バカとテストと召喚獣IF 優子ちゃんinFクラス物語   作:鳳小鳥

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問25 姫路瑞希の人生で一番の……

Bクラスと試召戦争をした翌日。

 

『ヤベー、昨日の試召戦争の疲れがとれね。眠みー……』

『俺なんて帰ってからゲーム8時間しかできなかったぜ』

『ガッツリやってるじゃねえか。……ところでジャンルは何だ?』

『昨日は美少女女子高生を催眠術で操ってグヘヘアハハ~』

『俺今日お前ん家行くわ』

 

先生が来るまでの自由時間各で々が好き勝手やっている最中、朝のHRが始まる前に雄二は教壇に立って軽く教卓を叩きクラスの注目を集めた。

 

「みんな、聞いてくれ」

『うん? どうかしたのか坂本?』

「あぁ。だがまずは最初に俺はみんなに労いの言葉を贈りたい。昨日の試召戦争よく最後まで諦めず戦ってくれた。今俺がこうして代表の席につけているのは一重にクラスメイト全員のおかげだ。ありがとう」

 

雄二は恭しく頭を下げる。

おおぅ、あの雄二がこんなに素直にお礼を言っているなんてなんだかすごい珍しい。

それほどまでに雄二にとってもこの試召戦争は大事なものであるようだ。

そう思ったのは僕だけではないようで、馬の尻尾のようにポニーテールを揺らしながら美波は少し照れたような様子で言葉を返す。

 

「坂本が素直にお礼なんて、なんかむず痒いわね」

「俺もそう思う。だがこれは俺の偽れざる気持ちだ。ここまで来た以上絶対にAクラスにも勝ちたい。いや、必ず勝つ! その為みんなの力を俺に貸してくれ! そして先生共に勉強だけがすべてじゃないことを教えてやろうぜ!」

『おっしゃーっ!』

『やったるでー!』

 

最後の戦いに向けてクラスの気持ちが一つになっている。そんな気がした。

 

「さて、ここからが本題なんだが。……実は最後のAクラス戦に向けて、俺、正確には俺とそこにいる明久は学園長に一つ取引をした。もし俺達がAクラスに勝てた場合もう一度振り分け試験を全員に再考してくれることになった」

『振り分け試験を!?』

『でも、その場合設備はどうなるんだ? 俺達がAクラスに勝てたらこのボロ教室から出られるんじゃなかったのか!?』

 

教室がだんだん騒がしくなり始める。

壇上の雄二はあえてそれを静めようとはせず、自然に収まるまで無言で立ち尽くしていた。

そうして十分ほどでようやく場が落ち着いてから、再び口を開く。

 

「みんなの言いたい事はもっともだ。……だけど今一度考えてほしい。仮に俺達はAクラスに勝ちシステムデスクを手に入れたとしよう。Aクラスの設備は確かに良い。しかし、お前らはそれで本当に満足なのか?」

『なに?』

『どういうことだよ』

「……いいか。俺達がAクラスの教室に移動できても、そこに……女子はいない……」

『『『な、何ぃぃぃぃ────っ!?!?』』』

 

教室が絶叫で包まれた。

 

「あの、坂本、ウチらは……?」

「島田や木下姉妹でも三人だ。この何十もの生徒の中でたった三人だぞ! そんなのでお前らは満足なのか!?」

『そうだった!? 俺はなんて大事なことを忘れていたんだ!』

『女子のいない教室なんてルーのないカレーと同じじゃないか!』

『男子ばっかりのクラスなんてもう嫌だ!』

 

あちこちから絶叫の声が飛び出す。

 

「ちょっと、何気に失礼じゃないかしら坂本君」

「ワシは男なのじゃが……」

 

少数派の女子陣が顔をしかめて抗議するが皆絶望に打ち震えていて誰も見ていない。

クラス中が葬式ムードに突入しかけた時、雄二は暗い空気を吹き飛ばすように一段と大きく教卓に両手を叩き落して声高に叫んだ。

 

「そうだろう! だが振り分け試験をもう一度行えば俺達は好きなクラスに行く事ができる。何もAクラスでなくてもいい。気になる女子が在籍しているクラスでもどこでも好きにだ!」

