バカとテストと召喚獣IF 優子ちゃんinFクラス物語   作:鳳小鳥

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問20 根本恭二の策略

それは、本当にただの偶然だった。

 

「あれ? 姫路さん……?」

 

前回の試召戦争で失った点数の回復をする為の補充試験が一通り終わり、僕は重たい荷物から解放されたような気分で帰り支度を済ませ教室を出た。

その時、たまたま視界の隅に見覚えのある顔の女の子の姿が映った。

ここで会ったのも何かの縁。せっかくだし校門まで一緒に帰ろうと思い僕は手を振る。

 

「おーい、姫路さ……っ!?」

 

そこで気づく。

姫路さんは一人ではない。よく見れば、彼女の隣には見覚えのない男子が一緒に歩いていた。

しかも二人は肩と肩が触れ合いそうなほど寄り添っている。

 

「な……に………っ!?」

 

ど、どういうことだ。

あの男は誰だ!? 姫路さんとどういう関係!?

 

「いやいや待て。冷静になるんだ。授業はもう終わったんだからただクラスメイトと一緒に帰る途中なだけじゃないか……。そうだよ。なに動揺してるんんだ僕は……」

 

異常に乾く喉に唾を飲み込んで潤す。衝撃の自体に思わず気が動転してしまった。

まったく僕としたことが、冷静沈着をモットーとしているというのに何をやっているんだが。

 

「…………」

 

────。……でも、もし仮に、仮にだ。

あの顔も名前も経歴も分からない男子生徒とAクラスの優等生の姫路さんが恋人同士だとしたら……。

もしもの想像を脳内で再生すると、徐々に胸の内に燃え滾るような熱いものが込み上げてきた。

人、それを嫉妬と言う。

 

「本当にそうなら、殺るしかない……!」

 

強く拳を握り締めながら歯噛みする。

異端審問会の名に掛けて、これは絶対に見過ごせない状況だ。

追いかけよう。一先ず二人の関係性から慎重に調べる必要がある。裁くかどうかその後だ。

そんなプランを考えていると、件の姫路さん達は何故か踊り場から階段を上り始めた。

 

「……? 帰るんじゃないのかな?」

 

普通下校するなら下に降りて玄関で靴を履き替えないといけないのに。ひょっとして何か違う用事だったのだろうか。

……いや、深く考えても仕方ない。今はとにかく追いかけよう。

姫路さんから見えないよう距離を開けてから僕も踊り場へ向かおうとした時、いきなり後ろから何かに肩を掴まれた。

 

「何してるのよアキ?」

「うひゃあっ!? み、美波!」

 

驚いて振り返ると、そこには馬の尻尾のようなポニーテールを揺らし鞄を持って今にも帰ろうとしている美波がいた。ど、どうしてこんな時にっ!

 

「どうしたの!? 僕に何か用事!?」

「何大きな声だしてんのよ。それにそれはこっちの台詞。アキこそ先に帰ったと思ったのに何でここで仁王立ちしてたの?」

「……それは」

 

ええい! 今は美波に構っている場合じゃないのに!

とにかくなんとか言い訳して美波を撒かないと。

 

「と、トイレだよトイレ! いやーなんかHR後すぐだった所為か男子トイレが混んでるみたいでさー!」

「トイレはここじゃないけど……。一体どこで待ってるのよあんたは……」

 

呆れられた。しまった。これじゃただの阿呆だ。

 

「……ひょっとして、また何か悪いこと企んでるんじゃないでしょうね?」

「ひぃっ!」

 

指をパキポキ鳴らしながらゆっくりと前進してくる美波。その背後に殺気が見える。くっ、こんなところで死ぬなんてゴメンだ! 大体まだ僕は何もしていないのに!

恐怖から一歩、二歩と距離感を保って後ずさる。

……こうなったら、逃げるしかない。

後退が4歩目になったところで、僕は美波から背を向けて一目散に走り去った。

 

「さ、さよなら──っ!」

「あっ!? 逃げた! 待ちなさいよアキ──っ!」

「待てと言われて素直に待つバカはいないよ!」

 

鬼の形相で追いかけてくる美波。しかし相手は女子。足の速さならまだ僕に分がある!

