バカとテストと召喚獣IF 優子ちゃんinFクラス物語 作:鳳小鳥
吉井君を屋上に残したアタシと姫路さんは購買部の自販機の前に立っていた。
「吉井君は──無難にお茶でいいか。アタシは紅茶で……姫路さんは何にする?」
「わ、私は自分で払いますから、どうぞ先に買ってください」
ふるふる顔を振って一歩後ろに下がる姫路さん。そんな事気にしなくていいのに。
「これぐらいの出費なんともないから遠慮しなくていいわよ。どうせ吉井君にツケるし予定だし」
「つ、ツケるんですか……」
「お弁当作ってやったんだから、飲み物ぐらい買ってもらわないと割に合わないでしょ。……まあいつ請求できるのがわからないところが難点だけど。で、何がいい?」
「あはは。じゃあミルクティーをお願いします」
「はい、ミルクティーね」
自販機に小銭を投入し緑茶、紅茶、ミルクティーの順にボタンを押していく。
ガコン、ガコン、と出てきたそれを取り出し口に手を入れて取り出した後、ミルクティーを姫路さんに差し出した。
「どうぞ」
「ありがとうございます木下さん。そっちのお茶も持ちましょうか?」
「そう? じゃあお願い」
「はい」
吉井君の分の緑茶を渡すと、姫路さんは開いている手でそれを受け取った.
……本当、いい子よね姫路さんって。いつも笑顔で礼儀正しい。そして誰に対しても分け隔てなく接せられる包容力を持っている。
Aクラスで吉井君が謝った時も怒る素振り一つ見せず、すべて自分のミスだと諭した。今も吉井君やアタシに気を配って自ら率先して動いている。
少し気が弱くて引っ込み思案なところもあるけど、それが逆に彼女のお淑やかさを印象づける長所なのでしょうね。
それに顔も可愛いしアタシが男だったら一発で惚れて──ってそれじゃまんま秀吉じゃない。
何考えてるんだろうまったく。
「どうかしたんですか? ひょっとして私の顔に何かついてます?」
「ううん、なんでもないの。それじゃあ戻りましょうか」
変な想像を振り払って歩き出そうとする。
「あの、ちょっと待ってください」
背中から姫路さんの引き止めるような声を受け、アタシは前に進みかけた足を止めて振り返った。
「? どうしたの? まだ何か用事あった?」
「い、いえ、そういうわけじゃないんですけど……。あれからまだほとんど時間が経っていないですし、あんまり早すぎると吉井君が感想を考える時間がないんじゃないかなと思って」
視線を左右にやりながら消極的な調子で言う姫路さん。
確かに屋上からここまで降りて飲み物を買うまで五分も立っていない。
「そうね……」
思案しながら屋上がある遥か上の空を見上げる。
吉井君も今頃はきっと必死に頭を捻って感想を考えている事だろう。そう思うとすぐに戻るのは姫路さんの言う通り面白くない。
「一方的に行った手前すぐに戻って煽るのもなんだか悪いし。じゃあ10分だけ時間を潰してそれから戻るってことで良い?」
「はい、わざわざごめんなさい。それとありがとうございます」
「ふふっ、変なの。どうして姫路さんがお礼を言うのよ」
「……あ! そ、それはっ!? あのですねっ」
「はいはい、取り合えず座りましょ。丁度そこにおあつらえむきに開いてる席があるし」
購買部を出たすぐ近くに設置されているベンチを見つけ指差した。
買った飲み物を脇に置いてアタシと姫路さんはそのベンチに座る。
ここはあまり人気のない
丁度いい。これなら人目を気にする必要がなくなる。
「木下さん。お聞きしたいことがあるんですけど、いいでしょうか?」
少しの沈黙の後、隣に座る姫路さんが意を決したように口を開いた。
やっぱり。……なんとなくこうくるかなとは思ってた。
「やっぱり吉井君のこと、気になる?」
「ど、どうして分かるんですか!? 私まだ何も言っていないのに!?」
心の内が見透かされたように姫路さんは顔を真っ赤にして狼狽する。
どうしてもなにも、アタシと姫路さんの間で共通している項目といえばそれ以外に思い当たらない。
