バカとテストと召喚獣IF 優子ちゃんinFクラス物語   作:鳳小鳥

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問26 異端者には死の鉄槌を

気がつくと、窓の外には日が昇っていた。

僕はベッドの上に横になったまま思いっきり鼻をすするとドロリとした粘液が出てきた。

 

「……ずずぅ……っ あ、鼻水だ」

 

……あちゃぁ。ひょっとして風邪引いちゃったのかな。どおりで体が重いわけだ。

僕はだるい体をベッドから持ち上げてティッシュに手を伸ばし鼻をかんだ。

結局、昨日は一睡もできなかった。

最初の方は「うわぁ姫路さんに告白されちゃったどうしようーーー!? モテ期? ねえこれモテ期? いやっほぉーーーーーー!!」とベッドの上でゴロゴロしながら大興奮して隣の人に壁を叩かれたりしてだが、段々と気持ちが落ち着いていくうちに今度はどうやって返事をすればいいんだと憂鬱になり、ネガティブ思考に陥っていき次第に考えるのも億劫になってきて気がつくと今の半死人のような容体になっていた。

 

「はぁ……、お腹痛い。頭痛い。喉痛い。あちこち痛いよぉ……」

 

本当、史上稀に見る最低の朝だ。

こんな調子では学校にもいけないなと壁に立てかけてある時計に顔を向けると、すでに登校時間はとっくに過ぎていた。

どうやら僕は自分の思っていた以上に長い時間放心していたらしい。

なんだか何もかも馬鹿らしくなって、僕は学校の休みの連絡をする気も失せてしまい再びベッドに倒れこんだ。

 

「なんでさ……」

 

誰も居ない部屋で一人ごちる。

 

「女の子に告白されたら普通もっと嬉しいものだと思ってたんだけど。どうして僕はこんなにボロボロになっちゃったのかなぁ」

 

汗だらけでベトベトになったベッドに顔を埋めていると、ふと机の上にある携帯がメールの着信を告げた。

僕は匍匐前進(ほふくぜんしん)のようにうつ伏せに体勢のまま腕の力だけで這うように前に進んで携帯を掴む。

そしてディスプレイに表示された内容を見ると、意外な人から連絡が来ていた。

 

『From:木下優子

To:吉井明久

Sub:学校来てないみたいだけど、何かあったの? 大丈夫?』

 

機械的に僕は『大丈夫だよ。ちょっと寝坊しただけ』と打って送信する。

 

「…………。学校、行かなきゃ」

 

休息を求める体に鞭を打ち着替え始める。

こんなジメジメした部屋にいるから体調も悪くなるんだ。きっと外の新鮮な空気を吸えば少なくても今より多少は良くなるだろう。

何より、今日は姫路さんに昨日の告白の返事をする約束があるんだから。どのみち欠席するわけにはいかない。

用意をすべて済ませ家を出ると、朝の太陽が目に染みて視界が一瞬真っ白になった。

思ったより今日は外の気温も高いようで予想より楽に僕は登校道を歩いていく事ができた。

 

 

     ☆

 

 

学校に着く頃には時間は二時間目の休み時間になっていた。

一応僕は寝坊で遅刻したということになっているので、ここは風邪だということを悟らせないよう元気よく挨拶しよう。

 

「おはようっ!」

 

教室の扉を開けると同時に僕は快活に声を上げた。

 

「アキ。遅かったじゃない。寝坊なんてしてもしかして昨日ずっとゲームでもしてたの?」

 

一番最初に反応した美波は僕の姿を見るなりいつもと変わらない挨拶を告げた。

よしよし、体調不良のことはバレてないっぽいな。

 

「あはは、まあそんなとこ」

「おいおい、ちゃんと勉強もやったんだろうな?」

「もうひどいな雄二は。僕だったきちんとやることはやってるよ。むしろその所為で寝坊しちゃったぐらいだよ」

 

嘘である。本当は昨日は姫路さんのことで頭いっぱいで勉強はおろか教科書さえ開いていなかった。

秀吉やムッツリーニとも同じような言葉を交わした後、僕は自分の席に行って鞄を下ろした。

ふぅ、と疲れを癒す老人みたいに溜め息を吐きながら畳の上に座り込むと、隣にいる優子さんが僕に向かって口を開く。

 

「おはよう吉井君。今日は随分と重役出勤ぶりね」

「おはよう優子さん。今朝のメールありがとね。あのおかげでなんとか朝に起きる事ができたよ」

「まったく、朝の目覚ましセットし忘れたの?」

「ちゃんとセットはしてたはずなんだけど。いつのまにかスルーしてたよ」

 

僕の家の目覚まし時計はあまり性能が良くなく、平時でも僕が時間通りに起きられる確立が五分五分ぐらいだったりする。

当然買い換えるお金などないので、そんな不良品でもまだ現役として働いているけど。

 

「……アンタが一人暮らししてていいのか本気で心配になるわね。はい」

 

