バカとテストと召喚獣IF 優子ちゃんinFクラス物語   作:鳳小鳥

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問36 最後の戦い/2

──ある女の子の独白。

 

()はその大事な試験の日、普段から人より体が弱いことや緊張でストレスを抱えていた影響で体調を崩してしまいました。

それでもその日は二年生の一年間を過ごす教室を決める大事な試験なので休むことが出来ず万全とは言いがたい状態でテストに挑むことになったんです。

当然、肝心のテストも集中出来ずあまり良い結果は望めそうもありませんでした。

そんな焦りや焦燥感が限界に近づいて、意識が朦朧と仕掛けた時。

ふいに二つほど隣の席からガタン!と大きな音がしたんです。

まるで目の前で風船を割られたような衝撃に体が驚いて音のした方に顔を向けると、肩ぐらいの髪の長さの女の子が顔を真っ赤にして倒れていました。

その姿はまさに数秒後の自分を姿を見せられたような気分で、私は助けることも出来ずつい固まってしまいました。

すると、今度は倒れた女の子を庇うように私も良く知っていた一人の男の子が先生を相手に大声で啖呵を切っていました。

結局倒れた女の子とその男の子は教室を退室され、テストは続行されましたが、私は男の子の怒りに圧倒されてその後も動くことが出来なかったんです。

 

結果的に、私はテストが終わった後すぐに保険室に向かいベッドで一時間だけ休ませてもらってことで体調が少しだけ良くなり次のテストを受けることが出来ました。

一科目だけ試験を休むことになりましたけど、なんとか成績の良いクラスに入ることが出来たんです。

 

ですけど、なんだかその女の子の犠牲の所為でテストを最後まで受けられた気がして、私はあの時倒れた人に申し訳ない気持ちになりました。

 

 

 

        ☆

 

 

 

《Aクラス専用モニター画面》

 

|戦歴|

-------------------------

Fクラス VS Aクラス

島田美波●  佐藤美穂○

土屋康太●  工藤愛子○

坂本雄二○  霧島翔子●

吉井明久○  久保利光●

木下優子□  姫路瑞希□

------------------------

 

 

        ☆

 

 

「それでは最終戦。姫路瑞希さんと木下優子さんの試合を行います」

 

高橋先生の開始宣言の下、アタシと姫路さんはステージの上に立った。

 

「こんにちは、木下さん」

「ええ。こんにちは姫路さん」

 

廊下でふと会った時のように気さくな挨拶を交わすアタシ達。

どこにでもありそうな何気ないアクションに、アタシは少し後ろめたさを感じていた。

当然だ。何せ事実上、姫路さんの想い人をアタシは横から掻っ攫ったんだから、姫路さんには恨まれて当然だし、こうして彼女と顔を合わせて話すことに居心地の悪さとか妙なプレッシャーを感じてしまうのも仕方ない。主に罪悪感とかそんなので。

それでも、アタシの中にある意地とか見栄が姫路さんから目を逸らすことを許さなかった。

 

「……不思議です。あれからそれほど時間が経ったわけでもないのに、こうして木下さんと顔を合わせてお話しするのが随分と懐かしく感じます」

 

しみじみと感じ入るように姫路さんは語る。

 

「そうね。アタシもそう思う。あの時からいろいろ変わったものね。貴方も、アタシも」

「そうですね。変わりました。いろいろと」

「……もう、学校に来ても平気なの?」

「はい。いつまでも家の中で塞ぎこんでいても仕方ないですから。両親や友達も心配しますし、何より、そのことで吉井君に心配をかけたくないですから」

「──そう。優しいのね。姫路さんは」

「違いますよ。私なんて、ただ臆病なだけです」

 

薄く微笑みながら姫路さんはそう言った。

 

「……そうかな。アタシにはそうは思えないけど」

 

もう姫路さんはアタシと吉井君が付き合っていることを知っているだろう。

今更、吉井君のことで姫路さんに対して謝罪や申し開きをするつもりはない。

吉井君を好きになったことに後悔なんて微塵もしていないし、初めて彼に想いを告げた時のアタシの決断は今でも間違いじゃないと信じてる。

そうじゃないと、アタシは自分の気持ちに嘘を吐いた事になるし。何よりあの時アタシを選んでくれた吉井君を侮辱してしまうから。

 

「木下さん。教科は何にしますか?」

「総合科目でお願いします」

 