「気にしないで。ただの勘だから。それで、聞きたいことって何? アタシが知ってる限りであれば何でも話すわ」
「はい……。そのですね」
もじもじと身体をくねらせて口ごもる姫路さん。
自分から質問内容を問うておいて、実のところアタシは姫路さんが何を知りたいのか大体予想できていた。
おそらく次に発せられる台詞は、『吉井君の好きな人』か『アタシが吉井君のことをどう思っているのか』の二択。
姫路さんが吉井君に好意を持っているのは、新校舎の廊下で吉井君から話を聞いた時点である程度確信できていた。
小学校から同じだったからといってほとんど話したこともない、それも異性相手にいきなりお弁当を作ってくるなんて理由はそれ以外考えられない。
そんな想いの最中、意中の相手の傍に自分とまったく同じ行動をとっていた人間が現れた。つまりアタシ。
初めてそのことを知った時の姫路さんは、表面上には出なくても内心はきっと気が気でなかっただろうと思う。
──そして、それはアタシも同じだった。
だから、アタシには姫路さんの気持ちが理解できるし、質問に対する返答もいくつか用意していた。
少しだけ体に緊張が走りながらも、アタシは姫路さんが口を開くのをじっと待つ。
恥ずかしそうに俯いて逡巡していた姫路さんは、思い切ったように深い息を吐いた後、顔を上げて言った。
「──吉井君は、男の子が好きなんですかっ?」
聞き間違いかと思った。
「…………えっ? ……ごめんなさいよく聞き取れなかったわ。申し訳ないけどもう一度言ってくれるかな?」
「吉井君は坂本君が好きなんですか!?」
個人名まで指定してきた!
あまりに予想の斜め上すぎた内容にさっきまで体中にピリピリと感じていた神妙な空気が一瞬で吹き飛んだ。
坂本って坂本なんとかって女の子の名前じゃないわよね。普通に君づけしているし。
ていうかこの質問つい最近もしなかったっけ!
「いや、いやいやちょっと待って姫路さん。いろいろおかしいわよ。どうしてそこで吉井君が男性好きな話になるの! そこは普通女性じゃない!?」
「だって……。私も吉井君は女の子が好きなんだって信じたいんですけど。ここのところ私の周辺で何故か吉井君は坂本君と恋人同士なんじゃないかって噂が流れていて」
「うわぁ……」
流れてるんだ噂……。あの二人にとっては災難以外の何者でもないわね。
これから先、吉井君と坂本君が揃ってAクラスに行けば色眼鏡で見られること間違いなしだろう。
呆れと落胆と同情に肩を落とすアタシに対し、姫路さんの顔は真剣そのものだった。それが返って余計にやる気が下がる。
大体その噂は発信源は多分……。
「YESっ! 吉井君は坂本君とすでに男と男のラブロマンスに突入しているんですっ! これぞ真理!」
元凶登場
「だ、誰ですか!?」
「おっと失礼、私玉野美紀と申します。吉井君──もといアキちゃんと坂本君の恋を応援する会の0番会員and会長です」
ワープしてきたとしか思えないほど唐突に現れたおさげ少女玉野さん。
案の定姫路さんは目を白黒させて狼狽えている。きっと目の前に鏡があったらアタシも同じ表情になってるだろう。
「会員? そんな部活動があるんですか?」
「姫路さん、突っ込むべき点はそこじゃないでしょ」
「はぁい。我らが会の活動はアキちゃんと坂本君の恋愛模様を観察、研究し神聖なる神秘の追求を目指すことを目的とした会なのですっ!」
「そんな設定初めて聞いたわ……。玉野さん、貴方最初に比べてキャラ変わってない?」
「そんなことはありません! ちなみに優子ちゃんは1番会員、副会長ですヨ?」
「そんな会に入った覚えなんてないわよ! アタシを巻き込まないで!」
「何を今更、すでに私達は同志じゃない。あ、勿論私のことは美紀でいいんだよ?」
「聞いてないわよそんなこと!」
そもそも優子ちゃんって何!? ちょっと話した程度で馴れ馴れしいわね!
