バカとテストと召喚獣IF 優子ちゃんinFクラス物語 作:鳳小鳥
なんだかよくわからない展開が起こって美波とデートすることになった僕。
「さ、アキ。行くわよ」
「そうだね……」
放課後になった途端美波が僕の席までやってきて天真爛漫な笑顔で手を引いてきた。
ど、どうなってるんだ……。何で僕が美波とデート? どうしてこうなった……。
改めて考えてもさっぱり理解できない。おかしい。僕には優子さんという立派な彼女がいるというのに。何故僕は美波と手を繋いで立ち上がっているんだ。
これはまさか世界線が変わったのか……。
「じゃあ優子。ちょっとアキ借りるわね」
「好きに使って。楽しんできてね」
「うん」
二人の間で謎の取引が交わされていた。ちょっとちょっと! 何で僕の知らないところで僕の身柄の所有権の売買が行われてるのさ!
「優子さんこれは一体どういうこと! 何で僕美波とデートしなきゃいけないの!?」
「うーん。成り行き?」
適当だった。
成り行きであっちへこっちへと連れまわされる僕の人権はどこにいったのジーザス。
「ほらアキ。早くしなさいよ。時間がどんどんなくなっちゃうでしょうが」
「で、でもさ美波。ほら見ての通り外は雨降ってるんだよ? デートって言ってもこれじゃ出来ないんじゃないかな?」
水滴に覆われた窓の方を指差して言う。
お昼頃から段々と雲行きが怪しくなってきた天気は放課後の今になって大雨に見舞われていた。これではとてもデートなど出来る状態ではないだろう。
「大丈夫よ。傘あるし」
「いや、そういう問題じゃなくてね。もっとこう、雰囲気的な……」
傘差してデートってなんか変な感じじゃない?
「ああもう一々うるさいわね! いいからアキは黙ってウチとデートすればいいのよ!」
「滅茶苦茶な上に横暴だ! は、離して美波! これじゃデートじゃなくて連行だよ! ストップ! ドクターストップ! これ以上出費がかさむのは嫌ぁ──!」
抵抗も空しくずるずると引きずられていく僕。
何から何までわけがわからない! 美波と優子さんの間で何があったって言うんだ。
pipipipipipipipi!
教室の外に連れて来られた辺りでポケットの中の携帯が鳴った。
「ちょっと待って美波。メール来たから、一旦手を離してくれない?」
「メール? しょうがないわね」
ようやく腕を解放されて安心の息を吐くと僕は携帯を開いてディスプレイに眼を通す。
送ってきたのは──優子さん? なんだろう。
『From:木下優子
To:吉井明久
Sub:急にこんなことになってごめんね。事情は後で話すから今は美波を楽しませてあげて。私のことは気にしなくて良いから
P.S. 言っとくけど浮気は厳禁だから。きちんと分別を弁えた行動をとるように』
「……どういうこと?」
メールの内容の意味も優子さんの恋人に関する判断基準もさっぱりわからない。
取りあえず不順異性交遊を超えない範囲で美波と遊んであげればいいということだけは伝わった。
でもこれ……デートじゃなくて単なる友達同士の遊びだよね?
☆
昇降口に着いても外はやっぱり雨が降り注いでいた。
「アキ、傘持ってるの?」
隣で花柄の可愛らしい傘を持った美波が僕の方を向いて問いかけてきた。
「僕は折り畳み傘持ってるから。大丈夫だよ」
「そっか。じゃあこれはいらないわね」
「は?」
バキバキゴキッ
目の前で美波は何のためらいもなく突然花柄の傘を両手でへし折った。
何が起こったのか僕は咄嗟に理解できなかった。というか、理解したくなかった。
この場合美波があっさりと傘を折ってしまったことに対して驚くべきか、両手の腕力で傘を折ってしまう美波の怪力っぷりを驚けば良いのか判断に困る。
「ちょっ!? 何やってるの美波!? 今日は様子がおかしいと思ってたけどついに正気までなくしてしまったの!?
さっきから意味不明な出来事の連続だ! もう僕の知りうる常識を完全に超えている。本当に今日の美波はどうしちゃったんだ!?