呆れながら優子さんは僕にノートを手渡してきた。

 

「何これ?」

「見ての通りノートよ。吉井君二時間分の授業サボって何もわからないでしょ。これに一応要点だけはまとめて置いたから時間がある時に写しなさい」

「そんな、いいのに」

「いいから早く受け取りなさい。吉井君に拒否権はないの」

 

はい!と優子さんは僕の胸にノートを押し付ける。

 

「あ、ありがとう。すぐに写して返すね」

 

わざわざノートを貸してくれるなんて。優子さんって結構面倒見が良い方だったりするのかな。

さっそく僕は鞄からノートを取り出して自分の分と優子さんの二冊のノートを卓袱台の上に広げた。理由はともあれ貸しもらっている以上早めに返した方がいいしね。

そうしてチャイムが鳴り三時間目の授業が始まるまで、僕は風邪で少し朦朧とする頭を振り絞りノートの写し書きに集中した。

 

 

      ☆

 

 

「ようやくCクラスがBクラスに宣戦布告したようじゃの」

「…………(こくん)。開戦時刻は午後の予定らしい」

 

三時間目の休み時間、どこからかそんな情報を仕入れてきた秀吉とムッツリーニが僕らに報告した。

 

「そっか。考えてみれば僕ら以外がやる試召戦争ってこれが始めてだよね」

「今までは俺達が散々引っ掻き回してたからな。ま、今回はのんびり観戦といこうぜ」

 

壁にもたれながら雄二はどうでもよさそうに言った。

その気持ちはなんとなく理解できる。僕としても今は他所の戦争に関心を向けている場合じゃない。

僕が最優先すべきは今日の放課後までに姫路さんへの返事を考えいかなくちゃいけないことだ。ありていに言えば、うまく断る方法を……。

 

「アキ? 何考え込んでるの?」

 

………………あぁ駄目だ。こんなこと初めてだからいくら頭を捻っても何にも出てこない! もうどこかに恋愛のプロとかいないの!? 誰も良いから教えてベストアンサー!

 

「ちょっとアキ! 聞いてるの!?」

「へ?」

 

いつのまにか目の前に怒った顔の美波が僕を睨んでいた。

……そういえば、美波って誰か好きな人っているのかな……?

女心は女にしかわからない。美波は性格は男みたいだが生物学上は女性だという極めてレアな人種だ。これはひょっとすると有益なヒントが得られるかもしれない。

 

「美波!」

「は、はい! 何よボーっとしてるかと思ったら急に大声出して」

「ごめん。それより美波に聞きたいことがあるんだ。すごく大事なことだから真剣に答えてくれないか」

「え!? え!? ちょ、こんな人前で何言う気よ!」

 

顔を赤くしてパタパタと両手をバタつかせる美波。

確かに雄二や秀吉の前なのはちょっと気にかかるが今はもっと大事なことがある。

何故だか僕が目を合わせる度にどんどん顔の赤みが増していく美波。もしかして美波も風邪なのかな?

 

「美波。美波は……」

「ひゃ、ひゃいっ」

「男に振られた経験って、ある?」

「…………は?」

「だから、好きな男子に告白して振られて経験があったら教えてほしいんだ。できれば詳細にぃ──ぎゃあああああああああっ!?」

 

メキメキグチャ。と全身がとても痛い音がした。

 

「ふんっ! アキの馬鹿! 最低っ!」

 

肩を震わせながら美波は荒だたしい足取りで教室を出て行く。な、何故…………。

 

「……明久。今のは新しいコントか? それとも島田に殴られすぎてついに痛みが快感に変わってしまったのか?」

「ど、どっちも違う…………」

 

あぅ。ただでさえ風邪で体調悪いのに肉体的にも痛められるなんて、やっぱり美波は苦手だ……。

 

「じゃが今の質問は本当になんだったのじゃ。好きな男子のことを聞くならともかく振られた経験とは」

「…………意味深」

「そ、そんなことないよ……。勘ぐりすぎだってば」

 

いかん。これは不味い流れだ。

ここで詰め寄られてみんなに昨日のことがバレたら……。

1、雄二達に姫路さんから告白されたことがバレる。

2、雄二達からクラス全体へ話が浸透する。

3、僕、クラス中から恨まれる。

4、異端審問会発動。

5、僕死亡。

という最悪の5ステップを辿ってしまう!

それだけは阻止する。僕は最低でも姫路さんに会うまでは死ねないんだ!

 

「こ、この話はもうやめよう。ね?」

「そういや明久。お前昨日姫路とどんな話をしたんだ?」

 

この状況で最悪の地雷投下されたー!?

 

「雄二! キサマには空気を読むという機能がないのか!」

「はぁ? 何言ってるんだお前? ……ははぁ。さてはさっきの質問と昨日の姫路の話には関連性があるんだな?」

「ううぅ──っ!?」

 

コイツ!? いつにもまして何でこんなに勘が鋭いんだ!