「えっと……。木下さんと玉野さんは知り合いなんですか?」
姫路さんが目をオロオロさせながら戸惑いがちに聞いてきた。う……正直答えづらい。
「知り合いってほどでもないんだけど……。ちょっといろいろね」
「同好の士です」
「違うから! 姫路さんに変なこと吹聴しないで!」
「えぇー! だって一昨日の放課後校舎裏で『男と男の付き合い方について』あれほど綿密且つ濃密に」
「濃密? 綿密?」
「美紀、その話はやめて。あれは不幸な事故だったのよ」
別にそういう趣味に興味がないと言えば嘘になる。だけど彼女とアタシのそれは根本的に違うのよ。そう、次元とか。
「そもそも吉井君と坂本君はそんな関係じゃないって昨日説明したじゃない」
そう。前日の試召戦争が終結した後、アタシは吉井君と会う前に美紀とFクラスで顔を合わせ『吉井君と坂本君の只ならぬ関係』について近くで観察したがあの二人の仲はあくまで友達の範疇でありそれ以上でも以下でもないと報告した。
あの時は『そうなんだ……』と沈んだ面持ちで納得したと思ってたのに、今の様子からするとどうやら全然信じてなかったらしい。寧ろ一周回って吹っ切れた?
「ちっちっち、違うの優子ちゃん」
人差し指を左右に揺らしながら美紀は口元を綻ばせる。
「は? 何がよ」
「優子ちゃんのことは信用してるの。確かに優子ちゃんの言う通りアキちゃんはまだフリーなのかもしれない。でもいいの。──だって、恋人じゃないならこれから恋人同士になればいいんだから!」
駄目だこの子。早く何とかしないと……。
「木下さん、突然頭を押さえてどうしたんですか!? ひょっとして頭痛ですか!」
「うん、そうね。いろいろな意味で頭痛が止まらないわ」
「大変です! じゃ、じゃあ早く保健室に!」
「大丈夫よ。これは多分そういう類のものじゃないから」
そして一々真面目な姫路さんにも調子が狂う。ここは一旦話を戻そう。
「とにかく、吉井君は男しか恋愛対象としか見れないとか坂本君に淫らな感情を抱いてるなんてことは絶対ないから。そこは安心して」
「今は、ね」
「美紀は黙ってて! これ以上話がややこしくしないで」
「そ、そうですか。よかったです……」
心底から安心したように姫路さんは胸を撫で下ろしていた。
その様はまるで昨日吉井君がノンケだと分かりホッとしたアタシを見てるようで、ちょっと複雑だった。
それから美紀は『あ! そろそろアキちゃん用の衣装を作らなきゃ!』と言うやそそくさと去っていったので、アタシ達もその場を後にした。
話していたのは丁度10分程度だったので時間的にはピッタリだった。なんか無駄に疲れた気はするけど。
屋上へ戻るため新校舎から階段を上がる。
その途中、歩きながら姫路さんが前を向いたまま横目で問いかけてきた。
「木下さんは、吉井君のことが好きなんですか?」
「えっ!?」
完全に不意打ちだった。
姫路さんの唐突な一言に、さっきまでの弛緩した空気の所為ですっかり忘れていた緊張感が一気に蘇る。
それが全身を駆け巡り、アタシの体中に鳥肌が立った。
「ななな何を言い出すのよいきなり──っ! だ、誰が誰を!」
「木下さんが吉井君を、ですけど。違うんですか? 私てっきりそうだと思って……。ごめんなさい。早とちりでしたか?」
「あ、いや……」
途端に気まずくなり姫路さんから目を逸らす。なんとかうまい台詞回しを言おうにも頭の中が混乱して考えが全然まとまらず、何が何やらわけが分からなくなって眩暈がした。
な、なんなのよこれ……。なんでアタシこんなに困惑してるのよ……!
