バカとテストと召喚獣IF 優子ちゃんinFクラス物語 作:鳳小鳥
翌日。
昨日のラブレターの件で悶々とした感情を胸の内に感じながら下駄箱に着くと、またも僕の靴箱の前に人がいた。
昨日はまったく知らない顔だったけど、今度は僕の知っている人だ。
「あれ、姫路さん?」
「ひゃうっっ!? よ、吉井君っ!!??」
小柄な身体にふんわりとした長髪が振り向き際に浮き上がる。
目を見開き顔を紅潮させて驚いているのは姫路瑞希さんだ。
Aクラス所属で学年次席。頭脳明晰で容姿もすごく可愛い。
そんな彼女と朝からこうして出くわすなんて、僕はなんて幸運なんだろう。
「うん。おはよう姫路さん」
「あ、はい。おはようございます。吉井君」
ぺこりと僕の前で一礼して挨拶する。
ん? 姫路さん。手に何か持ってるな。
何か小さい、封筒のような……。手紙?
「姫路さん、それは?」
両の手のひらで隠すようにして持っている手紙を指差して問う。
「えっ!? こ、これはその──!?」
わたわたと慌てて答える姫路さん。
どうしたんだろう。ただの連絡程度の手紙ならそんなに慌てる必要はないはずだ。
しかもこんな朝から、自分とは違う靴箱にいるという状況から察するに……、ま、まさか。彼女もラブレターを出そうとしているんじゃあ──!
どういうことだ! 昨日といい今日といい、どうしてこんなにラブレターが流行っているんだ。桜咲く季節に想い人に告白すると想いが通じるなんてジンクスでもあるのか!
「ひょ、ひょっとして、ラブレター……だったりするのかな?」
「あの……はい」
「あはは、そうなんだ。ここにいるってことは、相手はFクラスの誰かなのかな?」
「は、はい……」
視線を右往左往させながらしおらしく呟く。
まさか本当にラブレターだなんて。しかも相手は僕のクラスメイトときた。
これは気にならない方がおかしい。
一体相手は誰なんだろう。僕の知ってる人なのかな。
Fクラスの男どものなかで特にモテそうな人間といえば、やっぱり一番最初に思い当たるのは僕の悪友である坂本雄二だ。
普段は粗暴で野蛮で暴力的なゴリラ男だけど、逆に言えば腕っ節は立つしかつては神童なんて呼ばれていただけあって頭も良い。
それに、認めたくないけど背は高いし顔は鼻筋が通っていてキリっとしているから見た目だけなら女子受けしそうではある。
もし本当にそうなら至急Fクラスでヤツを粛清する準備をしなければならない。
「そっか。姫路さんはそいつのどこが良かったの?」
「それは、いつも元気で周囲を明るくさせる雰囲気とか……」
雰囲気? んー、確かにやる気を出した時の雄二の活力は周りを勇気付ける力強さがあるけど。
「普段は少し気が抜けていて、その……可愛い顔をしてるのに、いざという時には男らしいところが魅力的で」
可愛い!? あの野性味たっぷりの顔を可愛いなんて、姫路さんは一体雄二をどういう風に見ているんだ!
「ど、どうしたんですか吉井君!?」
「な、なんでもないよ。ははは……」
待て待て落ち着くんだ僕。まだ雄二だと決まったわけじゃないじゃないか。
秀吉とかムッツリーニ、………………もしくは僕、という可能性もあるし。
うぐ、なんか頭の中がぐちゃぐちゃになってきたぞ。
「────それが、私の憧れなんです」
そう言う姫路さんの表情には、本当に心からそう想う強い気持ちが感じられた。
いろいろ疑問はあるけど、相手のことはともかく、ここまで言い切った姫路さんの想いを邪魔する事なんてできない。
「……そうなんだ。ラブレター。良い返事がもらえると良いね」
「はいっ」
嬉しそうに姫路さんは微笑む。
「お、明久。今日は早いんだな」
そこで図ったように下駄箱の入り口から雄二がやってきた。
「あ、雄二。おはよう」
「坂本君。おはようございます」
「おう。……ん? お前は……Aクラスの姫路か」
雄二の視線が姫路さんの方へ向く。
「どうした。明久が何か粗相でもしたのか」
「ちょっと雄二。どうして僕が問題を起こしたことが前提なの?」
「ま、まだ何もされてません」
「姫路さんっ。それだとこの先何かされるみたいじゃないか」
「あっ、ごめんなさい」
姫路さんって、妙なところで天然だな……。
「……姫路はわりと明久に似てるのかもな」
僕たちのやり取りを見た雄二は呆れたような顔で靴箱を空けて上靴を取り出す。
そして首を傾げた。
「ん……?」
「どしたの雄二?」
「いや、靴箱になんか……。なんだこりゃ?」
雄二は訝しげな表情で靴箱に突っ込んだ手を戻すと、手に一枚の封筒が握られていた。
それは、丁度姫路さんが持っている封筒と同じサイズぐらいの──ってまさか!?