『そういうことか!』

『……実は俺Cクラスでちょっと目を掛けてる人がいるんだよね』

『俺は試召戦争の時にあるBクラスの女子に一目惚れした!』

『人生をやり直すチャンスキタコレ!』

「そうだ! Aクラスに勝ちさえすれば俺達全員の望みを叶える事ができる! これが正真正銘のラストバトル! みんなの願いを叶える為、クラスの力をあと少しだけ俺に貸してくれ! 目指すは理想郷! ここが俺達の分水嶺だ!」

『『『おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ────っっっ!!!!!』』』

 

雄二を中心に燃えるような大声が教室を覆った。

まるで新しい新興宗教のようだ。

ここまでやる気になったクラスメイトを実はまるごと騙してますなんて知られたら、僕と雄二は間違いなく殺されるな。ぶっちゃけ少しでも考えれば不慮の事故でFクラスになってしまった優子さん以外は完全に自分の実力でここにいるんだから、今更もう一回テストをしたってもう一度Fクラスに配属され直されるだけなんだけど。頭の中はもうAクラスに勝った時のことばかりでそこまで考えてる人なんて誰もいない。

 

「アキ? 何安心したように溜め息ついてるの?」

「いや、クラスが馬鹿でよかったなぁって」

「?」

 

「坂本君、もういいですか?」

「ん? あぁ先生。はい、もう大丈夫っす」

「そうですか。では席についてください。HRを始めますよ」

 

いつのまにか来ていた福原先生が雄二と入れ替わるように教壇に立ちいつもの時間に戻った。

 

 

      ☆

 

 

授業を聞き流してる時間を過ごしているうちにすぐ昼休みになり僕らは二つの卓袱台を隣合わせに引っ付けてお弁当タイムに入っていた。

 

「最初はグー!」←明久

「じゃんけん──っ」←雄二

「「ポンっ!」」秀吉&ムッツリーニ

 

グー(明久、秀吉、雄二、優子)

チョキ(美波、ムッツリーニ)

 

「ああぁ、負けたぁ!?」

「…………くっ、無念」

「やったぁ僕らの勝ち! それじゃあ僕は麦茶ね」

「俺はコーラを頼む」

「すまぬな。ワシも緑茶を頼むぞい」

「アタシは紅茶でお願い」

「はーいはい。負けたものは仕方ないわね」

「…………行ってくる」

 

肩を落としながら美波とムッツリーニは一緒に教室を出て行った。

何故こんなことをしているかというと、昼休みになってからいつも通りみんなでお弁当を食べようとした時(僕以外の)みんなが一斉に飲み物を買いに行こうとした。それで全員でぞろぞろ行くのは迷惑じゃないかということでせっかくだからゲームでもして負けたやつがみんなのジュースを奢りにしようぜ!ということに発展して今に至る。

ふぅ、危なかった……。ただでさえ残金がない僕が負けてしまったらこの歳で借金に手を出すところだったよ。

 

「しかしなんだかんだいって木下もFクラスに染まってきたな」

 

特に迷いもなく賭けじゃんけんに参加した優子さんを見て雄二はぽつりと言う。

それが気に障ったのか優子さんは嫌そうな顔で反論した。

 

「……別に染まってないわよ。ただあの状況で一人だけやらなかったら感じ悪いみたいに思われるじゃない。それが嫌だっただけよ」

「別にそこまでは思わんがの。参加するかは自由じゃし」

「そうだよ。僕なんて元々買う気なかったもん。結果的にタダで飲み物を手に入れられてラッキーだったしね」

「いいのよ。やろうがやるまいがどっちみち秀吉に買いに行かせるつもりだったから」

「ワシはパシリ決定じゃったのか!?」

 

パシリ要員にされかけていた秀吉がショックを受けた顔をする。

なんだか最近優子さんの性格が人がいる状況でも普通に砕けてきているな。

それがいいのか悪いのか僕には計れないけど、こうして友達として和気藹々とできるのは悪くない。

 