高橋先生の質問に即答する。

姫路さんに苦手科目はないことは事前に知っていた。何より、学年次席と呼ばれた人の点数に興味があったからという上の選択だ。

 

「わかりました。それでは召喚を開始してください」

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

先生からの許可を得ると、アタシ達は同時に召喚の掛け声を叫び召喚獣を喚び出す。

すでに見慣れたアタシの召喚獣と、対面には重層な鎧と召喚獣の身の丈ほどの大きさの大剣を背負った姫路さんの召喚獣がフィールド内に現れた。

少し遅れてお互いの召喚獣の頭上に点数が現れる。

 

Fクラス 木下優子

総合科目 3999点

 

VS

 

総合科目 3999点

Aクラス 姫路瑞希

 

『ど、同点だぞ! あの学年次席と!』

『すげぇ。木下さんってあんなに頭良かったのかよ!』

 

観客席からどよめきや驚きに満ちた声が聞こえてきた。

姫路さんも同じように目を少しだけ大きくして点数を見ていた。

 

「同じ点数……。木下さんの頭が良いのは知ってましたけどここまでとは思ってませんでした」

「それはそうよ。アタシもこんな点数取ったの初めてだもの」

「え? どういうことですか?」

 

意外そうな顔をして問いかけてくる姫路さん。

 

「不思議とね。自分じゃなくて他人の為に頑張ろうと思うと今までよりもいろいろと上手くいくのよ。信じられないかもしれないけど」

「他人の……為ですか」

「ええ。多分、姫路さんなら分かるんじゃないかしら」

「……いえ、私にはわかりませんよ。今はFクラスじゃないですから」

 

自虐するようにはにかんで姫路さんは否定した。

 

「……確かに、アタシが軽率だった。人の気持ちなんてその環境によりけりだもんね」

 

何を言ってるんだろうアタシは。こんなこと姫路さんに聞いても意味がないのに。

やっぱり意識してなくても、あの環境で生活しているうちにアタシもFクラスのお節介精神が伝染ってしまったのかもしれない。それも悪くないけど、今は忘れないと戦いに支障をきたしてしまう。

アタシは意識を目の前の試合に切り替えて召喚獣を操り武器(ランス)を構えさせる。姫路さんも同じように大剣を両手でしっかり支えいつでも飛び出せるよう握り切っ先をこちらに向けていた。

アタシには吉井君のような召喚獣の高い操作技術はない。

向こうとも点数が拮抗している以上、することはただ単純に召喚獣を正面に突っ込ませて向こうよりも早く標的を貫くこと。

つまり、この試合は一撃で勝敗が決まる。

 

「姫路さん。準備はいい?」

「はい。いつでも」

 

その台詞を皮切りに床を蹴り真っ直ぐに飛び出した召喚獣が激突し、ステージ中央で二つの影が一つに重なった。

 

「──────」

「──────」

「──────」

 

音が止む。まるで神聖なる儀式を受けているかのように、呼吸することさえ躊躇らせる空気が教室内を支配した。

この結果如何で明確に勝者と敗者が決まる。

最後の激突によって皆が一様に固唾を飲みその結末を活目しようと教室が静まり返る中──。

 

Fクラス 木下優子

総合科目 2点

 

VS

 

総合科目 0点

Aクラス 姫路瑞希

 

姫路さんの大剣はアタシの召喚獣の肩を斜めに切り裂き、反対にこちらの武器が姫路さんの召喚獣の心臓に当たる部位を正確に貫いた。

召喚獣の生命力たる点数をすべて失い、姫路さんの召喚獣は動かぬまま霧が晴れるように消え去る。

やがて、止まった時間を再び動かすように、高橋先生が勝敗を告げる。

 

「しょ、勝者木下優子さん。──以上、三対二により試召戦争はFクラスの勝ちです」

 

『やったぁぁぁぁーーーー!!!!!!!!』

 

Fクラス陣営から今日最大の歓喜の喝采が巻き起こった。

 

『勝っちまった! ほんと勝っちまったよ!』

『なんだこれ……。夢か。俺は夢を見ているのか……』

『俺、今ちょっと泣きそうだ。やべぇ感動した!』

『Fクラスサイコォォー!』

 

台風のような勢いで勝利を喜ぶクラスメイト達。

それを見て、アタシはちょっぴりと肩の荷が軽くなった気がした。

 