「そ、そそそそそれって──っっ!? ルァブレァトァーッッ!?!?」
「落ち着け明久。日本語が崩壊してるぞ」
「だ、だってだってだって!!」
まさかの3通目のラブレター!? しかも雄二宛て!
なんだこれは! 今日はラブレターのバーゲンセールなのか!
「これは、も、もしかして僕の靴箱にも誰かがラブレターを入れてくれてるかも!」
あの雄二にあったんだ。僕にだって十分可能性はあるはず! いやあらなければならない!!
「来い! 僕の運命の人!」
期待に胸を膨らませて靴箱に手を掛ける。
自然と手に力が入り、小さい扉は壊れんばかりの勢いで開いた。
バン!
………………………。
「…………………………………………」
「よ、吉井君……? どうして靴箱に手を突っ込んだままさめざめと泣いているんですか?」
「よせ姫路。放っておいてやれ」
「は、はぁ……」
どうして……、どうして僕には春が来ないんだ!!!!!
「それで、坂本君の手紙は」
「そうだ! 雄二、その手紙にはなんて書いてあるの? 愛の告白? それとも決闘の申し込み?」
「落ち着けよ。焦ったって手紙は逃げねえぞ」
余裕綽綽といった態度で僕の言葉を流す雄二。なんかムカツク!
「ま、決闘なら決闘で俺は別に良いけどな。丁度試召戦争ができない間の暇つぶしがほしかったし」
「暇つぶしに喧嘩って……まあ雄二らしいけど」
「??? 吉井君達は試召戦争をしようとしているんですか?」
「まあね。でもいろいろあって、今は延期状態なんだ。それで──」
「おっとそこまでだ明久。あまり敵に情報を与えるなよ」
あ、そうか。姫路さんはAクラスなんだから僕達が試召戦争するなんて知ったら対策を立ててくるかもしれないよね。危ない危ない。
「ごめん姫路さん。今のは──」
「ふふ。分かっています。この事はクラスのみんなには内緒にしておきますから」
「本当! ありがとう!」
なんてやさしいんだ姫路さんは! ひょっとして彼女は天使の生まれ変わりか何かなのか!?
「やれやれ。まあ姫路は素が天然っぽいから大丈夫か……」
「どうかしましたか?」
「なんでもない。気にするな」
「雄二。手紙は?」
「ん? あーそうだったな。ちょっと待て、一応差出人の名前がないかチェックしておかないとな」
雄二は手に持った封筒に視線を落とし裏返す。
そして──、
ぐしゃ
そのまま、封筒を握りつぶした。
「「え……?」」
予想だにしない突然の行動に呆気にとられる僕と姫路さん。
「ちょ、何やってるのさ雄二!」
「そうですよ坂本君! せっかくもらったラブレターを握りつぶすなんて!」
「バカを言うな。……これはラブレターなんかじゃない」
責める僕らに目を向けず、雄二は沈痛な面持ちで呟いた。
心なしか、声が震えている。どうしたんだろう。
「……もしかして、本当に果たし状だったの?」
「いいや。断じてそんな生易しいものじゃねえ! ……これはもっと醜悪でおぞましい、そう……不幸な手紙だ」
「はぁ?」
……いきなり何を言ってるんだろうコイツは。
「不幸な手紙……ですか?」
「そうだ。これを読むが最後、俺の選択権は剥奪され今後一生身を縛られたまま生を過ごす事になってしまう。呪いの文書が綴られているんだ」
「ごめん雄二。言ってる意味が全然わからない」
「要約すると、人生の終わりだ……」
「ごめん雄二。言ってる意味がもっと分からなくなった」
とりあえず雄二が何かに怯えているようだということは理解できた。
悪鬼羅刹なんて異名を持つほど喧嘩強いあの雄二を怯えさせるなんて、一体誰からの手紙だったんだろう……。
名前さえ分かるなら是非ともこの男の弱点を教えてもらいたいものだ。
「とにかく! この件は忘れろ。俺の靴箱には何も入ってなんていなかった。いいな」
それは、僕たちよりも自分に言い聞かせているように感じられた。
「別に僕はラブレターじゃないならどうでもいいけど」
「わ、分かりました……」
「よし、それでいい」
ようやく雄二の表情に余裕が出始めた。その時、
「ちょっと。下駄箱で固まられると通行の邪魔よ」
背中から非難の声が聞こえてきた。
後ろに振り返ると、入り口から木下優子さんが手に鞄を提げてやってきていた。
「あん? ああ、木下姉か」
「き、木下さんっ!? お、おはよう!」
昨日のラブレターの件が脳裏を過ぎり思わず心臓が高鳴る。
なんてことだ!? 立ち話してる間に木下さん来ちゃったよ!