「みんなで楽しいことができるのはいいことじゃないか。ほら、住めば都って言うし」

Fクラス(ここ)はどっちかというと廃墟だがな」

「隙間風吹き放題。床はボロボロの畳。机は傷だらけ卓袱台。学園側もよくもまあこんな設備を設けたものじゃのう」

「こうまでするとなんか時代が逆行してる感があるよな」

「旧校舎自体がもう古いもの。根元がもう駄目なんだから教室をどれだけ綺麗にしても新校舎と同じになんて絶対にならないわね。だからこそ試召戦争が重要なのよ。それにしても教室を奪い合うなんてうまく考えたものね学園長も」

 

箸でお弁当を突きながらそれぞれ思い思いの意見を言い合う。

んー。今日も優子さんのお弁当美味しいなぁ。これがあと少しで食べられなくなると思うと、試召戦争を始めたくないなんて邪な考えが思い浮かんでしまう。

いやいや駄目だ駄目だ。目的を見失うな吉井明久! 僕がすべきことはAクラスに勝って優子さんをちゃんとFクラスから送り出す事なんだから。道半ばで立ち止まってどうするんだ。

 

「……何やってんだ明久。さっきから挙動不審だぞ」

 

正面の雄二が僕の顔を見ながらそんな指摘をしてきた。おっといけないいけない。つい顔に出てしまっていたみたいだ。自制しなきゃ。

雄二の発言に僕の隣に座っている優子さんは僕の様子を伺いながら声を掛けてきた。

 

「ひょっとしてお弁当のおかずに何か変な味でもあった? おかしいわね。ちゃんと下味の段階から全部味見はしたはずなんだけど……」

「ち、違うよ! 優子さんのお弁当はすごく美味しいから何の問題もないよ! むしろ大満足なぐらいよく出来てる! そっちじゃなくて、もうすぐAクラスと戦えるのかと思うとなんか緊張しちゃってさ」

「明久にしては珍しい反応じゃのう。じゃが気持ちは分かるぞ」

「おいおい今からそんなのでどうするんだ。まだ本番まで時間があるっていうのに」

「あはは、もう心配性だな雄二は。試召戦争が始まった真面目に戦うから大丈夫だよ。僕のメンタルは比較的強い方だからね」

「そうだな。サッカーボールみたいに表面硬くて中身スッカスカだもんな」

 

何故だろう。まったく褒められた気がしない。

 

「ちょっと。それは僕を馬鹿にしてるよね雄二。これでも僕は鉄の胃袋ならぬ鉄の精神を持って生まれたんだから本番には強い方に決まってるじゃないか」

「それを言うなら鋼の精神じゃないの?」

 

う……っ、ちょ、ちょっと言い間違えただけだい!

 

「ど、どっちでも意味は通じるはずだから大丈夫だよ! ……多分」

「明久。鉄の元素記号は何か分かるか?」

「え!? ……えっと……ん~……、あ、て……Te?」

「Feじゃ」

「……り、理系は苦手分野なんだ」

「こんな基礎的なもんに文理は関係ないだろ」

「あと補足しておくとTeの元素記号はテルルね」

 

て、テル……? それ何語……? どんな意味?

 

「はぁ……。おい明久、いつもとは言わんがせめて試召戦争の間くらいはきちんと勉強しとけよ」

「……はい」

 

あれ、なんで僕昼食の場で怒られてるの……?

 

「いいか。俺達はもう引き返せないところまで来たんだ。…………特に俺と明久は今朝の話の件の真相がクラスに知れたら島流しどころじゃすまないしな」

 

後半から声を萎めて雄二は確認するように言った。

僕らもそれに合わせて少し声を抑えめにする。

 

「……あれで本当に良かったの? 僕はなんだか根本的な問題がうやむやになってるだけな気がするんだけど」

「現状ではあれ以外に最善策は思いつかなかった。そもそもクラス全体が満足して且つ木下優子をAクラスに編入させることは100%不可能なんだ。言わば0か100の両極端。50対50にはできない。だから最後にはどちらか一方が妥協するしかない。その天秤を俺は木下優子の側に傾けただけだ」

「そしてその手段を振り分け試験という自分の実力如何でギリギリなんとかいけると思わせる手段を用いることで軋轢を少なくするのじゃな」

「設備の入れ替えと違って振り分け試験の場合、責任も結果も全部自分だけのものだからな。そりゃあ多少の文句も出てくるだろうが、一度自分から同意してしまった責から他人にだけ強くは責められない。これが今出来る俺からの最大限の譲歩(・・)だと思ってくれ」