 

「ない! ないない! まったく関係ないって! 気にしすぎだよ雄二! 大体何でそんなことを追求するのさ。雄二にはまったく関係ないでしょ?」

「ないな。ないが……なんとなく面白そうだ」

 

よし。試召戦争が終わったら絶対に血祭りに上げてやる。

 

「ほら、さっさと吐いてしまえ。じゃないとお前が姫路とラブラブしてたって異端審問会に告げ口するぞ」

「く──っ。それだけは嫌だ。僕はまだ死にたくない!」

「…………説明要求」

「諦めるのじゃ明久。雄二とムッツリーニがこうなってはワシでも止められぬ」

「ひ、秀吉までぇ!? こうなったら、お願い優子さん! みんなを止めて!」

「……ごめんね吉井君。アタシも姫路さんと何を話したのか気になるの。だからそのお願いは聞けないかな」

「ぐっはぁ!?」

 

僕に味方などはじめからいなかった!? まさかの四面楚歌とは……っ。

こうなったらせめてもの抵抗で本筋からは少しずらして説明するしかない! 下手に嘘をついたら絶対に雄二に見破られるし。この僕の話術を駆使してこの局面を乗り越えてみせる!

 

「れ……。恋愛、相談だよ……」

「嘘だな」

「嘘じゃな」

「…………絶対嘘」

「……ふーん…………」

 

バカな。一瞬で見破られた、だと……っ。趣旨としては決して間違えていないはずなのに!?

 

「本当だよ! 何で頭ごなしに否定するの!?」

「おかしなことだらけだろ! 第一何で生まれてから一度も彼女がいないお前に恋愛相談なんかするんだ。明らかに力不足じゃねえか」

「失礼な! そんなことないよ!」

「じゃあお前姫路にどんなアドバイスをしたんだ?」

「へ? それは…………あ、愛さえあればどんな苦難も乗り越えられるさ!」

「「「……………………」」」

 

なんでだろう。みんなが可愛そうな人を見る目をしているよ。

 

「明久よ。できないことはできないでよいのじゃぞ。大事なのはそれを恥じる心より受け入れてより努力しようとする姿勢じゃ」

「…………人間には得て不得手がある。明久に恋愛ごとは向いていない」

 

散々な言われようだ。

 

「明久が色恋沙汰に鈍感なのは今更だからどうでもいいが。姫路から明久に用事があったのは事実。しかもわざわざ放課後屋上に呼び出してまでとは。まさか告白でもされたか?」

「あっ!? 馬鹿雄二!?」

 

ここでそんな台詞を言ったら!?

 

スパっ! ザクザク!(畳にカッターの刃が刺さる音)

 

『吉井明久。今の旨は真実か?』

「ほらぁもう異端審問会が出てきちゃったよ!」

『『『学園の風紀を乱す異端者には正義の鉄槌を!』』』

 

すでに僕達の周りには黒いローブを着てカッター、ペン、定規、コンパスなどの武器を構えた連中に囲まれていた。くそ! なんて迅速な行動なんだ! 水道工事の業者さんもびっくりなスピード対応だよ!

 

「ち、違うんだよみんな! 今のは雄二の妄言であって」

『では真実でないと。我らが主に向かってそう誓えるか?』

「あ、えっと……」

 

思わず言葉に詰まってしまった。一応今でも異端審問会の一員であることへの気持ちが言葉を飲み込んでしまった。

僕、吉井明久は基本的に嘘を吐くのが下手糞である。今、僕はそれをこの身を持って理解した。

正直者は馬鹿を見る。まったく言いえて妙だ。普段みんなから馬鹿だ馬鹿だと言われ続けている僕の為にあるような言葉じゃないか。

 

『捕らえろ。なぶり殺しだ』

『『『サーッ! イエッサー!!』』』

「チクショー! 絶対捕まってたまるか! 僕は姫路さんに会うまでは死ねないんだぁ!」

『『『上等だーーっ! 覚悟しやがれ糞がぁーーーーーーっっっ!!!』』』

 

教室から一目散に走り出す。何なんだ何なんだ今日は!

風邪を引いて体調が悪いっていうのに現在進行形で命まで狙われてしかも姫路さんへの告白の返事も考えなくちゃいけないとかこれどんだけ人生ベリーハードモードなんだよ!

 

 

 

 

「……いや、まさか本当に告白されていたとは、さすがに驚いた」

「マジだったのじゃな。しかも今の時期にとは。明久もいろいろ大変じゃ。……む? いつのまにかムッツリーニの姿を消えておるぞ」

「あいつなら異端審問会の連中と一緒に明久を追いかけて行った。あいつも連中の仲間だからな。…………おい木下」

「何?」

「何ってお前……。鏡を見てみろ。顔、すごいことになってるぞ」

「…………なんでもないわよ」

 

 

 

 

 

 


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