その美波は驚愕する僕を無視して何故か恥ずかしそうに僕の手の折り畳み傘に眼をやっている。
「だ、だって。それがあれば傘二本もいらないでしょ……」
「それ? ──ひょっとしてこの折り畳み傘のこと?」
「……(こくん)」
頬を赤く上気させて静かに頷く美波。だからって別に壊す必要はないと思うんだけど……。
ん? 待てよ。てことはこれって……相合傘!? 僕と美波が!? そんなバカな!
「駄目だよ美波! そういうのは……恋人同士がやるものであって僕と美波はやっちゃいけないと思うんだ!?」
「優子のこと気にしてるの? 大丈夫よ。ちゃんと許可取ったし」
「許可!? そんなのあるの!?」
てことはこれは優子さん公認のことなのか!? ますますもって意味が分からない!
このデート(仮)は何の目的で行っているんだ。優子さんと美波は僕に何をしようとしてるんだ。
「「………………」」
ザーザーとうるさく振り続ける雨のグラウンドを二人で歩く。
結局、美波に押し切られる形で僕らは一つの折り畳み傘で雨をしのぐことになってしまった。
「み、美波……。近いよ。あとなんかいろいろ当たっちゃってるし……」
「し、仕方ないじゃない……。これ狭いんだから」
折りたたみの傘はあくまで緊急用の傘であって、普通二人も入れるようには出来ていない。なので必然的に僕と美波は密着して雨から逃れるハメになっていた。
う……、美波の体柔らかいな。いくら普段男っぽいと思っていてもこうして肩と肩が触れ合うほど至近距離で美波に触れるとやっぱり美波も女の子なんだと無理矢理実感させられる。雨の所為とはいえこんな状況ではどうしても女の子の体というものを意識してしまう。僕にはもう心に決めた人がいるのに。優子さんごめんなさい!
「アキ、濡れてない?」
「僕は大丈夫だよ……。美波こそ濡れないように気をつけてね」
「……うん」
本当はちょっと肩がはみ出てるんだけどそれは言わぬが男のプライド。
「ところで、デートって言うからにはどこか行くところは決めてあるの?」
僕は美波の体の感触から気を逸らすため、適当な疑問を投げかけた。
「ないわよ」
あっさり言う。無計画であんなこと言ったのか……。
「そういうのって普通男が予定を決めて女子を楽しませるものじゃない? だからアキが決めてよ」
「いやいやいや。それは違うよ美波。それは男子から誘って且つある程度の予算があり、そして数日の猶予があって始めてできることなんだよ? 今みたいに強引に引っ張られてどっか連れてけなんて言われたってそりゃ無理だって。僕デートスポットとかまだ分からないし」
ちなみに僕の全財産は2544円(食費込み)だ。とてもじゃないが女の子を満足させてあげられるようなことはできない。不甲斐なくは思うけど、僕はこの残金で後二週間あまり過ごさなくてはいけないのだ。無駄は極力なくしたいと考えるのが普通だろう。
「はぁ? あんたそんなんで本当に優子と付き合えるの? デートもまともに出来ないなんて男として最悪よ」
「うぐっ それを言われると辛いけど。まだ付き合って一日しか経ってないのにそこまでカバーしきれないよ。これでも生まれて始めて彼女できたんだから男としてしっかりしないといけないことは分かってるんだけど。来月の仕送りがくれば今度はちゃんと計画して生計立てようと思ってるし」
「ふーん。つまり明日から本気だすってやつ?」
「それを言わないで!」
くっ!? 美波には痛いところばかり突かれる。ひょっとしてわざとなのか?
「それじゃ映画見ない? ウチちょっと気になるヤツがあるのよねー」
「映画か……」
これから映画を見るとなれば学生割引でも1000円……。ちょっと厳しい。
できればもう少し財布に優しいところを選択したいな。
僕も美波も楽しめるような場所かぁ。どこかあるかな?
あっ。そうだ!
