バカとテストと召喚獣IF 優子ちゃんinFクラス物語   作:鳳小鳥

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問28 坂本雄二の戦略

「えーと、そういうわけで……」

「アタシ達、付き合うことになりました」

 

姫路さん。優子さんとの様々な想いが交錯した昨日から一日が経った翌日の学校の屋上で、僕と優子さんはいつものメンバーの前で恋人宣言をした。

 

「なんだ。俺はてっきり前から付き合ってると思ってたが違ったのか」

「え!? そんなに僕分かりやすかった……?」

「バレバレだ馬鹿。あれで隠してるつもりだったのか? まあとにかくおめっとさん」

「ワシは自分のことのように嬉しいぞい。身持ちの硬い姉上にもようやく心を許せる人ができたのじゃな」

「ちょ!? 秀吉アンタなに言ってるのよ!」

「事実じゃろう」

「う……」

「ともかくじゃ。おめでとうじゃ二人とも」

「…………おめでとう」

 

みんな口々に祝福の言葉を掛けてくれる。最初は照れくさかったけど言ってよかった。

ちなみに場所を屋上に指定したのはクラスのみんなには秘密ということにしているからだ。今朝登校して一番に昨日姫路さんに振られたということして異端審問会の攻撃を退く事で来た。だがこれでもし今度は優子さんと恋人同士になったなんて知られたら今度こそ本気で殺しに掛かってくるであろうことは想像に難くない。

なので友人の間にだけひっそりと伝えておこうと思って今のような場を設けたのだ。

 

「二人が恋仲になるのは結構だが、教室でも度を越していちゃいちゃするんじゃねえぞ。いくら俺でも妬みでぶち殺したくなるからな」

「教室ではこれまで通りにするって。じゃないと他のクラスの連中が怖いしね」

「…………つまり教室外ではいちゃいちゃすると。盗聴器を増設する必要がありそうだ」

「それは是非一度聞いてみたいのう」

「ムッツリーニ。撮れたら俺にも見せてくれよ」

「…………(こくん)」

「何を平然と君達は盗聴しようとしてるの!? 絶対見せないからね!」

「土屋君って普段学校で何してるの……?」

 

こいつらの手に掛かれば校内を隅々まで監視することなど朝飯前にやってのけてしまうからなぁ。次から場所に気をつけて二人でいちゃいちゃしよう。

 

「………………」

「美波? さっきから静かだけどどうしたの?」

「別に……」

 

何故か一人離れたところでふてくされた美波に声を掛けると素っ気無い返事と共にそっぽを向かれた。なんだろ。自分が独り身だからこういうのはやっぱり面白くないのかな。

 

「ウチ、先に教室戻ってるから」

 

そんなことを考えているうちに、僕らを置いて美波は一人で校舎で戻ろうと歩き出した。やはり怒らせてしまったらしい。女の子って難しいな。

 

「待ってよ美波! どうして先に行っちゃうの? 僕何かした?」

「あんたは──っ!? …………やっぱりいい。おめでとう二人とも。せいぜいお幸せにね」

 

激昂するかと思うと、まるで諦めるように嘆息して美波は僕らに背を向ける。

 

「美波、どうしちゃったんだろう……」

 

肩を震わせて校舎に向かって歩く美波の後姿は、何故か泣いている様に見えた。

僕は心配になり駆け寄ろうと動き出した瞬間、隣の優子さんがそれを腕で阻んだ。

 

「吉井君はここにいて。美波とは……アタシが直接話をするから」

「そう? じゃあ悪いけどお願いするよ」

「えぇ。それじゃあアタシもちょっと抜けるわね。後は試召戦争なり話を進めておいて」

 

それだけ言い残して優子さんも校舎の中に消えていく。

まあ同じ女の子同士の方が話しやすいこともあるだろう。もしかしたらそう思って優子さんは気を使ってくれたのかもしれない。

美波、機嫌治ってくれると良いな。

 

「修羅場だな」

「修羅場じゃの」

「…………血の匂いがする」

「三人とも何言ってるの?」

 

気のせいだろうか、さっきから背筋に悪寒を感じるんだけど……。

 

「島田のことは木下に任せるとして、俺達はこれからの話をしよう」

「試召戦争のこと?」

「そうだ。──昨日BクラスとCクラスが試召戦争をし俺達の予定通りBクラスが勝った。結果としてCクラスは一段階下Dと同等の設備に落とされBクラスはそのままAクラスに牽制した。それが昨日の戦争の一連の顛末だ」

「ということは、今日にでもワシらがAクラスに宣戦布告することも可能なのじゃな」

「そういうことだ。秀吉の言う通り俺達は今日Aクラスに宣戦布告する。正真正銘、これが最後の戦いだ」

「そっか。いよいよなんだね」

「…………緊張する」

 