どうしよう! まだ心の準備とかしてないのにっ。──ってちょっと待て。どうして僕が出したわけじゃないのに僕がこんなにドキドキしてるんだ?
「ええ、おはよう吉井君、坂本君。それに──姫路さん」
「あ、おはよう……ございます」
木下さんの登場に驚いたのか、姫路さんの態度はどこか余所余所しい。
うーん、見た感じ二人は友達って感じにも見えないし、これは距離感を図っているのかな。
「それで、どうして二人と姫路さんがこんなところで一緒にいるの? 姫路さん、二人に何かされた?」
「どうして雄二といい木下さんといい最初に疑いを掛けて来るのさ……」
「まったくだ。明久はともかく俺が自分から女子に何かするはずがないだろうに」
「だよね。野蛮な雄二ならしょうがないけど紳士の僕が女の子に対して失礼なことをするはずがないじゃないか」
「「…………!!(ガンのくれあい)」」
「どうせ否定するならもっと説得力のある台詞を言いなさいよ……。姫路さん、本当に何もされてない?」
「だ、大丈夫です。二人とは偶然お会いしただけですから」
パタパタと手を振って否定する姫路さん。
どうやらラブレターはすでにどこかに仕舞ってしまったらしい。さすがに時間も押してきたしこれ以上は衆人環視に見られる可能性もあるからひっそり靴箱に入れるのは難しいだろう。ちょっと悪い事しちゃったかな……。
「そう。ならいいんだけど」
そう言った後、木下さんは僕たちから顔を逸らし靴箱に手を掛ける。
その中に君宛の恋文があるとも知らずに。
不思議だ。別に僕が出したわけじゃないのに、僕の中に緊張と不安が湧き上がる。
「…………!」
上履きを取ろうとした手が止まり、木下さんは靴箱の中を覗き込むように凝視した。
そうして、ゆっくりと腫れ物を扱うような慎重な動作で、靴箱の中から手を引き抜く。その手に一枚の封筒を握り締めて。
皺一つない清潔感漂う白い封筒、封の所には女の子が使うような可愛らしいハート型のシールが張られている。
客観的に判断すると、それはどうみてもラブレターだった。
「き、木下さん! あの、それってもしかして……」
「えっ!? な、何!?」
「マジか。なんだ今日は手紙を出すと良いことでもあるのか?」
「ち、違うから!? 別にこれはそういうとは──! とにかくこの事は絶対他言無用だからね!」
顔を赤くしながら慌てて手紙を鞄に仕舞う木下さん。
こんな動揺している木下さんは始めて見る。
「…………」
変だ。予め知っていたからか僕は雄二や姫路さんのように驚いたリアクションは取れなかった。
寧ろ、ラブレターに一喜一憂する木下さんを見る度にどこか心が冷たくなっていく。
「ん? どうした明久。いつもならここぞとばかりに大げさなリアクションをとるお前が静かに黙ってるなんて、風邪でも引いたか?」
「別にそういうわけじゃないけど……、うーん、なんだろ」
「吉井君。もしかして……」
「ああもう! ほら! いつまでもこんな場所いないで早く教室行きましょ!」
姫路さんの言葉を遮るように木下さんが大きな声で言ってそのまま歩いていった。
「んじゃ俺達も行くか。それじゃあな姫路」
「あ、……そうだね。またね姫路さん」
「はい、また」
校舎の渡り廊下で姫路さんと別れ、僕達は旧校舎のFクラスへ向かった。
インフルエンザで死にそうです……