「美波。あそこに行かない?」
「え?」
☆
そんなわけで僕らが訪れたのは学校からちょっと離れたゲームセンターだった。
「ゲーセンなんてウチ久しぶりかも」
店内に入った美波が物珍しそうに周囲のコインゲームやクレーンゲームの台を見回しながら呟く。そのキラキラした目や表情を見てるとここのチョイスは間違えてなかったみたいだと確信できた。
「二人で来たんだし、せっかくだから対戦できるヤツがいいよね」
「いいわね。日ごろの鬱憤を晴らす良い機会だわ」
美波の鬱憤って何だろう。出来れば僕に関わりのないことであると祈りたい。
「美波は何かやってみたいのとかある?」
「えーとね……。あっ! これなんてどう?」
美波が指差したのはエアホッケーの台だった。大体どこのゲームセンターでもあるやつだ。ルールも相手エリアのゴールに丸いパックをシュートするだけの単純なものなので最初に遊ぶゲームに最適だろう。
「うん。じゃああれにしようか。ルールは分かってるよね」
「当然。アキになんて負けないんだから」
「ほほぉ。言ったね美波……。僕の実力を見せてあげようじゃないか」
「な、何よその得意げな顔は……。いくらゲームだからってエアホッケーに得意も不得意もないわよね……。絶対勝ってやるんだから」
ふ、甘い。甘いよ美波。ことゲームで僕が負けるなんてありえない!
学校とは違いこのゲーセンはいわば僕のホームグラウンド! 勉強は出来ないけどゲームの腕なら僕は間違いなくAクラスだ。ここで一つ美波の悔しがる顔を拝見するのも悪くないな。
さっそくテーブルの左右の配置にそれぞれ付き百円を投入する。これでパン一個が買えると思うとちょっと悲しいけど今は考えないようにした。
硬貨を入れると中央のディスプレイに『0 VS 0』の表示が現れ、僕のところにパックが落ちてきた。どうやら僕が先行らしい。
マレットを右手に構えパックを盤面に配置する。
「美波、準備はいい?」
「勿論。どこからでも掛かってきなさい」
対面の美波もマレットを構えて僕のエリアのパックを凝視した。
ここで初心者なら外壁に反射させて霍乱を狙うんだろうが、それは上手くない戦法だ。
どこに反射して軌道を描くか正確にわからない以上、自滅のリスクが大きい外壁の反射の利用は得策じゃない。寧ろここは一直線に、相手の反応速度越える勢いでゴールに向かって打つのが最善手だ。
僕はパックを何度が移動させて美波の防御を掻い潜れる隙間を狙ってパックを打った。
「はっ」
カンっ!(美波エリアゴール手前の壁に激突)
ガコン!(僕エリアのゴールにパックがシュートされる)
-----------------
ポイント
僕 0
美波 1
-----------------
僕の打ったパックは見事に美波のゴールちょっと横の壁に反射してそのまま僕エリアのゴールに入ってしまった。
「あれ……?」
「いきなりオウンゴールって。アキ、やっぱりエアホッケー苦手なんじゃない?」
ち、違う! 今のはちょっとミスっただけだい!
「くそ。もう一回だ!」
取り出し口からパックを出してもう一度盤面に配置する。
さあ、今度こそ。いけ!
「やぁっ!」
カンっ!
ガコン!
-----------------
ポイント
僕 0
美波 2
-----------------
「あの、ウチまだ一回も打ってないんだけど……」
「うわぁんなんでー!?」
またオウンゴールを決めてしまった……。どうして! 僕の何がいけなかったの!
力も速度も完璧だったはずなのに!
「あーあ、この調子だと楽勝かもね」
「くっ……。本番はここからだよ美波。今のはちょっとしたハンデさ」
「目が泳いでるんですけど。ホントにアキってゲーム上手いの?」
拙い、美波に馬鹿にされている。勉強は駄目なのにこれでゲームでも美波に負けてしまったら僕の立つ瀬がない。ここからは本当に真剣に勝負しなきゃ!
