バカとテストと召喚獣IF 優子ちゃんinFクラス物語 作:鳳小鳥
翌日、僕は昨日起こった根本君の出来事をみんなに説明した。
「ほぉ、なるほどのう。そんなことがあったのか」
「まあね。ごめんね坂本、勝手に宣戦布告しちゃって」
「いや、それはいい。できればBクラスとの対決は来週に回そうと思っていたんだが予定が少し縮んだだけだ。今後の計画に支障はない」
謝る美波に雄二は柔らかい口調で答えた。
ちなみに雄二には一応代表なので、すでに昨日の時点でメールでことのあらましを報告済みなので本当にさした驚きを浮べていなかった。
「…………開戦予定が十時ということは、後一時間。あまり時間がない」
「そうね。坂本君、Bクラスに勝つための作戦はもう考えてるの?」
「勿論だ。と言っても、今回は至ってシンプルだけどな。ある意味Dクラス戦より単純で分かりやすい」
「? Dクラスより? 何で?」
雄二の台詞に首を傾げる僕。
BクラスはDクラスより二つも上のクラスだ。当然その分敵戦力もDクラスとは比べ物のにならないはず。
生半可な作戦では簡単にパワー勝負を押し切られそうなものだが、雄二は何を考えてるんだろう。
僕だけじゃなくこの場にいる全員が同じ事を思っていたのか、一様に皆雄二に視線を固定する。雄二はそれに臆した様子もなく、紙に書かれた文章を読むみたいに単々と作戦概要を話し出した。
「当たり前の事だが、Fクラスの力では絶対にBクラスに勝つことはできない。これは自明の理だ」
「そうじゃのう。では今回もDクラス戦のように搦め手で攻めるのか?」
「いや、真正面から特攻する」
「なんですって? どういうことよ坂本。Fクラスの点数じゃBクラスの召喚獣を倒すのは難しいのよ」
「確かに明久レベルの点数じゃ難しいだろう。バカだからな。これはどうしようもない」
「確かにアキの点数じゃあ一発で終わりね」
「…………火の粉を払う程度の壁にしかならない」
「あの、自然に会話の中に僕への罵倒を絡めるのはやめてくれない?」
こう、グサっとくるから。あと、君らも点数は僕と同レベルだということをしっかり認識してるのかい?
「だが、バカな明久だけがFクラスじゃない。試召戦争は試験の点数だけがものをいう戦いではないことはDクラス戦で証明されている」
「キィッ! 雄二キサマ! 真面目に作戦を話す振りをして僕に喧嘩を売ってるな! 全部買ってやるから表に出ろ!」
さっきから人のことをバカバカ言って。バカって言う方がバカなんだぞ!
「落ち着きなさいよアキ。話が脱線しちゃうでしょ」
飛び出そうとした僕を羽交い絞めにした美波が諭すように言う。結構な力で抑え込んでいるようで手足を抜こうにもまったく動けない。
ぬぅ……。雄二の非礼は許しがたいが今は試召戦争の方が優先だ。この怒りはBクラス戦が終わってから存分に発散するとしよう。
僕は恨みを込めた目で雄二を睨みつけながら、続きを促した。
「で? 雄二は一体どうやってBクラスに勝つつもりなの?」
「木下優子に最前線で暴れてもらう」
「……なんとなくそうなるかと思ったけど、やっぱりね」
「あぁ。現状Bクラスとまともに張り合えるのは木下しかいないからな。下手に小細工を弄するより簡単かつ確実だ」
「でも優子さん一人でBクラスの全員を相手にするなんて無理だよ。Dクラスの時もかなり危ない橋を渡ったし」
「当たり前だ。いくら高得点を取れてるからと言って一騎当千できるほど甘くない。無論壁役は用意する。連中がほかの召喚獣の攻撃を押さえ込んでいる間に木下が一体一体確実に敵を仕留めてBクラスまで押し切るんだ」
「すると今回ワシらは全力で姉上の援護をすればよいのじゃな」
「そうだ。主戦力の木下が途中で戦死してしまわないように、護衛役には死ぬ気で木下を守ってもらう。いや、身代わりとなって死んでもらう。Fクラス唯一の利点を生かした策だ」
「利点って?」
「雑魚は死んでもいくらでも
なんてこと。周囲に聞こえてたら暴動が起こりかねない発言だ。
「根本も一番警戒してるのは木下の存在だろうからな。向こうがどんな搦め手で来ようが一直線に攻められたら無視はできないだろう」
「それは分かるけど、そんな直線的な作戦で本当に大丈夫なの? 確実で分かりやすい分、相手にも読まれてる可能性が高いと思うんだけど」