「やったわ! ほんとにウチ達Aクラスに勝っちゃった!」

「ああ。俺達がただの無能集団じゃないってことが、ここに証明されたな」

「うん! 本当に夢みたいだ! Aクラスに勝てたんだ僕達!」

 

後ろでは吉井君と坂本君と美波が楽しそうに勝利の祝いに盛り上がっていた。

アタシもみんなの下へ行って一緒に喜びを分かち合いたい。

だけど、その前に話さなくちゃいけない人がいる。

 

「……負けちゃいました。木下さんは強いですね」

「ええ。でも、アタシ一人の力じゃない。みんながいたからAクラスに勝つことが出来たのよ。それにアタシには過去二回の試召戦争で召喚獣の扱い方をある程度知っていたから、その分の有利だっただけ。同じ条件ならどうなるか分からなかったわ」

「そうですね。ですけど私はこれで二度木下さんに負けちゃったことになります」

「……それは吉井君のこと?」

「はい」

 

儚げな表情で姫路さんは頷く。

 

「──負け惜しみのようですけど、私も一度だけ木下さんに勝った事があるんですよ。正確には勝ち負けの問題ではないんですけどね。……私は木下さんのおかげでAクラスになることが出来たんですから」

「え??」

 

アタシの、おかげ? どうして?

何のことを言っているのか尋ねようと口を動かす。

と、その前に一人の影がアタシの傍に走り寄ってきた。

 

「優子さん、僕達が勝ったよ! これでもう一度振り分け試験を受けられるんだ!」

「あ、吉井君」

「? 振り分け試験? どうしてAクラスに勝つと振り分け試験が受けられるんですか?」

「ひ、姫路さん……。えっと、その」

 

姫路さんに質問された吉井君が気まずそう顔を歪める。

それも仕方ない。彼の気持ちや立場からすればアタシ以上に姫路さんに負い目があるのだろうし。こういう時、横からフォローするのが彼女であるアタシの役目だ。

 

「アタシ達──というか吉井君が学園長と話し合いをしてAクラスに勝つことを条件に教室設備を引き換えに振り分け試験を再考してもらうことになったの」

「そうなんですか? でもどうしてそんなことを」

「……優子さんが振り分け試験で倒れた所為でAクラスに入れずに最低設備のFクラスになったことが許せなくて、それで僕がなんとかしてあげたいって思ったんだ」

 

控えめながらもぽつぽつと吉井君はこれまでの経緯を説明した。

それはいいんだけど、正直事情が事情だけに目の前で人に話されるとなんだかちょっと照れくさい。

なんなのかしら、嬉しいのに恥ずかしいこの気持ち……。

 

「そうだったんですか……。そんなことがあったなんて。これはやっぱり私の三戦三敗だったかもしれません」

「へ? さんぱい?」

 

吉井君の顔に疑問符が浮かぶ。

それをスルーして、姫路さんは真剣な顔で、

 

「吉井君。もしも、もしもですよ?」

「う、うん。なに?」

「振り分け試験の時、木下さんじゃなくて私が倒れていたら……。私のことも助けてくれましたか?」

 

祈るのような響きが込められた姫路さんの問い。

 

「姫路さんだったらって……。勿論助けたよ。当たり前じゃないか」

「……よかった」

「………………」

 

当然だと吉井君に言われ、心の底から安心するように姫路さんを胸を撫で下ろす。

そのやりとりを見てアタシは逆に体がちくちくと刺すような痛みが襲ってきた。

あの時の吉井君にとって、アタシを助けてくれたのは特別でもなんでもない。ただ彼の本能に従って行動した結果なだけのこと。

それは最初から分かっていたしそれで感謝の気持ちが薄らぐことはない。けど、それでもせめてアタシの中だけではあの出来事は吉井君と木下優子の特別であってほしかったと思う気持ちからの嫉妬心が湧いてくるのは抑えられない。

なんだかこのままだと姫路さんに奪われるような気がして、つい人前なのにアタシは吉井君の手を取っていた。

 

「優子さん?」

「………………」

 

そうよ。コイツはもうアタシのものなんだから。絶対に誰にも渡してやるものか。

姫路さんに感じていた自責の念や良心の呵責もそれで吹っ切れた。

そんなアタシの行動を見て姫路さんは少し驚いた顔をしたけど、そんなことはもうどうでもいい。

むしろ見せ付けてやるつもりでぎゅっと手を握り締めてやる。

 