「そうだね。うん。ありがとう雄二」

 

素直に礼を言う。

まったく、この試召戦争の数日だけで僕は雄二にかなり貸しを作ってしまった。これは後で何を要求されるかちょっと怖いな。

残り日数は少ないけど、僕もちゃんと勉強してみんなに少しでも多く貢献しなければいけないと心の内で改めて誓った。

 

「……吉井君。本当にこれでよかったの?」

 

隣の優子さんが気持ち沈んだ声で僕に問うてきた。

 

「どういうこと?」

「前に貴方は『僕は僕がそうしたいから優子さんをAクラスにする』ってアタシに言ったわよね。……あのときはつい滅茶苦茶言っちゃったけど、今はその気持ちが嬉しいし感謝もしてる。でも、それって吉井君にとってクラス全体を欺いてまでしなきゃいけないことなの? 吉井君自身の立場が悪くなるかもしれないのに。そうまでして吉井君に何が返るっていうのよ……」

 

優子さんの声は、怒っている様にも悲しんでいる様にも聴こえた。

ひょっとして僕を心配してくれてるのかな? だとしたら少し申し訳ない気分になる。

でも、一体なんて答えたものだろうか。ここで下手に誤魔化しなんてしたら引っ叩かれそうな気配だしなぁ。

小細工できないなら、思ったことをそのまま伝えるしかないよね……。

 

「価値はあるよ。僕にも優子さんにも。優子さんはAクラスになれたら今よりも何倍も良い環境で勉強ができるんだ。それに比べればちょっとクラスで悪口言われるぐらいなんてことないよ」

「それで、吉井君には何があるの?」

「僕は、嬉しい」

「え……っ?」

「優子さんが、Aクラスに入ることが出来たら僕は嬉しい。…………ってまあそれだけなんだけど、形あるものがすべてじゃないっていうか……。僕にとってはたったそれだけでも十分な価値だよ」

「…………」

 

優子さんは目を丸くして意外なものを見たような表情で固まっていた。

うう、なんだか言ってて恥ずかしくなってきたなぁ。

美波達早く帰ってきてくれないかな。

 

「……それだけ? 本当にそれだけなの──?」

「いや、強いて上げればこの学園の制度に対する反抗とかいろいろあるけど。一番なのはそれかな。優子さんだって、いつまでもこんな男子ばっかりでボロい教室なんて嫌でしょ?」

「アタシは……──」

 

その時、ガララっと音を立てて教室の扉が開いた。

 

「アキー! お客さんよ!」

 

両手一杯に飲み物を抱えた美波が扉の前で大声で僕の名前を呼んだ。お客さん? 誰だろう?

 

「うんすぐ行くよ! ごめん優子さん、今なんて言ったのかな?」

「……ううん。なんでもない。それより早く行って来なさい。せっかく会いに来てくれたのに待たせたら申し訳ないでしょう」

「ん、そうだね。じゃあちょっと行って来るよ」

 

僕は箸を卓袱台の天板に置いて立ち上がりみんなに背中を向けて教室を出た。

 

「あれ、姫路さん?」

 

廊下に出ると、すぐ近くにふんわりした長い髪と豊満な胸を持つAクラスの姫路さんがオロオロした様子でそこにいた。……お客さんって姫路さんのこと?

彼女は僕の存在に気づくとビクッと肩を驚かせた。

 

「よ、吉井君!?」

「そ、そうだけど……。僕にお客さんって姫路さんだったの?」

「はい……。あの、ご迷惑だったですか?」

「全然平気だよ! 姫路さんに呼ばれるなんて嬉しいぐらいだし。それで僕に用って何かな?」

「それは、ですね」

 

周囲をキョロキョロを見回す姫路さん。ん? なんだろう。人に聞かれると困ることでもあるのかな。

 

「吉井君、今日の放課後空いてますか?」

「放課後? うん、今日は試召戦争も何もないし大丈夫だよ」

「良かった……。それでしたらその時間、屋上に来てくれませんか? ……その、聞いてほしいことがあるんです………………」

 