優子さんが腕を組みながら意見を述べた。雄二はそれに賛成するようにこくり頷く。
「だろうな。腐ってもBクラス代表。何か手を打ってくるだろう」
「なら──」
「だが、こっちにも考えはある。木下、今は俺の命令通りに動いてくれ。とにかく味方を盾にしながら前へ進んでくれるだけで良い」
「別に坂本君を疑ってるわけじゃないけど、……それで、勝てるのよね?」
「勿論だ」
値踏みする優子さんの視線を雄二は真正面から受け止め、そしてはっきりと断言した。
自信満々に勝てると告げた雄二に、しばし逡巡する優子さん。そして最後に溜め息交じりに了承の意を告げた。
「…………、わかったわ。アタシはアタシのできることをする。だからちゃんと指揮してよね」
「おう。まかせろ」
雄二はニコリと笑って力強く頷いた。
……うーん、今回は僕の出番はあんまりない感じだな。とにかく相手の召喚獣の攻撃から全力で優子さんを守るだけだし。痛いのは嫌なんだけど……。
「それじゃあ俺はDクラスに行ってくるから、後は開戦まで各自休んでいてくれ」
「Dクラスに? 何をしに行くのじゃ?」
「例の室外機の件で話をつけに行く。予定が繰り上がって今日使うことになるからな。その旨と壊す時間を報告しにいくんだ」
「……設備を壊すのは賛同できないんだけど…………」
雄二と秀吉の会話を聞いた優子さんはしかめ面で口を尖らせる。
(ワザとではないとはいえ)毎日のように問題を起しては何かしら傷を与えている僕達と違い、優子さんはついこの前まで真面目な生徒だったから故意に学校の物を破壊することに激しい抵抗があるのだろう。
Dクラスの室外機を破壊すると言ったのは雄二だが、その理由は誰も知らない。わざわざ設備の入れ替えを交換条件にしてまでやるんだから何か重要な意味があるのだろうが、一体何に使うんだろうか。
「気にするな。仮に室外機を壊そうが教師にお咎めを受けるのは俺達じゃなくDクラスだ。そうでなきゃ教室設備の交換を免除した意味がない」
何食わぬ顔でそう言うと雄二は教室の扉に向けて歩き出した。これからDクラスへ行くのだろう。
「……そういう問題?」
残された優子さんは誰にでもなくポツリと呟く。多分……、雄二にとってはそういう問題なんです。
「僕達はどうしよっか? まだ開戦まで時間あるし」
「そうじゃのう……」
秀吉が腕を組んで唸る。
休む暇がないっていうのも困るけど、中途半端に時間だけあるとそれはそれで困っちゃうよね。
緊張感を解す何か良い案がないかと考えていると、ちょいちょいと秀吉の肩を後ろからムッツリーニがタッチした。
肩に触れた感触に秀吉はわずかに瞳を大きくして、後ろに振りむきムッツリーニに顔を合わせる。
「なんじゃムッツリーニ? ワシに何かようかの」
「…………(こくん)、姉吉も。二人に手伝ってほしいことがある」
「アタシ? って誰が姉吉よ!」
「ま、まあまあ落ち着くのじゃ姉上。それで、手伝うとは何のことなのじゃムッツリーニ」
優子さんと宥める秀吉がムッツリーニに催促する。
ムッツリーニは懐からいつも持ち歩いているカメラを取り出すと、それを顔の前まで持ってきてシャッターを押しているようなポーズを撮りながら言った。
「…………二人の写真を撮らせてほしい」
「「写真?」」
「…………(こくん)」
カメラを構えたまま頷くムッツリーニ。なるほど写真か。ムッツリーニらしい粋な提案だ。
「いいんじゃないかな。せっかくだし撮って貰えば? 思い出になるよ」
「ワシはかまわぬぞ。姉上は?」
「いいけど。でもなんでアタシと秀吉なの?」
「…………双子の写真はとても貴重。それに二人は容姿も平均以上だから間違いなく見栄えが良い。クラスの士気も上がる」
「いろいろツッコミどころがあるのじゃが……。大体士気を高めるのならワシでなく島田の方が適任じゃと思うのじゃが。男子より女子の方が受けはいいじゃろう」
「いやいや秀吉。美波の写真なんて見たらみんな怖がって逆にやる気が下がっちゃ──あれ? 腕が変な方向に」
「アキ、あんたには一度思い知らせてあげる必要がありそうね……」
僕の右腕が変色するまで絞めている美波が口に邪悪な笑みを浮かべている。ほら、ね。怖いでしょ?