「姫路さん。貴方には申し訳ないと思うけどアタシ達そういう関係だから。もうあまり吉井君にちょっかい掛けないでね」

「え、ええ!? 優子さん何言ってるの! 姫路さん!? これはその……っ!」

「いいんですよ。二人はもう恋人同士なんですから、手を繋ぐぐらい普通です」

 

ニコニコと微笑みながら話す姫路さん。アタシには逆にその反応が不信に思えた。

?? もうちょっと何か変化があると思ったんだけど予想以上に淡白な返事ね。

ひょっとして振られたことでもう吉井君に対する気持ちは断ち切ってしまったの?

そんなアタシの懸念を他所に、姫路さんはさらに語りだす。

 

「吉井君。私吉井君に振られちゃってからいろいろ考えました」

「それは、うん……」

「これからどうしようとか、どうやって吉井君に接していけばいいんだろうとか。考えたらキリがないぐらい考えて、それで決めたんです」

「何を?」

 

尋ねる吉井君に、姫路さんはきっぱりと告げる。

 

「私、やっぱり吉井君のこと諦めません」

「「え?」」

 

アタシと吉井君の声が重なる。

ちょ、ちょっとちょっとどういうことよそれ!

 

「姫路さん、貴方何言ってるの! 諦めないってアタシ達はもう付き合ってるのよ!」

「そ、そうだよ! ……それにいくら言われても、僕はやっぱり優子さんが……」

「分かってますよ。ですから、木下さんのことが好きな吉井君ごと、吉井君を好きになることにしたんです」

「なっ」

 

今度こそ本気で絶句した。

なによそれ……。まったく意味が分からない。一体何が姫路さんをそこまで突き動かしているの。

 

「そもそもですね。一回振られた程度(・・・・・・・・)で諦められるほど私の気持ちは軽くありません! ですから最後まで吉井君に迷惑をかけちゃうことにしました」

 

姫路さんにしては珍しい豪胆な台詞。

そして空いている吉井君の腕を取ってアタシと同じように握り締めた。

顔と顔がくっ付きそうなほど近い距離で姫路さんは恥ずかしそうに顔を赤らめて、

 

「吉井君は、そんな私じゃ嫌ですか……?」

「え、ぅ……」

「!?」

 

こ、この女はぁ──!

 

「ちょっ! 吉井君から離れてよ! コイツはもうアタシのなんだから! アンタも何動揺してんのよ! 男なんだからきっぱり断りなさいよ!」

「だ、だってこんなこと言われたらなんとも……」

「なんともじゃない! ああもう! なんでこんな時だけ優柔不断なの!?」

「吉井君、よかったら今日デートしませんか?」

「こらー! 勝手に話を進めるな!」

「恋愛は押し過ぎるぐらいが丁度良いって翔子ちゃんも言ってました」

「それ間違ってるから! あの代表も何言ってるの!」

「後は、胸を最大限利用しろと。……責任をとってくれるなら、触っても」

「この! 待ちなさいそんな大きいものを吉井君に引っ付けないで! あ、アタシだってちょっとはあるんだから!」

「い、痛い痛い!? 腕の痛みと謎の柔らかい感触のミックスが僕の中で新しい刺激を築こうとしている!? 二人とも! そんなに両方から腕を引っ張ったら千切れちゃうよ! あ、あぁーー!?」

 

ギャーギャーと騒がしいことこの上ないが、周りも同じように騒いでいる連中ばかりなので幸いそれほど目立つことはなかった。

くっ、それにしてもまさかこんな方法で吉井君に迫ってくるなんて思いもしなかった。

やっぱり姫路さんは最後の最後まで侮れないわ──!

 

 

      ☆

 

 

余談だが、今回の姫路さんの総合科目の点数は彼女の体調不良+一科目0点の結果の点数なので、もし彼女が万全の体勢で戦っていたら結果がどうなったかは分からない。

もう終わってしまったことなので、そんなIF(もしも)に意味はない。

それと同時に、姫路さんがFクラスになった場合の話もまったく別の物語なのでこの話には直接的関わりはない。

優子さんはFクラス、姫路さんはAクラス。

それがこの二人の物語であり主役である。

 

 

 

 

 




異端審問会がアップを始めました。
自分で書いててなんですけど……。明久爆発しろ!

次回(多分)最終回:バカとテストと召喚獣!

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