 

 

    ☆

 

 

「──で、どうして逃げたわけ?」

「く、苦しい……っ」

 

1分後、僕はあっさり捕まっていた。バカな、女子に足で負けるなんて……。

僕は屋上へ続く鉄扉の前で美波に首元を締め上げられていた。しかも片手。なんてバカ力だ。本当に女子か? 胸もないし性格は男勝りだし見た目が女の子っぽいだけで本当は男子なんじゃないのだろうか。

なんて考えているとさらに首が締め上げられた。

 

「ギブ──っ! ギブ……っ」

「今アキからすごく不快な気配を感じたわ」

 

なんて地獄耳。いや察知力。ニュータイプか。

まったく、美波には捕まるし結局あれから姫路さんの姿も見失うしで踏んだり蹴ったりである。

 

「それで、なんでウチから逃げたのよ」

「み、美波が追いかけてくるからだよ……」

「その前にアキが逃げたからでしょうが。何、ウチに言えない理由でもあるわけ?」

「そういうわけじゃあ……」

 

言葉に詰まった。その時、

 

『どうして、こんなことをするんですかっ!?』

「「──っ!」」

 

鉄扉の向こう側から、怒りの込もった叫び声が聞えてきた。

 

「な、何今の……?」

「この声……姫路さんだ」

「姫路さん? 誰それ?」

「ちょっとごめんっ」

 

首元を掴んでいる美波の手を振り払うと僕は重たい鉄扉をゆっくり開き、1センチほどの隙間から屋上を覗き込んだ。

そこには、ついさっき見た姫路さんと、例の男子生徒が何か話している様子が見えた。

 

「ちょっと、なんなのよもう」

「しっ! 声が聞える。──何やってるんだろう。なんだか穏やかじゃない雰囲気だ」

 

男子の方は何やらニヤニヤと気味悪い笑みを浮かべ、その対面では姫路さんが怒っているような剣幕で睨みつけている。

なんだろう。僕が思っていたような感じとは違う。想像よりも重たい空気が二人の間に立ち込めていた。

 

「アキ、ウチにも見せてよ。何がどうなってるの?」

「どうって言われても……。なんだか喧嘩してるみたいにピリピリした感じがある」

「どれどれ──ってちょっとアキ! あれって──」

 

僕の下から同じように屋上を覗き込んだ美波が小声で驚いていた。

 

「うん? ああ、姫路さんっていうのはあの女の子の方で」

「そっちじゃないわよ! 男子の方、あれBクラス代表の根本よ!」

「なんだって!?」

 

思わず目を見開いてもう一度改めて男子の方を見る。

あれがBクラス代表!? つまり次の試召戦争で僕達が倒すべき相手。でもその根本君がどうして姫路さんと一緒にいるんだ?

状況がまったく分からない。だけど見た感じとてもじゃないが良い話をしているわけじゃないらしい。

僕はそこでCクラスとの交渉の時に話していた根本君に関する情報を思い出した。

 

「まさか、姫路さん根本君に何かひどいこと言われたのかな」

「取り合えず、話を聞いてみましょう。まだウチ達には気づいていないみたいだしチャンスよ」

「……そうだね」

 

正直すぐには二人の間に突っ込んで行きたい思いだが、今の美波の言う通りにした方がいいだろう。

無闇に割って入っても場の空気を乱すだけだ。根本君を糾弾するのは情報を集め終わった後でも遅くない。

生唾を飲みながらジッと僕は二人の姿を凝視する。

耳を澄ますと、小さいが会話の内容を聞き取る事ができた。

 

『別に無理な注文をしてるわけじゃないんだがな。俺はあくまで「お願い」してるんだぜ?』

『なら、先に手紙を返してください。お話はその後で伺いますから』

『そうしたいのは山々だが、これは交渉材料だ。今手放すわけにはいかないな。勿論、姫路さんが一言了承さえしてくれればすぐにでも返すが』

『それは……。でも、そんなの不可能です。私一人の一存でクラスは動かせません』

『そんなことないさ。今のFクラスの暴れっぷりに迷惑してるAクラスの生徒もいるだろう。それを沈静化させると言えば乗ってくれるさ。別に俺達Bクラスが直接やっても良いんだが、試召戦争は疲れるからな。やらないで済むならそれに越したことはない』

『……でも、Fクラスと戦うなんて…………、私にはできません』

 

何? Fクラスと戦う? どういうことだ?