後半になるつれどんどん声が小さくなる。最後はうまく聞き取れなかった。

 

「? それは勿論良いけど。今じゃ言えないことなの?」

「い、今ですか!? それは……ちょっと。ここでは人が多すぎますし…………」

 

ふむ、つまり姫路さんにとっては何か重要なことみたいだ。

 

「うん。分かったよ。それじゃあ放課後屋上で待ってるね」

「っ! はい! よろしくお願いします!」

 

僕の返事に満点の笑みになるとペコリと頭を下げて姫路さんはウサギにようにささっと新校舎の方へ行ってしまった。

話って何なんだろう。雰囲気的に人に聞かれたくない類のものっぽいけど……。ま、まさか告白とか!? 好きです付き合ってくださいなんて!?……てさすがにないか。男の悲しいサガだよね。こういう場面だとすぐ勘違いしちゃう。

でも……うーん。最後に見せた笑顔、ちょっとグラっときたよ。いつまでもたってもあの笑顔には勝てる気がしない。

 

「……しょうがないよね。姫路さんは僕にとって、初恋の人だったんだから」

 

それは、小学生の頃から想い続いていた懐かしくもある夢だった。

 

 

       ☆

 

 

約束通り、僕は放課後になると屋上のベンチで姫路さんが来るのを待っていた。

AクラスはLHRが遅かったのか、彼女が屋上に来たのは僕が来てから30分もした後だった。

 

「す、すみません吉井君。遅れてしまって」

「僕は平気だよ。姫路さんこそ大丈夫? 肩で息しているけど体調良くないんじゃあ……」

 

姫路さんは昔から体が弱かった。体育は休みが多かったし、病欠で休みことも結構あったことを覚えている。

 

「い、いえ。これはただここまで来るのに走って来て疲れてしまっただけですから大丈夫です」

「え、えぇ!? それ全然大丈夫じゃないよ! 姫路さんただでさえ人より体が弱いんだからちゃんと自分の身を大事にしないと。何かあってからじゃ遅いんだよ……?」

「あ……ごめんなさい。これからは気をつけます。……ふふっ、吉井君はやっぱり優しいですね」

「こ、これは……まあ小学生の頃から知ってて覚えてたから」

 

急に顔が熱くなって姫路さんから顔を逸らす。

姫路さん、今は距離が近いからなんか変な気分だ。しかもいい匂いまでするし。

 

姫路瑞希さん。容姿は背は小さく可愛くて胸も大きい。性格も見ての通り人を思いやることができ誰にでも分け隔てなく優しい。おまけに頭も学年次席になるぐらい良いというまるでチートのような完全無欠な少女。

あまり感情を表に出せず体が弱く運動があまり得意ではないというところがあるが、彼女の可愛さの前ではそれすらも長所に思えるぐらい魅力的だった。

 

「……そうですね。私と吉井君はそんな小さい頃からずっと近くに居たんですよね」

 

記憶の底の底へ、思い出という宝物を水面に汲み上げるように姫路さんは大空を見上げながら呟いた。

それで僕も心の奥底に沈んだ昔の日記の断片が脳内に形になって現れた。

小学生の頃の姫路さん。中学生の姫路さん。そして今の姫路さん。

年齢が上がるにつれて段々と彼女に面と向かうのが恥ずかしくなって、こうして正面から直接顔を合わせて言葉を交えることはほとんどなかったけど、それでも彼女は今と同じように僕の近く居たんだ。

 

「それで、話ってなにかな?」

 

姫路さんといるのは恥ずかしいというのは今でもあまり変わらないので、僕はつい急かすように言葉を放ってしまった。

 

「吉井君。吉井君は過去の自分が好きですか?」

「へ? 自分?」

「はい」

 

予想外の質問に頭の中が真っ白になる。

昔の僕? ……んー。あまり良い記憶はないかなぁ。振り返ってみればいつでも馬鹿なことをしてただけな気がするし。

 

「僕はそうでもないかも。思い出すのも嫌になる記憶とかあるし。もしタイムスリップができたら一発引っ叩いて更正させたいと思うよ」

「ふふふ、そうですよね。私も似たような思い出があります」

「だよね。今思うとなんであんなことやっちゃったんだろうって記憶が山ほどあるよ」

 