「ひ、姫路さんこそどうなの!? 吉井君のこと、どう思ってるのよ!」
「私ですか!? 私は……その」
階段の中央でオロオロしながら赤面している女子二人。
「…………ですよ」
その中で、小さな声でポツリと姫路さんが何かを呟いた。
「え」
「好きです、吉井君のこと……」
顔どころか首まで真っ赤にして、姫路さんは俯きながらそうはっきりと言った。
「──っ!」
アタシは思わず息を飲んだ。
自分が告白されたわけでもないのに胸の鼓動が激しくなる。頭にどんどん血が上り視界が歪曲したように歪む。
自分の気持ちをしっかりと自覚して、口にできる姫路さんに尊敬と、畏怖と、少しばかりの嫉妬心を覚えた。
「そう……。姫路さんはそうなのね」
「はい。──今までの私はずっと臆病でした。吉井君の事を遠くから見てるばかりで。でもAクラスになってからいろいろあって、もうそれはやめようって決めたんです。今度は私から歩み寄って行きたいって、そう思えたんです」
「…………」
「と言っても、根はやっぱり怖がりみたいで。結局これもまだ出せていないんですけど」
スカートから白い封筒を取り出して姫路さんは苦笑する。
今の言動からして、間違いなく吉井君宛てのラブレターなのだろう。
それでも、姫路さんの想いは痛いほど伝わってきた。それと同時に罪悪感がふつふつと身体の内側から湧き出る。
姫路さんは心から吉井君に好意を寄せていた。
じゃあ──アタシは?
アタシは、一体吉井君をどう思ってたのかな。
最初は振り分け試験で助けてくれた恩人。それから新学期に入って、アタシなんかの為に学年中を巻き込んで試召戦争を始めた変な奴。
そして、今は──。
「姫路さん。アタシは」
「木下さんが、もし吉井君の事を好きだとしても私は負けません。それだけ、言いたかったんです」
咄嗟に何か言おうとしたアタシの言葉を上から遮られた。
「姫路さん……」
「時間取らせちゃってすみません。そろそろ行きましょう」
止まっていた時間が再び動き出したように姫路さんは一人先に階段を上がりだす。
アタシは、すぐに後を追うことが出来なかった。
足は鉛のように重く、心は分厚いコンクリートの壁に閉じ込められているように息苦しい。
「アタシも、姫路さんみたいに素直になれたらいいのに……」
姫路さんの心根を知ってしまったことに後悔も
ただ自分の言葉を最後まで言うことができなかった残痕だけが胸に残った。
☆
時間は少し戻る。
「……じゃあ、このじゃんけんに勝った二人が優子さんの方。負けた二人が姫路さんのお弁当を食べきるってことでいいね」
「異論はねえ」
「右に同じじゃ」
「…………絶対に負けない」
「よし。それじゃあいくよ。せぇのっ」
「「じゃぁんけぇんっ!」」←明久&秀吉
「「ぽん!」」←雄二&ムッツリーニ
チョキ(明久)
パー(秀吉)
パー(雄二)
チョキ(ムッツリーニ)
「やったぁぁぁぁっ!!!」
「くっそぉぉっ!」
「な、何故じゃあ……っ」
「…………勝った! まだ、生きていられる!」
「約束通り雄二と秀吉が姫路さんのを食べること! あ、感想も添えてね」
「くっ、いいだろう。こうなりゃ自棄だ。やってやらあ!」
「これも運命、受け入れるしかないのう」
パクッ
バタリッ
「「ごはぁっ!?」」
「い、一撃!? やっぱり姫路さんのお弁当は凄まじい破壊力だ」
「…………恐ろしい」
「雄二! 起きて雄二! 最後の眠りに入る前に感想を!」
「う……っ。き、綺麗なバラには棘がある……(バタッ)」
「……これは、棘というより毒じゃのう(グッタリ)」
「…………逝ったか。さらば友よ」
「ありがとう雄二、秀吉。君達の勇士忘れないからね!」
「あれ? 人が増えてます?」
「一体何やってるのよアンタ達……」
☆
同時刻、Cクラス
「──ということが、前の休み時間にあったのよ」
「……ちっ、坂本の奴。よくもやってくれたな」
「それで? 貴方はどうするの、根本クン」
「決まってる。このまま済ます気はないさ。目には目を。やられたらやりかえす。小学校で習っただろう?」
「そう、頑張ってね。期待してるわ」
「ああ、見ててくれ友香。Fクラスのバカ共が後悔と懺悔に泣き叫ぶ姿を君の前で見せてあげるよ。それじゃあ」
「えぇ」
「ふふふ。さあ、これからどう切り返すのか楽しみね。坂本君♪」