 

「──まさか、根本の奴、姫路さんを脅してAクラスをFクラスにぶつけるつもりなんじゃ」

「っ!? Aクラスが僕らと戦う!? どういうことなの美波!」

「話の感じからそうとしか思えないわ。もしかするとウチ達がBクラスに挑むって情報が相手側に漏れたんじゃないかしら」

 

Aクラスを倒すのは最終目標だが、今はまだ準備段階だ。

ここで向こうから挑まれたら、僕らは成すすべもなく一方的に負けてしまう。

 

『なんでだ? 別にFクラスなんかに遠慮なんていらないだろうに。あそこは最底辺のクズが集まるゴミの掃き溜めだぜ? 寧ろ無慈悲に一掃してやるのが優しさじゃないのか?』

『そんなこと、ないです。Fクラスにだって素敵な人はいます』

『俺はとてもそうは思えないな。Fクラスのやつら、こともあろうに俺の恋人に彼氏を裏切れと脅迫に来たんだぞ? そんな非道なことをする連中にくれてやる慈悲なんてないじゃないか』

『それは、Fクラスのみんながそう思ってるわけじゃないと思います』

『ほぉ、……ひょっとしてこの手紙の相手はFクラスの誰かさんなのかな?』

『っ!?』

『そうかそうか! いやぁ察しが悪くて申し訳ない。まさか学年次席の姫路さんがFクラスの生徒に片思いとは。想像もしていなかったよ』

 

根本君が懐から取り出した小さな封筒のようなものを見た瞬間、姫路さんの顔色が真っ白になった。

あれは……見たことある。三日前に玄関で姫路さんと会った時に持っていたラブレターだ。相手は確か……雄二。

つまり、なんらかの手段によって根本君は姫路さんのラブレターを奪い。それを餌にAクラスに宣戦布告するよう脅しているという事か。僕らを貶める為に。

……なるほどなるほどそういうことか。やってくれるじゃないか根本君。

 

この野郎──、ぶっ殺す。

 

「ちょっと──」

 

「何してんのよ──っ!!」

 

何やってるんだ。と飛び出そうとしたら、その前に美波が顔を真っ赤にして叫んでいた。え、えぇーっ!

思わず出るタイミングをミスってしまい動けなかった僕を置いて、美波は単身根本君と姫路さんの下まで突っ込んでいっていた。

 

「美波、なんて男らしい……」

 

さっきは冷静に観察しようって言ってたのにいの一番に現場に急行して行くなんて。

ていうかどうしよう! 完全に出番持って行かれちゃったよ! 今出てもなんか格好悪いし、こうなったらこっちも折を見て飛び出すしかない。

 

『──っ!? お前! 島田!? なんでここに!』

『え? えっ?』

『そんなのどうでもいいわ! それより女の子のラブレターを奪って脅迫するなんて、噂に聞いてたけど本当に最低な奴ね!』

 

射殺すような鋭い目で根本君を睨みつけながら美波は姫路さんを庇うように二人の間に割って入る。

 

『大人しく手紙を返しなさい。さもないとここで会った事を全部先生に報告するわよ』

『ちっ』

 

突然の乱入者に度肝を抜かれた根本君はばつの悪そうな顔をして一歩後退する。

しかし、手元にある姫路さんのラブレターに目を落とした瞬間、焦りの表情は一転し口元には不気味な笑みが浮かんでいた。

 

『──いや、丁度良い。姫路さん、ここで宣言してやれ。AクラスはFクラスに宣戦布告すると!』

『そ、そんな……』

『根本! あんたねぇ!』

『邪魔するなよ島田。俺は今姫路さんと話してるんだ。……中身、見られたくないないんだろう?』

 

ひらひらとこれ見よがしに手紙を揺らす根本君。

 

『私は……』

 

姫路さんの目じりにはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

「姫路さん……」

 