パックを盤面に置き、僕は今度こそ美波のエリアの中央を狙ってマレットを弾いた。
「えいっ!」
その10分後……。
-----------------
ポイント
僕 10
美波 7
-----------------
「やったぁーー! 勝ったーっ!」
「あぁぁ負けたぁーっ!?」
中央の画面には僕の勝ちを示す『You win』の文字が表示されている。
対面側では美波がマレットを手にしたまま腰を落としてショックを受けていた
かなりぎりぎりだったけど、なんとか僕の得意分野の尊厳は守られてよかった。
「今の偶々よ! 次は絶対勝つんだから」
「オッケー。じゃあもう一度勝負だ」
もう一度百円玉を入れて僕らはエアホッケーを再開した。
それから結局計三回ゲームやって、すべて僕が全勝した。やっぱりゲームでは誰であろうと負ける気がしないね。
「も、もう一回よ! 次は負けないんだから!」
「えぇ!? いや美波。せっかく来たんだからもっといろいろなものを見て回ろうよ。ホッケーだけやっても疲れちゃうよ?」
あと僕のサイフが薄くなっちゃう。
「何よ。勝ち逃げする気?」
「そうじゃなくって。一応これってデートなんでしょ? ならホッケーだけしててもお互い楽しめないんじゃないかなって」
「デート!? ……そうだったわ、デートだもんね……。ウチとアキの……えへへ」
「?」
急に恍惚としてデート……デート……と独り言を呟き始める美波。
また様子が変になったけど。今更気にしても仕方ない。
エアホッケーのテーブルを後にして、次に僕らがやってきたのは占いゲームだった。
適当にゲーム台を見て回っていた時に突然美波が「これやりたい!」と僕の手を引っ張って選んだゲームである。
「占いって。美波、何を占うの?」
「い、いろいろよ! いいでしょ女の子は占いが好きなんだから!」
「そういうものなのかな。まあいいけど……。これって僕もやるの?」
「当たり前よ。これ二人用だし。どうせ100円なんだから試しに占ってみてもいいじゃない」
僕の返事を待たずに美波は百円を投入する。ま、美波が楽しいんならそれでいっか。
「えーっと、名前は島田美波で誕生日は……」
宇宙空間のような画面の中に現れた文字を必死に追いかけて入力する美波。
なんだかその表情がさっきのエアホッケーより真剣に見えるのは気のせいだろうか。
「ほら、次アキの番よ」
「え? あぁそうだね。えーっと……。名前は吉井明久で生年月日は10月18日で血液型……」
必要事項を入力し終えると画面の中で僕と美波の名前がくるくると宇宙空間の中を回転して、やがて中央で重なり合い眩いほど光り輝く。
『最後に、二人で中央の水晶に手を置いてください』
言われたとおり、僕と美波は水晶玉に手を置いた。
……今気づいたけど、こういうのって普通恋人同士がやるものじゃないのだろうか。
多分出てくるのも恋愛運とかそんな感じのやつだろうし。これで変に脈のある結果が出たら気まずいな……。
本来なら、僕の隣にいるのは美波じゃなくて優子さんのはずなのに、僕何やってるんだろう。まあこのゲームセンター結構面白いの多いし今度優子さんと一緒に来よう。
『結果が出ました。プリントアウトしますので少々お待ち下さい』
アナウンスと共に取り出し口の辺りから印字の音と共にレシートのような用紙が出力されてくる。
美波はいち早くそれを取ると、真面目な表情で中身を目で追っていた。
どんな結果が出たんだろう。
「どうだったの美波?」
「……んー。なんかよくわかんない。はいアキ」
イマイチな顔の美波から用紙を受け取る。どれどれ……。
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|よしい あきひさ|
貴方は女の子の気持ちの機微に少しだけ鈍感なようです
きちんと本音を理解できるように、口にした言葉をそのまま鵜呑み
にせず、彼女の目や表情をよく観察することで本当の気持ちを理解
してあげると、より親密になれるでしょう
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|しまだ みなみ|
貴方は怒りっぽく照れやな性格が災いし天邪鬼な言葉ばかり出てし
まい中々本当の気持ちを伝えられずにいるようです。大事な場面で
はその恥ずかしさを克服することできちんと彼に向き合い本当の自
分を見せることが出来れば、今よりも彼との仲は進展するはずです
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なんだこれ。本当によくわかんないな。
まあ占いなんて所詮こんなものだろう。
「はぁ、ちょっとは期待してたのに。残念」
横では占いの結果に不満がある美波が肩を落として落ち込んでいた。
「まあゲームだし落ち込んでも仕方ないよ。気を取り直して次のゲームを探しに行こう」
「そうね。次はクレーンゲームのあるエリアに行きましょ」
「了解」
美波に頷いて占いのゲーム台から離れる。
それから少し歩いて、レースゲームや格闘ゲームのコンテナを見渡しながらクレーンゲームがあるエリアを探していると、近くで枕を思い切り床に叩きつけたような大きい音が僕の耳に届いた。これはパンチングマシーンの音か。誰かストレス解消でもしてるのかな。
僕はついそっちの方に目を向けてパンチングマシーンの台に視線を送る。
すると、そこには見たことのある男子生徒が力いっぱい拳を振るっていた。
げっ!? あれは!