ムッツリーニと同じように、僕の体にも不思議な震えが走っていた。これは武者震いかな。

 

「ここまできた以上、絶対に負けは許されねえ。その秘策も用意してある」

「秘策って?」

「それを今から説明する。まず対決の内容だが、これは科目を限定するつもりだ」

「限定じ? つまり今までのような戦争ではなくて勝ち抜き勝負で挑もうと言うのか雄二よ」

「その通りだ。……はっきり言って、俺達が正当法で挑んでも100%Aクラスには勝てん。だから根本的な勝負内容の変更をする。これならある特定科目については滅法強い生徒がいるFクラス(うち)にも勝機はある。木下の編入を加味するなら理想としては五対五のシングルマッチがベストだ」

「保健体育のムッツリーニとかだね。……あれ? でもそれ以外はどうするの?」

 

五対五ということはムッツリーニと優子さんとあともう一人誰かがAクラスを倒さなければならない。だけど僕達にはそこまで点数を持った生徒はいない。

 

「…………数学の島田は?」

「島田の数学は調子のいい時でも200点弱。Aクラスの下の中って所だ。人数を限定する以上向こうも相当高い点数を保持している人間を起用してくるだろうから、島田ではちょっと力不足だな」

「じゃあどうするのじゃ? ワシも古典は中々じゃがAクラスほどではないぞい」

「わかっている。だから最後は俺がやる。戦うのは俺と翔子だ」

 

雄二と霧島さんが一騎打ち? なにをバカな。

向こうは学年主席。こっちは最低ランクFクラスの代表で落ちこぼれの元神童だよ? そんなの戦う前から負けているじゃないか。

 

「明久。疑問が顔に出てるぞ。──確かに俺の点数はそれほど大したものじゃない。だからさっき言っただろ。科目を限定するって」

「それって雄二にもムッツリーニのような一科目だけ強いものがあるってこと?」

「いや、ない。俺のテストはほとんど点数は横並びだ。得意科目も苦手科目もないに等しい。だが科目を限定するっていうのは単に教科を一つに絞るだけじゃないんだ」

「…………というと?」

「俺が翔子に申し込むのは日本史。──それも小学生の範囲で100点満点の上限ありでな。召喚獣を使わない純粋な点数勝負だ。試召戦争ってのは積もるところテストの点数を使った勝負ってことだから、その範囲を逸脱しないものならルール違反にはならないはずだ」

「なんじゃと? じゃが小学生レベルじゃとどちらも100点を取れて当たり前じゃろう。それでは勝負にならんぞい」

 

秀吉は当然のように疑問を投げかける。僕もそう思う。

しかし、それを否定したのはムッツリーニだった。

 

「…………違う。逆に些細なミス一つで敗北するということだ」

「あっ、そうか!」

「……なるほどのう。注意力が勝敗を別つのじゃな」

「そういうことだ」

「でもさ雄二。あの学年主席の霧島さんがそう簡単にミスしてくれないと思うんだけど」

「そこは織り込み済みだ。小学生レベルの問題程度あいつなら余所見をしながらでも満点を取るだろう。だからただで勝負はしない。俺は翔子の弱点を知っている、これさえ突けば確実に勝てるものがな」

 

やけに自信満々に答える雄二。よほどの信頼性の高い手段なのだろうか。

 

「それは──大化の改心だ」

「大化の改心? 誰が何をしたってやつ? そんなの小学生の問題で出たっけ?」

「違う。そんな難しいものじゃない。もっと単純に年号を問う問題だ。大化の改新が起こったのは645年だが、いろいろ理由(わけ)があってアイツはこれを625年と間違えて覚えているんだ。それさえ出れば俺は勝てる。確実にだ」

 

雄二は口の端を吊り上げてニヤリと笑った。

なるほど。理屈はなんとなく分かった。これで雄二が勝てば三対二で僕らの勝ちになるんだね。

 

「心配なのが姫路と木下の組み合わせなんだが。それはここで議論しても仕方ないからまた本人がいるときにでも話を聞くか」

「そうだね。──ところで雄二。さっきから気になることがあるんだけど」

「どうした? 何か不安要素でもあったか?」

「そうじゃなくて。雄二って霧島さんと仲いいの?」

 

さっきから翔子とかアイツとか妙に馴れ馴れしい呼び方をしている。ひょっとして顔見知りなのだろうか。

……そういえば昨日トイレの個室で姫路さんと霧島さんの話を盗み聞きした時に霧島さんはいかにも好きな人がいるような感じの話をしていた。まさかそれが雄二なんてことはあるまいな……?