拳を硬く握る。

……限界だ。これ以上ここで様子なんてしていられない。

今すぐにでも根本君の下まで走ってその顔をぶん殴ってやる。

 

「ねも──っ!」

『分かったわ』

 

飛び出そうとした瞬間、またもや美波の声に邪魔された。

 

『根本、そこまで言うならあんたの思惑通りになってあげる。それでいいんでしょ?』

『……なんだと? 自分から宣戦布告するのか?』

『えぇ。確か試召戦争のルールだと勝負を挑まれたクラスは原則拒否できないんだったわよね? そして一度勝負を受けたら決着がつくまでほかのクラスとの戦いを同時に受ける事はできない』

 

美波は一瞬、目だけ僕の方を見た気がした。

 

『ウチ達Fクラスは根本、ここであんたとBクラスに宣戦布告するわ!』

 

ビシっ!と指を根本君に突きつけて、美波はそう宣言した。

 

『なっ!? なんだと!』

 

な、なんだって!? ここで宣戦布告っ!? 先週Dクラスと戦って補充試験を終えたばかりなのに早くない!? どういうつもりなんだ美波は!

驚き声を上げそうになった口を手を塞ぎながら目だけはしっかり美波の勇ましい姿を凝視する。

後ろで目を見開いている姫路さんと、真正面から宣戦布告されて驚く根本君の中心で、美波はさらに追撃を掛けるように告げた。

 

『これでAクラスはFクラスに宣戦布告することはできない。そうよね?』

『そ、それは──っ』

『開戦は明日の十時。そこであんたのその腐った性根を叩きなおしてやるわ。覚悟してなさい』

 

バッサリと切り捨てるように吐き捨てる。

かっこいい! かっこいいよ美波! なんて勇猛果敢な姿なんだ。立ち振る舞いからすでに男気(オーラ)のようなものが見えるよ! Dクラスの清水さんが何故彼女に心酔するのか少し判った気がする。なんというか、すごく男らしい。

 

『ちっ、面倒なことを』

『さぁ、これで姫路さんに何をしても意味はないわ。諦めて盗った手紙を返しなさい』

『はっ! そうはいくか。これは大事な交渉カードだ。ここでやすやすと手放せるわけがないだろう──!』

『な!? 待ちなさいよ!』

『待てと言われて待つバカがいるか!』

 

一方的な言葉を言い捨てて根本君は二人を置いて走り出す。その先は、今僕のいる校舎へ続く扉だ。

根本君は僕がいることにまったく気づかず、全速力でこっちまでやってくる。

そして目の前まで来た途端、バッと僕は根本君の前で立ちふさがった。

 

「おっと、そうはさせないよ根本君」

「吉井!? お前までいたのか! ちぃっ」

「ナイスよアキ! そのまま根本を捕まえて!」

「オッケー」

 

前方に僕。後方から美波に迫られて根本君に逃げ場はない。

とりあえずこのまま捕まえた後、姫路さんにひどいことをした罰に一発ぐらい殴っても文句はないだろう。

僕は動けない根本君の手を掴もうと手を伸ばす。すると、

 

「くそっ! そうはいくか──っ」

 

根本君は持っていた手紙を力任せに投げた。

ただの紙なのですぐに風の力に負けてそんな距離は飛ばなかったが、一瞬だけそっちに目を奪われた瞬間、根本君は僕の隣を一瞬で走り去って行った。

逃げられた!? ……いや、今はさきに手紙の確保のほうが大事だ。

ひらひらと中を漂う手紙をなんとかキャッチする。それと同時に怒った美波が目の前までやってきた。

 

「アキ、なにやってるのよもう!」

「ご、ごめん美波。ついこっちが気になっちゃって」

 

掴んだ手紙に視線を落としながら謝る。

美波はそんな僕を見て溜め息を吐きながら言った。

 

「……まあいいわ。もともとこっちが本命だったんだし。根本には試召戦争できっちりとお灸を据えてやりましょう」

「そうだね。それより美波、さっきはすごかったね。根本君に啖呵を切った時すごくかっこよかったよ!」

「そ、そうかしら……? つい熱くなっちゃってあんまり意識してなかったんだけど」

 