「くそ! Fクラスの連中……特に坂本と吉井。あいつらの所為で俺は──はぁ!」
Bクラス代表の根本君。彼が額に汗を掻きながら全力でサンドバックに拳を打ち込んでいた。なんでここにいるの!? ていうか何してるのあの人! こんなところで会うなんて予想外すぎる! しかもなんか僕と雄二の名前を叫んでるし。これは見つかったら面倒くさそうだ。
「アキ? どうしたの?」
「隠れて美波!」
「きゃあっ!?」
咄嗟に美波の体を抱えて近くのゲーム台の影に隠れる。
「ちょっと何なのよいきなり!」
「痛っ! 待って待って美波落ち着いて! 今向こうに根本君がいるんだ!」
「え……っ。根本!?」
「うん? ……今吉井と島田の声が聞こえた気がしたが」
「っ!?」
「……気のせいか」
ふぅ、どうやら向こうは僕達のことが見えていないらしい。
あ、危ねぇ……。ここで気づかれたら絶対絡まれるだろうな。根本君がゲームに熱中してる間にさっさと退散しよう。
「あぁクソ! 全然収まらねえ。こうなったらここの記録を全部俺の名前で埋め尽くしてやる。あと18回プレイだ!」
なんだかおかしな方向に熱中し始めた根本君を置いて僕らはそそくさとその場から逃げ出した。
☆
根本君から逃げ出して僕らはようやくクレーンゲームエリアにたどり着く。
さっきのアーケードエリアとは違って、こっちはカップルや女同士の友達の割合が多く、みんなぬいぐるみのUFOキャッチャーなどに目を光らせていた。
さて、僕らはどれをやろうかな。
「あ、ねぇ見てアキ。これ見たことない?」
「うん?」
美波が一番最初に目を付けた台の中には、確かに見たことのある狐っぽいキャラクターのぬいぐるみがケースの中に散りばめられていた。
これは如月ハイランドのマスコットキャラクターだ。確か名前はノイン……だっけ。
前にこれの大きいやつを美波の妹の葉月ちゃんに買ってあげたことがあったからまだ覚えていた。
「美波。これやろっか。うまく取れたら葉月ちゃんも喜ぶんじゃない?」
「確かにそうかも。アキにしてはいいアイデアじゃない。よし、じゃあ一つチャレンジと行きますか!」
意気揚々と美波は百円を投入しレバーを操作する。
そしてケースの中でも一番大きいぬいぐるみの上で、美波はアームを降下させた。
しかしアームの力が弱いようで、うまく引っかかりはしたもののすぐに重さに耐え切れず外れてしまった。
「なんでよ! 今ちゃんと掴んだのに!」
「美波、それじゃ駄目だよ。大体こういうクレーンゲームに入ってる大きい景品は最初から取れないようになってるんだ。だから取り出し口の近くにある小さいやつを狙うと良いよ」
「え!? そうなの!」
「うん」
今度は僕がお金を入れてレバーを操り、すぐに落とせそうな近くのちっこいぬいぐるみにターゲットを絞ってアームを落とした。
狙い通り。ぬいぐるみはうまくアームに引っかかりそのまま穴までうまく移動して落とすことが出来た。
「よし、一個ゲット」
取り出し口から掌に丁度乗る程度のサイズのぬいぐるみを手に取り、それを美波に手渡した。
「はい美波。これ葉月ちゃんにあげて」
「え、いいの?」
「うん。僕が持ってても意味ないし、葉月ちゃんなら喜んでくれると思うから」
「アキ……。ありがとう。…………アキからもらったぬいぐるみ。また一つ増えちゃった」
美波はまだぽつぽつと小さい声で独り言を呟き始める。
今日の美波は本当によくわからない。いや、優子さんもなんだけど。
今の所楽しんでくれてるようだけど、これで本当にいいのかな。僕は美波に何をしてあげれば良いんだろう。優子さんは何を思って僕と美波をデートさせたんだろう。
「アキ、ウチも一つ取りたい。どれを狙えばいいの?」
「そうだね。あの口からちょっと後ろのやつとかいけそうだよ」
「よし。あれね。ウチだってやってやるんだから!」
ケースの中を凝視しながら慎重にレバーを動かす美波を微笑ましく思いながら、僕は美波の横姿を眺め続けた。
それから僕と美波は30分ほどゲームセンターで遊んだ。