 

「ああ。あいつとは幼馴染だ」

「………………」

「どうした明久。なんとも言えない微妙な顔をして」

 

そうか。幼馴染なのか……。僕がまだ異端審問会の一員だったら迷いなく刃を仕向けていたところだが、残念だな。

 

「いや、雄二を異端者として断罪できないのがちょっと悔しいだけだよ」

「それやったらお前と木下の関係をクラスに暴露してやる」

「よし雄二。ここはお互い休戦協定といこうか」

「懸命だ」

 

ひとまず僕の保身の為に(利用価値があるまでは)雄二との友情を高めあわないとね。

 

「そういえば雄二とムッツリーニは明久と姉上の交際を宣言した時にそれほど暴れなかったのう。いつもなら明久の幸せは全力で妨害しておったのに」

 

秀吉が思い出したように言う。

明らかに友達としてありえない行動を平然と口にしているが、僕らの間で割と普通のことだったのでそのことに関しては誰も驚かなかった。

 

「明久個人の幸せなら今まで通り全力で阻んでやったんだがな。今回は姫路や木下優子のことも絡んでいろいろややこしいから下手に突くと取り返しのつかないことになりそうでやめておいたんだ。感謝しろよ明久」

「雄二。それはつまり場合によっては僕を処刑することに迷いはないってこと?」

「当たり前だろ。何言ってるんだバカ。俺がお前の幸せなんて許すはずないだろう」

 

この野郎。試召戦争中じゃなければ全力で殺しに掛かってるところだ。

 

「…………俺はそもそも許した覚えはない」

「なんだって?」

「…………明久。忘れていないか?」

 

珍しいムッツリーニの真面目な顔。な、なんだ。コイツはなにを考えている?

 

「ムッツリーニ。君は何を企んでいるんだ……?」

「…………これを」

 

懐からポータブル機器を取り出すムッツリーニ。

 

カチッ

 

『ゆ、ゆゆゆ優子さん!? いい今のってきききキス──っ!?』

『ちゃんと姫路さんに顔を合わせて言える様にアタシからのお守り。……い、一応アタシのファーストキスなんだからありがたく思いなさいよ──っ!)』

 

ピッ

 

「よしムッツリーニ取引だ! 僕の秘蔵のエロ本を十冊進呈しよう! だから早くその機械をこっちによこすんだ! ついでに外部保存したメモリーもすべて渡せ! 僕と優子さんに関連する音声全部だ! 家に置いてあるパソコンのハードディスクとDドライブの消去も忘れるなよ!」

 

なんてものを録音をしてるんだこいつは!? これが異端審問会に渡ったら僕の学園生活と優子さんとの華々しい恋人関係がまるごと潰れかねない戦略級の爆弾じゃないか!

これはなんとしてもすべて回収して僕の管理下に置かなければ。いざとなればコイツを殴り殺してでも奪いとる!

 

「へぇ。明久と木下はキスは済ませてたのか(ニヤニヤ)」

「ワシは昨日姉上に聞かされておったので知っていたが、うーむ。なかなかに愛い会話じゃのう(ニヤニヤ)」

「そこ! さっきから気味の悪い笑顔をしない!」

「照れる事はないぞ明久。これで一歩大人の階段に上がれたんだからな(ニヤニヤ)」

「その笑いがむかつくんだ!」

 

急に劣勢な立場に置かれてしまった。というか優子さんも何で秀吉に言っちゃってるのさ!

 

「いやいや良い物を聞かせてもらった。これは後々までネタにできるな」

「くっ!? こうなったら。雄二! キサマも何か恥ずかしいエピソードを晒せ!」

「誰か晒すかアホ」

 

なんてヤツだ。ここは喜んで共に羞恥の地獄に落ちるのが友達であろうに!

 

「しっかしよりにもよってこの中で一番最初に彼女持ちになるのが明久だとはな。別に彼女がほしいわけじゃないがその一点だけなんとなくむかつくな」

「ワシは元々姉上と同じような顔の所為で男子にばかり告白されて女子に振り向かれた事はないし、ムッツリーニは女子と関われば血の雨が降るのじゃからはじめから勝負にならんが、雄二ならその気になれば女の一人や二人作れるのではないか?」

「バカ言うな秀吉。俺はまだ自由でいたいんだよ。恋人なんて雲みたいにあやふやなもんに縛られるのはゴメンだ」

「…………つまり好きな異性はいないと」

「ああ。いないし。これから作る予定もない」

 

きっぱりと断言する雄二。らしいと言えばらしい返事だが。そんな傲岸不遜な態度では一生彼女なんて出来ないと思う。

……雄二は霧島さんと幼馴染と言ってたけど、霧島さんはずっと雄二と同じ小学、中学、高校と通っていたんだよね。だとすると彼女は雄二のことをどう思っているんだろうか。

なんとなく雄二と霧島さんの境遇が僕と姫路さんに似ている気がして気になった。

 

 

 

 

 


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