褒められて恥ずかしいのか頭の後ろを掻きながら赤くなる美波。そんなに謙遜しなくてもいいのに。

 

「うん! すっごく男らしかったよ!──(バキッ)」

「あんたもウチに喧嘩売ってんの?」

 

おかしい。どうして褒めたのに指の関節を外されなければならないんだ。

 

「あ、あの。ありがとうございます」

 

そんなやりとりをしていたら、美波の後ろからひょこひょことやってきた姫路さんが頭を下げてお礼を言った。

 

「気にしないで。僕の方こそFクラスの問題に巻き込んじゃってゴメンね。はい、手紙」

 

持っていた手紙を姫路さんに手渡す。

それを受け取ると、姫路さんは大事そうに両手で包み込むように手紙を握った。

そして、今度は美波の方へ向いて再度お礼の言葉を言う。

 

「ありがとうございました。えっと……」

「ウチは島田美波。大事なものだったら今度は盗られないようにね。世の中には根本みたいな最低な人間だっているんだから」

「はい。これからは気をつけます」

「………………」

「………………」

 

見詰め合う二人。なんだ?

 

「…………不思議。よくわからないけど、ウチ、貴方とはすごく仲良くできそう」

「本当ですか? ……実は、私もそう思ったんです。なんなんでしょう」

「なんなのかしら……」

 

よくわからないシンパシーを感じあう二人、できればそれは僕に害のないものであってほしい。

 

「えっと……、島田さん? でいいんですよね?」

「美波でいいわよ。その方が親しみやすいでしょ」

「いいんですか? それじゃあ私も瑞希でお願いします」

「瑞希ね。瑞希……うん、覚えた。これからよろしくね瑞希」

「はい。よろしくおねがいします美波ちゃん」

 

笑顔で友達の挨拶を交わす二人。……むむむ、何がなんだかだが取り合えず仲良くなったみたいだしなによりだ。

できれば僕もその輪に混ぜてもらいたいが、女の子同士の会話ってどうも間に入りにくいんだよね……。

そんな風に成り行きを見守っていると、美波は姫路さんが大事そうに持っている手紙に目を向けて質問した。

 

「それより、そのラブレターって誰に出すものだったの?」

「えっ!? そ、それはそのですねっ! あのぉ……」

 

ちらちらと僕を横目で何度か見る姫路さん。うん? なんだろう?

姫路さんと目が合うと、彼女はかぁっと頬が赤くなり顔をぶんぶんと振った。

 

「や、やっぱり秘密です! ここでは言えません!」

「ちぇ、残念」

「もぉ、美波ちゃんは意地悪です……」

「ごめんごめん。あ、そうだ。せっかく仲良くなったんだからこれから親睦も兼ねて遊びに行かない? ウチ『ラ・ペディス』で新しく出たデザート食べたいのよねぇ」

「美波、間食は太るよ?」

「デザートは別腹よ。ていうか女の子に太るとか言うな!」

「あの、……ごめんなさい。私これからお母さんと会う用事があるんです。だから……」

「あ、そうなんだ。じゃあ仕方ないわね」

「本当にごめんなさい。別の日でよければ喜んで行きますので、また誘ってください」

「オッケー。楽しみにしてるわね瑞希」

「私も楽しみです。それじゃあ、今日は本当にありがとうございました」

 

ぺこりと頭を下げて姫路さんは校舎の中へ入っていった。ふぅ、取り合えず一段落ってところか。

まさかAクラスを刺客に差し向けようとするなんて思わなかった。今回はいろいろラッキーだったな。

 

「それにしても、まさか根本君があんな方法を取ってくるなんてね」

「ホント、こうなると試召戦争で何してくるかわからないわね。アキ、明日の試召戦争絶対勝つわよ」

「勿論。 ──ところで美波一つ聞きたいことがあるんだけどいい?」

「なによ改まって」

 

うん。これは美波が姫路さんと話している辺りからずっと気になってたんだけど。

 

「美波って……、実は男子より女子の方が好きなんじゃあ──」

 

僕の記憶はそこまでだった。

 

数時間後鉄人からの鉄拳で目を覚ますと、何故か顔が真っ赤に晴れ上がっていたことだけはここに明記しておこう。

 

 

 

 


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