちはAクラスに挑もうとしているんですか?」

「まあ、そうなるかな……」

 

Aクラスの生徒である姫路さんにAクラスに攻め込むなんて話をするのはなんだか気が引ける。

あまりこの話を続けるとせっかく気持ちの良い空気が悪くなりそうだったので、僕は早々に話題を切り替えることにした。

 

「ところで昨日霧島さんに聞いた話だと姫路さんがお弁当を作ってくるってことだったんだけど」

「は、はいっ。……でも吉井君にはすでにご飯があるみたいですし、私のは食べなくても結構ですよ。元々私が無理を言ってしまったのが原因ですし……」

 

若干沈んだ面持ちで膝の上のお弁当箱に手をやる姫路さん。こんな顔をされては満腹状態で且つ腹痛の状態異常を負っていても食べないわけにはいかないだろう。

 

「大丈夫だよ。思春期男子の胃袋を甘く見ちゃいけないよ姫路さん。空腹状態の時ならお弁当の二つや三つ余裕で平らげられるから! だから姫路さんのお弁当も食べさせてくれないかな?」

「吉井君がそういうなら。でも無理はしないでくださいね」

 

おずおずとお弁当箱を差し出す姫路さん。こっちは女の子らしく小振りの角がまん丸とした小さな弁当箱だ。

うん。この量なら余裕でいける。ていうか超幸せ! 二人の女の子からご飯を作ってもらえるなんて、これまで生きてきた16年で最高の日だ!

さっそく両方のお弁当箱を開けて食事にありつけようとした所で、突然姫路さんが慌てたように立ち上がった。

 

「あ! そういえば飲み物がないですよね。私買ってきますね」

「え、じゃあ僕が行くよ。二人にはお弁当をもらったんだし、飲み物ぐらいは僕が出しても」

「吉井君はお金ないじゃない」

 

そうだった。くそぅ! 貧乏が恨めしい!

 

「気にしないでください。吉井君達は先に食べてもらって大丈夫ですから。すぐに戻ってきますね」

「でも……」

「はぁ、……仕方ないわね」

 

そう言って優子さんがすぅっと立ち上がる。

 

「優子さん?」

「木下さん?」

「アタシも行くわ姫路さん。三人分の飲み物を手で運ぶのは大変でしょう」

「そ、そんな、私なら大丈夫ですからっ。二人はご飯を先に」

「はいはい時間がもったいないから拘泥してる暇はないわよ。そういうわけだから吉井君は先に食べてて」

「うーん、せっかくのお弁当を一人で食べてもなぁ……」

「じゃあアタシ達が戻ってくるまでにアタシと姫路さんの作ったお弁当を食べて感想を考えておくこと。いい加減なこと言ったらその口をタコ糸で縫いつけてやるから真剣に考えてなさい」

「なにぃーっ!? そんな!」

「それじゃあね。姫路さん行きましょ」

「は、はい」

 

優子さんに引っ張られるように姫路さんは昇降口へ向かっていく。

その途中、ふいに立ち止まり僕の方へ振り返って、

 

「あの、吉井君」

「な、なにかな姫路さん?」

「……感想、期待していますね」

 

これは、どうやら真面目に答えなければいけないようだ。

 

 

     ☆

 

 

それから一分後

 

「さぁて、最初はどっちから食べようかなー」

「よぉ、やっと見つけたぜ明久……」

「っ! キサマ雄二! どうしてここに!?」

「一応、ワシらもいるのじゃがな」

「…………(こくん)」

「秀吉!? ムッツリーニまで! 何でみんなして屋上に来るのさ」

「テメエにやられたままってのは俺の性に合わねえんだよ。さっきはよくもやってくれたな。ここであの時の借りを倍返しに──って何だそりゃ、弁当か」

「へ? ああうん。優子さんと姫路さんのお弁当だよ」

「ほぉ、何やら姉上が朝から忙しそうに台所で走り回っていると思っておったが、こういうことだったのじゃな」

「……? 秀吉はお弁当じゃないの」

「姉上がワシに弁当なぞ作るはずがなかろう。もしあっても中身がバランス栄養食とか、そんな手抜き全快の弁当じゃ」

「な、なんか大変そうだね……」

「…………美味しそう」

「そうだな。どれ(ひょいっばく)」

「ああーーーっ!? 姫路さんのお弁当が! まだ僕も食べてないのに!」

「何言ってんだ。まだ卵焼きを一切れ摘まんだだけガハァッッ!!!」

「ゆ、雄二っ!? どうしたの!」

「…………っ(ぴくぴく)」

「ムッツリーニ! 何ゆえ全身を痙攣させておるのじゃ! しっかりするのじゃ!」

 

この5分後、新校舎の屋上には四つの物言わぬ死体が出来上がったとさ……。

 

 

 

 




おまけ

美波「なんでウチだけいないのよ!」
翔子「……島田は優子とキャラの性格や言動が被ってるから扱い難いって書いてある」
美波「なんですってぇ! て霧島さん何読んでるの」
翔子「……ノート、そこに落ちてた」
美波「こんなの──こうしてやるぅ!」

ビリビリビリ

翔子「……あ、まだ途中だったのに」


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