「時間はあるのじゃから全員分撮ればじゃいいじゃろうて。のう、ムッツリーニ」
「…………俺は構わない」
「土屋君っていつもカメラ持ってるけど、写真撮るのが趣味なの?」
ムッツリーニのカメラを見ながら優子さんが質問する。ムッツリーニは無言で一つ頷いてそれを肯定した。
「ムッツリーニはいつも写真撮ってるもんね」
「そうじゃの。ムッツリーニといえばカメラ。ワシらの間で周知のことじゃ。普段から使ってるだけあって腕もよいぞ」
「へぇ、すごいのね。ちょっと意外だわ」
「…………照れる」
「普段は何を撮ってるの?」
「「「………………」」」
黙る僕ら。
言えない……。いつも女の子ばかりターゲットにして胸やスカートの中とか重点的に狙ってるなんて、言えない……っ!
「…………いろいろ。特に範囲は絞っていない。撮りたいと思ったものを撮影している」
無難な回答を述べる。ナイスムッツリーニ。
その撮りたいものというのが主にエロ方面なのは僕達だけの秘密だ。
これ以上詮索されると危ないものが露見しそうなので、僕達はさっそく撮影に取り掛かった。
カメラは勿論ムッツリーニ。最初の被写体は木下姉妹(誤字にあらず)。僕と美波はムッツリーニの後ろで成り行きを見守っている。
畳の床にしゃがみ込んでレンズを覗く目に神経を集中しているムッツリーニは、何度か位置や角度を調整しながら、時折被写体に二人にいろいろ指示を出していた。
「…………もっと近くに。それだと枠に収まらない」
「ど、どれだけ寄れって言うのよ! 十分過ぎるほど近いじゃない!」
「…………まだ腕一本分の隙間がある。中途半端の画は俺が許せない」
「くっ、何よそのプロ意識。ていうか秀吉も何でそんな平然としてるのよ」
「ワシは演劇部じゃからな。見世物になるのは慣れておる。姉上こそ肉親なのじゃからそこまで恥ずかしがらなくてもよかろうに」
「見られてるのが嫌なのよ!」
「誰に?」
「だ、誰って……。全員よ全員! ああもうとにかく早くして!」
はて、一瞬優子さんがこっちを見たような気がしたが、気の所為か?
「…………そこで手を繋いで。──そう、そんな感じ。顔をもっと寄せて。………OK」
すごい凝り性だな。向こうの被写体二人がすごい扇情的な絵になってる。
まるで恋人のように指と指の間を挟むように手を繋いで、頬と頬がぴったり引っ付き視線はカメラのレンズに注がれている。まるで合せ鏡を見ているようだ。こうして見ると改めて二人ってすごく似てるなぁって思う。見ているだけでムラムラしてきそうだ。
ほんと、お互いの服装を入れ替えてもまったく気づけないんじゃないってぐらいそっくりな双子だな。まあ秀吉はいつもの無表情で優子さんは恥ずかしさに顔を真っ赤にしているから割と分かりやすいけど。
そんな感想を後ろで感じていると、無音のシャッター音と共に最初の撮影は終わった。
「…………撮影完了。ありがとう二人とも」
「うむ」
「……アタシは神経が削れたわ。もう二度とこんなのやらないからね」
満足げな秀吉と反面、げっそりとした優子さんが対照的だ。
それぞれ感想を言い合っている中、僕はカメラの提げて立ち上がったムッツリーニの傍に駆け寄り、誰にも聞えないようひっそりと耳打ちした。
「……ムッツリーニ、今の予約一本入れとくよ。あ、あとできれば後ででいいから優子さんピンのヤツも追加でお願いできないかな……?」
「…………物は?」
「……僕の秘蔵の
「…………交渉成立」
やった! 密かに心の中でガッツポーズ。
「アキ。次はウチらで撮りましょ」
「えぇ!? どうしてさ!」
「何よその反応! 嫌なの?」
「そ、そういうわけじゃないけど……」
「じゃあいいじゃない。ほらっ」
「ああ引っ張らないで! い、痛い痛い!」
「あ? 何やってるんだお前ら?」
Dクラスから戻ってきた雄二が僕らの様子を見て問いかける。
美波に腕を掴まれた僕とカメラの調整に集中しているムッツリーニは話せないので、代わりに秀吉が事情を説明した。
「皆で写真を撮ろうという話になってのう。こうして集まっておるのじゃ」
「ほぉ、それはまた粋な計らいだな」
「雄二もどうじゃ?」
「そうだな。せっかくだし俺も混ぜてもらおう」
雄二も参加し結局いつもの面子でわいわい騒ぐことになった。……結局、試召戦争前でも僕らはいつも通りだなぁ。
更新遅れてもごめんなさい。
次回いよいよBクラス戦。多分Dクラス戦と同じように一本にまとめると思うので次回の更新が遅延すると思われます。本当にすいません(全力土下座)