あはは、うふふ。と過去の記憶を肴に笑いあう僕ら。

話をして緊張が解れた所為か。僕は徐々に居心地が良くなってきていた。

 

「でも。嫌なこともいっぱいありましたけど、私は過去の私のことが好きです」

「姫路さん……?」

「だって。小さい頃からずっと抱き続けていたこの気持ちを大きくなった今でも忘れないでいられたんですから。それは昔の私が間違えていなかった証だから」

 

胸に手を当て、すぅ、と姫路さんは息を吸った。

 

 

 

 

「私は、吉井君のことが好きです。小学生の頃からずっと、好きでした」

 

 

 

 

一際大きな風が吹いた。

あまりに強い風のおかげで、それは風の音と姫路さんの声がおかしな割合で混ざってしまった結果耳にそう聞こえてしまったのかと邪推してしまった。

 

「え………………。ぼくが、すき……?」

「は、はい。……はぅ、予行練習はしたんですけど。やっぱり何度しても口にするのは恥ずかしいです」

「ほ、ほんとに……?」

「ほ、本当です。マジです。真剣ですっ」

 

首から上を真っ赤にしながら、それでも精一杯喉から声を張り上げようとする姫路さんがすごく可愛くて、抱きしめたくなった。

 

「嬉しい。すごく嬉しいよ姫路さん……」

 

……あれ? ここは両手を上げて盛大に大喜びするところじゃないの?

ずっと憧れ続けた姫路さんに告白されるなんて夢みたいなシチュエーションなのに。どうして僕は姫路さんに近づけないんだろう。なんでこの足はさっきから固まっているんだ?

 

心が痛い。

 

………………違う。それは明確に違う。

足が動かせないんじゃない。金縛りにあってもいないのにそんなこと起こる筈がない。

だとしたら、これは僕自身の意思で動かないようにしてしまったんだろう。

僕はこれ以上姫路さんの傍に寄れない。なんで? どうして?

 

だって、僕はもう姫路さんとは違う人を好きになってしまったから。

 

単純に、たった一日前に、僕はそう自覚したばっかりだった。

だから、彼女の気持ちには答えれない。

言わなきゃ。君とは付き合えないって。

だというのに、まだ僕の足は杭を打たれたかのように硬直したままだった。

 

分かってる。

 

その理由は、恐れ。

もし、この先僕が姫路さんを振って本当に好きな人に告白したとして、それにあの人が答えてくれる保障はどこにもない。自意識過剰な行動をした結果、何もかもなくなってしまうかもしれない。

それに比べ、目の前の姫路さんは僕を好いてくれている。

可愛くて、優しくて、心穏やかでお淑やかなまさに理想の女の子が僕を好きでいてくれた。

 

なら、もうそれで満足すればいいんじゃないのか?

 

僕はあの人が好きだけど。それに負けないぐらい姫路さんのことも好きだった。

小学生の頃からずっと憧れ続けていたんだから、ある意味当然と思う。

ならここで姫路さんと恋人同士になることに何の問題もないじゃないか。

 

僕の中の天使は今すぐ姫路さんを抱きしめろと言う。

僕の中の悪魔は自分に嘘を吐くな。妥協するなと罵る。

 

「吉井……君? どうしたんですか?」

 

いつしか黙考していた僕に姫路さんは下から覗き込むように見上げていた。

 

…………!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

やっぱり駄目だ! 自分の気持ちに嘘は吐けない。ここで安易の気持ちで姫路さんを選んだら、きっと僕は一生悔いを残して生きていく事になる。

言おう。君とは付き合えないって。ハッキリと言うんだ。それが彼女にとっても最大限の誠意じゃないのか。

こんな僕を好きになってくれたんだ。せめて最後の時まで姫路さんの中の僕は男らしい人間であってほしい。

 

「姫路さん…………」

「は、はいっ!?!?!?」

 

目を合わせると姫路さんはトマトみたいに顔を赤くしたまま今日何度目かの鞭打ちに合った。

僕は、頭を下げて────、

 

 

「────────────────少し、考えさせてくれないかな」

 

 

正真正銘、僕は情けない男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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